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228話 調査(1)
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「お嬢様がお作りになった押し花のカード……俺感動しちゃって。王宮のバラなんて貴重なのに本当に良かったのですか?」
「ちゃんと許可を取りましたから安心して下さい。喜んで貰えて私も嬉しいです。ジェフェリーさんには以前ブックマーカーも頂きましたし、私からも何かプレゼントがしたかったんです」
ジェフェリーさんが言うように温室のバラはとても厳しく管理されていて、基本持ち出し厳禁だ。でも、この規則には抜け道が存在する。ある一定の条件を満たせば規則が適用されなくなるのだ。
「禁止されてるのは生花の持ち出しだからね。押し花はギリセーフになったんだよ。姫さんのお願いだったから、ジェラール陛下も甘々判定だったみたいだけどね」
「こっ、国王陛下の許可が必要なんですね。やっぱり……俺には身に余る御品です」
ルイスさんが陛下の名前を出したため、ジェフェリーさんが恐縮し過ぎてぷるぷるしてる。このままではせっかくあげたプレゼントを突き返されてしまう。貴重な花を材料にしているのはその通りなのだけど、一生懸命作ったものを拒否されたら悲し過ぎる。ジェフェリーさんと久しぶりに花の話をしたかったけど、押し花に関してはこれ以上余計なことは言うべきではないな。
「カードはジェフェリーさんだけじゃなく、他の使用人にも贈っていますから、遠慮なく受け取って下さいね。それよりも、先ほどお願いしたお花のことなんですけど……」
「あっ! そうでした。食堂に飾る花をご所望でしたよね。急いで準備致します。花の種類や色の希望はありますか?」
「いいえ。ジェフェリーさんのお任せで……よろしくお願いします」
私たちが花を求めて訪ねてきたことを思い出したようで、ジェフェリーさんは慌てて作業に取り掛かった。これで料理に続いてお花もOKだ。
「お昼までに間に合いそうで良かったですね。クレハ様」
「うん」
ジェフェリーさんは手際良く花束を作っていく。その様子を眺めながらお父様……家族のことを考えた。今は決して良い雰囲気とはいえない状況だけど、悪いことのあとにはきっと良いことがある。俯かず前を向いて頑張っていこう。
「怪我の具合はどうですか? ルーイ先生。心配していたんですよ。大変でしたね」
「待ってたよ、レオン。報告した通り、怪我は大したことないから。数日安静にしてれば大丈夫って医者も言ってる」
「それは良かった。セドリックもご苦労だったな。先生の側には俺がついているから、少し休んでくるといい」
「ありがとうございます。私は平気ですのでお気遣いなく」
レオン様がルーイ先生の部屋を訪れた。そろそろいらっしゃる頃だろうと思っていたが予想通りだったな。
「……確かに、ここに来る前より良い顔をしている」
「レオンさぁ……お前の目は節穴かな。あれだけ色んなことがあったんだから疲労困憊に決まってるでしょ。俺がいくら寝ろって言ってもセディは聞く耳持たないんだから。お前の方からビシッと言ってやって」
「先生っ……私は大丈夫ですから」
レオン様の命令になら従うだろうと、先生は嫌味ったらしく告げた。仰る通りなので反論できない。
今の自分は不思議と体調が良い。疲れていないわけではないが休むほどでもないのだ。それに、レオン様は先生のお見舞いがてら捜査の進捗状況についても触れるだろう。ここで席を外しても、おふたりの会話内容が気になってしまい、落ち着いて眠ることなどできはしない。
「すみません。言い方が悪かったですね。そういう意味ではなくて……何というか、数日前よりもすっきりとした表情をしているなと。まるで憑き物でも落ちたような……公爵邸にいる間に、彼の心情を劇的に変化させる特別な出来事でもあったんでしょうかね」
上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んだ。レオン様は俺と先生の顔を交互に見つめる。意味あり気な視線の動きにますます動揺してしまう。俺と先生の間にあったことを察している。これは主が賢くて鋭いからなんて理由では片付けられない。やはり紫色の瞳には心を読む力があると思わざるを得ないな。
「先生はセドリックとずっと行動を共にしていましたよね。理由をご存知ではないのですか?」
「分かってる癖に白々しい。デリケートな問題なんだから、興味本位で首突っ込むんじゃないよ。俺らには俺らのペースがあるの」
「俺だってむやみやたら詮索したいわけじゃありません。臣下を思うがゆえですよ。以前俺が先生に言ったこと……覚えていらっしゃいますよね」
「当たり前だ。いい加減なことをするつもりは微塵も無い。だからほっといてくれよ。折を見てお前にはちゃんと説明するから」
「約束ですよ。先生」
「もうー、レオンはこんな話をしに来たんじゃないでしょ。俺たちのことはいいから。さっさと本題に入りなさいよ」
当事者であろう俺は置いてけぼりで、おふたりの中で話がまとまってしまったな。しかも先生の様子がいつもと違う。普段の彼であればレオン様に振られた話題に嬉々として乗っかり、言わなくても良いことを自分からペラペラ喋っていただろう。それがどうだ。話に乗るどころか、レオン様を窘めるような言動をしている。俺が本音を伝えたことで、先生の内面に何かしらの影響を与えることができたのかもしれない。
先生と俺の関係がどのようなものになろうと、レオン様には経緯も含めて報告をしなければならないだろう。お仕えする主とはいえ、10歳の子供に話すような内容でないのは承知の上だ。
