Gemini

あきら

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 好きだな、なんて。何度考えたかわからないことを、また考える。
 俺の体の下でぴくりと反応する体を撫でながら、強く首筋に吸い付いた。

「っ、あ、ちょっと、っ」
「なんだよ」
「そ、そこ、見える」
「見せとけ」

 もう、と恥ずかしがる姿にもっと跡をつけたくなって、ただあまりに増やすと本気で怒られそうなのでやめておく。
 ベッドについた俺の腕に、樹の指先が触れて、かり、と小さく引っ掻いた。
 はなし、と震える唇が言う。俺としては、もう全部脱がせて喘がせたいのだけれど。

「まだなんかあんの?」
「……ほんとに、大丈夫、なのかって」
「んな泣きそうな顔すんなよ」

 不安と困惑がない交ぜになった表情に、髪を撫でた。

「そんなに不安なら、一回ちゃんと会うか?」
「……ごめん」
「謝んなよ。俺は、お前が大事。だから、樹がちゃんと笑ってくれなきゃ嫌だ」

 おそらく無意識なのだろうが、すり、と何も履いてない足が俺の体に触れた。
 甘えるような、だけど素直にはなれないが故のそんな仕草に嬉しくなって、覆いかぶさるように抱きしめる。

「むしろ、俺だって不安ですけど」
「不安?圭人が?」
「お前の両親に、いつかちゃんと挨拶したいし。そんとき、認めてもらえるのか不安」

 びく、と抱きしめた体が跳ねた。
 俺の腕から逃れようともぞもぞ動くから、苦笑しながら体を離してやる。
 うう、と見上げてくる両目がかわいい。軽く目元に唇で触れて、脇腹の辺りに手を伸ばした。

「無理に紹介してもらおうと思ってねーよ。友達としてでもいいし、樹の気持ちがまとまったらでいい。だけど、いつか――俺はいつか、お前と家族になりたいと思ってるから」
「な、か、かぞ、く、って」
「もしかしたら、今のこんな気持ちが変わってしまうかもしれないけど。だけど、今の俺はそう思ってるってこと、覚えておいて」
「っ、そ、んな、の……」

 真っ赤になった顔が俯く。
 これ幸いと、心もとなげに残っていた服を手早く取り去った。ばさりと布団を背負ってそれごと覆いかぶさる。

「そ、んなの、おれ、だって……おなじ、だよ」

 俺の聞き間違いでなければ、確かにそう聞こえて。
 たまらなく愛しくなって、伸びあがるように口を塞いだ。

「ふぁ、あ」

 鼻にかかった声が抜ける。水音を立てて口腔を舐め回して、力のこもる指先をベッドの上へと縫いとめた。
 上半身を起こし、着ていたものを雑に脱ぐ。ベッドの脇から放り投げると、樹の視線がそれを追った。

「やっばい。自制効かないかも」
「なん、なんで」
「樹がかわいいこと言うから」
「言ってな、っ、あ、ふあっ」

 前触れもなく、胸の突起に触れる。びくっと驚くほどに跳ねて、震える手がシーツを掴んだ。
 口角が勝手に上がる。唇を近づけて、軽く吸い付いた。

「ん、っ」

 慣れた体が反応を返す。恥ずかしさを残した表情と、赤く染まった肌は嫌というほどに人の情欲を煽った。
 触って、と強請るように言ってみる。

「こ、こう……?」

 触れられることには慣れているくせに、触れることにはいつまでも慣れない指先が俺の中心に伸びた。
 下着の上から、戸惑いつつも動かしてくれる手。

「ん、気持ちいい」
「ほ、ほんと?」
「わかるだろ?」

 茶化すように言えば、小さな口が震えて。かたい、と空気だけでつぶやいた。
 直に触れて欲しくなって、下着を取り去る。
 まだ完全には勃ち上がってはいない樹自身に、俺のそれを擦り付けた。びく、と引きかけた腰を片手で捕まえて、逃がさないよう足を開かせる。

