この探偵、感度良好につき取り扱い注意【全年齢版】

荒野 涼子

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file.10 張り込み 人形の家

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今晩の仕事は飲み屋街での張り込みだった。1人は少し離れたところから車で、2人はカップルを装い張り込みをしていた。
「こういうのは下請けって言うんですか」
秋人の問いに珠莉が
「そうだね、張り込み数時間だからアルバイト感覚だね。所長も普段はあんまり引き受けたがらないんだけど、ほら最近暇だから」
と答えると
「確かに。逆にあちらは人手も足らないくらい繁昌してると」
「どうだろう?週末だからとか」
「働き方改革とかですか。いいご身分ですね。探偵って休みは警察と同じ感じかと思ってました」
釈然としないようすで秋人が言うのに乗せて
「休みって言えば、お父さんからよく呼び出しきてるけどどうなの?」
と珠莉がズバリと聞く。
「どうって……僕、愛人の子なんで月に二、三回位しか会いませんよ」
「仲良いの?」
思わず絶句する秋人を訝しげに見て珠莉は
「どうした?」
「あぁ、……ある意味良いですよ」
「何して遊ぶの?」
「この歳ですよ。父親と遊んだりなんか……」
いつもより歯切れの悪い秋人の様子に目をやりながら珠莉はひとまず会話を区切る。
「そうなんだ」

代わって秋人が尋ねる。
「……なんか聞くの2度目かもですが珠莉さんにとって所長は父親がわりだったりしますか?」
「へ、いやいや、あんなエロオジが父親なもんか」
吃驚して目の前で手を振りながら答えるのに
「仲良く見えますよ、色々と。ほら、休みの日なんか一緒に過ごしてるでしょ」
「なに、妬いてんの?」
「そ、それはもちろん」
と若干顔を赤らめて答える。
「じゃあどっか行こ」
と珠莉の提案に驚いて秋人は尋ねる。
「え、俺なんかと一緒でもいいんですか?」
「そこ!なんで急に卑屈になんの?もっと恥ずかしいことは平気でしてんのに」
「平気ではないですよ。いつもドキドキしてます」
常にない殊勝さで押してくる秋人に
(うわーーーー)と叫び出したい衝動を堪えながら珠莉は体温が上がるのを感じた。
「えーっと、秋人は休みに何してんの?」
「ここでバイトしてます。シフトめちゃくちゃ入れてますよね?」
「そだね……他の休みは?」
「そうですね、ジム行ったり、映画見たり、服買いに行ったりですか」
(それだ!)という顔になり珠莉は
「あ、じゃあ服見に行こ!」
「……ぼくが珠莉様のコーデ組んでみてもいいですか?」
「いいよ!秋人の服のセンス好きだし、楽しみ。……ただし、エロいのはなしな」
「……え、何着ても珠莉様はエロいですけど」
それに対して珠莉は秋人の腹に何発か拳を入れるが
「硬いな……」
とシャツを捲り上げて筋肉の筋に沿って触る。
「あ、やめて」
と秋人は慌ててシャツを引き下ろし珠莉の手を拘束する。
「いつも触ってくるくせにー」
「俺の触っても仕方ないでしょ」
「気持ち良くない?」
「あー……、そんなことはないですけど、って勘弁してください」
と珠莉の視線を避けるように目を伏せる。
(あれ、なんだこの反応?)
先ほどからの秋人の意外な反応になぜかドギマギしている自分に珠莉は気づく。誤魔化すように
「トイレ行きたい」
唐突に珠莉が訴える
「もー、だからあの時トイレ済ませておけば良かったんですよ」
「そんな気分じゃなかったんだもん」
「気分で動くなってまた所長に怒られますよ。お仕置きですよ」
お仕置きというワードに敏感に反応して
「やめろよ、所長本気でお仕置きするからな。冗談じゃ済まないんだよ」
「仕方ないですね。人目に付かない所あれば引き受けますよ」
「?」
「珠莉様のお聖水一滴残さず飲み干してみます!」
凛々しく決意表明を決めたところに
「じゃぁお願い……てなるか!」
とツッコミの拳を入れて珠莉は
「買い出しついでに行ってくるからあとお願い」
「残念です」
珠莉に拳を入れられたところをわざとらしくさすりながら秋人は応える。
「そのまま所長とバトンタッチしてくる」

     *

諒介が秋人に歩み寄る。
「男同士も見慣れた雰囲気になったおかげで溶け込みやすくなったな」
と腰に手を回す。
「キスでもします?」
「お、俺とならいいの?
「どうぞ」
秋人の顎を軽く持ちそのまま軽く口付ける。
「気持ちいいのはまたいつかな」
「その時はどっちがタチなんですか?」
「そりゃ……て男同士だとそういう問題もあるか」
「タチ専がネコでも燃えますよ」
「それ俺で想像するのやめて。お願い」

