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第二章 第六節
花街 II
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インは、少し距離を保ちながら、前方の白い長髪の男をつけていた。
(こんな夜更けに花街へ出かけるとは、大僧正が聞いてあきれるぜ。)
前方のその男――今回の標的は、黎禮寺・大僧正の霜毘だ。《飛影》は忠清寺からの命を受け、ずっとこの男の動向を追ってきたのだ。彼は警戒心が非常に強く、滅多に人前に姿を現さない。そればかりか、稀に人前に出る時は、必ず寺の修行僧や信者に囲まれており、ほとんど一人になることがないのだ。しかしそんな男でも、時折夜中に護衛をつけて外出することがあった。西の花街の、ある陰間茶屋に通うためだ。移動中は五、六人の護衛に囲まれ手を出しにくい状況だが、一旦陰間茶屋に入ってしまえば護衛はいなくなる。ほんの半刻にも満たない短い間だが、これは霜毘をしとめる絶好の機会だった。
件の陰間茶屋は、この花街でもかなり有名なものだ。遊郭と併設されており、一階が遊郭、二階が陰間茶屋になっている。インは霜毘が店の前まで来たのを見届けると、裏に回って猫のように塀から屋根に上り、主棟近くの瓦を外して屋根裏に入った。仲間がこの日のために予め用意していた経路だ。インは真っ暗な屋根裏に這いつくばりながらじっと耳を澄まし、霜毘の声を探した。
「…で……から…」
「はっはっはっは!……ですなぁ…」
「んああっ!あっ!あっ!あっ!」
「ご……でして……よ…」
天井の板を伝って、ありとあらゆる音が聞こえてくる。足音、床の軋む音、笑い声、喘ぎ声、話し声…。
(どこだ…あいつは…)
霜毘は、囁くような、少しくぐもった声で話す。インは目を瞑り、その声を求めてさらに意識を集中させた。
「ええ、しばらく忙しくしてまして…」
(そこか!)
左斜め前方から、確かにあのくぐもった声がした。インは急いでその辺りまで這っていくと、ほんの少しだけ天井の板をずらして下を覗いた。思った通り、そこには腰まで届く白い長髪の男が、店の者に連れられて歩いている。
(よし、あの方向なら梅の間だな。)
行き先に検討がついたインは、方向を変えると、梅の間の天井へと静かに這っていった。
*
明空はゆっくりと目を開けた。全身が怠いが、特に腹のあたりが鉛のように重く、ずきずきと痛い。
(どこだ、ここ…どうなってる…?え、俺、手を縛られてる…)
目をしばたかせ辺りを見まわすと、次第に記憶が蘇ってきた。
(そうか、俺、あの大男につかまって、陰間にされるとか何とか…)
「起きましたか。」
突然背後から声がし、びくりとしてそちらを振り向くと、暗がりで誰かが座っているのが見える。
「灯りがないと私の姿も見えませんね。待ってください、今蝋燭をつけましょう。」
ぼっと音がし、蝋燭の灯りがついた。その光に浮かび上がったのは、口元に笑みを浮かべた狐目の男だった。明空はその目を見た途端、背中に冷たいものが走るのを感じた。
(こいつ、笑ってるのに怖い…。)
顔には微笑を浮かべているが、その目には何の感情も映っていない。触れれば切れてしまいそうな鋭い眼光が爛々と火に照らされ、一度視線を合わせれば己のすべてを見透かされてしまいそうだ。明空は、獣と目を合わせてしまった無力な兎のような、本能的な恐怖が全身に流れるのを感じた。
「だ、誰だ。」
明空は咄嗟に尋ねたが、聞こえてきた自分の声は、潰れた蛙のような痰の絡んだかすれ声だった。