「こら、手」
「や、これ、やっ」
「だめ。こう、両方持って動かして?」

 ちゅう、と首筋や耳に吸い付きながら囁くと、若干のためらいはあるもののおずおずと手を動かし始めた。
 その樹の動きを補助するように、俺も手を添える。

「は、っあ、ん、うっ」
「上手……腰、揺れてる」
「あ、ぁっ、だ、だ、って」
「かわいいよ。一回イっとく?」

 俺の言葉に、ふる、と首を横に動かした。
 とろりとした両目が見上げてきて、寄せられた眉と上気した頬に体が熱くなる。

「ま、まえ……だけじゃ、や、やだ」
「っ、おま、えなあ」
「だ、だれの、せいだよっ」

 羞恥にか悔しさにか、その両方か。じわりと浮いた涙が零れそうで、目元に吸い付いた。
 擦り合っていたそこから手を離し、後ろに伸ばす。緩く撫で回せば、催促するようにひくついた。

「っ、あ、あっ」

 先走りで十分に濡れた指を、ゆっくり侵入させる。開いた足が震えて、だけど閉じられることはない。
 それが単純に嬉しくて、ぐちぐちと中を広げた。
 時折顔や体に唇で触れると、ぴくりと跳ねて。だけど俺を求めるように、腕を伸ばそうとしてくれることも嬉しい。

「っあ、ああっ!や、それ、それやだ、っ」

 中の一点を擦ればびくびくと反応して、声は甘くなる。やだ、と口にしながらも前はとろりと蜜を零し、胎内は俺の指をきゅうと締め付けた。

「やじゃないだろ?気持ちいいくせに」
「っ、や、やだ、やだ、って、とまっ、て」
「いいから」
「よくな、やぁああ、っ」
「っ、て」

 がり、と強く樹の爪が俺の手の甲を引っ掻く。
 思ったより痛くて、思わず声を出し眉をひそめた。当然、指の動きも止まる。

「ご、ごめ、でも」
「いいって。けど、どうした?大丈夫か?」
「ん……ご、ごめん……でも、その、いっしょ、がいい」

 まるで心細い子供のような声で言って、ふいっと目を逸らした。

「ずいぶん、甘えただな?」
「っ、や、やだ?」
「嫌なわけねーじゃん」

 笑って言えば、ほっとしたように息を吐く。ころころ変わる表情を見るたびに、かわいいだとか愛しいだとか、そんな感情が溢れ出してしまって。
 指を引き抜いて、足を持ち上るとゆっくり自身を沈めた。苦痛ではないかが心配で、流れる前髪をそっと撫でる。

「っ、も、っと」
「樹?」
「も、っと、おく、きて」

 首に両腕が絡んで、軽く引き寄せられて。
 甘えるように強請るように言うから、思わず息が漏れた。

「あ、っ、お、っきくな、った」
「当たり前だろ……煽るから」
「ふふ……ね、もう、きて」

 無意識なのか、煽っているのか。揺れる腰に誘われるように、開いた足を抱えて腰を打ち付ける。
 は、と短い息を吐いてすべてを受け入れてくれる体を捕まえれば、まるで期待でもしているかのように中が締め付けてきた。

「あ、あぁっ、あ、そ、それ、そこ、すき」

 頭の中まで融かされるような、甘く響く声。
 いつもは酔ってでもないと言わないような、素直な言葉がそれに乗ってくるせいで、正直あまり保ちそうにない。
 ゆさ、と腰を両手で揺さぶる。いいところを擦り上げて、追い詰めて。

「ぁあ、あっ、やぁ、け、いとっ、や」
「まだ嫌だ?」
「そ、じゃな、ぁああっ!だ、だめ、おれ、もうだめ、だから、ぎゅ、ってして」

 本当、反則だ。そんなかわいい『お願い』を、聞けない理由なんてあるわけもないのに。
 覚束ないまま伸ばされる、外れてしまった両手を捕まえて、指先を絡めた。それに応えるように、樹の指にも力がこもる。
 繋いだ両手をベッドに押し付けて、何度も奥を穿った。

