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しおりを挟むよくある話だ。
母が亡くなったら父が愛人と隠し子を連れて家に来て元からいる私が虐げられるなんて。
私の味方は兄達と使用人達。学園でも婚約者に愛されない女だと影で言われている。別にいいけれど。
婚約者が悪いとわかっている高位貴族の御子息御令嬢は皆優しいし教師陣も私には同情してくれるので正直悪い気はしない。
むしろあの二人と父母のほうが周りからは遠巻きにされている。見方を変えれば父母と妹のほうが虐げられているとも見える。
「ほらご覧になって、またあの身の程知らずが伯爵令息に纏わりついているわ」
「この食堂もあのような者まで出入りするようになるなんて落ちたわね」
一緒に食事をとっていた令嬢達が呟けば給仕スタッフ達がバタバタと動いてあの忌まわしい二人を食堂から追い出した。下位貴族達はこちらを恐ろしい何かを見るような目で見てくるが仕方ないだろう、この方々が気持ちよく学園生活を送れることが学園スタッフ全員の仕事なのだから。
私が何故このような方達と行動を共にしているのかと言えばただの気まぐれなのだろうけど。
『あの目障りな女の姉で婚約者をその女に独占されているのはあなたかしら?』
今思えばとんでもないセリフだけれど、関係ないと言いたいが半分血の繋がった妹と婚約者なのは事実だと言えば扇を広げて笑った後
『あなた今日から私達と共になさい。身分なんていいの、あなたは正式な子爵家令嬢なのだからしゃんとなさい』
まぁ確かに諦めに入っていたのでしゃんとはしていなかった。
「どうして!?あたしだって子爵令嬢なのにどうしてっ!」
家で父と母に泣きついている声が聞こえる。
「お嬢様、なにがあったんですか?」
「公爵令嬢が言ったのよ、身の程知らずがとかあのような者がとか。そうしたらスタッフにあの男共々食堂から連れ出されたってわけ」
数人の使用人が私の部屋にいるが皆笑っている。
「身の程知らずとはその通りですね、流石公爵令嬢様ですわ」
「どうせあとで旦那様がお嬢様をお呼びになりますわ」
「そうね、でももう手は打ってあるの」
今日御令嬢達から頂いた秘密の手紙。これを見ればもう私には何も言えなくなるだろう。
「そもそもあの女達が全て悪いのに何故お嬢様が責められなければならないのです?」
「さぁね?自分達が貴族界から遠巻きにされているのを私のせいだと思ってしまうような方々だから仕方ないのではなくて?」
「旦那様もあの方々が来られてからすっかり変わってしまわれましたものね…」
「まぁそろそろお兄様が家督を継ぐのではなくて?議会から「フランカっ!降りてきなさいっ!」
下の階から父の怒鳴り声が聞こえる。使用人達とその場で笑って重い腰を上げる。
「面倒だけど行ってこようかしら。みんな見ているといいわ、この秘密の手紙であの男が狼狽えるところを見たらいいわ」
皆で大笑いしたあと下へ降りた。
「キアーラが泣いているじゃないっ!なんで姉なのになんとかしてあげないの!?」
「あら?半分しか血が入っていないのに令嬢ヅラしている身の程知らずを公爵令嬢達が邪魔に思ったことを私に何とかしろと?」
「また私を見下してくるわっ!なんであんたみたいなのが偉そうに令嬢ぶってるのよっ」
「その言葉あなたにそのまま返すわ。平民で娼婦上がりの女の子なのに子爵家に置いてもらえるだけいいと思ったらどう?私の友人達にも失礼だわ、謝ってくださらない?」
この母娘はもうだめだ。
父も何か私に言おうとしたところでこの秘密兵器を取り出す。
「何か言う前に此方をお読みになって。公爵様からですわ」
ブツブツ言いながら手紙を開ければ一瞬で顔が青ざめていた。
「これは」
「御令嬢からお父様に直接と。ちなみに伯爵家にも同じような手紙を届けているようですわ」
「なっ!しかしっ、これは…」
「なに?あなた、何が書いてあったの?」