からかいの気持ちも多少はあるかもしれないが、レオン様はずっと俺を気遣ってくれていた。先生からの求愛に悩み続けていた俺に助言をし、背中を押してくれたのだから。
「ちゃんと許可を取りましたから安心して下さい。喜んで貰えて私も嬉しいです。ジェフェリーさんには以前ブックマーカーも頂きましたし、私からも何かプレゼントがしたかったんです」
ジェフェリーさんが言うように温室のバラはとても厳しく管理されていて、基本持ち出し厳禁だ。でも、この規則には抜け道が存在する。ある一定の条件を満たせば規則が適用されなくなるのだ。
「禁止されてるのは生花の持ち出しだからね。押し花はギリセーフになったんだよ。姫さんのお願いだったから、ジェラール陛下も甘々判定だったみたいだけどね」
「こっ、国王陛下の許可が必要なんですね。やっぱり……俺には身に余る御品です」
ルイスさんが陛下の名前を出したため、ジェフェリーさんが恐縮し過ぎてぷるぷるしてる。このままではせっかくあげたプレゼントを突き返されてしまう。貴重な花を材料にしているのはその通りなのだけど、一生懸命作ったものを拒否されたら悲し過ぎる。ジェフェリーさんと久しぶりに花の話をしたかったけど、押し花に関してはこれ以上余計なことは言うべきではないな。
「カードはジェフェリーさんだけじゃなく、他の使用人にも贈っていますから、遠慮なく受け取って下さいね。それよりも、先ほどお願いしたお花のことなんですけど……」
「あっ! そうでした。食堂に飾る花をご所望でしたよね。急いで準備致します。花の種類や色の希望はありますか?」
「いいえ。ジェフェリーさんのお任せで……よろしくお願いします」
私たちが花を求めて訪ねてきたことを思い出したようで、ジェフェリーさんは慌てて作業に取り掛かった。これで料理に続いてお花もOKだ。
「お昼までに間に合いそうで良かったですね。クレハ様」
「うん」
ジェフェリーさんは手際良く花束を作っていく。その様子を眺めながらお父様……家族のことを考えた。今は決して良い雰囲気とはいえない状況だけど、悪いことのあとにはきっと良いことがある。俯かず前を向いて頑張っていこう。
「怪我の具合はどうですか? ルーイ先生。心配していたんですよ。大変でしたね」
「待ってたよ、レオン。報告した通り、怪我は大したことないから。数日安静にしてれば大丈夫って医者も言ってる」
「それは良かった。セドリックもご苦労だったな。先生の側には俺がついているから、少し休んでくるといい」
「ありがとうございます。私は平気ですのでお気遣いなく」
レオン様がルーイ先生の部屋を訪れた。そろそろいらっしゃる頃だろうと思っていたが予想通りだったな。
「……確かに、ここに来る前より良い顔をしている」
「レオンさぁ……お前の目は節穴かな。あれだけ色んなことがあったんだから疲労困憊に決まってるでしょ。俺がいくら寝ろって言ってもセディは聞く耳持たないんだから。お前の方からビシッと言ってやって」
「先生っ……私は大丈夫ですから」
レオン様の命令になら従うだろうと、先生は嫌味ったらしく告げた。仰る通りなので反論できない。
今の自分は不思議と体調が良い。疲れていないわけではないが休むほどでもないのだ。それに、レオン様は先生のお見舞いがてら捜査の進捗状況についても触れるだろう。ここで席を外しても、おふたりの会話内容が気になってしまい、落ち着いて眠ることなどできはしない。
「すみません。言い方が悪かったですね。そういう意味ではなくて……何というか、数日前よりもすっきりとした表情をしているなと。まるで憑き物でも落ちたような……公爵邸にいる間に、彼の心情を劇的に変化させる特別な出来事でもあったんでしょうかね」
上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んだ。レオン様は俺と先生の顔を交互に見つめる。意味あり気な視線の動きにますます動揺してしまう。俺と先生の間にあったことを察している。これは主が賢くて鋭いからなんて理由では片付けられない。やはり紫色の瞳には心を読む力があると思わざるを得ないな。
「先生はセドリックとずっと行動を共にしていましたよね。理由をご存知ではないのですか?」
「分かってる癖に白々しい。デリケートな問題なんだから、興味本位で首突っ込むんじゃないよ。俺らには俺らのペースがあるの」
「俺だってむやみやたら詮索したいわけじゃありません。臣下を思うがゆえですよ。以前俺が先生に言ったこと……覚えていらっしゃいますよね」
「当たり前だ。いい加減なことをするつもりは微塵も無い。だからほっといてくれよ。折を見てお前にはちゃんと説明するから」
「約束ですよ。先生」
「もうー、レオンはこんな話をしに来たんじゃないでしょ。俺たちのことはいいから。さっさと本題に入りなさいよ」
当事者であろう俺は置いてけぼりで、おふたりの中で話がまとまってしまったな。しかも先生の様子がいつもと違う。普段の彼であればレオン様に振られた話題に嬉々として乗っかり、言わなくても良いことを自分からペラペラ喋っていただろう。それがどうだ。話に乗るどころか、レオン様を窘めるような言動をしている。俺が本音を伝えたことで、先生の内面に何かしらの影響を与えることができたのかもしれない。
先生と俺の関係がどのようなものになろうと、レオン様には経緯も含めて報告をしなければならないだろう。お仕えする主とはいえ、10歳の子供に話すような内容でないのは承知の上だ。
からかいの気持ちも多少はあるかもしれないが、レオン様はずっと俺を気遣ってくれていた。先生からの求愛に悩み続けていた俺に助言をし、背中を押してくれたのだから。
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