「っあ、あぁああっ!あ、だめ、だめぇっ」
「ん、俺も、もう」

 ぼろ、と生理的な涙を落として。目の前に反らされた喉が見えるから、誘われるように強く吸い付くと樹の最奥で果てた。



 うっすら目を開ける。まだ部屋の中は薄暗くて、隣からは規則的な寝息が聞こえた。
 起こさないよう、ゆっくりと腕を引き抜く。わずかに口元が動いたけれど、それは再び静かに閉じた。
 極力音を立てずに足をソファから下し立ち上がる。テーブルに伏せて置いたままだった携帯電話を手に取って、その光がベッドの方へ向かないよう自らの体で遮った。
 未読だったメールを開いて確認すると、父親の名前がある。遠回しな祝福の言葉に苦笑して、散らばったままになっていた服を身に着けた。
 少し考え、どうせならとテーブルの上に書置きをしておく。それから、これまた静かに部屋の扉を開けて廊下に出た。

「さむ」

 小さな独り言が漏れる。高原というか、そこそこ標高が高い地域だからか。普段よりも気温が低く感じた。
 部屋を出てしまえば、そこまで音に気を使うこともない。階段を下りてリビングに行くと、キッチンの中で驚いた顔が俺を見た。

「うわびっくりした」
「こっちの台詞だっつの。どしたよ、楓」

 俺の隣で寝ていたそれと同じ顔が、違う表情で笑う。

「いや俺はただ単に目が覚めた。まだ早いし、なんかあったかいもんでも飲もうかと思って」
「智にぃは?」
「まだ寝てる。平気な顔してたけど、けっこう酔ってたっぽい」
「酒弱いお前らの分も飲んでたからな」
「誰のせいだよ。あんな状況作って人のこと引っ張り出しといて」

 怒ったような口調で言うけれど、それはただの振りだということぐらい俺にだってわかった。

「まったく、囲まれて大変だったんだからな」
「サンキュ。楓が協力してくれたから樹を引っ張り出せたわ」
「……まぁ、お前以外がやったら許さねぇけど。圭人が樹にすることが、樹にとって本当に悪いかって言われたら、んなことないと思ってるから……今は」
「今はかよ」

 当たり前だろ、と言う口調はその台詞と裏腹にずいぶん優しい。
 笑いながら、何やらキッチンの中を探す楓に首を傾げ近づいた。

「で、お前何探してんの?」
「紅茶。寝る前に樹が淹れてくれたやつ美味かった」
「ああ、それならこっちだろ」

 楓が探していたのとは反対側の棚を開け、目当てのものだろう茶葉を渡してやる。
 腑に落ちない表情でそれを受け取った楓が、伏せられていた薬缶を手に取って水を入れた。

「なんだよ?」
「……樹、ここにきたことあんの?」

 なんで、と問いかける。それに返ってきた答えは、どうやら樹が自然とここにあるものを使っていたからだそうだ。

「いや、ここには来てない」
「?じゃあ、なんで」
「うちの別荘、ほとんど同じ作りしてっから。違うとこには連れてったこともあるし、去年星見に行っただろ?」

 言いながら、マグカップも出してやった。どうせなら自分の分も、と楓の横でコーヒーの支度をすることにする。

「あそこもだいたい似たような作りしてたじゃん」
「……言われてみれば」
「あとキッチンの中とかは俺のマンションが寄せてんのもあるな。だいたいどこに何をしまってるかとか」
「あー……なるほど」

 そりゃ俺にはわかんねぇわ、と軽く肩をすくめたところで薬缶からお湯の沸いた音がした。
 楓が紅茶のポットにお湯を注ぎ終わるのを待って、薬缶を受け取る。静かにフィルターの上から回し淹れると、ふわりと香ばしい匂いがした。

