24 / 28
24話 正しい選択なんだ
しおりを挟む
一連の事件の首謀者。悪魔を崇拝する司祭であるリーゼ・ヴィーゼさん。彼女の紫色の瞳が不可思議な輝きを放ち、私たち三人を視界に捉える。その途端――
「く、ぅ……!?」
頭の中に、言葉が……
――『この街を滅ぼしましょう』
言葉が、思考が……
――『象徴たる鐘を破壊し、心の拠り所をなくし――』
思考が、意識が……
――『少しずつ魔物を送り込み、私たちの恐怖を思い知らせたうえで――』
私のものじゃない意識が流れ込んでくる……呑み込まれていく……!
――『人々を殺し、この街の呪いから解放してあげましょう。それこそが、唯一の救いに――』
(――なりませんよ、そんなもの――!!)
私はそこで強く抵抗した。マリナさんを殺された時の激しい怒りを思い出し、私を呑み込もうと迫る私じゃない意識を、一気に撥ね退ける。
サァァァっと、意識から靄のようなものが取り払われた気がした。思考が晴れ渡る感覚。視界が明るくなった気さえする。
(今のは……)
「はぁっ……! はぁっ……!」
気づけば私は肩で息をしていた。急激な疲労を抑え込んで目の前の相手を睨みつければ、彼女は少し意外そうな表情でこちらを見る。
「……悪魔、エラトマ・セリスから私が賜ったのは、言葉だけではありません。『視界内の者へ悪しき思考を送り込む』瞳。それが、私が授かった加護です」
加護……悪魔の、加護……!? 悪しき思考……彼女の悪意を、強制的に送り込まれていたってこと……!?
「本能だけで動く自我の薄い魔物、意志の弱い人間などであれば、容易に意識を支配できるのですが……驚きました。騎士の二人はともかく、お嬢さんまで抵抗に成功するとは。思った以上に意志が強いのですね」
その言葉で、隣からも同様に荒い呼吸音が聞こえていたことに気づく。アルテアさんとディルクさんも、私と同じように悪意を送り込まれて、それを撥ね退けたのだろうか。もし、そのまま呑み込まれていたら……私は頭を振ってリーゼさんを睨み据える。今のがこの人の思考だというなら……
「……何が、『救いたいだけ』、ですか。貴女は、人々に不必要な恐怖を与えてから殺そうとしている。悪意を持って街を混乱させているじゃないですか……! こんなこと……!」
「必要なことですよ。だって、私が――私たちだけが怯えて暮らさなければいけないなんて……そんなの、不公平でしょう? 最期くらいは、街の皆にも思い知ってもらわなくては」
「ただの私怨じゃないですか!」
「ええ、そうですよ。その私怨に呑み込まれて滅びる様が見たいのです。それこそが、悪思の悪魔による救いとなるのですから」
「っ……!」
ダメだ。やっぱり他の悪魔崇拝者と同じで、話が通じるようで通じていない。言葉で説得できる気がしない。
ただ、ここまでの会話で分かったこともある。この場で待機する魔物たちも、そしておそらくは、今も同士討ちを続ける騎士たちも、リーゼさんの持つ加護によって悪意を送り込まれ、意識を乗っ取られている。そしてそれは、強い意思によって撥ね退けることができる――
「もういい、ミレイ。言葉を尽くしても、今のリーゼには届かない。――リーゼ。君の意識を失わせれば、操られている騎士たちは元に戻るのか?」
「さて、どうでしょう。殺さなければ戻らないかもしれませんよ? 試してみますか?」
リーゼさんはそう言って、穏やかな笑みを崩さない。
この状況で最も致命的なのは、周囲で待機する百を超える魔物たちを一斉にけしかけられることだ。こちらには、まともに戦える人が二人しかいなく、私という足手まといまでついている。数で押し潰すのは簡単なことだろう。が、リーゼさんからは、そうする気配がまるで見えない。――それが、気味が悪い。