明日の公爵家主催のパーティーには子爵家は次期当主の兄と次兄、長女のみの参加を命ずる。伯爵家は子息の参加を許さず欠席は許さないとのことだ。
「ちょっと!なによこれっ!ひどいじゃない」
「なら直接言ったらどうです?継母であるあなたが公爵様にお会いできることなんてありえませんけど。明日のパーティーも参加は許されていませんからね。出禁ですよ出禁」
「なんであたしはダメなの!?」
考えればわかるだろ、公爵様はこの現状を知ってそうしたんだから。
「お前から言えばどうにかしてくれるんじゃないのか?」
「さぁ?私もご当主様とは数回しかお会いしたことがありませんから何かを申し上げる立場ではありません。話がこれで終わりなら失礼しますわ。明日の準備もありますし」
普通のか弱い令嬢なら泣き暮らすのだろうが、生憎私は図太い性格をしてるし心臓に毛が生えているような人間なので向こうのほうが先に折れる。というか言い返してこなくなる。
家のことももはや兄達が仕切っているので父なんてお飾りもお飾りだ。そもそも母がやっていたことを甘ったれで手伝いもしていなかった父が出来るわけがないのだ。
部屋へ戻りレターセットを取り出し簡単に書いて使用人に渡す。
「公爵家に届けてちょうだい。残った者達で明日のコーディネートを決めましょうか。赤と濃い青はダメよ、主催の方々と被ってしまうから」
その後帰ってきた兄達と楽しく過ごした。晩餐の席では何か言っていたが構っている余裕はなかったので無視して食事を進めた。
*****
主催の公爵御夫妻へ兄2人と長兄の婚約者と4人で挨拶をしに行く。公爵令嬢も一緒だ。
「やはりあなたは淡い色が似合うわ。性格はあんななのに」
「何をおっしゃいますの、ふふふっ」
雑談をしていたら会場のスタッフが兄のところへ来て耳打ちをしていた。兄は怪訝そうな顔をしたあと公爵様へ小声で話をしたあと私達を連れてホールを出た。兄は婚約者を婚約者の両親の元へ連れていき、私と次兄は私の婚約者の両親と共に休憩室にいる。
何故かこの会場に向かっていた父と継母、妹と私の婚約者が乗った馬車が事故に遭った。全員即病院に運ばれたとのことでパーティーは中座だ。婚約者の両親は私への申し訳なさそうにしながらも息子を心配しているので顔面蒼白、まぁ私と兄達が普通にしていることのほうがおかしいのかもしれない。
公爵様の用意してくださった馬車で病院へ行った。貴族の大半は今日はパーティー、院内では浮く正装の私たちは足早に病室へ向かう。父と継母と妹は重体、とても面会もできる状態ではないので私達全員は婚約者の元へ行くしかない。兄達は事故のことを聞いたり父達の容体を聞くため別室だ。
婚約者は片足を骨折と頭を強く打ってまだ目を覚まさない。まぁ命に別状はないのだからいいじゃないと私は思うが、婚約者の両親からしてみれば息子が無事?無事ではないか、なだけ涙を流すくらい喜ばしいことだっただろう。あぁ、私も兄達と行けばよかった。
目を覚まさない婚約者を見ても何も思わない、むしろ何か思うとすればこのまま目を覚まさなければいいのにくらい。婚約者に対しては軽蔑しかないが、彼のご両親は立派な方だ。息子が社交界で遠巻きにされているのがわかればすぐ叱責し、私に謝罪の手紙と贈り物をしろと指示するような方々だ。まぁ来たのはあの家の使用人からの手紙と花で面白すぎたのですぐ学園で広まった。婚約者と妹が殊更に陰口を叩かれたり冷ややかな目で見られていたのを思い出して笑いそうになってしまった。いけない、こんな場所で笑ってはいけないわ。
もう夜も遅いからと長兄に言われて次兄と共に家に帰った。
「よかったな」
おやすみのキスのあとに言われた言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。
週明け学園へ行けば様々な方からお声掛けいただいた。父達の心配が殆どだが中にはあの2人には腹を据えかねていたからざまぁみろと遠回しに伝えてくる方もいた。なんとも言えない顔を浮かべて相槌を打つことしかできない。
放課後には目覚めたと言う婚約者に会いに病院へ行った。
