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86話 不思議な少女(3)
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釣り小屋には大きめの窓がある。私とリズは慎重に近付き、見える範囲に少女の分身がいないかを確認した。この窓は湖側に面していて、バルコニーへ行き来ができる。湖上に作られたバルコニー……テーブルと椅子も置かれていて、ここで景色を眺めながら食事なんてしたら素敵だろうな。こんな状況でなければ、リズと一緒に盛り上がれたのに。バルコニーには今の所、分身の姿は無かった。入り口の扉だけでなく、窓も何かで塞がないと。
「クレハ様! あそこ、桟橋の上……」
自分達がいる場所から釣り堀と、そこに繋がる桟橋が見える。リズは私にそちらを見るよう促す。桟橋の上にはレナードさんと、あの黄色い少女がいた。
レナードさんは少女と戦っている。彼と戦っているあの少女が本体だとルイスさんは言っていたな。さっきは動転していて同じにしか見えなかった少女達が、比べてみるとかなり違いがあったことに気づく。本体と呼ばれている方は、少女と見間違えてしまうくらい人間と変わらない姿なのに対して、さっき私達を襲おうとした分身の方は、動作も緩慢で顔立ちものっぺりしていて、より作り物めいていた。どちらも無表情なのは変わらなかったが。
「……レナードさんとルイスさん、お二人共強いですね」
「うん……」
桟橋を見つめながら、リズが呟いた。レナードさんに切り落とされたはずの少女の腕が治っている。体を液状化させた後、再び人の姿を形成した時に元に戻ったのだろう。少女は治った腕を剣のように変形させて、レナードさんに応戦しようとしているが、また切断されてしまうのも時間の問題な気がした。少女はレナードさんからの攻撃を受けるのが精一杯という感じだったからだ。
分身よりは身のこなしが軽快で、流石本体と言ったところではあるけれど、レナードさんに攻められっぱなしで、反撃することができていない。彼のしなやかで長い腕から繰り出される斬撃は、鋭く重い。剣がぶつかる度に少女はバランスを崩して倒れそうになり、立ち位置も桟橋の端へと追いやられていく。
包丁を握り締め、戦う決意表明をしたのはいいけど、私達がこれを振り回す機会は無さそうだ。それほどまでにレナードさんとルイスさんの強さが圧倒的だった。未知の生物に慌てることもなく、冷静に対応している。彼らはレオン直属の部隊兵……弱いはずが無かった。
大したことないとルイスさんが語ったように、彼らにとって少女の戦闘能力はさほど脅威ではないのだろう。私から見ても、少女達はふたりに対して全く歯が立っていないのが分かる。
しかし問題は、少女達は切られても時間が経つと復活してしまうことだ。本体の少女を討ち取れば、分身も消えると予想されてはいるけど。その本体をどうやって倒せばいいのだろうか。
その時、ドンという鈍い音と共に、窓ガラスが揺れた。至近距離にいた自分の顔にも、その振動が伝わってくる。
レナードさんが消えた……? いや違う、何かに視界を遮られた。驚き過ぎると声って出なくなるんだな。私の目を覆ったのは手の平だ。ガラス1枚隔てた向こう側から、私の顔面に平手をするかのように叩きつけられた手の平……もしガラスが割れていたら大惨事になっていただろう。
ガラスに両手をつき、へばり付いていたのは、さっきまでいなかった少女の分身だった。時間にしたらほんの僅かな間だったのだけど、桟橋の方に気を取られている隙に接近されていた。
「クレハ様!!」
リズが私の腕を掴み、無理やり窓際から引き離した。動悸がする……呼吸が苦しい。恐怖でまた体が動かなくなっていた。こんな有り様でよく戦うなんて言えたものだ。
「ありがとう、リズ。私ったら、戦わなきゃなんて偉そうに言ったクセに格好悪いね……」