「……ならば、そうさせてもらおう。これだけのことをしでかしたのだ。情けをかけるのは難しい。街を護るのにそれしか手がないのなら、君を斬ることも躊躇いはしない――!」
言葉と共に、アルテアさんが駆け出す。私が感じた不気味さを、彼女は感じなかったのか、あるいは感じていながら振り切ったのか。周囲の魔物に邪魔されないうちに、元凶であるリーゼさんを討ち取りたかったのかもしれないが、そのせいでわずかに焦っているようにも見える。それが、さらに不安をかき立てて――
「そう、一つ言い忘れていましたが、私の瞳に宿る加護は対象を選ぶこともできるんです。先ほどは視界内の全員が対象でしたが、それを一人だけに絞ると……どうなると思いますか? ねぇ? アルテア――」
迫るアルテアさんに視線を集中させながら、リーゼさんはわずかに楽しそうな声音で語りかける。その瞳が再び輝きを帯びる。彼女の言葉の意味を理解するより早く、嫌な予感のほうが限界に達して――
「アルテアさん、待っ……!」
反射的に声を上げかけるが、もう遅い。アルテアさんはすでにリーゼさんの目の前に辿り着いていた。そして、ああは言ったものの、すぐに斬り捨てる決断はできなかったのか。彼女は斬撃ではなく、剣の柄頭でリーゼさんの腹部を殴打しようとして――……その動きが、ピタリと止まる。
「……」
当たった、のだろうか。不安は杞憂に終わったのだろうか。私の位置からはアルテアさんの身体が陰になって、リーゼさんの姿がよく見えない。しかし少なくとも、すぐに倒れるような様子もない……
そう思っていると――
やがてアルテアさんはリーゼさんを放って背後へ振り返り、顔を俯き気味に下げながら、ゆっくりと歩いて戻ってくる。そして、半ばまで達したところで――
彼女は突然地面を強く蹴り、剣を構えながら私に向かって走り寄ってくる!
「――!?」
あっという間に私の下へ迫った彼女は、一切の迷いなく掲げた剣を振り下ろし――
ギィン――!
しかし私を護るべく傍に控えていたディルクさんの剣が、アルテアさんの凶刃を寸前で弾き返していた。
「何やってるんですか、隊長! どうしてミレイさんを……!」
「どけ、ディルク! 私は街を護らねばならない! だから、ミレイをここで斬らなくてはいけないんだ!」
「……!」
アルテアさんはそう言いながら、あくまで私を斬ろうと剣を振るい、ディルクさんが必死でそれを阻止する。彼女の言動は支離滅裂で、表情は険しく、敵意が剥き出しだった。
私は驚きと恐怖に身体を震わせながらも、そこで一つの可能性に思い至り、反射的にリーゼさんの側へ視線を向ける。彼女は傷一つない姿で、変わらず微笑みを浮かべて私を見ていた。妖しく輝く紫の瞳で……
(まさか……)
彼女が所持する加護の能力。そして、先刻の言葉。つまり……
「……貴女の仕業ですね、リーゼさん……! 加護の力を、アルテアさん一人に集約させて……!」
「ええ、その通りです。ただ一人と視線を合わせ、分散していた力を一点に集約させることで、彼女のような強い意志を持つ者をも屈服させる力。ですが、それだけではありませんよ。力を集中させたこの瞳に魅入られた者は、『善悪の区別を失う』のです」
「善悪の……区別……?」
「はい。どんなに善思に溢れた聖人でも我を忘れ、悪しき思考が目を覚ます。その結果、正しい選択をせずに最悪の意図を選んでしまう……『誤った選択しかできなくなる』のです」
善悪の区別……最悪の意図……誤った選択……それらの言葉を耳にすると共に、頭の中で符合するものがある。
「もしかして……これまでに出会った悪魔崇拝者たちも、貴女の瞳に魅入られて……!?」
だから、不可解な言動を――選択を誤った行動を取っていた……!?