「えっと…君は…?」
ベッドで上半身だけ起こした婚約者に言われた。あら?と思っていたら伯爵夫妻に実は記憶が曖昧で…と言われた。
なんて羨ましい、幸せな人間だ。
「フランカですわ。覚えてらっしゃらないと思いますが」
「すまない…記憶が曖昧で…言葉や家族のことはなんとかわかるのだが」
伯爵夫妻は泣いている。息子が目覚めて嬉しい気持ちと記憶の欠如に悲しんでいるのが入り交じって大変だろう。
「ご家族の支えがあればきっと大丈夫ですわ。では私はこれで」
「待ってくれ」
はぁ?なぜ呼び止められなければならない?振り返れば伯爵夫妻は顔を蒼くしてしまっているし、息子はなぜか気合いの入った顔をしている。
「フランカということは婚約者なのだろう?今は君のことはわからないがこれから家庭を築いていくのだ、家族と同様に過ごすものではないのか?」
どの口がそのようなことを言うのだろうか?いっそ父達と同じ目にあえばよかったのにと不謹慎ながら思ってしまう。貴族令嬢として育てられたからそのようなことは言わない。義妹なら言っていただろうが、私はそこまで愚かではない。
「いいえ、婚約者というのは過去のこと。今は元婚約者という立場ですので間違っても家族になることはありませんわ。伯爵夫妻が貴方にお伝えになる前に事故に遭われたので存じ上げなかったかもしれませんが」
「そんな…君が婚約者だと…」
「真実は私の口からはとても伝えられませんわ。もう少し落ち着いてから伯爵様にお伺いしてみてください。では本当にこの辺で失礼いたしますわ」
今度こそ病室を出てやった。父達は未だに面会の許可もおりないというか生死をさ迷っている、まぁ父は助かってほしくないわけではないが継母と義妹は正直いなくなってもいいと思っている。
公爵の助けもあり子爵家の当主は長兄に代わり、新子爵のお披露目パーティーは公爵家が取り仕切って盛大に祝われた。
継母と義妹は医療従事者の頑張りも虚しく息を引き取った。父はなんとか生きながらえているが意識は戻らない。子爵といえどもこのままではいけないと議会の決定により兄が当主に成り代わった。
「ねぇ、貴女はどうするの?」
公爵令嬢から問われても答えることは出来なかった。
一応喪服に身を包んではいるが血が繋がっているわけではない、いや、義妹とは半分繋がっているか。喪服も意外といけるなと思いながら着たのに公爵令嬢には不評だった。
「貴方のお兄様、次兄の方ね、彼は婿入りが決まったわ。お父様と仲のいい侯爵家に。いずれは侯爵様の持っている爵位のどれかを譲るみたいよ」
「次兄もどこかの当主に?」
「あなた達兄弟を父は評価しているのよ。あなたを含めてね」
公爵の派閥の一員としてということだろう。正直婚約なんて破綻するものだという認識が自分の中で出来上がってしまったので嫌だというのが本音だ。
「あら?そんな顔しなくてもいいのに。父はあなたまで政略結婚を命じるつもりはないみたいよ」
「命じてもらえた方がよかったかもしれませんわ」
「…父が決めると貴方の思い通りにはならなくてよ」
それは遠回しに白紙となった婚約がもう一度ということを言われている気がしてならなかった。
「恋愛結婚上等じゃない、羨ましい限りよ。」
「しかし…」
「恋の仕方なんて私にだってわからないわ、だからこそみんなで考えましょうよ。前の婚約者のことなんていいのよ、なんだかんだで顔だけはいいんだから醜聞を気にしない令嬢は早速モーションかけているそうよ」
それならよかった。婚約者の義妹に懸想して学園内で厄介者扱いされていた男でも、伯爵家の唯一の令息で顔さえよければ縁談は絶えないのだろう。伯爵夫妻が困らなければそれでいい。
「まぁ貴女は煩わしい婚約から解放されてよかったわね」
事故については未だに謎が多い。生還者である父は寝たきりだし、元婚約者は記憶喪失で事実はなにもわからない。それでいいのだ。
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