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第1章 始まりとアース王国

9.気合いと洞窟

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 置いてから数分後、洞窟の入口近くが騒がしくなり大量のゴブリン共が出てきた。俺は初めてゴブリンを見たのだが全身が緑で棍棒のような物を手に持ち醜悪な見た目をしていた。

 ゴブリンの集団はこちらに気づくとニタァと気味悪く笑い仲間同士で”ガガガ、ガギアァ”と話したかと思えば一斉に襲いかかってきた。

「ユリア今で悪いんだが、俺は蜂討伐で使ったギフトは使わず、普通の剣だけで戦うから」
「はぁ!?何で今言うのよ。やっぱり貴方って信じらんない!」

 ユリアにそれだけ伝えて異空間ボックスからアース王国に来る前に買っておいた普通の剣を取り出して目の前に迫るゴブリン共に集中した。
 ユリアはまだ何か喚いていたが目の前に迫ってきたのもあってか先ずは敵を倒すことを第1に決めたようだ。

 普通の剣でも女神の祝福のおかげかすんなり敵を1人2人と素早く倒していくことが出来た。危なくなると体が勝手に攻撃が当たらないように避けるので凄い助かっている。
 卑怯?チート?そんなものなんとでも言えばいい。俺は痛いのは嫌だしなるべく怪我も負いたくはないからな…



 大分時間が経ったはずなのに敵を倒しても倒しても全然減った気がせず、気がすり減るような戦いである。それは他の冒険者も同じようで最初に比べて明らかに動きが鈍く動作が遅くなっている。

「お前ら気合い入れろ!!これくらいで簡単にへばってんじゃねぇよ!情けねぇぞ冒険者ども」
「おっしゃー!!ギルマスに負けてられるか!」
「皆やってやろうぜー!男を見せる時だ!!」
「うっさいわね、あのおっさんも周りも!私はいつも通りよ!」

 ギルマスのグレイの喝により冒険者たちの士気が格段と上がって”おーーー!!”と気合いが溢れかえっていた。ユリアはメンタルが強いのかいつも通りで何の変化も見られず、逆に周りの気合いの入りようを鬱陶しがっていた。


 何とか無限のように感じた洞窟の外に出てきた大勢のゴブリン共を倒し切る頃にはもう日が暮れる間際であった。結構な負傷者がいるそうで衛生チームの野営テントには人が押し寄せていた。

 回復系のヒールが使えるはずのユリアは負傷者の手当ての手助けをするつもりは無いのか、ヒールを使えることを黙っているので俺も空気を読んで言わなかった。
 ただまぁ、ユリアが手伝わなくとも幸い重傷者はいないようなので大丈夫だろう。


 一応ギルド側が用意した食料を冒険者1人ずつに配ってはくれたのだが、保存食なのだろうそれはパンでもカッチカッチに硬く食べるのが一苦労そうだった。後ジャーキーのような物もである。
 俺は”自分の食料があるので大丈夫”と断りそれを受け取るのは遠慮した。

 野営テントは男女でそれぞれ別れていたのでユリアがどうしたかは分からないが恐らくお得意の勘の力で事前に察知して自分で用意した物を食べたのではないだろうか…。あくまで俺の推察だけどな…。



 俺はトイレに行く振りをしてさり気なく野営テントを離れて人目のつかない場所に来た。フォンと夜ご飯を食べるためだ。異空間ボックスから昨日屋台で買った温かい食べ物を出した。

「フォンお腹空いただろ?一緒に食べよう」
「はいリオ様!お腹空いたので人が来る前に早く食べましょう」

 フォンは素早くストール姿から狐の姿になり食べ始めた。自分も食事しながらフォンの食べている姿を見ているだけでホッコリした気持ちになり落ち着いて癒される。あー毛皮がフサフサで癒しの効果もある従魔ってほんと最高だな…
 俺はあのゴブリンとの戦いで失った英気を食事とフォンによって養った。



 作戦2日目今日も昨日と同じように各グループを配置してからゴブリン共がまだ洞窟の奥にいるかの確認のため魔物寄せゴブリン用の香りを入口に焚いた。

 昨日と違い、数分間待ってもゴブリンは1人も洞窟の外に現れなかった。そこでギルマスのグレイは突撃部隊以外のグループを1回解体し、冒険者の中から突撃部隊と共に洞窟に同行する組と、洞窟の外で待機して外に出てきた敵を倒す組とに別れることが決まった。


 俺は待機組を希望したのだがユリアに同行組を希望する側に腕を掴まれ強引に連れて行かれた。毎回思うが俺の主張が聞き叶えられた試しがない…

 昨日のゴブリンとの戦いで多くの冒険者の気力がまだ回復していないのか待機組を希望する人達がたくさんいた。

「同行を希望する奴ら!!ここからは何が起こっても不思議じゃねぇー気ィ引き締めやがれ!」
「ったく、あのおっさんいちいち声がデカいのよ!そんな大っきい声で言わなくても聞こえる近さなのに!」
「まぁまぁユリア。言ってることは正しいし大事なことだから…この依頼中は我慢してやれよな」

 俺と同じぐらいユリアはグレイとも相性が悪いようだ。先頭はグレイと突撃部隊に編成された人達がなりその後ろを俺たち同行組が進んだ。

 洞窟の中は暗かったが誰かのギフトのおかげで明るくなり前を進む先と足下を照らしてくれているので助かっている。
 そのまま魔物も出ることなく順調に進んでいけばどうやらこの洞窟の1番奥の開けた場所に到着したようだ。

 その奥のねぐらでは信じられないほどの大蛇がとぐろを巻いて眠っていた。この場に来た全員がその大蛇に禍々しい気配を感じ息を飲んで静止していた。

「あの禍々しさは…まさか狂気なのか?」

 その場の静寂を破ったのはギルマスのグレイからポツリと出た言葉だった。

「おいグレイさん!その狂気ってのは何なんだ?」
「俺も知らねぇぜ、グレイさん。俺たちにも教えてくれ!」
「……」

 周りの冒険者も知らないらしくギルマスにそれが何なのかと静かに詰め寄っていた。グレイは考え込んでいるのか暫く無言だった。
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