「あら? 他の信徒たちと出会ったことがあるのですか? なのにこうして生きている……もしや報告にあった、計画の現場で目撃されていた少女というのは……ふふ、なるほど。本当に、素敵な偶然もあったものですね。いえ、むしろ必然でしょうか。貴女は望んで私たちを追っていたのでしょうから。ですが、残念ながらそれもここまでです。――アルテア」
その呼びかけと共にアルテアさんの剣がディルクさんのそれを大きく弾き、生じた隙に腹部への蹴りが突き刺さる。
「ぐぶっ……!?」
ディルクさんは強く蹴り飛ばされ、大きく後方に転がっていく。そしてそちらを気にかける間もなく、再び剣を頭上に掲げたアルテアさんが、私の目の前に立ち塞がり――
「あ……」
一音だけ、言葉にならない声が口から漏れ……次の瞬間には彼女の刃が、私の身体を袈裟懸けに切り裂いていた。
「――……」
傷口から夥しい量の血液が噴き出し、地面に降り注ぐ。身に着けていた白のパーカーが赤く染まっていく。それを目にしながら、私はゆっくりと後ろに倒れていった。
弱々しく手を動かし、傷口に触れる。べったりと手を濡らす生暖かい液体。鉄錆びの匂い。灼熱感。激しい苦痛。致命傷だ。私はもう助からない――
「がっ!?」
「ぐ、あ……!?」
「くそ、くそぉぉぉ!」
周囲から守備隊の騎士たちの悲鳴や苦悶の声が届いてくる。仲間だった同僚から刃を向けられ続け、彼らももう限界だったのだろう。一人、また一人と倒れていく……
そして、ざっ、ざっ、と、こちらに向かって歩いてくる足音が一つ。アルテアさんだ。彼女はこちらまでたどり着くと、刃を下にして両手で剣を持ち上げ、私の心臓に狙いをつける。とどめを刺すつもりなのだろう。その前に、彼女が口を開いた。
「すまない、ミレイ……だが、これが正しい選択なんだ。悪く思わないでくれ」
悪魔の加護によって善悪を歪められ、誤った選択を正しいと思い込まされている。あんなにやさしくて正義感の強い彼女を……それにまた怒りを覚え、私は元凶であるリーゼさんに精一杯の視線を飛ばす。彼女はそれを見ても笑みを崩さない。悔しさに歯噛みしながらさらに睨みつけたところで――
どす――
心臓に剣を突き立てられ、私は何度目かになる死を迎えた。
▼▼▼▼▼
「く、ぅ……!?」
頭の中に、言葉が……
――『この街を滅ぼしましょう』
言葉が、思考が……
――『象徴たる鐘を破壊し、心の拠り所をなくし――』
思考が、意識が……
――『少しずつ魔物を送り込み、私たちの恐怖を思い知らせたうえで――』
私のものじゃない意識が流れ込んでくる……呑み込まれていく……!
――『人々を殺し、この街の呪いから解放してあげましょう。それこそが、唯一の救いに――』
(――なりませんよ、そんなもの――!!)
私はそこで強く抵抗した。マリナさんを殺された時の激しい怒りを思い出し、私を呑み込もうと迫る私じゃない意識を、一気に撥ね退ける。
サァァァっと、意識から靄のようなものが取り払われた気がした。思考が晴れ渡る感覚。視界が明るくなった気さえする。
(今のは……)
「はぁっ……! はぁっ……!」
気づけば私は肩で息をしていた。急激な疲労を抑え込んで目の前の相手を睨みつければ、彼女は少し意外そうな表情でこちらを見る。
「……悪魔、エラトマ・セリスから私が賜ったのは、言葉だけではありません。『視界内の者へ悪しき思考を送り込む』瞳。それが、私が授かった加護です」
加護……悪魔の、加護……!? 悪しき思考……彼女の悪意を、強制的に送り込まれていたってこと……!?
