163 / 302
162話 帰り道
しおりを挟む
お香と便箋を購入して、私とレナードさんはギルさんのお店を後にした。お香はたくさん種類があってどれにするかとても迷ったけれど、ギルさんのアドバイスを参考にしながら気に入った香りの物をいくつか選んだ。
その際にギルさんは、サービスだと言って小さな香炉をおまけしてくれた。香炉は王宮にもあるだろうけれど、自分専用という響きは特別感があって嬉しくなってしまう。使用時の注意などもしっかり教えて頂いたので、自室に戻ったら早速焚いてみよう。
「クレハ様の気に入る物があって良かったですね。あっ! でも、お香を焚かれる時は侍女を呼んで下さいね。ひとりで火を使うのは危ないですから」
「はーい」
レナードさんはあの後……ユリウスさんと一言二言会話を交わすと、ギルさんと一緒に私のお香選びに混ざった。ユリウスさんはというと、私がお香に集中している間にお店から姿を消していた。あんなにお昼寝したがっていたのに……
6日前から島に来ているとユリウスさんは言っていたが、彼も『とまり木』の隊員ならば王宮に私室が与えられているはずだ。けれど、ユリウスさんがそこを利用している気配は全く無かった。彼の姿を王宮内で見かけたことは一度たりともないのだ。
王宮はとても広い。ひょっとして私が気付かなかっただけだったりするのかな。でも、レナードさんもユリウスさんがいることに驚いていたのでそれは無さそう。
王宮でなくとも使用人用の宿舎に空いている部屋もありそうだし、そもそも島で寝泊まり自体をしていないのかもしれない。彼らは島に出入リ自由という特別待遇なのだから。
レオンの私兵である『とまり木』……6人目はユリウス・アーネットさんという男性で、なんとお医者様だった。こうなるとより一層気になってしまうのは最後のひとり。どんな方なのだろうか……
「もう殿下のお勉強の時間は終わっていますね。クレハ様が王宮にいらっしゃらないので、きっとイライラしてお待ちですよ。勉強を終えたら真っ先に貴女のお顔を見たかったでしょうからね」
「そうでしょうか? 離れていたのはほんの少しの間なのに……」
「それでもですよ。その新しいドレスも……着替える前に殿下に見せてあげて下さいね」
外出する直前に、レナードさんは侍女に言伝を頼んだと仰っていたし……王妃様も私達がお店へ出かけた事をご存知だ。所在がはっきりしているのだから、レオンにそこまで心配をさせる事はないと思うのだけど。
それはそうと、レナードさん……わざとらしいくらいユリウスさんの話題を出さないな。やっぱり私の前であまり事件のことを掘り返したくないのだろう。
「レナードさん……私、あなたに聞きたいことがあるのです。歩きながらでも良いので聞いて貰えますか?」
「……ええ、もちろん。何でしょうか」
歩きながらでも良いと言ったのに、レナードさんは足を止めた。目尻を下げた優しい顔で私を見つめている。彼の朱色の瞳を縁取る長い睫毛は、瞬きするたびに音が鳴りそうだった。綺麗な人だよな……改めてそれを意識してしまうと鼓動が早くなってしまう。しかし、今は彼に見惚れている時ではない。
「釣り堀の……管理人さんが亡くなった事件についてなんです」
事件の話を切り出した途端、レナードさんの表情が変化する。眉を僅かにひそめながら、彼は小さく息を吐いた。
「ユリウスのせいで思い出させてしまったのですね……」
「いいえ。ユリウスさんにお会いしたのとは関係ありません。私はずっと気になっていたのです。むしろ、ユリウスさんの話をもっと詳しく聞きたいくらいで……」
「クレハ様……お気持ちは分かりますが、管理人の死については現在も捜査をしている最中なのです。新たに判明した事実もあれば、推測の域を出ていない不確かな事柄もたくさんあります。よって、まだ貴女にお話しできるような段階ではないと……私は考えております」
真偽不明の情報で私を心配させたり、怖がらせたくはないのだとレナードさんは語った。
教えないと言われたわけではない……ただ、今はまだ無理だと。事件について質問されても答えるのは難しいと断られてしまった。
「どうしても駄目ですか? 教えて頂かないと、それはそれで想像を膨らませて不安な気持ちになってしまうのですが」
事実だと判明していることだけで良いので教えては貰えないかと、私は食い下がった。ユリウスさんは関係ないと言ったが、彼に会ったことで心の隅に追いやっていた知りたいという欲が抑えられなくなってしまったのだ。
「どちらにせよ、不安にさせるのは同じ……か。やれやれ……困りましたね。私はクレハ様にお願いをされたら何でも叶えて差し上げたくなる」
「それじゃ……」
「分かりました。事件について、現時点で判明していることをお話し致しましょう」
割とあっさりレナードさんが折れた。粘ってみるものだな。やはり彼は私に対して甘々だった。
「最終的にはクレハ様にも報告することになりますので……殿下の許可を頂いてからになりますが、よろしいですか?」
「はい! ありがとうございます、レナードさん」
王宮に帰ったら早速レオンに相談し、彼にも立ち会って貰うとのこと。ワガママを言ってごめんなさい。私を楽しませようと外に連れてきて下さったのだろうに……。レナードさん達の意に沿わぬ行動をしているであろうことに、心の中でひっそりと謝罪をした。
その際にギルさんは、サービスだと言って小さな香炉をおまけしてくれた。香炉は王宮にもあるだろうけれど、自分専用という響きは特別感があって嬉しくなってしまう。使用時の注意などもしっかり教えて頂いたので、自室に戻ったら早速焚いてみよう。
「クレハ様の気に入る物があって良かったですね。あっ! でも、お香を焚かれる時は侍女を呼んで下さいね。ひとりで火を使うのは危ないですから」
「はーい」
レナードさんはあの後……ユリウスさんと一言二言会話を交わすと、ギルさんと一緒に私のお香選びに混ざった。ユリウスさんはというと、私がお香に集中している間にお店から姿を消していた。あんなにお昼寝したがっていたのに……
6日前から島に来ているとユリウスさんは言っていたが、彼も『とまり木』の隊員ならば王宮に私室が与えられているはずだ。けれど、ユリウスさんがそこを利用している気配は全く無かった。彼の姿を王宮内で見かけたことは一度たりともないのだ。
王宮はとても広い。ひょっとして私が気付かなかっただけだったりするのかな。でも、レナードさんもユリウスさんがいることに驚いていたのでそれは無さそう。
王宮でなくとも使用人用の宿舎に空いている部屋もありそうだし、そもそも島で寝泊まり自体をしていないのかもしれない。彼らは島に出入リ自由という特別待遇なのだから。
レオンの私兵である『とまり木』……6人目はユリウス・アーネットさんという男性で、なんとお医者様だった。こうなるとより一層気になってしまうのは最後のひとり。どんな方なのだろうか……
