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親父の蔵
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今日、私たち三人兄妹は、遺産分割協議のために実家の蔵に集まっていた。遺産と言っても、十数年前に脳卒中で突然死した親父は晩年期に事業に失敗しており、地方都市の中心街に歴代構えていた小さな商店を売却してしまっていた。幼い頃に育った小さな住居兼商店の思い出の地は全国チェーンの居酒屋に建てえ替えられていたが、親父は実家の裏にある蔵だけは残したかったらしく、三十坪程の土地を分割してあった。今は先日亡くなった母親名義となっている。居酒屋の店主に断りを入れ、一メートルにも満たない軒下を通り私たちは目的地にたどりついた。そこは、中高層のビルに囲まれ、世界からぽっかりと切り離されたような場所だった。
最初に言葉を発したのは、妹の桂子だ。
「うわぁ、懐かしい。まだ、この蔵あったのね。小さい頃、悪さして親父にこの蔵に閉じ込められたのを思い出すわ」
そうだ、親父は説教をした際には、反省しろと私たちをこの蔵に閉じ込めたりもした。
「でも、まあ、財産がこのボロ蔵しか残っていないなんてね。蔵はともかく土地だけなら数百万円位にはなるんじゃない。三人で山分けね」
「いや、袋地だからな。建物の再建築もできない土地だし、まともな単価にはならないだろう。蔵の解体・撤去だって結構な額になるだろうから、正直、プラスの財産にはならないかもしれないな」
突っ込んだのは東京で弁護士をしている末の弟だ。小さな事務所勤務だから、そんな高給取りではないと本人は言っているが、地方の小中堅商社勤務の私や高校で教師をしている妹よりはもらっているだろう。
「あら、プロが言うなら、間違いなさそうね。じゃあ私はプラスが出ないなら相続放棄ってことで。しかし、父さんも母さんも晩年まで元気だったけれど、亡くなる時はあっさりしたものだったわね。亡くなる前に財産分与くらい決めておいて欲しかったのに」
桂子のストレートすぎる言い方は昔から癇に障る部分もある。こんなので、本当に教師が勤まっているのだろうか。
蔵の中に入るとかび臭さと埃っぽさを除くと、幼い頃の思い出のままだった。
「中もそのままね。あぁ覚えてる?私が閉じ込められたとき、頭にきてこの小窓のところで新聞紙燃やして「火事だ、火事だ」って騒いでさ、余計怒られたことあったな」
そうだった、桂子のろくでもない性格はその頃からだったかもしれない。
そんな話を無視して弟の薫が話しかけてきた。
「兄さん、どうする。あまり金目のものはなさそうだ。まあ、掛け軸とかいくつか骨董品らしきものもあるから、鑑定に出しておこうか?先々のことも考えると、ここも綺麗に取り払って、更地にした方が良いと思う。なんなら、手続きもこっちでやるよ」
「ああ。それはありがたい。でも東京からだと大変だろ。こっちで動く必要があれば、連絡してくれれば対応するから」
そう言いながら、私は蔵の片隅に三尺ほどの高さのある耐火金庫を見つけていた。
「それよりさ、こんな金庫あったっけ?」
私たちの会話を遠くから興味なさそうに聞いていた桂子が、金庫の話に食いついてきた。
「えぇ、なになに、金庫?あぁ、ここね、なんかリンゴ箱とか積んであって、怪しいと思ってたのよね」
私たちは、金庫のレバーを開いてみた。施錠はされておらず、力は要ったが思いの他簡単にそれは空いた。昔の帳簿などがほとんどで、現金も出てきたが旧札で全部でも数万円程度のものだった。ただ、そこから小さな桐箱に入った茶器が三つ出てきた。
それだけだった。弟がこれも含めて鑑定に出しておくからということでこの日は解散した。
二週間程経って、私たちは再び、この場所に集まっていた。弟からの報告では、金目のものは、掛け軸が三福対で数万円だが、茶器は一碗数十万円する名品だそうだ。土地は買い手がつかない見通しで、蔵は建物は持つが、物置き程度しか利用価値はなく、解体・撤去には三百万円程かかるとのことだ。
「じゃあ私は、茶碗だけもらって相続放棄ってことで」
