デバフ婆ちゃんのお通りです

古里唯一

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まずはギルド登録!

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 街に入った時から遠くの方に見えていた大きな建物。
それが冒険者ギルドであり、その隣にポツンと建っていた小さな建物が商業ギルドだった。
看板の文字がふにゃふにゃな異国の字なのに何故か読めるこの不思議。
異世界パワー全開でかなり戸惑ってます私。

「(あれ…《ディブル》に着いたの?)」

 今お目覚めですかこの守護妖精。
まったくなんて悠長な奴なんだ…。
こっちは商業ギルドに行っても、受けられる依頼がないかもしれないという危機にさらされてるというのに…。

「どうどうどーう」

 グレイディが手綱を引き馬が足を止めた。
一目散にユーリスが荷台から飛び降り、次いでギリィが降りて行った。
グレイディも御者席から降り商業ギルド内へ向かっていった。
ロットンはグレイディが座っていた御者席に代わりに座り、ここまで運んで来てくれた馬を労うように撫でていた。

「アキラさん。お手を」

 外で手を差し伸べるユーリス。
何から何まで介護させちゃって本当に申し訳ない。
キミみたいな紳士的な介護士がいたら世のお婆ちゃんたちがボケることはないだろうね。

「失礼します」

「!」

 手を貸してくれるだけならまだありがたいと思った。
しかしユーリスよ…何故また介護抱っこをしたんだお前。
 前言撤回。キミは介護士になっちゃダメだ。突然の心臓発作でお婆ちゃんたち旅立っちゃう。

「荷下ろしは俺とギルドスタッフでやっておきます
ユーリスはアキラさんを商業ギルドへ連れて行ってあげて下さい」

 連れて行くって…目と鼻の先に入口あるでしょうが。
グレイディもこの扉入って行って出て来たでしょうが。
え?こんなわかりやすいのにご案内必要って私どんだけ何もできないお婆ちゃんに見られてるのさ!
ギリィ。お前には筋肉がつかない呪い付与を希望してやる。

「アキラさん。商業ギルドの利用は初めてですよね」

「初めてだけど…」

「では手続き書の書き方についてお教えします」

 ユーリスは自分の腕に私の腕を絡ませた。
いきなりの行動に呆けている私をスルーで歩幅を合わせて歩き出すお気遣いっぷり。
杖があるんだし、そこまで足弱ってないから普通に歩けるのに…。
そういうところだぞイケメン。少しそのイケメンっぷり自重しろ。

「受付係がいませんね…」

「お昼休憩かな」

「仕方がありません
手続き書を書いてから係の者を呼びましょう」

 連れて来られたわ商業ギルドの受付カウンター。
しかしお昼休憩中なのか誰一人として受付カウンターに立っていない。
休憩中なら扉に休憩中の札でも出しといて鍵くらいかけとこうよ。
いくらなんでも不用心過ぎるぞ異世界。

「これが商業ギルドに登録するための手続き書です」

 見た目上質とは思えない羊皮紙ようひし
項目を区切る線なんかも曲がっていて一枚一枚手書きですか!?
と、言いたくなるような、製品としては不合格な手続き書だ。
品質の管理どうなってるんですかね異世界は…。

「商業ギルドに所属しているという身分証明に必要な手続きですので
まず名前を記入して下さい
次に失礼ですがご年齢、現在の職業、出身地、得意なこと
どのような仕事を引き受けられるかを記入して下さい」

 ……さあ困ったぞ。
名前とご年齢、現在の職業は無職で書けるけど…出身地異世界なんて書けないでしょ。
得意なこと呪いなんて書けないでしょ…。

「(フィルギャ…こういう場合どうするのが良いんだろう)」

「(出身地は王都・クリュスタッロスで良いんじゃないかな?
誰も出身地についてなんて深く調べないだろうし
得意なことも趣味とかで良いんじゃないかな?)」

 たしかに…元々王都に聖女の身代わりで召喚されたわけだし。
出身地王都にしたところで問題はないか。
じゃあ出身地は王都・クリュスタッロスにして得意なことはレジンアクセサリー作りにしておこう。
希望する仕事はお婆ちゃんにできる仕事!

