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兄
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王太子は好きな人を婚約者にした。周囲からは色々苦言を呈されたそうだが新しい婚約者を見ると皆、何も言えなくなるらしかった。
曰く、新しい婚約者の方が魅力的で、王太子が好きになるのもわかる、とのことだった。
カミリヤは王太子の後ろ楯がなくなり神殿に居づらい気持ちで生活をしていた。実際周りからの風当たりは強くなった。神官長だった父もおらず、大聖女の子孫ではあるものの神聖力のない聖女に居場所はなかった。代々、大聖女の子孫の家系の女は王太子と結婚すると決まっているから丁重に扱われていただけである。カミリヤ自身も神聖力のないまま神殿に居座ることは出来なかった。
兄に手紙で神殿を出ようと思う旨を書き送った。兄は都を離れ自分と共に旅に出ることを提案してくれた。
カミリヤは今の神官長に旅に出ることを伝えた。
「旅に出ようと思うんです」
「そうですか。いいんじゃないですか?」
神官長はそう言って少し嬉しそうな顔をした。カミリヤは大聖女の子孫だからそうそう神殿から追い出せなかったが、自分から出ていくのを止める必要もないと神官長は考えた。大聖女の子孫が幅を利かせる時代が終わったがカミリヤが目の上のたんこぶであることにはかわりない。
「すぐにでも、支度して、旅に出ますね」
カミリヤは神官長の気持ちがありありと分かったのでそう言って部屋へと下がった。
数日後、迎えに来た兄と都から出る。
「この間王太子の新しい婚約者を見たよ。あれは魅了の魔術を使っている魔力持ちだね。珍しいが王宮には魔力対策が出来る人がいないのかな」
兄にそう言われて、魅力的な新しい婚約者のことをカミリヤは考えてみた。魔力は神聖力には叶わないが王太子は神聖力は一般的な少なさだったので婚約者の魅了の魔術には気付かないままだろう。
砂漠の砂の原によって都が見えなくなった頃、兄がポツリと言った。
「みんなバカだな」
「え?」
「みんなカミリヤに守られていたのに、ないがしろにした。滅びたらいい」
兄の強い言葉がカミリヤの心の中にストンと収まった。
『滅びたらいい』
「カミリヤ、自由に生きよう。カミリヤは優しすぎた。もっと欲を出すべきだった」
兄は優しいとカミリヤは思う。
砂漠は熱い。カミリヤもそれなりの装備をしてきたけれど、喉が渇いた。
そう、喉が渇いたと思った。
ポツリと鼻の先に雨が当たる。
急に曇ったかと思うと大雨が砂漠に降り注いだ。
「喉が渇いた?」
兄がそう言う。カミリヤは頷いた。
「カミリヤ、君が呼んだ雨だ。ここは砂漠だからやっと君の神聖力が見える。これは君の力だ」
兄にそう言われてカミリヤは目を見張った。都一つ覆うほど遠くにカミリヤの神聖力の端が見えた。
その後、風の便りに元いた都ワーハはオアシスが枯れはて寂れていったと聞いた。
カミリヤは今も兄と旅を続けている。
曰く、新しい婚約者の方が魅力的で、王太子が好きになるのもわかる、とのことだった。
カミリヤは王太子の後ろ楯がなくなり神殿に居づらい気持ちで生活をしていた。実際周りからの風当たりは強くなった。神官長だった父もおらず、大聖女の子孫ではあるものの神聖力のない聖女に居場所はなかった。代々、大聖女の子孫の家系の女は王太子と結婚すると決まっているから丁重に扱われていただけである。カミリヤ自身も神聖力のないまま神殿に居座ることは出来なかった。
兄に手紙で神殿を出ようと思う旨を書き送った。兄は都を離れ自分と共に旅に出ることを提案してくれた。
カミリヤは今の神官長に旅に出ることを伝えた。
「旅に出ようと思うんです」
「そうですか。いいんじゃないですか?」
神官長はそう言って少し嬉しそうな顔をした。カミリヤは大聖女の子孫だからそうそう神殿から追い出せなかったが、自分から出ていくのを止める必要もないと神官長は考えた。大聖女の子孫が幅を利かせる時代が終わったがカミリヤが目の上のたんこぶであることにはかわりない。
「すぐにでも、支度して、旅に出ますね」
カミリヤは神官長の気持ちがありありと分かったのでそう言って部屋へと下がった。
数日後、迎えに来た兄と都から出る。
「この間王太子の新しい婚約者を見たよ。あれは魅了の魔術を使っている魔力持ちだね。珍しいが王宮には魔力対策が出来る人がいないのかな」
兄にそう言われて、魅力的な新しい婚約者のことをカミリヤは考えてみた。魔力は神聖力には叶わないが王太子は神聖力は一般的な少なさだったので婚約者の魅了の魔術には気付かないままだろう。
砂漠の砂の原によって都が見えなくなった頃、兄がポツリと言った。
「みんなバカだな」
「え?」
「みんなカミリヤに守られていたのに、ないがしろにした。滅びたらいい」
兄の強い言葉がカミリヤの心の中にストンと収まった。
『滅びたらいい』
「カミリヤ、自由に生きよう。カミリヤは優しすぎた。もっと欲を出すべきだった」
兄は優しいとカミリヤは思う。
砂漠は熱い。カミリヤもそれなりの装備をしてきたけれど、喉が渇いた。
そう、喉が渇いたと思った。
ポツリと鼻の先に雨が当たる。
急に曇ったかと思うと大雨が砂漠に降り注いだ。
「喉が渇いた?」
兄がそう言う。カミリヤは頷いた。
「カミリヤ、君が呼んだ雨だ。ここは砂漠だからやっと君の神聖力が見える。これは君の力だ」
兄にそう言われてカミリヤは目を見張った。都一つ覆うほど遠くにカミリヤの神聖力の端が見えた。
その後、風の便りに元いた都ワーハはオアシスが枯れはて寂れていったと聞いた。
カミリヤは今も兄と旅を続けている。
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