「そういえば2人きりで話すのも久々だな。……なぁ、秋人は知ってるんだろ?」
諒介が切り出す。
「その珠莉の……『人形の家』のこと」
ちょっと首を傾げた後頷いて秋人は答える。
「……えぇ。初めはニュースで知るくらいだったんですけど。そこで興味をもってネットなんかで自分で調べました」
「ネットかー、まだその時は……」
「8歳ですね。勉強に関わるものであれば父親はなんでも許したので」
「デジタルネイティブだな。あの時俺は……」
「担当刑事さんの1人だったんですよね」
「……さすがだな」
「そして珠莉様の発見者」

     *

事件の始まりは殺人事件だった。
妻が夫を包丁で刺殺したという事件を担当していた美坂諒介は事件後の邸内を捜査していた。
2階を見て回った時だ。妻の居室の辺りで異臭を感じた。だが何の臭いかどこからかがわからない。ちょうど間取り図を担当していた者に確認するとおかしなところがあると言う。妻の居室と隣のウォーキングクローゼットのドアの間隔が広いと。間に隠された空間があるのかもしれない。
廊下に面した壁には何の異変も見当たらなかった。妻の居室に入る。何か見落としているのか?ふとクローゼットが気になった。あれだけ広いウォーキングクローゼットがあるのにこれは何だろう?
クローゼットの中には部屋着と思われる衣服が数点かけられてるだけだった。背板を押してみるが何もない。
「押してダメなら引いてみろっかな。ってツマミもないか」
「……まさかな」
と言いつつ背板に手を当てて横に動かすと扉のようにスライドした。
(開いた!)
と思うと同時にムッとした異臭がクローゼット内に立ち込める。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか)
中には入るとそこは天窓からの明かりで照らされた子供部屋だった。数多い玩具も整理整頓され本当の子どもがいるような生活感がない。人形の家の実物大フィギュアのようだった。
「奥さん人形遊びでもしてたのか?」
1番奥にベッドがあり布団が掛けられている。
「これが主役の人形か」
だが臭いはそこからだった。ベッドに寝かされていたのは目鼻立ちの整った綺麗なお人形だった。
「とても作り物には見えないな」
そっと頬に触れてみた瞬間人形の瞼が開き
「〇〇ちゃん、可愛いね」
と掠れた声で言葉を発した。仰天の余り叫んだ諒介の声で捜査員たちが駆けつける。
すぐにお人形が生きている女の子であることが判明し救助となった。何日か前から放置されていたのか正確には不明だったが、食事も与えられず糞尿垂れ流しで硬いベッドに寝かされていて諒介が発見しなければ生命にも関わる事態だった。

     *

所長は珠莉さんの生命の恩人なんですね」
「そんな大げさなもんじゃない。たまたまだ。まぁ、それからの付き合いだから懐かれてしまったけど」
「聞かせてくださりありがとうございました」
「ちょっと長い話になったな」
「珠莉さんと交代してきます」

     *

「なーんか仲良しだね」
珠莉には珍しくねっとりした言い方で諒介に絡む。
「何?」
「所長と秋人。事務所入る前から知り合いだったんでしょ?」
「なんでそう思うの?」
「あの秋人が所長には信頼感強いし……キスするくらい」
(ふふん、拗ねてるのか。果たしてどっちに?)
と内心面白がりながら諒介は
「そうか、俺から言うことじゃないからいつか秋人から聞けるまで待ちなさい」
宥め、続けて話す。
「あ、でも秋人はお前さんの家のこと知ってたよ」
「やっぱり。まぁ今はネットで検索したら何でも出てきちゃうもんね」
そこでムカつきが抑えきれずに
「あー、あっちは何でも知ってて私は何も知らないの癪に障る!」
それを抑えるように諒介がガバッとハグする。
「あのー、今職務中」
耳元で囁き喧嘩で怒っている彼女を宥める彼氏に扮しながら諒介が諌める。
「すみません」
「次から気をつけて」
そこで携帯電話の画面に目をやる。
「撤収だ。車戻るぞ」
車に戻り依頼者の元請けに簡単に報告をする。それから事務所に帰ることになった。

     *

「夜勤明け扱いだから今日はもう終わっていいぞ」
諒介は声をかけて報告書の作成にかかる。
「なんか疲れたー。大したことしてないのに。達成感がないからかなー」
ソファに寝転んでうだうだしてる珠莉に秋人が近づいて声をかける。
「夜勤苦手ですもんね珠莉さん」
「おーい、そこで横になるなよ。寝るなら上に上がってちゃんと寝な」
デスクから諒介が声をかけるが既に珠莉は微睡んでいた。その珠莉に秋人は囁く。
「僕のこと知りたいですか。そんなに難しくないはずですよ、珠莉様なら」
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