「おやおや、そんな愛らしい顔をして何という声を出しているのですか。さてはあの小太めに手ひどく乱暴されましたね?本当にあの男は仕方ない。商品には傷をつけるなとあれほどいつも言っているのに。」
男はそう言うとついと立ち上がり、明空の脇へ来るなり彼の頭に手を伸ばした。
「触るな!」
明空は伸びてきた手をよけると、男を蹴ろうと足を振り上げた。しかし男はまるでその動きを読んでいたかのように片手で飛んできた足を防ぐと、もう片方の手で明空の膝下を強打した。足全体に痺れるような鋭い痛みが走り、明空の足はばたりと畳に落ちた。
「まあまあ何といきのいい新入りですこと。」
冷たい笑みを浮かべた男の顔を見て、明空は再び背筋がぞっとするのを感じた。
(こいつはまともにやり合える相手じゃない。)
一見細身なようだが、先ほどの一撃は骨の髄まで響くような痛みを明空に与えた。その気になれば、彼のようなか細い青年など絞め殺すことができるに違いない。飄々としたその態度も、何だかこちらのすべてを読まれているような気がして底知れない恐ろしさを感じさせる。いくら世間知らずの明空でも、この男から発せられる焼け突くような危なさはひりひりと感じていた。
「さ、私の手巾に痰を出してしまいなさい。しゃがれたよがり声ほど美しくないものはありません。」
男は明空をうつ伏せにさせると、彼の首をがしりと掴み、その口元に手巾を持って行った。首を掴むその手は、明空を絞め殺しはしないが絶対に抵抗できないほどの、絶妙な力加減で握られている。
「何を遠慮しているのですか。早く咳き込むなりなんなりしなさいな。」
男は空いている方の手で明空の背中をばしりと叩いた。肺の中の空気を無理矢理押し出され、明空はげほげほと咳き込んだ。
「そうそう。いい子です。はい、出して。」
咳き込む口を手巾でふさがれ、明空は言われるまま喉に絡んだ粘りを吐き出した。
「はい。じゃあ次は後ろの準備ですよ。」
男はそういうと、新しい手巾を懐から取り出し、脇にあった桶にそれを浸した。
(何とかして逃げないと…でも正面からは無理だ。まして今は体も万全じゃないし、手も縛られてる。どうすれば…。)
明空は必死で辺りを見回した。と、ふと、男の貼り付いたような微笑を照らし出している蝋燭が目に入った。
(これだ…!)
「さて、先ずはここをきちんと清潔にしておかなければなりません。あなたはお客様をもてなす身ですから、お客様のための入り口にはいつも気をつかっていてください。やり方も、今覚えてくださいね。」
男が言い終わるや否や、明空は尻に冷たい布が触れるのを感じた。男はそのまま、布越しにぐいぐいと指を入れてくる。
「え、ちょっ…そんな、中に入る…!」
(こいつ何やってるんだ?!)
「何を言っているんですか。中に入れるものが目的ですよ。周りはもうちゃんと綺麗になったでしょうから、今からもっと奥へ入れますよ。」
男は感情のこもらない冷たい声で淡々と言うと、ぐっと指を押しいれた。
「ん゛ぅっ!」
異物が内へ入ってくる奇妙な感覚が明空を貫く。
「陰間がそんな色気のない声を出してはいけないと先ほど言ったでしょう。痛くても、まるでそれが最上の喜びのように振る舞うのです。もっといい声を出しなさい。」
男は布越しに中の指をぐりぐりとかき回してくる。
「い゛っ…」
狭い穴を無理矢理押し広げられ、男が触った場所には切られるような痛みが残った。明空は歯を食いしばって必死に耐えたが、どうしても呻き声が漏れてしまう。
「うーん、やりにくいですね…。あなた、腰を上げなさい。」
「へ…?」
「ほら早く。」
男は、まだ発言の意図が分からず混乱している明空の白い尻を叩いた。ばちん、とはじけるような音が部屋に響く。
(いったっ…!)
