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しおりを挟む夫達は仕事で不在。一人で街に出てはいけないと言われ、研究棟へ来た。普段であればロランかミシェルがついてきてくれるけれど、今日は王子様の商談についていなきゃいけないから本当に一人。部屋の前にいる近衛の人に言って許可をもらってここに来た。
おじいちゃん達を手伝おうとしたけれど、答え合わせはまだだと言われ出番もない。なら部屋に戻ろうかとも思ったけれど、戻っても誰もいないしすることもないからここにいることにした。
大きい本棚からなぜか気になるものを見つけた。活字を読むような女ではなかったけれど、なぜか目についたそれを開く。他のおじいちゃん達はもうこれは読み終わっているらしい。古代といってもそこまで古くなく、かといって新しくもない入門編くらいの難易度らしい。これは…誰かの日記のようだった。
『愛してもいない男との婚約が勝手に決まっていたことも不快だし、私が嫁に行かねばならぬことも不快。』
とんでもない書き出しに、興味がそそられるがなんとなく嫌な予感がする。おじいちゃん達は笑っている。お嬢は楽しめると思うぞ、俺は引いた、とか言いたい放題である。いつの時代だかの王弟公爵の元へ嫁いだ女性の話だそうだ。
*****
「いくら臣下に下ったからと言っても王族なのだから複数夫がいるなど耐えられるわけがなかろう」
そう言われたのは婚姻が成立してから。婚約段階で言ってくれと思った。別に好きでもない男に嫁ぐのは百歩譲っていい、しかし他に夫を迎えてはいけないなんて聞いていなかった。自分は王族だから?はぁ?公爵位を賜ったんだからもう王族じゃなくて公爵じゃんと言ってやりたい気分だ。あぁ、こいつとはうまくやれない。
その数ヵ月後、今度は別の女性を妻として迎えたいと言い出した。公爵家はこのクズ男がなんの才能もないせいで私や私の生家が支えているのに、このクズは市井で女を捕まえてきて妻に迎えたいだと?王族は一途だと思っていたがそうではないらしい。
「どうぞ、お好きになさったら」
この男への愛情なんてものは抱いたこともないので勝手にすればいいと思う。まぁ女が出来たということは寝室に来られることもなくなるだろう。清々する。
新しく邸へ連れてきた女は平民だ。なにもわかっていないし、なにもできない。正直目障りだから同じ場にでてきてほしくないが、このお飾り公爵が連れ回すので顔を合わせてしまう。
「もう少しお静かにお食事をなさったらいかがです?」
「お前はそんなにこの子が憎いのか!?」
「旦那様、おやめになって。あたしが悪いの。あなたの愛をいただいてしまっているから」
茶番だわ。やってられない。そもそも静かにしろと言ったのは話し声もだけれど、彼女の食事マナーだ。カチャカチャ音は立てるし、口に物が入ったまましゃべるから不愉快。本当、この邸も私の生家が建てたのだから早く出ていってくれないかしら。
その後一年も経たず、私は第一子をこの手に抱くことになる。クズ男は一応夫としての義務を月に数回はこなしていた。不愉快極まりなかったが。
「これで父にも彼女のことを認めさせられる」
まだ言っていなかったのか?いや、陛下には伝えていたがお叱りをうけたのだろう。子も設けていないのに他の女にはしるとはときっと。まぁその仲睦まじい女と子が出来ないのはなせかしらね?
*****
「ねぇ、おじいちゃん達…なんかもうこのあとなんとなく想像できるんだけど」
全員笑っていた。
「この男殺して女公爵として君臨するんじゃね?この日記の人」
「人殺しはしないよ、このご婦人は。まぁある意味それよりひどいけどな」
また大笑いしてる。え?なに?こわっ
*****
息子はとてもかわいい。このクズ男が見に来ることだけが不愉快だが
「なぜ君との子ができて、愛する彼女とは子宝に恵まれないんだろう」
息子を抱きながら言うことではない。
「そろそろお返しになって。あなたはどうぞ彼女の元へ。この子に会わせることはありませんので彼女との御子を早くお作りになっては?」
「君に言われなくてもそうするさっ!」
せいぜいその女と仲良くしておくことね。私は息子のためにも今からやらなくてはならないことがたくさんあるのだから。
「なぜっ!息子を君の生家へ!?」
「息子?厄介そうにしていたのはあなたではなくて?」
「そっ、そんなことは…」
厄介なのは私のことだと言いたいんでしょうけれど。この子に会いに来れば私とも顔を合わせなければならないし、そのたびにチクチク文句を吐き続けていたから、しばらく顔も見ていなかった。
「公爵といえども陛下から賜っただけの一代爵位ですわ。息子が継ぐことはできませんもの。だったら我が家で学び、我が家の持つ爵位を与えるほうが彼のためにも良いのではなくて?それともあなたがなにか功績をたてて息子にその爵位を与えてくださるというの?」
「っ…もういいっ!勝手にしろ!」
えぇ。とっくに勝手にさせてもらっているわ。ところであなたと愛おしい彼女との子はまたなのかしら?
