腐女子が源氏物語的な世界に転生したので光源氏を受けにしてみた。

kanade

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1 詩歌との出会い

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私の栄養分、それは推しカプである。推しカプは至高の存在。推しカプさえあれば私は生きていける!っていうか、推しカプ見ながら死ねたらそれで満足。
それが私のポリシーだったけれど、まさかそれで死ぬとは思わなかった。
私の直接の死因は、交通事故だ。
推しカプが歩いてるのに見惚れてたら迫ってくるトラックに気づかないで轢かれて死んだ、らしいけど、体の感触がある。お香?の芳しい薫りが鼻孔を通り抜けた。
絹のような手触りのやたらと上質な布団からゆっくりと身を起こすととびきりの美少女が青白い顔に似合わない大声を上げた。
少女は重そうな十二単を身に纏っていて、その姿とお香の薫りととを合わせて、私はここが現代日本ではないことを認識した。
みやび様!」
詩歌しいか?」
私の口が勝手に動く。詩歌、と呼ばれた少女は大きな瞳からびたびた涙を溢れ出させて整った顔を歪めた。
詩歌、というのは日本人の名前であってもおかしくない響きだ。……ということは、ここは平安時代?
詩歌はしゃくり上げながら私にしがみついたが、口調はひどいくらいの棒読みだ。
「雅様ぁ……何で急に倒れちゃうんですか。心配しました。」
ただ、いくら適当な感じが滲み出ていても、可愛い女の子に泣かれるのは嫌。
私はBlを愛する女でもあるけれど、同時に可愛い女の子至上主義でもあるのだ。Bl本と女の子が同時に溺れていたら、間違いなく女の子を助ける。
私は本能的に手を上げて詩歌の柔らかい髪を撫でるが、詩歌と同じように十二単を身に着けているせいで腕を上げるのにも一苦労だった。やれやれ。
っていうか、仮にも病人にこんな重いもの着せるんじゃない!
「心配かけてごめんなさいね、詩歌。」
詩歌が驚いたように目を見開いて固まる。嘘泣きの表情は上手かったのに、これで台無しだ。詩歌?と呼ぶと、彼女は明らさまに私から飛び退いた。
「あなた、誰ですか?」
「え?」
……速攻でばれた。いや、前世はど庶民だったけど!でも一時期平安文化嫌い過ぎて対抗心燃やして調べまくってたことあったし。姫様として明らかに怪しい振る舞いをしたつもりはない。
なのに、何で……
「うちの雅様は、高慢ちき……いえ、自信に満ち溢れた女性です。私などに謝ることなど決してしないはずです。姿形は確かに雅様ですが、あなたは違います。そうでしょう?」
どうやら、詩歌は少しばかり口が悪いようだった。私は笑いを堪えて肩をすくめてみせる。
「御名答。確かに私はあなたの雅様ではないわ。それは確かね。けれど、自分がどこの誰かは分からない……」
「何か、自分について覚えていることはないんですか?」
「あることはあるけれど……言っても伝わらないと思うわ。」
「伝わるまで説明していただきますから、大丈夫です。ご安心ください、姫様。」
「私はあなたの姫君ではないわ。その呼び方は本物の彼女に失礼だと思うから、やめてちょうだい。」
「私は、一度も雅様を姫様とお呼びしたことはありません。あの方は、藤原家に相応しい姫君とはとても言えなかったので。」
「あら、私はふさわしいと認めてもらえたのね。光栄だわ。」
主に対して容赦なく追い詰めてくる詩歌とのやり取りは緊張感が漂うが、推しカプの左右について語り合っているときと同じ感覚で結構楽しかった。
あ!推しカプについて持ちかければ詩歌が面白い情報教えてくれるかも。
いいアイディア!
私は鋭い言葉の応酬を続けつつ、タイミングを見計らって、あ!と声を上げる。
「どうかなさいましたか、姫様?」
「いえ……少し思い出したことがあるの。私の趣味についてよ。」
「何なりとお話ください。この詩歌が必ず理解し、姫様のお話相手になります。」
雅が優雅に四ツ指をついて礼をする。
反射的にそれにならおうとして、主が礼をするのはかえって常識知らずに映ることに気づいて髪を払うふりをして誤魔化した。本当はそれだってあんまりお行儀良くないんだろうけど、礼しちゃうよりは全然マシかなって。
「あまり、外聞がよろしいとは言えない趣味なのだけれど。それでもいいかしら?」
「雅様のご趣味は呪いの人形づくりでした。慣れているので、何の問題もないですよ。」
「あら。確かに、それに比べたらどんな話もほんの些細なことに感じられるわね。」
さっき、詩歌は『雅様』は藤原家の息女として相応しくないと言った。私の知っている藤原家とここが同一のものなら、確かに趣味が『呪いの人形制作』とは困ったものだ。権力者の娘が呪いにハマっていたら、彼がその地位につけたのはすべて呪いのおかげだ、なんて取り沙汰されるだろう。詩歌にお話ください、と迫られて私は渋々頷いた。
ある程度は一人でも上手くやれるだろうけど、全てを完璧にこなすのは私の一人じゃ無理だ。詩歌の助けは絶対に必要になる。詩歌の信頼を勝ち得るためにも隠し事はできなかった。
Blを曝け出すことが信頼に繋がるのかって?それは前世の私の経験が役に立つ。自分の名前や生い立ちは何一つ思い出せないけれど、顔のぼんやりとした友人たちにひたすらプレゼンして布教しまくった記憶はしっかりある。詩歌を絶対に同族に引き込んでやる!
しかし、私の気合は全く必要なかった。
何故か?
その答えは簡単だ。

『詩歌も、既に腐っていたから。』

平安時代と思しきここに既に腐女子が存在していたことは驚きでもあったが、同時にとても嬉しかった。、
「私の趣味は、男子同士の絡みを愛でることよ。男色のように見える男子を観察してほくそ笑むのが好きだったのよ。ね、趣味が悪いでしょう?」
「そんなことありません!とは言い切れないですが、少なくとも私にとっては絶対にそんなことありません!私も、同じですから。あぁ、まさか姫様も同じことを考えていらしたなんて!詩歌は幸せです。」
これまでの落ち着き払った態度が嘘のように、詩歌は今にも踊りだしそうだ。私も同じ気持ちで、布団から出ようとしたとき、障子がからりと開いた。警備の者らしいなかなか整った顔立ちの青年が叫ぶ。
「雅様がお目覚めだーっ!」
私が起きたことが屋敷中に知れ渡り、周りがバタバタしてきたので、明日推しカプを紹介してもらう約束だけして詩歌は仕事に戻っていった。警備の青年はそのうちの一人らしい。イケメンって最高ですよね、と囁やかれ咄嗟に全力同意を示してから、こちらに『イケメン』という言葉が存在するおかしさに笑いそうになった。
……仕事と言っても詩歌は私づきの侍女だから、ずっと側にいるんだけど。
同士がこんな近くにいるのに他に人がいるせいで語れないつらさよ……
詩歌も同じ気持ちのようで、時々ひどく情けない顔をした詩歌と目が合う。そのたび詩歌が苦笑いするので、どうやら私も同じような顔をしてしまっているらしい。
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