ビューティフルオナニーライフ

高山奥地

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オナニーのためのオナニー

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※実際の団体、競技とは関係ありません。


 三メートル四方のマットの上でオナニーをし、技術点、実施点、芸術点を競う競技、名前をプレジャーという。自慰セルフプレジャーに由来している。

 この競技を見ながら、チェスターはいつも疑問に思っていた。どの選手も鍛え抜かれた身体、安全なオナニーのプレイスタイルばかり。健康的で、彼のような陰キャが入る余地はないように思える。

 『それらをぶち壊してやりたかった』と後に彼は語る。

 初めてプレジャーの舞台に降りた彼を、値踏みする視線。メガネでガリガリに痩せたトランクス一枚のオタクの最初のマイクパフォーマンス。

「オナニーは本来、僕みたいな奴の専売特許だと思ってる」

 失笑に近い笑いが起こる。チェスターは構わず続ける。

「人に見られず暗い部屋で、好みの裸考えながら、一人で孤独にやるものだ。セックスするためにやるものじゃない。僕はオナニーを、取り戻しに来た」

 プレジャーのマットは客席よりやや低い位置にある。上から見下ろされるのはプレジャーの技を客席から見やすくするためでもある。

 チェスターはトランクスを脱いだ。歓声が上げる。予想よりふた回りは大きな陰茎が彼の股にぶら下がっていた。

 マットへと降りる。仰向けになって足をピンと伸ばした。審査員が目を見張る中、陰茎を触り始める。

 審査員がざわめく。足をピンと伸ばしたオナニーはプレジャーでは推奨されない。他の体勢での射精が困難になるからである。

 アバラの浮いた腹がひくりひくりと動く。それが妙になまめかしく、不健康に青白い肌が、そういう作りの人形のようにも見える。

 チェスターは右利きだが今は左手を使っている。利き手を使うかどうかはプレジャーでは大切な意味を持つ。慣れた繊細な手つきをしたいなら普通は利き手を使う。チェスターは次第に乱暴に左手で陰茎を扱いていく。

 泣き出しそうな切実な顔つきである。上手くイケなくて苦しそうな、その苦悶の表情は扇情的にすら見える。そう、扇情的なのである。観客にはその姿はもうただの陰キャには見えない。

 大きな陰茎を持ちながら、それを発揮するような触れ合いもなく、燻った、倒錯性を抱えた、美しいいきもの。

 昂る熱をどうすることも出来ないかのようにチェスターは体勢を変える。床に陰茎を擦り付けるポーズ。床オナである。

 一部の審査員の悲鳴のような声が上がる。床オナは膣内射精障害を引き起こすためプレジャーの選手はやらないものである。

 上目遣いで客席を見ながら、チェスターは床オナをする。ずれ落ちそうなメガネ、その奥の潤んだ瞳。一際大きく仰け反って達して、チェスターの演技は終わった。

 審査員達の会議ではチェスターの扱いで持ちきりだった。

 大体の審査員はチェスターを実力のある選手だと評価した。その上で、あのプレイスタイルが評価出来るかという話である。

「彼はプレジャーの在り方を問うているな」
「ああいった技は危険技に指定するべきでは?」
「追々そうするにしても今はチェスターの演技について考えないと」
「今回は評価していいんじゃないか?」
「『今回は』、ね」

 議論の末、チェスターの成績は実施点、芸術点は満点、技術点は零点となった。技術点零点というのは点数になる技をチェスターがしなかったためである。それでも彼は四位に食い込んだ。

 チェスターの功績から、その後オナニーのためのオナニー派とセックスのためのオナニー派へプレジャーの選手が分かれていくこととなる。

 そして、多様なプレジャーのプレイスタイルが確立されるのである。
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