痛みと驚きで跳ねた明空の腰を男は片手で支えると、指をさらに奥へと進めた。本来入るはずのないものを、入るはずのない場所までねじ込まれ、異物感が一層強まる。明空は声にならない声を上げ、目を固く瞑って畳に顔を突っ伏した。
「ふむ…あなた、一向に前が反応しませんね。菖蒲にされても反応しなかったと聞きましたが…元から男色の気があるのですか?それともこういった行為自体が初めてとか…。まあ、私が触れば分かることですね。」
男は空いている方の手で、明空のものをこすりはじめた。
「はああぁっ…!」
そんな場所を他人に触れられるのは初めてで、何とも言えないむずがゆさが全身に広がる。自分でも聞いたことのないような甘い声が漏れ、明空は恥ずかしさのあまり自分の腕に噛みついた。
「そうそう、そういう声ですよ。もっと出しなさい。」
男は裏側をついとなぞると、親指で雁首をぐりぐりと押しながら撫でた。
「あぁっ!んぅっ…んっ…」
下腹部にどくどくと血が流れこんでくるのが分かる。味わったことのない喜悦に、明空は身をよじった。彼の息は次第に荒くなり、紅潮した頬には堪えられなくなった涙がぽろぽろと流れ落ちる。男は手を止めることなく上下させながら、その細い指でこじ開けるように先端の穴を広げ、にやりと笑うとからかうかのように一度ぺろりと舐めた。
「やればできるじゃないですか。もうこんなに硬くとろとろにして…堪え性のない子ですね。まだだめですよ。」
男は、はじけそうになっていた明空のそれをぎゅっと握りめた。
「んあぁぁっ!」
もう少しで飛び出しそうだった熱い吹き溜まりをぎりぎりでせき止められ、明空はもどかしさに声を上げた。
「ほら、私のもやるんです。あなたはお客様にご奉仕する立場なのですから。」
男はいきり立った自分のそれを着物の間から出すと、明空の顎をつかみ上げそれを近づけた。
「…」
明空は、血管が浮き出、赤みのさした暴力的なそれを潤んだ目でじっと見た。
「何をしているのですか。早く。さぁ、あなたのお手並み拝見といきましょう。最初は上手くできなくてもよいですよ。この私がしっかり指導しますから。」
明空は恐る恐る口を開くと、ゆっくりと近づき、ついにその先端を咥えた。
「もっと奥まで行けないのですか。ほら、もっと。全部入ったら舌を使って。」
男は明空の頭を抑えると、ぐいと引き寄せた。
「はぅっ…!」
喉の奥まで熱い肉棒が侵入してきて、うまく息ができない。明空は咳き込みそうになるのを必死で我慢すると、口の中のそれに舌を絡めはじめた。
「そうそう、そんな感じです。歯は立てたらだめですよ。」
吸い込むように口をすぼめながら、舌で根本から先までなぞる。溢れてきた透明の液が、明空の顎から滴り落ちた。彼は自分からついと進み出ると、鼻先を根元に擦り付けた。
「ふっ…案外、上手…です…ね。」
男の息がだんだんと上がり、頬に赤みがさしてきている。明空の舌が男のものを這う度、男は彼の髪をぎゅっと握りしめ、押し寄せてくる快感の波に耐えた。
「もう…だし、ま、すよっ…」
男は明空の髪を引っ張ると、上がってくるその熱に身を任せた。とその瞬間、何かをかみ切るようなガリッという鈍い音と、全身を貫かれるような鋭い痛みが男の全身を貫いた。
「うおおおおあぁぁぁっ!!!」
ぼとぼとぼとっ、と男の股座から真っ赤な血が滝のように流れ落ち、畳にどろりとした血溜まりを作っている。男は呻き声をあげながら、局部を抑えてばったりと崩れ落ちた。明空はその様子に目もくれず、血まみれの口元からどくどくと鮮血を溢れさせている肉棒をぺっと吐き出すと、男の脇にある蝋燭に手首を近づけ、火で縄を焼き切った。彼はそのまま蝋燭を蹴倒すと、部屋に火をつけた。
「にっ…逃げたぞ…!追え…!小太!」
男は必死に助けを呼んだが、その蚊の鳴くような声は呻き声と化している。明空は部屋を飛び出すと、記憶を頼りに廊下を一目散に駆け出した。
(右、左、次は右…よし、階段だ!)
見覚えのある階段が出てきて、明空はそれを目指して一層足を速めた。と、階下から、小太と呼ばれていたあの男が上ってくるのが見えた。
「ん?あ!おい!お前!」
(しまった!)
