白湯と漬物

小春かぜね

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その後……

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 それから……しばらくの時が過ぎた。

 私は派遣社員をしながらでも、正社員に向けての就職活動を再開させた。
 一時いっときは世界の破滅を望んだけど、実際に叶っても困るので、前向きに生きていくべきだと感じた。

 今の仕事が嫌いなわけでは無いけど、将来を意識すれば派遣社員を続けるより、正社員に為れた方が良い。
 結婚も意識すれば、女性でもある程度の身分は必要だ。

(あの時は無闇矢鱈に就職活動をしていたし、イラストレーターの身分を隠して面接に挑んでいた…)
(今は派遣社員で有るが、無職で就職活動をするより、よっぽど有利に成るだろう…)

 私はこの様に考え方を改めて、就職活動を再開した。
 就職活動をするため、派遣で働ける日が少し減るが、其処は節約で対応すれば良い。

 時間は掛かるだろうが、この場所に留まっていたら、其処で私の人生も終わってしまう気がした。
 大変なのは目に見えているが、私はそれをるしか無かった。

 ……
 …
 ・

 私にとっては、冬の時期が終わったと言えば良いのだろうか?

 三月の上旬。春を感じ始めた頃。
 私の元に、一通の郵便物が届く。

 その郵便物は、とある企業の採用を知らせる郵便物で有り、私は前職と同じ職種に戻ることが出来そうで有った。

「振り出しに戻るだな……」

 採用されて嬉しいはずなのに、私は澄ました表情で呟く。
 前職と同じ仕事でも、場所かいしゃが変われば一年生である。
 また、新人時代からのやり直しである。

「派遣の仕事は今月末で終了させて、来月の一日からは……やっとの正社員か」
「……今度こそは、途中で逃げ出さずに頑張らないとな」

 私は澄ました表情で呟いているが、感慨深い表情に変わりながら呟き続ける。

「イラストレーターは夢で終わってしまったが、私の人生は続いている」
「就職活動をして良かった……来月からが、私の第三のスタートだ!」

 夢を追いかけて、夢に破れた私であるが、生きることを諦めなければ、人生の修正は出来る。
 これで、普通の暮らしに戻れると言うのも変だが、もう白湯では無く、お茶を普通に飲める生活へ戻れる。

(……人生のどん底時に食べた。白湯とべったら漬け)
(あの味は二度と……再現出来ない味なんだろうな)

 普段だったら、そんなこと絶対しないし、口も肥えているから美味しいとは感じないだろう?
 そしてこの話を、誰かに笑って話せる日が来ると良いな!
 
 順風満帆な人生が良いに決まっているが、人生のどん底も経験しないと、人は本当の成長が出来ないと思う。
 そんなことを感じた、三月上旬のとある日で有った。

 ……

 おわり
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