お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地

文字の大きさ
1 / 3

カミリヤ

しおりを挟む
カミリヤは今までわがままを言ったことがなかった。父に再三言われた言葉に囚われていたからだ。

「カミリヤ、お前にはとんでもない神聖力があるのだから、国のことを第一に考えなさい。自分のことには無欲でありなさい。お前は素晴らしい者で、お前は恵まれた者なのだから」

神聖力はその人の望みを叶えると言われている。カミリヤは都のオアシスが清い水をもたらすこと、たくさんの作物が作られること、交易が正しく行われ豊かになることを毎日祈っていた。

カミリヤは神殿で聖女として祈り続けること、そして王太子の妃になることが仕事だった。

神聖力が強い人には他の人の神聖力が見える。心臓を中心に球型に見えるものであり、強ければ強いほど大きな球となる。

この国の都ワーハは神聖力に包まれている。都は丸く半球型に神聖力によって囲われている。

大昔、大聖女と呼ばれた膨大な神聖力の持ち主の力が未だに都を守っているのだという。

カミリヤはその大聖女の子孫である。彼女自身は他の人の神聖力が見えるが他の人からは彼女の神聖力が見えない。

「カミリヤ様ねぇ、神聖力が全くないのによく聖女が勤まるわよね」
「大聖女の子孫だからって優遇されすぎ、王太子の妃にもなるんでしょ?」
「お飾りみたいなものなのにね、良いわね」

神殿ではよくそういった言葉がささやかれる。カミリヤは静かにその場を引き返すことが多い。

カミリヤはその人達を嫌ったことはない。彼女自身、自分の神聖力が全く見えないのだ。きっと何かの具合で他の人の神聖力が見えるだけでカミリヤには神聖力がないのだと彼女は思った。

今は亡き父はカミリヤのことをとんでもない神聖力を持つと言っていたが、父も大聖女の子孫としての自負からそう信じたかっただけなのだろう。

カミリヤは自身を信じていない。それでも聖女のお勤めとして、祈り続けていた。

時々兄が神殿に会いに来る。神官家系の生まれなのに学者の道を選んだ兄はよくカミリヤを励ましに来てくれた。

「カミリヤ、元気にしてるか」
「はい、お兄様」
「他の神官や聖女にいじめられてないか? カミリヤは優しいから俺は心配だよ」

神聖力について兄が話してきたことはない。ただ、兄はカミリヤを元気付けてくれる。

「私はただ祈るだけです」

カミリヤがそう言うと兄は困ったような顔をする。慰めるでもなくただただ困った顔なので、カミリヤは何故そんな顔をするか、不思議でならない。ただ、その顔は哀れんでいるようにも見えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』

とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】 アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。 聖域の発見と運命の出会い 絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。 魔王の渇望、そして求婚へ 最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

聖女は魔女の濡れ衣を被せられ、魔女裁判に掛けられる。が、しかし──

naturalsoft
ファンタジー
聖女シオンはヒーリング聖王国に遥か昔から仕えて、聖女を輩出しているセイント伯爵家の当代の聖女である。 昔から政治には関与せず、国の結界を張り、周辺地域へ祈りの巡礼を日々行っていた。 そんな中、聖女を擁護するはずの教会から魔女裁判を宣告されたのだった。 そこには教会が腐敗し、邪魔になった聖女を退けて、教会の用意した従順な女を聖女にさせようと画策したのがきっかけだった。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま

藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。 婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。 エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。

処理中です...