リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

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202話 憂う

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 衝撃を受けている真っ最中のジェフェリーさんに追い討ちをかけるようですまないが、まだ話は終わっていない。もうひとりの調査対象であったニコラ・イーストン……彼女についても説明しておかなければならないだろう。中庭から戻って来てから今まで、ジェフェリーさんとリズさんには客室での待機を命じていた。よって、彼らはニコラ・イーストンが消息を絶ったことをまだ知らない。

「ジェフェリーさん。あなたの他にもうひとり、我々が調査を行なっていた人物がおります。それはあなたと同じジェムラート家の使用人で、名前はニコラ・イーストン。彼女はここ数日、体調不良を理由に自室で療養中だと聞かされていたのですが……」

 一旦言葉を区切り、ジェフェリーさんとリズさんの様子を伺う。瞳が不安そうに揺れていた。そんな彼らをみていると、話の続きをするのを躊躇してしまう。どのように伝えたところで内容は変わらない。無意味かもしれないけれど、出来るだけ落ち着いて聞いて貰えるように、先ほどよりも喋るスピードを遅くして声のトーンを低くした。

「ニコラ・イーストンの部屋は現在もぬけの殻になっています。そこにいるはずの彼女がいなくなってしまったからです」

「いなくなった……ニコラさんが? どうして……」

「私もミシェルから報告を受けたのはつい先刻で、詳しいことはまだ何も……」

 ニコラ・イーストンの事を知ったリズさんは、予想通りの反応を示す。ジェフェリーさんの方はリズさんと違って、ニコラ・イーストンの名前を聞いてもあまり驚いたような素振りはなく、ただ困惑しているといった風だ。もしかして――

「ジェフェリーさん、もしやあなたはニコラ・イーストンを知らないのですか?」

「俺は外の仕事ばっかりだから、お屋敷の侍女達全員の名前をまだ覚えていなくて。顔は分かると思いますが……すみません」

「きちんとした紹介は受けていませんものね。ジェフェリーさんが分からなくても仕方ないです」

 リズさんですら接点の薄い侍女達のことはよく分からないと言っていた。まして、ニコラ・イーストンはフィオナ様付きだ。クレハ様と仲の良いジェフェリーさんが、交流を深める機会があったとは到底思えないしな。

「あの、その侍女……ニコラさんも魔法使いかもとか、事件に関わってるかもしれないとか……そういった疑いをかけられているのですか?」

「はい。きっかけは些細なことでした。私の部下が公爵邸を訪問した際、彼女の行動に違和感を覚えたからです」

 俺たちはその違和感を深読みしていき、ニコラ・イーストンがクレハ様に危害を加えるかもしれないという考えに至ったのだ。けれど、リズさんという目撃者がいたジェフェリーさんとは違って、ニコラ・イーストンに疑いをかける根拠は薄かった。今回の調査が空振りに終わる可能性も充分にあった。こちらとしては何も無ければそれで良い。そう思っていたのに……
 期待を裏切るようにニコラ・イーストンは姿を消してしまった。それも俺たちが来るのが分かっていたかのようなタイミングで。

「違和感ですか……」

「まだ我々の予感が当たっているとは限りません。早ければ明日にでも、私がレオン殿下に要請した増援が公爵邸に到着するでしょう。違和感の正体……ニコラ・イーストンに何が起きたのか。それは今後の調査で明らかになるはずです」

 ルーイ先生が立てた仮説を正しいとした場合。釣り堀襲撃事件はクレハ様を狙ったもので、ニコラ・イーストンはそれに何らかの形で関与していた。公爵邸から姿を消したのは、罪が暴かれるのを恐れた為となる。
 先生が言うと妙に説得力があって困る。言葉が重いというのだろうか……さすが神様だ。実際先生の予想した通り、ニコラ・イーストンは行方をくらましていたのだしな。
 助言は非常に有難い。でも今の段階で決め付けてしまうのは早計だ。あらゆる可能性を考慮して行動しなければならない。それにもし、この仮説が立証されてしまったらクレハ様は……

「今日公爵邸で起きたことは、クレハ様にも伝わっているはずです。ジェフェリーさんの無実が明らかになり、お喜びになっているでしょうね」

「まさかこんな事になるとはちっとも思ってなくて……クレハお嬢様に心労を与えてしまい申し訳なかったです」

 カレン嬢の暴走に先生の怪我……更にニコラ・イーストンの失踪。胃が痛くなるような出来事の中で、ジェフェリーさんの疑惑が晴れたというのだけは救いだったな。

「リズさん、それにジェフェリーさん……」

「……はい」

「私が言うのもおかしな話ですが、クレハ様をどうかよろしくお願い致します。あの方が信頼するご友人として、これからも心の支えとなってあげて下さい」

 ニコラ・イーストンが本当にクレハ様の命を狙ったのだとしたら動機は……やはりフィオナ様の件での逆恨みだろうか。公爵は箝口令まで敷いていたというのに。身内から犯罪を企てる者が出てきてしまったのなら、いよいよ隠すことは不可能だ。我々が意図的に伝えなかったフィオナ様の現状。彼女が妹に向ける歪んだ感情を……クレハ様も知ることになってしまう。

「もちろんです。何度も言いますが、私が今この場にいるのはクレハ様のため。あの方のお役に立つのであれば何でも致します。ジェフェリーさんもそうですよね?」

「あっ、ああ……うん。当然だよ」

 フィオナ様のことをクレハ様が知ったらどうなってしまうのか。ニコラ・イーストンへの疑惑が持ち上がった時からずっと心の隅で考えていた。隠し通すことは無理だと理解しつつも、今までそれとなく誤魔化してきた。
 リズさんの言葉に勇気づけられはしたけれど、やはり俺は怖い。クレハ様が傷つく姿を想像するだけで堪らなく胸が苦しくなる。
 テーブルの上には3人分のティーカップが置かれている。カップの中身はリズさんとジェフェリーさんのために用意したカモミールティー。自分の物も用意したのは正解だった。俺は手前にあるカップを手に取る。カモミールの鎮静作用にあやかるため、ゆっくりと中身を口へ流し込んだ。
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