「もう殿下のお勉強の時間は終わっていますね。クレハ様が王宮にいらっしゃらないので、きっとイライラしてお待ちですよ。勉強を終えたら真っ先に貴女のお顔を見たかったでしょうからね」
「そうでしょうか? 離れていたのはほんの少しの間なのに……」
「それでもですよ。その新しいドレスも……着替える前に殿下に見せてあげて下さいね」
外出する直前に、レナードさんは侍女に言伝を頼んだと仰っていたし……王妃様も私達がお店へ出かけた事をご存知だ。所在がはっきりしているのだから、レオンにそこまで心配をさせる事はないと思うのだけど。
それはそうと、レナードさん……わざとらしいくらいユリウスさんの話題を出さないな。やっぱり私の前であまり事件のことを掘り返したくないのだろう。
「レナードさん……私、あなたに聞きたいことがあるのです。歩きながらでも良いので聞いて貰えますか?」
「……ええ、もちろん。何でしょうか」
歩きながらでも良いと言ったのに、レナードさんは足を止めた。目尻を下げた優しい顔で私を見つめている。彼の朱色の瞳を縁取る長い睫毛は、瞬きするたびに音が鳴りそうだった。綺麗な人だよな……改めてそれを意識してしまうと鼓動が早くなってしまう。しかし、今は彼に見惚れている時ではない。
「釣り堀の……管理人さんが亡くなった事件についてなんです」
事件の話を切り出した途端、レナードさんの表情が変化する。眉を僅かにひそめながら、彼は小さく息を吐いた。
「ユリウスのせいで思い出させてしまったのですね……」
「いいえ。ユリウスさんにお会いしたのとは関係ありません。私はずっと気になっていたのです。むしろ、ユリウスさんの話をもっと詳しく聞きたいくらいで……」
「クレハ様……お気持ちは分かりますが、管理人の死については現在も捜査をしている最中なのです。新たに判明した事実もあれば、推測の域を出ていない不確かな事柄もたくさんあります。よって、まだ貴女にお話しできるような段階ではないと……私は考えております」
真偽不明の情報で私を心配させたり、怖がらせたくはないのだとレナードさんは語った。
教えないと言われたわけではない……ただ、今はまだ無理だと。事件について質問されても答えるのは難しいと断られてしまった。
「どうしても駄目ですか? 教えて頂かないと、それはそれで想像を膨らませて不安な気持ちになってしまうのですが」
事実だと判明していることだけで良いので教えては貰えないかと、私は食い下がった。ユリウスさんは関係ないと言ったが、彼に会ったことで心の隅に追いやっていた知りたいという欲が抑えられなくなってしまったのだ。
「どちらにせよ、不安にさせるのは同じ……か。やれやれ……困りましたね。私はクレハ様にお願いをされたら何でも叶えて差し上げたくなる」
「それじゃ……」
「分かりました。事件について、現時点で判明していることをお話し致しましょう」
割とあっさりレナードさんが折れた。粘ってみるものだな。やはり彼は私に対して甘々だった。
「最終的にはクレハ様にも報告することになりますので……殿下の許可を頂いてからになりますが、よろしいですか?」
「はい! ありがとうございます、レナードさん」
王宮に帰ったら早速レオンに相談し、彼にも立ち会って貰うとのこと。ワガママを言ってごめんなさい。私を楽しませようと外に連れてきて下さったのだろうに……。レナードさん達の意に沿わぬ行動をしているであろうことに、心の中でひっそりと謝罪をした。
0
あなたにおすすめの小説
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました
さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。
そんな事ある日、父が、
何も言わず、メイドして働いてこい、
と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。
そこで、やっと人として愛される事を知る。
ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。
そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。
やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。
その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。
前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。
また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m
第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m
元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~
季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」
建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。
しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった!
(激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!)
理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造!
隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。
辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。
さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。
「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」
冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!?
現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる!
爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる