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高嶺の花
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「死にたい」
そう独りごちる彼女の左腕には、大量の包帯が巻かれていた。
誰もその包帯の下を見たことがないから、皆見えない傷を各々想像していた。
それでも、カテイノジジョウ、なんてものに踏み込むのは失礼だから、いつも皆彼女を遠巻きに眺めているだけだった。
それに、憂いの表情を浮かべる彼女はあまりに美しく、近寄り難かった。
かく言う僕も、彼女の美しさに焦がれながら、傍観を決め込んでいた1人だった。
だった、というのは僕が今、放課後の教室で、包帯を解いた彼女と対峙しているからだ。
否、対峙している、というのは驕りかもしれない。なにせ、彼女の存在は孤高なのだから。
とにかく、僕は偶然彼女の内に秘めた願望を聞き、ベールに隠されていたその腕を見た。傷一つない、白く滑らかな肌をしていた。
とんでもない秘密を見聞きしてしまった僕は、思わず硬直した。
一方で彼女は、一瞬僕の存在に気付いた素振りを見せたが、すぐに何でもないような顔で包帯を巻き直しているようだった。
しゅるしゅると、包帯が出す音だけが響く空間に、沈黙の時間が流れた。
窓からは金色の光が差し込んで、彼女の黒髪を照らしていた。僕は夢見心地だった。
沈黙を破ったのは彼女だった。
「…聞いた?」
僕は何と答えるべきか、そもそも答えても良いのか、迷ったけれど、彼女に嘘をつくのはあまりに失礼だと考え直し、正直に答えた。しかし、答え過ぎた。
「うん、ごめんなさい。でも、どうして死にたいと思っているの?」
しまった、踏み込み過ぎた、と思ったがもう遅かった。
しかしそれは杞憂だったのか、彼女は少し考えた後、
「怖いから」
と事もなげに答えた。
僕は、確かにこの世は恐ろしい、と思った。
そして、彼女が答えてくれたのが嬉しかった僕は調子に乗った。
「その包帯は、どうして巻いているの」
彼女はまた少し考えて、
「痛いから」
と答えた。
先程目見えた細い腕にそれらしい傷は無かったが、彼女が言うのだからそうなのだろう、と納得し、お大事に、と言った。
僕が彼女の神秘的な言葉を受け取っている間に、彼女はすっかり包帯を元通りに巻き直していた。
彼女は鞄を持ってゆっくりと立ち上がった。
「私、帰るね」
そう言う彼女の目には涙が浮かんで、差し込んだ夕日が反射していた。
僕はどきどきしてしまって、ああ、この情動を、人は恋慕と呼ぶのだ、と実感した。
そのまま振り返りもせずに教室を出て行く彼女の背中を見て、やはり調子に乗り過ぎた、と思った。
そうだ、なにせ彼女の存在は孤高。誰の手も届かない、高嶺の花なのだから。
そう独りごちる彼女の左腕には、大量の包帯が巻かれていた。
誰もその包帯の下を見たことがないから、皆見えない傷を各々想像していた。
それでも、カテイノジジョウ、なんてものに踏み込むのは失礼だから、いつも皆彼女を遠巻きに眺めているだけだった。
それに、憂いの表情を浮かべる彼女はあまりに美しく、近寄り難かった。
かく言う僕も、彼女の美しさに焦がれながら、傍観を決め込んでいた1人だった。
だった、というのは僕が今、放課後の教室で、包帯を解いた彼女と対峙しているからだ。
否、対峙している、というのは驕りかもしれない。なにせ、彼女の存在は孤高なのだから。
とにかく、僕は偶然彼女の内に秘めた願望を聞き、ベールに隠されていたその腕を見た。傷一つない、白く滑らかな肌をしていた。
とんでもない秘密を見聞きしてしまった僕は、思わず硬直した。
一方で彼女は、一瞬僕の存在に気付いた素振りを見せたが、すぐに何でもないような顔で包帯を巻き直しているようだった。
しゅるしゅると、包帯が出す音だけが響く空間に、沈黙の時間が流れた。
窓からは金色の光が差し込んで、彼女の黒髪を照らしていた。僕は夢見心地だった。
沈黙を破ったのは彼女だった。
「…聞いた?」
僕は何と答えるべきか、そもそも答えても良いのか、迷ったけれど、彼女に嘘をつくのはあまりに失礼だと考え直し、正直に答えた。しかし、答え過ぎた。
「うん、ごめんなさい。でも、どうして死にたいと思っているの?」
しまった、踏み込み過ぎた、と思ったがもう遅かった。
しかしそれは杞憂だったのか、彼女は少し考えた後、
「怖いから」
と事もなげに答えた。
僕は、確かにこの世は恐ろしい、と思った。
そして、彼女が答えてくれたのが嬉しかった僕は調子に乗った。
「その包帯は、どうして巻いているの」
彼女はまた少し考えて、
「痛いから」
と答えた。
先程目見えた細い腕にそれらしい傷は無かったが、彼女が言うのだからそうなのだろう、と納得し、お大事に、と言った。
僕が彼女の神秘的な言葉を受け取っている間に、彼女はすっかり包帯を元通りに巻き直していた。
彼女は鞄を持ってゆっくりと立ち上がった。
「私、帰るね」
そう言う彼女の目には涙が浮かんで、差し込んだ夕日が反射していた。
僕はどきどきしてしまって、ああ、この情動を、人は恋慕と呼ぶのだ、と実感した。
そのまま振り返りもせずに教室を出て行く彼女の背中を見て、やはり調子に乗り過ぎた、と思った。
そうだ、なにせ彼女の存在は孤高。誰の手も届かない、高嶺の花なのだから。
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