*****
「ねぇ、この、公爵とその女との子はまだなのかしら?とかこわすぎるんだけど」
「それは盛大なフリだ。」
「え?こわっ。このフリ回収あんの?」
「そろそろ大詰めだろう。もう息子は実家に預けたんだろ」
「うん。爵位のためとか恐ろしい」
「それだけじゃないんだけどな…」
貴族こわっ。昔の貴族こわっ
*****
第二子の妊娠がわかったのは息子が私の生家へ行ったあとだった
「なんで一回で…彼女とは…」
「さぁ?相性が悪いのではなくて?」
「うるさいっ!」
うるさいのはお前だと言ってやりたい。もはやこの公爵家は私のものとなっている。資金もすべて私が作り出し、生家に出してもらった分も全て多めに利子までつけて返している。何もしない、何もできない男とその女に離れまで建ててあげた私は敬われることはあっても罵倒される必要はないのだけれど。
「あなたも早くお父様に会いたいわね」
少しでてきたお腹を押さえて子に語りかける。
月日が経ち、生まれたのは女の子だった。
「よくやった」
「いいえ、そのようなお言葉をかけられる筋合いはありませんわ。どうぞ彼女の元へお帰りになられては?」
「娘の誕生すら喜んではいけないのか!?」
「えぇ。娘には悪い見本ですから。出来ればお近づきにもなってほしくありませんわ」
枕元にあった水差しを手で振り払ってクズ男は出ていった。赤ちゃんがいるのにわざと大きな音をたてるなんてもはや人間として終わっているわ。
そのあとすぐ、クズ男の女から面会を希望する手紙が届いたが断りの返事を執事長に出してもらった。
娘は6歳、婚約の話がまとまった。陛下の息子との婚約である。
「血が近すぎるではないか!従兄弟だぞ!?」
「関係ないではありませんか。」
「あるっ!陛下は兄だ!兄の子と娘が結婚なんて」
「あなたに私の決めたことに口出しをする権利はありませんわ。なにか言いたいのであれば離れにかかっている費用を全てご自分達で捻出できるようになってからにしてくださる?」
「っ…」
執務室の扉をわざと大きな音をたてて閉めるあたり、本当に小さい男だわ。そもそも邸の執務室は本来あの男が使わなくてはいけないのに、なにもしていないから私が使っているのよ。本当にそろそろお荷物としても邪魔になってきたわ。そろそろすべて種明かしをしなくてはならないわね…
数ヵ月経って執務室にクズ男とその女を呼び出した。
「座ったままで失礼するわ。」
「人を呼びつけておいてその態度はないだろうっ!」
「少し声を小さくしていただける?響いて不愉快だわ。まぁどうぞお掛けになって。お二人に話がありますの」
私の横には我が家の執事長、ソファを挟んで後ろには私の護衛騎士。騎士団は私のために辞めてもらったから公爵家の騎士という立場だ。
「ありがとう。こちらの方々にもお出ししてちょうだい。歓迎はしていなくてもマナーとしてちゃんとしなくては。ここにいる執事長に苦言を呈されるわ」
今日この場にお茶を用意してくれたのは我が家の執事。
「先程からお前の態度はなんだ?この家の主にでもなったつもりか?」
「何を仰っているの?私が主であるのだから間違っていなくてよ?」
「主はこの俺だ!」
「いいえ、ただの穀潰しなあなたをこの家の主だと思っているのは、あなたとそこの女だけよ。この邸で働くすべての人間や国の人間は誰もあなたが主だなんて思ってもいないわ。ねぇ、そう思わない?」
控えている他の騎士や執事に問えば皆肯定していた。本当によく教育されているわ。関心してしまう。目の前の二人をどうしてやろうかしら。
「離縁しましょうか?私が籍を抜きますけれど、この家はすべて私のものですので早急に出ていってもらわなければならないわね」
「何故そのような意地悪をするんですか?私が至らないばかりですか?」
目からぼろぼろと涙を流すこの女をクズ男が肩を抱き寄せ慰めるが、そんな茶番はいらない。
「意地悪でもなんでもないわ。この家は私の物なんですもの。異物はあなた達二人だけなの。早く出ていってくださらないかしら?」
「公爵位はどうするんだ!?」
「爵位は使えていなくてもあなたのものでしょう?あっ、お金を借りるのに爵位がいるわね。使えないなんて言ってしまって申し訳なかったわ」
公爵名義で金貸しから借りているのはわかっている。その金貸しにもきちんとお話をさせていただいているのだから。私をはじめとしたこの邸の者達に、その名義の借金は何一つ関わりがないと。
「お前が…」
「私がなんですか?」
「…なんでもない」
「あら?なんでもなくはないんではなくて?そうね、条件を出しましょうか。離縁してくれさえすれば、あなたの借金、私が肩代わりしてさしあげてもよろしくてよ」
「本当ですか!?」