「本能だけで動く自我の薄い魔物、意志の弱い人間などであれば、容易に意識を支配できるのですが……驚きました。騎士の二人はともかく、お嬢さんまで抵抗に成功するとは。思った以上に意志が強いのですね」
その言葉で、隣からも同様に荒い呼吸音が聞こえていたことに気づく。アルテアさんとディルクさんも、私と同じように悪意を送り込まれて、それを撥ね退けたのだろうか。もし、そのまま呑み込まれていたら……私は頭を振ってリーゼさんを睨み据える。今のがこの人の思考だというなら……
「……何が、『救いたいだけ』、ですか。貴女は、人々に不必要な恐怖を与えてから殺そうとしている。悪意を持って街を混乱させているじゃないですか……! こんなこと……!」
「必要なことですよ。だって、私が――私たちだけが怯えて暮らさなければいけないなんて……そんなの、不公平でしょう? 最期くらいは、街の皆にも思い知ってもらわなくては」
「ただの私怨じゃないですか!」
「ええ、そうですよ。その私怨に呑み込まれて滅びる様が見たいのです。それこそが、悪思の悪魔による救いとなるのですから」
「っ……!」
ダメだ。やっぱり他の悪魔崇拝者と同じで、話が通じるようで通じていない。言葉で説得できる気がしない。
ただ、ここまでの会話で分かったこともある。この場で待機する魔物たちも、そしておそらくは、今も同士討ちを続ける騎士たちも、リーゼさんの持つ加護によって悪意を送り込まれ、意識を乗っ取られている。そしてそれは、強い意思によって撥ね退けることができる――
「もういい、ミレイ。言葉を尽くしても、今のリーゼには届かない。――リーゼ。君の意識を失わせれば、操られている騎士たちは元に戻るのか?」
「さて、どうでしょう。殺さなければ戻らないかもしれませんよ? 試してみますか?」
リーゼさんはそう言って、穏やかな笑みを崩さない。
この状況で最も致命的なのは、周囲で待機する百を超える魔物たちを一斉にけしかけられることだ。こちらには、まともに戦える人が二人しかいなく、私という足手まといまでついている。数で押し潰すのは簡単なことだろう。が、リーゼさんからは、そうする気配がまるで見えない。――それが、気味が悪い。
「……ならば、そうさせてもらおう。これだけのことをしでかしたのだ。情けをかけるのは難しい。街を護るのにそれしか手がないのなら、君を斬ることも躊躇いはしない――!」
言葉と共に、アルテアさんが駆け出す。私が感じた不気味さを、彼女は感じなかったのか、あるいは感じていながら振り切ったのか。周囲の魔物に邪魔されないうちに、元凶であるリーゼさんを討ち取りたかったのかもしれないが、そのせいでわずかに焦っているようにも見える。それが、さらに不安をかき立てて――
「そう、一つ言い忘れていましたが、私の瞳に宿る加護は対象を選ぶこともできるんです。先ほどは視界内の全員が対象でしたが、それを一人だけに絞ると……どうなると思いますか? ねぇ? アルテア――」
迫るアルテアさんに視線を集中させながら、リーゼさんはわずかに楽しそうな声音で語りかける。その瞳が再び輝きを帯びる。彼女の言葉の意味を理解するより早く、嫌な予感のほうが限界に達して――
「アルテアさん、待っ……!」
反射的に声を上げかけるが、もう遅い。アルテアさんはすでにリーゼさんの目の前に辿り着いていた。そして、ああは言ったものの、すぐに斬り捨てる決断はできなかったのか。彼女は斬撃ではなく、剣の柄頭でリーゼさんの腹部を殴打しようとして――……その動きが、ピタリと止まる。
「……」
当たった、のだろうか。不安は杞憂に終わったのだろうか。私の位置からはアルテアさんの身体が陰になって、リーゼさんの姿がよく見えない。しかし少なくとも、すぐに倒れるような様子もない……
そう思っていると――
やがてアルテアさんはリーゼさんを放って背後へ振り返り、顔を俯き気味に下げながら、ゆっくりと歩いて戻ってくる。そして、半ばまで達したところで――
彼女は突然地面を強く蹴り、剣を構えながら私に向かって走り寄ってくる!
「――!?」
あっという間に私の下へ迫った彼女は、一切の迷いなく掲げた剣を振り下ろし――
ギィン――!