あの大男が相手では、すぐに捕まってしまうに違いない。再び捕まってしまえば、もう逃げる機会はないに等しいだろう。明空は咄嗟に、左の座敷へ飛び込んだ。
「なっ、なんだ君は!」
中には、布団の上に仰向けで寝ている白い長髪の男と、その男に覆いかぶさっている黒髪の若い男が、目を丸くして明空を見ていた。
(こんな夜更けに花街へ出かけるとは、大僧正が聞いてあきれるぜ。)
前方のその男――今回の標的は、黎禮寺・大僧正の霜毘だ。《飛影》は忠清寺からの命を受け、ずっとこの男の動向を追ってきたのだ。彼は警戒心が非常に強く、滅多に人前に姿を現さない。そればかりか、稀に人前に出る時は、必ず寺の修行僧や信者に囲まれており、ほとんど一人になることがないのだ。しかしそんな男でも、時折夜中に護衛をつけて外出することがあった。西の花街の、ある陰間茶屋に通うためだ。移動中は五、六人の護衛に囲まれ手を出しにくい状況だが、一旦陰間茶屋に入ってしまえば護衛はいなくなる。ほんの半刻にも満たない短い間だが、これは霜毘をしとめる絶好の機会だった。
件の陰間茶屋は、この花街でもかなり有名なものだ。遊郭と併設されており、一階が遊郭、二階が陰間茶屋になっている。インは霜毘が店の前まで来たのを見届けると、裏に回って猫のように塀から屋根に上り、主棟近くの瓦を外して屋根裏に入った。仲間がこの日のために予め用意していた経路だ。インは真っ暗な屋根裏に這いつくばりながらじっと耳を澄まし、霜毘の声を探した。
「…で……から…」
「はっはっはっは!……ですなぁ…」
「んああっ!あっ!あっ!あっ!」
「ご……でして……よ…」
天井の板を伝って、ありとあらゆる音が聞こえてくる。足音、床の軋む音、笑い声、喘ぎ声、話し声…。
(どこだ…あいつは…)
霜毘は、囁くような、少しくぐもった声で話す。インは目を瞑り、その声を求めてさらに意識を集中させた。
「ええ、しばらく忙しくしてまして…」
(そこか!)
左斜め前方から、確かにあのくぐもった声がした。インは急いでその辺りまで這っていくと、ほんの少しだけ天井の板をずらして下を覗いた。思った通り、そこには腰まで届く白い長髪の男が、店の者に連れられて歩いている。
(よし、あの方向なら梅の間だな。)
行き先に検討がついたインは、方向を変えると、梅の間の天井へと静かに這っていった。
*
明空はゆっくりと目を開けた。全身が怠いが、特に腹のあたりが鉛のように重く、ずきずきと痛い。
(どこだ、ここ…どうなってる…?え、俺、手を縛られてる…)
目をしばたかせ辺りを見まわすと、次第に記憶が蘇ってきた。
(そうか、俺、あの大男につかまって、陰間にされるとか何とか…)
「起きましたか。」
突然背後から声がし、びくりとしてそちらを振り向くと、暗がりで誰かが座っているのが見える。
「灯りがないと私の姿も見えませんね。待ってください、今蝋燭をつけましょう。」
ぼっと音がし、蝋燭の灯りがついた。その光に浮かび上がったのは、口元に笑みを浮かべた狐目の男だった。明空はその目を見た途端、背中に冷たいものが走るのを感じた。
(こいつ、笑ってるのに怖い…。)
顔には微笑を浮かべているが、その目には何の感情も映っていない。触れれば切れてしまいそうな鋭い眼光が爛々と火に照らされ、一度視線を合わせれば己のすべてを見透かされてしまいそうだ。明空は、獣と目を合わせてしまった無力な兎のような、本能的な恐怖が全身に流れるのを感じた。
「だ、誰だ。」
明空は咄嗟に尋ねたが、聞こえてきた自分の声は、潰れた蛙のような痰の絡んだかすれ声だった。
「おやおや、そんな愛らしい顔をして何という声を出しているのですか。さてはあの小太めに手ひどく乱暴されましたね?本当にあの男は仕方ない。商品には傷をつけるなとあれほどいつも言っているのに。」