借金を肩代わりするという部分に反応したのは浅ましい女だ。肩代わりはするが、これからどうお金を作っていくつもりだろうか?結局また金貸しから借りることになるだろうけれど、まぁ私とは関係なくなるのだからどうでもいい。
「ではこの書類と離縁状にサインをしてくださる?公爵様」
「子ども達はどうするんだ、あれらは私の子だろう?」
「いいえ、ちがいますわ」
「そんなわけないだろう!?」
「そんなわけがあるんですのよ。普通なら調べるでしょうに、あなたは何もお調べにならなかったのですね。正直驚いてしまいましたわ」
2人いる私のこどもはいずれもこの男の子どもではない。隣に掛けている執事長と後ろに立つ騎士との子だ。魔術ですぐにわかるだろうに、それすらしなかったとは驚きだ。子どもに1度も父とも呼ばれなくても勝手に父だと思っていたということだろうか?おめでたい男だ。
そもそもこの2人は最初から私と結婚するために連れてきているのだ。愛のない結婚をさせられなければならないのなら、せめて他の夫は愛する人にしたかったから。なのに複数の夫は嫌だなど我儘を言ったくせに自分は他の女を囲うのだから頭がどうかしているとしか思えない。だから私は私の当初の予定通りにさせてもらっているだけだ。こどもは女の子が出来るまで、交互に子宝に恵まれればいい。クズ男とは絶対にできないように避妊の魔術を強めにかけて。まさか第二子で女の子に恵まれるとは。とりあえず娘の婚約が決まるまでは耐えて、決まり次第こんなやつとは離縁してやろうと決めていたのだから。
「このことはあなたの兄上である陛下も皆存じておりますわ。あなたのことはもう御見捨てになっているのかもしれませんね。すべての連絡事項は私宛にくるんですもの」
「そ、そんなはずはない!実の兄なんだから気をつかって」
「いいえ、そうであるなら御自分の息子と弟の娘を婚約させようとは思わないはずですわ。すべてを知って私の娘を次代の王太子妃として迎えてくださるんですもの」
ちなみにこの離縁後は王家より新たに爵位を賜ることが決まっている。邸は私のものだし、夫達は優秀だからなんの問題もない。新たに夫を迎えてもいいと思うし、きっとまだ子もうめるはず。
「とりあえずサインさえしてくだされば借金はなんとかしますわ。一週間以内に荷物を纏めて出ていってくださる?何度も言いますけれど、この家は私個人の財産ですの。離れも次の入居者が決まっているので居座ることは無理ですの」
女のほうが先にサインをした。あとはこのクズ男だけだ。子が自分の子じゃないとショックをうけているのだろうか?父親らしいことなんてしたことがないくせになんてやつだ。茫然自失となっていようが構わない、サインさえもらえれば。
女がクズ男の手をとってサインをさせている。考えなしの平民女はどこまでも馬鹿で扱いやすいわ。
ともあれ邪魔者はちゃんと一週間でいなくなってくれたし、無事新たな爵位も得て事業も順調。そうね、娘が無事王太子妃になるのを見届けたら郊外に買ってある葡萄園にでも移住してワイナリーでもはじめようかしら。輸入のお酒はもう飽きたもの。私が国一番のお酒を作ってやるわ。なら今からノウハウを学ばなくてはならないわね。
クズ男のことは好きでもなんでもなかったけれど、デュークの爵位はとても居心地がいいものだったわ。未来のエスコフィエ公爵には安寧と幸せがもたらされることを私からも祈っておくわ。
あっ、最後になぜあの女に子が出来なかったって?それは用意してるお茶に出来にくくしたり流すものを入れていたからに決まっているじゃない。勝手に私の家に住んでいるのに、不愉快な存在が増えるなんて耐えられないもの。まぁ邸から出たあとに子宝に恵まれようが私には関係ないから別にいいんではなくて?出来なければそうね、とちらかが無能ってことかしら
*****
「えっやだ、ここでおわったんだけど」
結局あの二人が出ていったところまでしかわからなかった。
「ねぇおじいちゃんたち、これこのあとどうなるの?」
「それがなんにもわからないんだよ。王族のものも出てこないし。」
「え?じゃあこの著者?作者は?」
「その人は郊外のワイナリーの創設者だよ。ちゃんと文献も残ってる。」
おそろしすぎる。結局追い出された二人のことはわからず、日記を書いた人は今現在も残るような立派な功績を残して自分のことも後世に伝えている。
「エスコフィエ公爵はしばらくは不名誉な爵位だったらしいけどね、今はそうでもないよ。殿下だって頑張っておられるし、そこのワイナリーと殿下の関係はとてもいい」
王子様もちゃんとやってるってことね。安寧と幸せがこの日記の人からもたらされてるといいけど。
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