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『 世 界 Ⅱ 』
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アンバーは部屋を閉じ込めるのは止めた。部屋に居ては人が入れ替わりで絶えず他者といることになる。
変わり始めた世界をその目で見た。常人が日々減少していく今、それを喜ぶ者は数少ない。少しずつ人から化け物へと変わっていく己を恐怖する。
日々怯えながら人から乖離する人々、変化を遂げて新たな人生を歩み始める者、歪な己に恐怖し歩みを止める者……アンバーの躊躇いによって救えるはずだった者たちが
「君は……」
アンバーは目の前に立つ女性を見て歩みを止めた。
佇む朔天はアンバーを冷たく鋭い瞳に留め、今まで固く閉ざしていた口を開いた。
「痛いのも辛いのも悲しいのも――嫌。だけど、あなたを倒すためなら、痛いのも辛いのも悲しいのも受け入れる」
朔天は能力の数を増やす。ヒトから遠ざかろうとも構わない。己がしたいことを為す。それのどこが過ちだというのか。
朔天は思う。目の前のヒーローは人から逸脱した者は人とは呼ばれず『能力者』という言葉が確立する前、怪物と呼ばれていた。
「怪物を倒すのはいつだって怪物……」
怪物を殺すにはその身を怪物に堕とさなければならない。
「お前を殺すためなら、魂を悪魔に売ったっていい。お前の死があたしの喜び」
それは人同士の闘いではない。化け物と怪物の闘いだ。
何が正しく何が間違っているのか、わからない。
指針は残っている。その先に何が待ち受けているのか、その先の道は朔天にもわからない。だが、その指針に今向かわねば何もかもが失ってしまう。
そんな気がしてしまうため、どん底に落ちた今ではくすんでしまった光に尋ねた。
「月夜に独りで踊ったことがある?」
その問いにアンバーは応えれなかった。どういう真意が込められているのか、わからなかったため。
「私はね……あるよ。だって、ずっと独りボッチだったから……」
憐れむような同情する好ましくない表情を浮かべる。
「そんな顔をしないで笑顔になろうよ」
朔天は憐れんで欲しくも、同情して欲しくもない。対等に語り合える『天晶天空』という人物が欲しかっただけなのかもしれない。
「一生に一度しかない最期くらいなら笑顔で逝きたくない? まあ、どうせ火葬になるのだから死の顔を後世にそのまま残る訳もないか」
タラレバなど詰まらない。想いを馳せるのは楽しいかもしれないが、現実を受け止めそして行動を起こす方が楽しい。
朔天は脳裏を過ぎる記憶を振り払い怨敵アンバーを正面に捉える。
「アンバー。その能力は『供給』。体外からエネルギーを取り込み体内にてエネルギーを循環させる。それにより、エネルギーロスを最小限に抑え強大な力を得ることができる」
最強の名をほしいままにしたヒーロー。それは落ちた今も変わることがない。能力だけを見れば最強の部類に入る。
「確かに強力。けれど、それは充電係がいればの話」
しかし、それはチーム戦の場合。個人での戦闘能力はそこまで高くおらず、支援なしではそこそこの部類に入る。己のエネルギーだけでは火力がそこまで高くないため、打ち止めとなる。
それに加えて、意気消沈となっている今の彼は最早『敵』と呼ばない代物と成り果ててしまった。
「――ぅ」
何の抵抗もできずに腕が落ちた。痛みが体中を駆け巡るが、そこに憤りも恐怖も浮かばない。己がしたことに比べれば、このくらいの痛みは軽い。これからの先、もっと重く強い痛みを受けることとなる。
だから、アンバーは抵抗しなかった。
痛いのは嫌だし、地位も名誉も失った今、もう失う物はない。だから、このまま死ぬ方がどんなに楽だろうか。これから受ける痛みも怨念も何もかもから逃げ出す方がどんなに良いことなのか。
自殺するほどの勇気はない。力不足として罰は重くなく、自戒するほど自分には厳しくない。だから今もなお、あの時のことを後悔している。
復讐によって己を殺すのなら、それを受け止めて死ぬのは悪くない手なのかもしれない。
「どう? 『切断』の能力は」
エンフォーサーの能力を前にアンバーは目を見開く。彼女が口にしたことが正しければ彼女は他者の能力を手にすることができる。もしかすれば、既に己の能力を、そうではなければこれから取られてしまうかもしれない。
自分を殺してそれで終わればいいが、その後ヴィランとして活動するのなら彼女を止めることができる者はいるのか。限界がない、ということはないが無制限に能力を増やせるのなら彼女を止める手立てはない。
朔天は地面に落ちた腕を拾い上げ、口を大きく開いてその鋭く尖った八重歯を見せる。
「では、いただきます」
牙を突き立てて肉は喰らわずに血のみを吸う。少し汗の臭いや風味がするが、獲られる能力のことを考えれば我慢はできる。
ゆっくりと着実に、アンバーが見えるに啜る。
ぱぁ、と牙から腕を離し吸い取った腕を投げ捨てる。唇や口内は鮮血に染まり口の端から滴る赤い液体が朔天を魅惑的にさせる。
能力を獲得したことに頬が緩み恍惚の笑みを浮かべる。
「アンバー、抗ってみてよ」
朔天は獲得したばかりの『供給』を使い体内でエネルギーを循環させる。アンバーの劣化版でしかなくまだ体に馴染んでいないが、アンバーに見せつけるためにそれのみで襲い掛かる。