しかし私を護るべく傍に控えていたディルクさんの剣が、アルテアさんの凶刃を寸前で弾き返していた。
「何やってるんですか、隊長! どうしてミレイさんを……!」
「どけ、ディルク! 私は街を護らねばならない! だから、ミレイをここで斬らなくてはいけないんだ!」
「……!」
アルテアさんはそう言いながら、あくまで私を斬ろうと剣を振るい、ディルクさんが必死でそれを阻止する。彼女の言動は支離滅裂で、表情は険しく、敵意が剥き出しだった。
私は驚きと恐怖に身体を震わせながらも、そこで一つの可能性に思い至り、反射的にリーゼさんの側へ視線を向ける。彼女は傷一つない姿で、変わらず微笑みを浮かべて私を見ていた。妖しく輝く紫の瞳で……
(まさか……)
彼女が所持する加護の能力。そして、先刻の言葉。つまり……
「……貴女の仕業ですね、リーゼさん……! 加護の力を、アルテアさん一人に集約させて……!」
「ええ、その通りです。ただ一人と視線を合わせ、分散していた力を一点に集約させることで、彼女のような強い意志を持つ者をも屈服させる力。ですが、それだけではありませんよ。力を集中させたこの瞳に魅入られた者は、『善悪の区別を失う』のです」
「善悪の……区別……?」
「はい。どんなに善思に溢れた聖人でも我を忘れ、悪しき思考が目を覚ます。その結果、正しい選択をせずに最悪の意図を選んでしまう……『誤った選択しかできなくなる』のです」
善悪の区別……最悪の意図……誤った選択……それらの言葉を耳にすると共に、頭の中で符合するものがある。
「もしかして……これまでに出会った悪魔崇拝者たちも、貴女の瞳に魅入られて……!?」
だから、不可解な言動を――選択を誤った行動を取っていた……!?
「あら? 他の信徒たちと出会ったことがあるのですか? なのにこうして生きている……もしや報告にあった、計画の現場で目撃されていた少女というのは……ふふ、なるほど。本当に、素敵な偶然もあったものですね。いえ、むしろ必然でしょうか。貴女は望んで私たちを追っていたのでしょうから。ですが、残念ながらそれもここまでです。――アルテア」
その呼びかけと共にアルテアさんの剣がディルクさんのそれを大きく弾き、生じた隙に腹部への蹴りが突き刺さる。
「ぐぶっ……!?」
ディルクさんは強く蹴り飛ばされ、大きく後方に転がっていく。そしてそちらを気にかける間もなく、再び剣を頭上に掲げたアルテアさんが、私の目の前に立ち塞がり――
「あ……」
一音だけ、言葉にならない声が口から漏れ……次の瞬間には彼女の刃が、私の身体を袈裟懸けに切り裂いていた。
「――……」
傷口から夥しい量の血液が噴き出し、地面に降り注ぐ。身に着けていた白のパーカーが赤く染まっていく。それを目にしながら、私はゆっくりと後ろに倒れていった。
弱々しく手を動かし、傷口に触れる。べったりと手を濡らす生暖かい液体。鉄錆びの匂い。灼熱感。激しい苦痛。致命傷だ。私はもう助からない――
「がっ!?」
「ぐ、あ……!?」
「くそ、くそぉぉぉ!」
周囲から守備隊の騎士たちの悲鳴や苦悶の声が届いてくる。仲間だった同僚から刃を向けられ続け、彼らももう限界だったのだろう。一人、また一人と倒れていく……
そして、ざっ、ざっ、と、こちらに向かって歩いてくる足音が一つ。アルテアさんだ。彼女はこちらまでたどり着くと、刃を下にして両手で剣を持ち上げ、私の心臓に狙いをつける。とどめを刺すつもりなのだろう。その前に、彼女が口を開いた。
「すまない、ミレイ……だが、これが正しい選択なんだ。悪く思わないでくれ」
悪魔の加護によって善悪を歪められ、誤った選択を正しいと思い込まされている。あんなにやさしくて正義感の強い彼女を……それにまた怒りを覚え、私は元凶であるリーゼさんに精一杯の視線を飛ばす。彼女はそれを見ても笑みを崩さない。悔しさに歯噛みしながらさらに睨みつけたところで――
どす――
心臓に剣を突き立てられ、私は何度目かになる死を迎えた。
▼▼▼▼▼
0
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」
魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。
彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。
遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。
歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか?
己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。
そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。
そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。
例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。
過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る!
異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕!
――なろう・カクヨムでも連載中――
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる