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一章 出逢い
二日目 雪ん子、街を歩く
しおりを挟むほぇぇ……。
知らない物がたくさん並んでる……。
「わぁ、綺麗」
「?」
透き通った海色の装飾が付いた金属の飾りが目に付いた。なんて美しい。
「あぁ、簪ですか」
「簪?」
聞くとこれは、女性が髪を飾るための『装飾品』らしい。金属なのに。どうやって飾るんでしょう?
眺めていると横から簪が攫われた。
「店主、こちらを」
「毎度あり」
「え、え?」
お会計を済ませてしまった。
そんなに物欲しそうな表情をしていたでしょうか……!?あわわわ。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「いいえ。嬉しかったので」
「……?」
何が嬉しかったのかは分かりませんが、私の方がもっと嬉しいです。
だって、初めての贈り物だから。これは家宝にします。
(そんな大袈裟な)
心の中で宣言し、グッと拳を握ると、隣から小さな笑い声が聞こえてきた。
男の子を見ると、肩を揺らして笑いを堪えていた。
「すみません。反応が可愛らしかったので……」
「……??」
もしかして、声に出していただろうか。
……ものすごく、恥ずかしい!今の私、絶対顔が赤いですよね?あぁぁぁ……!
「……可愛い……」
第一、髪飾りを家宝にする人なんていませんよね!?
でもでもっ、本当に嬉しいから!こんなに綺麗ですし!
「あ、何か言いました?」
「い、いえ、何も」
小さく何かを呟いた気がしたのですけど……本人は否定していますし、気にしない事にしましょう。
「この石、宝石なんですか?」
「藍玉という希少な宝石ですよ。夜の石とも言われています。石言葉は沈着・勇敢・聡明だったかと」
く、詳しい。他の宝石の事も知ってたりして……。
「これでも貴族ですからね、多少の知識は有ります」
───!!!!
「お貴族様とは知らずにご迷惑を……!」
「やめてください!そういうのは……悲しいです。壁を作られるのも、嫌です」
両の手を握りしめられ、切々と訴えられる。
「貴女とは友人で……いたい」
思いの外、真剣な目で見つめられてしまい、思わず頷いた。何度も。
いつ、友人と認識されたんだろう……嬉しいけど。
「そういえば、お名前、聞いてませんでした」
「これは失礼しました」
背筋を伸ばし、右手を胸に当て、左手を後ろに持っていった。
「私の名は春風美亞葵。東面軍第一軍隊大隊長、官吏を兼任している中佐であります。……お嬢さんの名を伺っても?」
腰を屈めたかと思うと、手に口付けられた。
(ひゃあぁぁぁ)
ちら、と上目遣いを向けられて頬に朱が差す。
「はる、ひ……雪乃、春姫……春の、姫」
「春姫……貴女に似合う、美しい名だ」
な、なんだか、雰囲気が……!言葉遣いが!心臓がバクバク煩い。
「あっ」
急いで手を引っ抜いて忙しなく擦る。
「すみません、悪戯が過ぎましたね。ごめんなさい」
「二回も謝らなくて良いです!皆さんが見てます……!」
どうやら彼は気にしていない様子で、私だけを見ている。
「どんな反応をするのか、見てみたくて……不愉快、でしたか?」
「そ、そんなことありません!」
眉は申し訳なさそうに下がっているのに、その瞳は輝いていて、反応を面白がっている。
「泣きますよ」
「それは困りますね」
微塵も困ってないのは気の所為ですか。唇が無意識に尖る。
「むぅぅ」
「ごめんなさい」
掌を合わせて謝ってもそう簡単に許しませんからねっ。ふん。
「弱りましたね……」
しょんぼりと兎耳が垂れている幻覚が見える。種類は違うけれど、犬の尻尾があったら元気を失っているだろう。
想像したら予想以上に可愛かった。もし獣人だったらもふもふ出来るのに。
「何を笑ってるんですか」
「なんでもないでーす」
鼻歌を歌いながら先を歩く。
はっ!あれはなんでしょう!?ふわふわしてて雲みたいです!
(とりあえず、機嫌は直りましたかね……?)