「ぐ――っ」
アンバーは咄嗟に殴られると同時に『供給』をその接触箇所に発動させ、身を護る。死ぬことが怖いために発動させたが、それは死を先延ばし痛みを増やしただけにしかならなかった。
変わり始めた世界をその目で見た。常人が日々減少していく今、それを喜ぶ者は数少ない。少しずつ人から化け物へと変わっていく己を恐怖する。
日々怯えながら人から乖離する人々、変化を遂げて新たな人生を歩み始める者、歪な己に恐怖し歩みを止める者……アンバーの躊躇いによって救えるはずだった者たちが
「君は……」
アンバーは目の前に立つ女性を見て歩みを止めた。
佇む朔天はアンバーを冷たく鋭い瞳に留め、今まで固く閉ざしていた口を開いた。
「痛いのも辛いのも悲しいのも――嫌。だけど、あなたを倒すためなら、痛いのも辛いのも悲しいのも受け入れる」
朔天は能力の数を増やす。ヒトから遠ざかろうとも構わない。己がしたいことを為す。それのどこが過ちだというのか。
朔天は思う。目の前のヒーローは人から逸脱した者は人とは呼ばれず『能力者』という言葉が確立する前、怪物と呼ばれていた。
「怪物を倒すのはいつだって怪物……」
怪物を殺すにはその身を怪物に堕とさなければならない。
「お前を殺すためなら、魂を悪魔に売ったっていい。お前の死があたしの喜び」
それは人同士の闘いではない。化け物と怪物の闘いだ。
何が正しく何が間違っているのか、わからない。
指針は残っている。その先に何が待ち受けているのか、その先の道は朔天にもわからない。だが、その指針に今向かわねば何もかもが失ってしまう。
そんな気がしてしまうため、どん底に落ちた今ではくすんでしまった光に尋ねた。
「月夜に独りで踊ったことがある?」
その問いにアンバーは応えれなかった。どういう真意が込められているのか、わからなかったため。
「私はね……あるよ。だって、ずっと独りボッチだったから……」
憐れむような同情する好ましくない表情を浮かべる。
「そんな顔をしないで笑顔になろうよ」
朔天は憐れんで欲しくも、同情して欲しくもない。対等に語り合える『天晶天空』という人物が欲しかっただけなのかもしれない。
「一生に一度しかない最期くらいなら笑顔で逝きたくない? まあ、どうせ火葬になるのだから死の顔を後世にそのまま残る訳もないか」
タラレバなど詰まらない。想いを馳せるのは楽しいかもしれないが、現実を受け止めそして行動を起こす方が楽しい。
朔天は脳裏を過ぎる記憶を振り払い怨敵アンバーを正面に捉える。
「アンバー。その能力は『供給』。体外からエネルギーを取り込み体内にてエネルギーを循環させる。それにより、エネルギーロスを最小限に抑え強大な力を得ることができる」
最強の名をほしいままにしたヒーロー。それは落ちた今も変わることがない。能力だけを見れば最強の部類に入る。
「確かに強力。けれど、それは充電係がいればの話」
しかし、それはチーム戦の場合。個人での戦闘能力はそこまで高くおらず、支援なしではそこそこの部類に入る。己のエネルギーだけでは火力がそこまで高くないため、打ち止めとなる。
それに加えて、意気消沈となっている今の彼は最早『敵』と呼ばない代物と成り果ててしまった。
「――ぅ」
何の抵抗もできずに腕が落ちた。痛みが体中を駆け巡るが、そこに憤りも恐怖も浮かばない。己がしたことに比べれば、このくらいの痛みは軽い。これからの先、もっと重く強い痛みを受けることとなる。
だから、アンバーは抵抗しなかった。
痛いのは嫌だし、地位も名誉も失った今、もう失う物はない。だから、このまま死ぬ方がどんなに楽だろうか。これから受ける痛みも怨念も何もかもから逃げ出す方がどんなに良いことなのか。
自殺するほどの勇気はない。力不足として罰は重くなく、自戒するほど自分には厳しくない。だから今もなお、あの時のことを後悔している。
復讐によって己を殺すのなら、それを受け止めて死ぬのは悪くない手なのかもしれない。
「どう? 『切断』の能力は」
エンフォーサーの能力を前にアンバーは目を見開く。彼女が口にしたことが正しければ彼女は他者の能力を手にすることができる。もしかすれば、既に己の能力を、そうではなければこれから取られてしまうかもしれない。
自分を殺してそれで終わればいいが、その後ヴィランとして活動するのなら彼女を止めることができる者はいるのか。限界がない、ということはないが無制限に能力を増やせるのなら彼女を止める手立てはない。
朔天は地面に落ちた腕を拾い上げ、口を大きく開いてその鋭く尖った八重歯を見せる。
「では、いただきます」
牙を突き立てて肉は喰らわずに血のみを吸う。少し汗の臭いや風味がするが、獲られる能力のことを考えれば我慢はできる。
ゆっくりと着実に、アンバーが見えるに啜る。
ぱぁ、と牙から腕を離し吸い取った腕を投げ捨てる。唇や口内は鮮血に染まり口の端から滴る赤い液体が朔天を魅惑的にさせる。
能力を獲得したことに頬が緩み恍惚の笑みを浮かべる。
「アンバー、抗ってみてよ」
朔天は獲得したばかりの『供給』を使い体内でエネルギーを循環させる。アンバーの劣化版でしかなくまだ体に馴染んでいないが、アンバーに見せつけるためにそれのみで襲い掛かる。
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