「なぁ。今度、俺に美味いコーヒーの淹れ方教えてよ」
「智にぃに聞けばいいだろ」
「……ないしょにしたい」

 ぼそ、と。目を逸らして言うその耳が赤い。
 小さく笑うと、じろりとにらまれた。

「報酬だよ報酬。親父さんに上手いこと印象づけられただろうが」
「わかったわかった。今度マンションに樹と一緒に来いよ、教えてやるから」

 楓の言うことは正しかったので、宥めつつ了解の意を返す。
 それにしても、と作った不機嫌顔を横から眺めて思った。

「お見通し、ってわけか」
「まぁな。あんな芝居じみた茶番劇に乗ってやったんだ、感謝しろよ?」
「するする。美味いもんでも食いに行こうぜ奢るから、親父が」
「お前じゃねぇのかよ」

 そこは正直に言っておかないと。また樹に怒られるのは、勘弁願いたい。

 我ながら不思議なものだ。樹と出会うまでは、いや出会ってからも、親父の金や会社目当てに寄ってくるような奴らは願い下げだったというのに。
 あいつが笑ってくれるなら、喜んでくれるなら、その金も親父の力もなんでもかんでも利用してやろうという気になる。
 もっとも、それを有難く思うような相手じゃないから、というのもあるだろうけれども。

「……樹がさぁ。またなんか悩んでたよひとりで」
「楓?」
「俺にも何に言ってくんない。そういうの、最近増えた。お前のせいで」

 紅茶を空にしてから、最後は冗談めかして言うけれど、心配しているのは本気なんだろう。

「ほんっと、頑固で意地っ張りでネガティブで、そのくせ人に心配かけんのが嫌で全部自分の中で消化しようとしてできなくて限界超えるといきなり泣いたりする、困った兄貴なんだけどさ」

 かちゃ、と小さな音を立てて空になったマグカップが流しの中へと置かれた。
 気づけば、二人して立ったまま飲みながらの会話。俺に視線を向けず、リビングのソファーを見つめて続ける。

「圭人といると、本当に楽しそうなんだ。いつだって俺と比較されて、自分は駄目なほうなんだって、そうやって閉じこもって自分を守ってた樹がさ」
「うん」
「お前といると、普通の自分でいられるんだって。俺や智にぃといるときみたいに、息ができるんだって」

 楓の視線は動かない。まるでそのリビングに、幼いころの自分たちを映しているかのようだった。
 光栄だ、なんて言ったところで茶化していると思われるのが関の山だ。ありがとう、とだけ返して、俺も空になったマグカップを置く。
 次に言われることは想像がついた。

「あいつのこと、頼むよ」
「やだね」

 だから、用意していた否定を返す。驚いた目が俺を見て、何度か瞬いた。

「俺一人で世話焼けるわけねーだろ。楓がいて、智にぃがいて、それにお前らの両親がいて、樹があるんだ。俺はそこに追加されただけにすぎねーの」
「お、おま、それで、いいのかよ」
「そりゃこっちの台詞だ。くだらないこと言ってんなよ、あいつにお前を捨てさせんな。双子だろ」

 俺を睨むみたいな両目に、じわ、と涙が浮く。振り払おうとしたそれは見られたくないものだろうからと、今度は俺が視線を前に向けた。

「双子なら、樹がそれを望むかどうかなんて楓にだってわかりそうなもんじゃねーか」
「……だって」
「俺はさ、よくばりなんだよ。樹を構成してきたのがお前らなら、それを全部ひっくるめてあいつの側にいたい。だから、一生かけたって全員に認めてもらう」

 独り言のような俺の言葉に返事はなくて。
 それでもいいか、なんて思っていると、階段を下りてくる智にぃと樹の姿が見える。
 どっちもまだ眠たそうで、思わず笑いを零した俺の脇腹が軽く小突かれた。

「樹」
「んう、なに、楓」
「お前の彼氏かっこいいな?」
『……は?』

 何を言い出すんだと慌てて楓を見れば、さっきまでの態度はどこへやら。にやにやと楽しそうに笑うものだから、樹と智にぃが顔を見合わせる。
 戸惑う俺たちのことなど気にもとめず、俺の横をするりと通り抜けた楓は、腹減ったぁ、などと呑気なことをのたまった。

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