昨日は時間も遅くてお店も閉まっていて。残念がっていたら『明日、一緒に行きましょう』って、言ってくれたんですよね。これも嬉しかったです。
「おや嬢ちゃん、見るのは初めてかい?」
「はい!」
「これはね、綿飴ってお菓子さ。ひとつ食べてみるかい?」
「良いんですか!?」
「あぁ!もちろんさ、代金は要らないよ!気に入ったらまた来ておくれ」
親切なおばさんです!お菓子をタダでくれました!お試しの為か、拳大程の大きさで可愛いです。早速食べてみましょう。
「!!」
……甘い!そして見た目を裏切らないふわふわ感!
「良かったですね」
食べている最中なので頷くに留めた。
お菓子を食べたことで胃が刺激されたのか、盛大に腹の虫が鳴いた。
「「………………」」
なんとなく、気まずい。お腹を凝視しないでください!
「あー、お昼ご飯にしましょうか」
「すみません……」
美亞葵君の顔が見れない。なんだってあんなに大きな音が。恥ずかしいじゃないですか、もう!
ちょうど近くに喫茶店があったのでそこに入った。
やはりこういう飲食店は女の子が多いみたいですね。かなり顔が整っている美亞葵君への視線が凄い。
あの門番のおじさんも顔は整っていたけれど、美亞葵君は別格。あのおじさん、ハロルドさんが土筆だとすれば、美亞葵君は白百合。
「美亞葵君の好きなお花ってなんですか?」
「ん?んー」
料理表を眺めながら、コツコツと爪音を立て考える美亞葵君。意外にも熟考している。不意に目が合って数秒が経ち……。
「──薫衣草、ですかね。あとは白い姫睡蓮とか」
「可愛いですね」
「え」
「選んだお花」
「あ、あぁ。そっちですか……」
?
他に何があると……あぁ!私ったら!美亞葵君が可愛いと言ったのですね!?ごめんなさいぃぃぃ!
「いえ……」
「!」
み、美亞葵君が、照れている。あの、美亞葵君が。人をからかってばかりの美亞葵君が。
顔を背けて目元を手で隠している。とはいえ、顔全域が赤いから丸分かりなのだけど。
あれ。もしかして、喜んでる?可愛いって言われたことに?男の子なのに?
「そんなに見ないでください……」
消え入りそうな声で懇願される。そう言われると、見ていたくなる。
「美亞葵君も可愛いですよ?」
「仕返しですか……?」
「本心です」
「~~~!(なんて可愛らしいことを!)」
遂に両手で顔を覆ってしまった。あぁ、もっと恥じらう美亞葵君を見ていたかったのに。
「見てみて、あの子たちめちゃ可愛い~!」
「恋人かな?!」
「え?両方女の子じゃないの?」
「水色の方は男の子でしょ?」
「でも、どっちにしろ……」
「「「可愛い~!!」」」
ですよね!美亞葵君て可愛いですよね!顔立ちも仕草も!
うんうん、と同意するように頷く。
「あ、恋人じゃないですよ?お友達です」
「えー、そうなのぉ?」
「昨日出会ったばかりです」
「そっかぁ」
出会ったばかり……ではあるものの、そんな感覚は無い。もう既に何年も一緒に居るかのように馴染んでしまっている。
お姉さん方に囃し立てられたお蔭で、美亞葵君が更に赤くなった。首まで赤い。
……そんなに赤くなって大丈夫なんですか?
「誰の所為ですか」
「可愛い美亞葵君」
──ゴンッ!
テーブルに突っ伏した。手、痛そう。
「お客様、ご注文はお決まりですか?」
「あ」
「いつものを二人分とお勧めのデザートを」
「かしこましました。少々お待ちください」
美亞葵君がボソボソと注文をした。私には何を言ったのか聞き取れませんでしたが、あのお姉さんは理解出来たのでしょうか?
「んん!行きつけの店ですから、聞き取れなくとも理解できたかと」
ようやく復活した美亞葵君の顔は、残念ながら赤みが残っていなかった。
……また照れさせてみたい。
運ばれてきた食事を堪能し、帰路に就いた。
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