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種の保存

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「な、何?」
司が落ち着かない声で返事をする。

「わたし…。こわくて…。」
そう言いながら、ルナは司の方を向き直して座る。

ルナは体育座りをしていたため、赤いチェックのミニスカートから、肉感がわかるほどに白い下着が鮮明に覗いた。
ルナは司の右手をとると、心臓のある自分の左胸へと司の手を導いた。
服の上から固いブラジャーの生地と、ムニとした柔らかい感触が司の手から伝わってくる。

「……ねぇ?わたしのこどう。はやいでしょ?」

「うっ、うん…。」
司には鼓動を確かめるような余裕は全くない。ただただ、胸の感触だけにしか意識がいかない。

「そういえば…。つかさはこんな話知ってる?あるヨーロッパの戦争。大人数の男女の捕虜がまとめてトラックに監禁されて輸送されるの。向かう先は処刑場…。みんな自分達がこれから殺されることを知っているのよ。」
司の手を胸に押し当てながら、ルナは話続ける。
ルナの柔らかい胸の感触と、深刻な話のギャップに司の頭は全くついていかない。

「死ぬのを前に、トラックの中は男女入れ乱れて…。それはすごいことになったらしいわ…。ただ死ぬ前にやりたいことをしただけなのか、それとも人間の種の保存の本能なのかしら…。ねぇ??私たちの今の状況にとても似ていると思わない?」

司にはルナの話など耳に入っていない。
この特異な状況に、司は軽くパニックを起こしていた。

「ねぇ……?もっと…。もっとよく、確かめて…。」
ルナは固まる司をからかうように意地悪く笑うと、胸元の隙間からブラジャーの下へと、司の手を滑り込ませようとした。しっとりと汗をかいて湿って火照ったルナの胸の上部に、司の手が触れる。

その時。

エレベータのモーター音の唸りが、2人の耳へと届いた。
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