卵の創世記

星蝶

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EpisodeⅡ

2-12 少女、戦うか否か決断す

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《個体名:エクリプスが奇跡『救済者』を発現しました!》

「――は!?」

 突然上がったファーリの声に周囲の者たちがびっくりしているが、ファーリの方が驚きは凄まじい。

(あいつ、何してんだ?)

 それがファーリの偽りのない感想だった。
『奇跡』は『神技の卵』を孵さなければ手に入ることのできない力だ。

「――すまない。それで、森妖精はこれからどうしたい?」

 ファーリはコホンと咳払いをして眼下にいる森妖精にそう尋ねた。

「……できるのであれば、末席に加えせていただきたいです」

 皺がある森妖精の男性が代表として口にし、皆一応に頭を垂れた。

『どうすればいい?』

 少し、いやかなりの範囲で理解できていないファーリは念話にてジネヴラに対処の仕方を尋ねる。

『邪魔となれば殺せばいいです。豊穣の神から零れ落ち堕落した森妖精如きどうにもできます』
『……あー、うん、そうか。それで、どうしてこいつらはここに来たんだ? 森妖精は他種族を下に見ている種族なんだろう?』
『そうなんですか? 森妖精は森を絶やさないように生まれたと聞いていましたけど……ダラント、どういうこと?』
『恐らく、人間のプロパガンダかと思います。森妖精の見目とその寿命を得るために、それと森妖精が森を守る行為が人間には理解出来なかったかと』
『そうなのか。彼らをこの村で過ごすのはできそうか?』
『やれ、と命じれば誰も反対はしませんが?』
『まあ、そうなんだよな……』

 彼らは命令に逆らわない。「これをしろ」と言えば忠実に命令された通りのことを行う。これは魔物というものの習性。強者に長に守られ生きるものの定め。これが群れということ。

『で、心の内だとどうなる? ダラント』
『露骨な敵愾心は抱かないかと。ファーリ様の名において受け入れたことを周知させるのをお忘れなく。もし、それがない場合、不幸が起きるやもしれませんので』
『……そうなのか?』
『はい。子を残すことができる魔物はあまり子を産めません。それは魔物という種は不完全であるからです。ですが、それ以外は今も少なからずの神の加護下にいるため子が宿りやすく流産なども起こしにくいという特徴があります。そのため、子を産む母胎として扱う者共が現れます。ですが、ファーリ様の名で受け入れたということはファーリ様の物ということ。それに手を出そうとするものはここにはいません』
『……物、って……』
『言いたいことはわかるわよ? でもね、それが人と魔の差。彼らは魔に仇なす存在。我らを狩る存在』
『……ジネやダラントもそうなのか?』
『私は……あの胸を見せびらかしている奴は殺した方が良いと思う』
『ははは、そうですね。王は神に胸を所望し断られましたことがありましたな』
『――私があるんじゃないわよ?! あのクソニートが私に永遠に貧乳でいる呪いをかけたのよ!』
『……ダラント?』
『それは間違いありません。神が何か望みはないかと聞いた際、胸を大きくしたいと王が答えました。それに対しての答えがそれです』
『お、おう』
『もう、この話しはいいでしょ! それで、人間の軍が来るらしいけれど、それに対してどうするのよ!』

 それ以上の深堀をされるのが嫌になったジネヴラは話しを進めた。
 彼らは〖思考加速〗により思考のみが時間の流れが違う。それによって、森妖精たちを待たせていることはない。

『……それなんだよな……』
『彼らの目的は名目上、知恵ある魔物の討伐。その裏にあるのが――エクリーちゃんの捕獲』
『……それは間違いないんだな』
『ええ、町長の状態を治す最も簡単な方法はエクリーちゃんの心臓を使うこと。それ以外は時間的に無理じゃないかしら』
『逃げたとしても、追いかけてくるか?』
『魔境に入れば諦めてくれるかもしれないけれど、ここにいる者は適応できないから――死ぬわ』
『なら、撃退、か。でも、永遠と軍を送ってくるよな?』
『そうね……国政までは知らないけれど、大打撃を与えたとしてもいつか攻めてくるわ。町長が死去したとしても、魔物を目の敵にしているから』
『ダラントはどう思う?』
『姫様に相談された方がよろしいかと』
『は!? ……いや、すまん。それは辞めた方がいい。理由を聞かれると、な』
『そうよ! 何言ってるのよ!』
『申し訳ございません。ですが、何か一案を得られるやもと思いましたので』
『エクリーのことは今後の課題にする。で、どうするのが一番だと思う?』
『魔物撲滅の風潮が現れると流石にまずいわよ。天上の神々の信徒は頭が狂っているから』
『……』
『嘘じゃないわよ! あいつらの信徒に対する扱いを知れば誰だって言葉がそうなるわよ!』
『……ダラント』
『王の言う通りです。彼のは信徒を自身に都合のいいように洗脳を行います。昨日まで神を信じていなかった者が、あら不思議翌日になると狂信的に神を讃えるようになるのはよく知られていることです。そのため、八柱正教会を潰すために動いていたんですが……失敗したようですな』
『……そうか。それで、倒すがどの程度がいい?』

 その後も脳内会議は続いた。

「――我らは戦おうと思っているが、貴殿らはどう思っている?」

 戦うと決めた。逃げることも考えたがあまりにも現実的ではない。彼ら、森妖精が住んでいた村は人間によって乱獲されて潰れた。戦争に貢献した者に渡す品と森妖精がされるのはよくあることだ。

「はっ! 下等種族である人間を撲滅するその最初の一撃となれる栄誉を断る者はここにはおりません!!」

(……ん? 撲滅? 俺、そんなこと一言も言っていないんだけど……)

 こうして、対人間同盟の雛形が誕生したのだった。


◇◆◇


「OKにゃ! 人間なんてわんぱんにゃ!」
「シャロがやる気満々だし、シャロががんばるよ」

 シャドウボクシングをするシャロ=プスと胸の前に両手の握り拳を作るエクリー。
 何があったのかは聞かない。聞こうとも思えない。
 ただ、安全を得るには代償が付き物ということを今一度確認する。

(これが父性なのか……)

 そう思わずにはいられない。

 パパと言われるのは嫌ではあるが、娘という存在は彼の中で大きな変革を齎していた。

(あ、結局エクリーはどうするんだ?)
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