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第2話 事業所長

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「所長!」
「早見君をお連れしました!!」

 西岡は軍隊用語見たいな口調で所長に言っている。
 普段からこいつは、所長に対してこんな喋り方しているのか!?

「あぁ…」

 そして、所長は不機嫌に答える……
 空気としてはかなり重苦しい状態で有った。

 しばらく所長は、俺の事を見つめていると言うよりかは観察していた。
 俺は昨日の件だと判りきっていたので、謝罪のために口を開こうとすると……、所長がゆっくりとした口調で俺に話し掛けてくる。

「早見君…」

「はい!」

「……西岡から早見君の件聞かせて貰ったよ…」
「どんな事にせよ、暴力行為はあかんぞ……。社会人なんだから…」

 俺はてっきり怒鳴りつけてくる者だと覚悟していたが、冷静な口調で言ってくる。
 しかし、所長の表情は少し笑っている様にも見えた。

(あれ?)
(この状態なら、口頭注意で終わるかな…)

「斉藤所長」
「西岡さんに手を出してしまって、すいませんでした!」

 所長にも謝罪の言葉を述べる。
 これで済むはずだと、俺は思いながら謝罪をする。
 しかし、予想と現実は違った!?

「早見君……。本当は所内での問題で終わらせたかったのが、昨今は色々厳しくてな…」
「やはり…、起きてしまった問題は本社に報告する必要性が有るから、今朝、本社の方には報告したよ…」

「恐らく、早見君は何かしらの処分が下るだろう…」

「えっ!」
「そんな……!?」

「早見君。それが、大人の社会だ……」
「君は子どもでは無い。責任を取らなくては成らない大人だ!」
「近日中に、処分結果が出るはずだから、それまで君は自宅待機だ…」

 所長は冷静な口調で話しているが、俺はこの人の事をよく知っている。冷淡な人だ。
 冷淡な斉藤所長は、俺をかばってくれる雰囲気は全く無かった。
 俺は西岡の方を見るが、西岡は『してやったり』の表情をしていた。
 俺は弁解しても無駄だと悟って素直に返事をする。

「分かりました」
「今回は、本当にすいませんでした!」

 斉藤所長と西岡に再び頭を下げて俺は事務所から出る。
 途中、同僚とすれ違い『体調が優れないから帰る』と嘘を言って、会社を後にする。

 胸倉を掴んだだけだから、非道くても2週間位の出勤停止処分位だろうと、その時は軽く考えていたが、世の中そんなに甘くなかった……
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