「そんなことありません……クレハ様は、ここまでずっと私を気遣って助けて下さいました。一緒に頑張りましょう」
包丁の切っ先を少女の分身へ向けながら、リズは強張った体を支えてくれた。私も負けじと、さっき落としてしまった包丁を拾い上げ構える。分身は私とリズの威嚇など気にも留めず、窓を破ろうと腕を上げた。しかし、その腕が下ろされる事はなく、分身の体はどろどろと崩れていった。
分身が腕を上げる直前に、屋根の上から何かが落下してきたのだ。更に少女の分身が増えたのかと警戒したが、すぐにその正体が分かったので、私達は胸を撫で下ろす。
「危ないから、外から見えないようにもっと部屋の奥にいてね」
「ルイスさん……ありがとうございます」
屋根から降りて来たのはルイスさんだった。窓にへばり付いていた分身を、背後から一刀両断。あっという間に倒してくれた。
彼は普段より早口で私達に忠告すると、バルコニーにあるテーブルを足場にして、再び屋根の上に飛び乗った。ルイスさんは見晴らしの良い屋根の上を基点にして、小屋に近づいてくる分身達を順番に倒しているようだ。分身の数は数十体だっけ……いくらルイスさんが強くても、その数を相手にするのは大変だろう。分身は倒しても復活するのだ。ルイスさん達の足を引っ張ってはいけないな。
「クレハ様、ルイスさんの言う通りにしましょう」
「うん……」
ルイスさんの指示に従い、移動することにした。窓の少ない隣の調理室へ向かう。
バルコニーには少女の崩れた体の残骸が散らばっていた。これもしばらくしたら元に戻ってしまうんだな……。蠢くそれらを眺めていると、その中に奇妙な物が混ざっているのを発見した。白い紙切れのような……
「ねぇ、リズ。あれ何だろう」
「あっ! 駄目ですよ、近付いちゃ……」
少しだけだからとリズを説得して、もう一度窓際へ向かう。近くでよく見ると、やはり紙だった。5センチ角くらいの白い紙。そういえば、少女が紙の束を持っていた。その後すぐにレナードさんが少女へ切り掛かって……私とリズは釣り小屋へ向かって走ったから、紙をどうしたのかは見ていない。分身の体の中にあったのかな……あの時少女が持っていた紙と同じ物なのだろうか。
紙はぼんやりと光を放っていた。黄色のようなオレンジのような淡い光。まるで……
「この光、魔法みたいだ……」
「クレハ様! あそこ、桟橋の上……」
自分達がいる場所から釣り堀と、そこに繋がる桟橋が見える。リズは私にそちらを見るよう促す。桟橋の上にはレナードさんと、あの黄色い少女がいた。
レナードさんは少女と戦っている。彼と戦っているあの少女が本体だとルイスさんは言っていたな。さっきは動転していて同じにしか見えなかった少女達が、比べてみるとかなり違いがあったことに気づく。本体と呼ばれている方は、少女と見間違えてしまうくらい人間と変わらない姿なのに対して、さっき私達を襲おうとした分身の方は、動作も緩慢で顔立ちものっぺりしていて、より作り物めいていた。どちらも無表情なのは変わらなかったが。
「……レナードさんとルイスさん、お二人共強いですね」
「うん……」
桟橋を見つめながら、リズが呟いた。レナードさんに切り落とされたはずの少女の腕が治っている。体を液状化させた後、再び人の姿を形成した時に元に戻ったのだろう。少女は治った腕を剣のように変形させて、レナードさんに応戦しようとしているが、また切断されてしまうのも時間の問題な気がした。少女はレナードさんからの攻撃を受けるのが精一杯という感じだったからだ。
分身よりは身のこなしが軽快で、流石本体と言ったところではあるけれど、レナードさんに攻められっぱなしで、反撃することができていない。彼のしなやかで長い腕から繰り出される斬撃は、鋭く重い。剣がぶつかる度に少女はバランスを崩して倒れそうになり、立ち位置も桟橋の端へと追いやられていく。