「それは出来ない。解体費も出してもらう」
桂子と薫の意見も分かれ、結局、長兄である私の意見を優先されることとなった。
「では、全員で相続する。金品・動産は三人で分け、不動産は私が全て相続し、管理する。茶器は、それぞれ大切に家宝とすること」
「ああ、そう。じゃあ、年に一回でも集まって、ここでお茶会でもする?」
皆、家族で過ごした日々を思い出している様子だった。
最初に言葉を発したのは、妹の桂子だ。
「うわぁ、懐かしい。まだ、この蔵あったのね。小さい頃、悪さして親父にこの蔵に閉じ込められたのを思い出すわ」
そうだ、親父は説教をした際には、反省しろと私たちをこの蔵に閉じ込めたりもした。
「でも、まあ、財産がこのボロ蔵しか残っていないなんてね。蔵はともかく土地だけなら数百万円位にはなるんじゃない。三人で山分けね」
「いや、袋地だからな。建物の再建築もできない土地だし、まともな単価にはならないだろう。蔵の解体・撤去だって結構な額になるだろうから、正直、プラスの財産にはならないかもしれないな」
突っ込んだのは東京で弁護士をしている末の弟だ。小さな事務所勤務だから、そんな高給取りではないと本人は言っているが、地方の小中堅商社勤務の私や高校で教師をしている妹よりはもらっているだろう。
「あら、プロが言うなら、間違いなさそうね。じゃあ私はプラスが出ないなら相続放棄ってことで。しかし、父さんも母さんも晩年まで元気だったけれど、亡くなる時はあっさりしたものだったわね。亡くなる前に財産分与くらい決めておいて欲しかったのに」
桂子のストレートすぎる言い方は昔から癇に障る部分もある。こんなので、本当に教師が勤まっているのだろうか。
蔵の中に入るとかび臭さと埃っぽさを除くと、幼い頃の思い出のままだった。
「中もそのままね。あぁ覚えてる?私が閉じ込められたとき、頭にきてこの小窓のところで新聞紙燃やして「火事だ、火事だ」って騒いでさ、余計怒られたことあったな」
そうだった、桂子のろくでもない性格はその頃からだったかもしれない。
そんな話を無視して弟の薫が話しかけてきた。
「兄さん、どうする。あまり金目のものはなさそうだ。まあ、掛け軸とかいくつか骨董品らしきものもあるから、鑑定に出しておこうか?先々のことも考えると、ここも綺麗に取り払って、更地にした方が良いと思う。なんなら、手続きもこっちでやるよ」
「ああ。それはありがたい。でも東京からだと大変だろ。こっちで動く必要があれば、連絡してくれれば対応するから」
そう言いながら、私は蔵の片隅に三尺ほどの高さのある耐火金庫を見つけていた。
「それよりさ、こんな金庫あったっけ?」
私たちの会話を遠くから興味なさそうに聞いていた桂子が、金庫の話に食いついてきた。
「えぇ、なになに、金庫?あぁ、ここね、なんかリンゴ箱とか積んであって、怪しいと思ってたのよね」
私たちは、金庫のレバーを開いてみた。施錠はされておらず、力は要ったが思いの他簡単にそれは空いた。昔の帳簿などがほとんどで、現金も出てきたが旧札で全部でも数万円程度のものだった。ただ、そこから小さな桐箱に入った茶器が三つ出てきた。
それだけだった。弟がこれも含めて鑑定に出しておくからということでこの日は解散した。
二週間程経って、私たちは再び、この場所に集まっていた。弟からの報告では、金目のものは、掛け軸が三福対で数万円だが、茶器は一碗数十万円する名品だそうだ。土地は買い手がつかない見通しで、蔵は建物は持つが、物置き程度しか利用価値はなく、解体・撤去には三百万円程かかるとのことだ。
「じゃあ私は、茶碗だけもらって相続放棄ってことで」
「それは出来ない。解体費も出してもらう」
桂子と薫の意見も分かれ、結局、長兄である私の意見を優先されることとなった。
「では、全員で相続する。金品・動産は三人で分け、不動産は私が全て相続し、管理する。茶器は、それぞれ大切に家宝とすること」
「ああ、そう。じゃあ、年に一回でも集まって、ここでお茶会でもする?」
皆、家族で過ごした日々を思い出している様子だった。
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