「王都・クリュスタッロス…」

 出身地を書き終わると同時にユーリスの呟く声が聞こえた。
そちらに振り向けばユーリスは何故か浮かない顔をさせていた。
どんな表情しても顔が良いってお得だな。
私じゃなかったらホイホイ引っかかってるぞこれ。

 あ、でもマズいな。
山の方に住んでたのに出身地が王都じゃ辻褄が合わないか。
移り住んだっていうフォローを入れとこう。

「出身は王都だけどね
空気が良くなくて山の方に移り住んでたのよ
もう何十年も王都には戻ってないけど
一応出身はここだから王都って書いたんだけど…何か問題あった?」

「あ…いえ、すみません
王都出身者が田舎の方で暮らすのは不便に感じると聞いていたので
よくこちらに移住しようと思ったなと考えていただけです」

「山の方は空気が良いんだよ
王都の空気は汚れてて呼吸するたびにむせ返るよ」

 くだらない聖女伝説に縋る褐色皇子と取り巻きがいてね…最高に空気が不味かったぜ。
 それに引き換え田舎の方は空気が美味い!
こう思ってしまうのって世界共通なのかね?
異世界に来ても田舎の空気は美味しいなんて表現が出るくらい、都会は薄汚れているんだなって実感してしまうよ。

「この得意なこと…レジンアクセサリー作りとは…?」

 あ。やっぱりそこ気になるのね。
今現物持ってないから説明難しいな…。

「樹木から分泌される粘液…
それが固まったものを樹脂っていうんだけど
それを使ったアクセサリー作りが得意よ」

「樹木…アキラさんは
木の精霊の加護を授かっているんですね」

 ふっ…授かりたくて授かったわけではないがな。
心優しいのか残酷なのかわからん精霊王たちの会議とやらで不人気加護押し付けられたのよ…。

「では、こちらで受理していただきましょう」

 受付カウンターに備えついていたベルを1、2度軽く押すユーリス。
しかしどこからも誰も出て来ない。
もう1、2度ベルを鳴らすも空振り。
 その行動を繰り返すこと約5分…。
さすがにユーリスの表情にも苛立ちが見え隠れし始めているぞ。
 このイケメン見た目寡黙系男子だから、わかりにくいかもだけどね。
少しずつ眉間に皺ができてるんだよ。
 受付係早く出て来てくれ。
ユーリスのイケメン面が般若になる前に…。

 何度目かのベルを鳴らそうとした時、遠くの方で足音が聞こえた。
走っているのであろう、バタバタやかましい音がしている。

「お待たせしてすみませんで、ぶっ!!」

 受付カウンター奥の扉がバンッと開かれ心臓がビクッと飛び跳ねた。
 姿を見せたのは三つ編みそばかす眼鏡の一見地味目に見えるが、そんなもの胸の大きさで十分カバーできる見たまんまのドジっ子属性女子だった。
 現に登場と同時に転びましたよ奥さん。
さすがドジっ子属性持ち!
あざとい女子たちのドジっ子演技とは訳が違う!
 しっかり鼻からダイブで鼻血出すなんてこと…できるかね?演技女子たちよ。

「大丈夫?」

 カウンター越しだから手は貸してあげられないが、言葉だけは掛けよう。
そしてユーリスの顔が夜叉になる前に手続き書を受理して下さい。



「大変お待たせいたしました!
そしてお見苦しいところをお見せいたしました!」

 ペコペコ謝る度に胸が揺れてやがる。
くそっ…これだから巨乳って奴はよぉ…。
けしからん!もっとやれ!って男なら言うんだろうけどな。
同性にしてみれば嫉妬の対象だよ。
 天然ドジっ子で巨乳とか萌えの要素しかない!
しかも受付嬢の制服、フリフリメイド服!!

「いや、大丈夫
むしろ良いもの見せてもらったわ」

 この子が二次元のキャラだったら推してたわ。
全力で推してたわ。
 女だって可愛い女の子は好きなんじゃい。
そこに理由がいると言うなら可愛いから!だと主張する。

「アキラさんのギルド登録を頼む」

「はい!かしこまりました!
拝見させていただきます!」

 鼻の穴にティッシュ詰めたまま対応する受付嬢を、32年生きてきた中で一度でも見たことはあっただろうか…。
むしろそんな受付嬢を見た者はいたであろうか…。

「うん…本当に良いもの見せてもらったわ」

「?」
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