包丁を握り締め、戦う決意表明をしたのはいいけど、私達がこれを振り回す機会は無さそうだ。それほどまでにレナードさんとルイスさんの強さが圧倒的だった。未知の生物に慌てることもなく、冷静に対応している。彼らはレオン直属の部隊兵……弱いはずが無かった。
大したことないとルイスさんが語ったように、彼らにとって少女の戦闘能力はさほど脅威ではないのだろう。私から見ても、少女達はふたりに対して全く歯が立っていないのが分かる。
しかし問題は、少女達は切られても時間が経つと復活してしまうことだ。本体の少女を討ち取れば、分身も消えると予想されてはいるけど。その本体をどうやって倒せばいいのだろうか。
その時、ドンという鈍い音と共に、窓ガラスが揺れた。至近距離にいた自分の顔にも、その振動が伝わってくる。
レナードさんが消えた……? いや違う、何かに視界を遮られた。驚き過ぎると声って出なくなるんだな。私の目を覆ったのは手の平だ。ガラス1枚隔てた向こう側から、私の顔面に平手をするかのように叩きつけられた手の平……もしガラスが割れていたら大惨事になっていただろう。
ガラスに両手をつき、へばり付いていたのは、さっきまでいなかった少女の分身だった。時間にしたらほんの僅かな間だったのだけど、桟橋の方に気を取られている隙に接近されていた。
「クレハ様!!」
リズが私の腕を掴み、無理やり窓際から引き離した。動悸がする……呼吸が苦しい。恐怖でまた体が動かなくなっていた。こんな有り様でよく戦うなんて言えたものだ。
「ありがとう、リズ。私ったら、戦わなきゃなんて偉そうに言ったクセに格好悪いね……」
「そんなことありません……クレハ様は、ここまでずっと私を気遣って助けて下さいました。一緒に頑張りましょう」
包丁の切っ先を少女の分身へ向けながら、リズは強張った体を支えてくれた。私も負けじと、さっき落としてしまった包丁を拾い上げ構える。分身は私とリズの威嚇など気にも留めず、窓を破ろうと腕を上げた。しかし、その腕が下ろされる事はなく、分身の体はどろどろと崩れていった。
分身が腕を上げる直前に、屋根の上から何かが落下してきたのだ。更に少女の分身が増えたのかと警戒したが、すぐにその正体が分かったので、私達は胸を撫で下ろす。
「危ないから、外から見えないようにもっと部屋の奥にいてね」
「ルイスさん……ありがとうございます」
屋根から降りて来たのはルイスさんだった。窓にへばり付いていた分身を、背後から一刀両断。あっという間に倒してくれた。
彼は普段より早口で私達に忠告すると、バルコニーにあるテーブルを足場にして、再び屋根の上に飛び乗った。ルイスさんは見晴らしの良い屋根の上を基点にして、小屋に近づいてくる分身達を順番に倒しているようだ。分身の数は数十体だっけ……いくらルイスさんが強くても、その数を相手にするのは大変だろう。分身は倒しても復活するのだ。ルイスさん達の足を引っ張ってはいけないな。
「クレハ様、ルイスさんの言う通りにしましょう」
「うん……」
ルイスさんの指示に従い、移動することにした。窓の少ない隣の調理室へ向かう。
バルコニーには少女の崩れた体の残骸が散らばっていた。これもしばらくしたら元に戻ってしまうんだな……。蠢くそれらを眺めていると、その中に奇妙な物が混ざっているのを発見した。白い紙切れのような……
「ねぇ、リズ。あれ何だろう」
「あっ! 駄目ですよ、近付いちゃ……」
少しだけだからとリズを説得して、もう一度窓際へ向かう。近くでよく見ると、やはり紙だった。5センチ角くらいの白い紙。そういえば、少女が紙の束を持っていた。その後すぐにレナードさんが少女へ切り掛かって……私とリズは釣り小屋へ向かって走ったから、紙をどうしたのかは見ていない。分身の体の中にあったのかな……あの時少女が持っていた紙と同じ物なのだろうか。
紙はぼんやりと光を放っていた。黄色のようなオレンジのような淡い光。まるで……
「この光、魔法みたいだ……」
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