男はそう言うとついと立ち上がり、明空の脇へ来るなり彼の頭に手を伸ばした。
「触るな!」
明空は伸びてきた手をよけると、男を蹴ろうと足を振り上げた。しかし男はまるでその動きを読んでいたかのように片手で飛んできた足を防ぐと、もう片方の手で明空の膝下を強打した。足全体に痺れるような鋭い痛みが走り、明空の足はばたりと畳に落ちた。
「まあまあ何といきのいい新入りですこと。」
冷たい笑みを浮かべた男の顔を見て、明空は再び背筋がぞっとするのを感じた。
(こいつはまともにやり合える相手じゃない。)
一見細身なようだが、先ほどの一撃は骨の髄まで響くような痛みを明空に与えた。その気になれば、彼のようなか細い青年など絞め殺すことができるに違いない。飄々としたその態度も、何だかこちらのすべてを読まれているような気がして底知れない恐ろしさを感じさせる。いくら世間知らずの明空でも、この男から発せられる焼け突くような危なさはひりひりと感じていた。
「さ、私の手巾に痰を出してしまいなさい。しゃがれたよがり声ほど美しくないものはありません。」
男は明空をうつ伏せにさせると、彼の首をがしりと掴み、その口元に手巾を持って行った。首を掴むその手は、明空を絞め殺しはしないが絶対に抵抗できないほどの、絶妙な力加減で握られている。
「何を遠慮しているのですか。早く咳き込むなりなんなりしなさいな。」
男は空いている方の手で明空の背中をばしりと叩いた。肺の中の空気を無理矢理押し出され、明空はげほげほと咳き込んだ。
「そうそう。いい子です。はい、出して。」
咳き込む口を手巾でふさがれ、明空は言われるまま喉に絡んだ粘りを吐き出した。
「はい。じゃあ次は後ろの準備ですよ。」
男はそういうと、新しい手巾を懐から取り出し、脇にあった桶にそれを浸した。
(何とかして逃げないと…でも正面からは無理だ。まして今は体も万全じゃないし、手も縛られてる。どうすれば…。)
明空は必死で辺りを見回した。と、ふと、男の貼り付いたような微笑を照らし出している蝋燭が目に入った。
(これだ…!)
「さて、先ずはここをきちんと清潔にしておかなければなりません。あなたはお客様をもてなす身ですから、お客様のための入り口にはいつも気をつかっていてください。やり方も、今覚えてくださいね。」
男が言い終わるや否や、明空は尻に冷たい布が触れるのを感じた。男はそのまま、布越しにぐいぐいと指を入れてくる。
「え、ちょっ…そんな、中に入る…!」
(こいつ何やってるんだ?!)
「何を言っているんですか。中に入れるものが目的ですよ。周りはもうちゃんと綺麗になったでしょうから、今からもっと奥へ入れますよ。」
男は感情のこもらない冷たい声で淡々と言うと、ぐっと指を押しいれた。
「ん゛ぅっ!」
異物が内へ入ってくる奇妙な感覚が明空を貫く。
「陰間がそんな色気のない声を出してはいけないと先ほど言ったでしょう。痛くても、まるでそれが最上の喜びのように振る舞うのです。もっといい声を出しなさい。」
男は布越しに中の指をぐりぐりとかき回してくる。
「い゛っ…」
狭い穴を無理矢理押し広げられ、男が触った場所には切られるような痛みが残った。明空は歯を食いしばって必死に耐えたが、どうしても呻き声が漏れてしまう。
「うーん、やりにくいですね…。あなた、腰を上げなさい。」
「へ…?」
「ほら早く。」
男は、まだ発言の意図が分からず混乱している明空の白い尻を叩いた。ばちん、とはじけるような音が部屋に響く。
(いったっ…!)
痛みと驚きで跳ねた明空の腰を男は片手で支えると、指をさらに奥へと進めた。本来入るはずのないものを、入るはずのない場所までねじ込まれ、異物感が一層強まる。明空は声にならない声を上げ、目を固く瞑って畳に顔を突っ伏した。
「ふむ…あなた、一向に前が反応しませんね。菖蒲にされても反応しなかったと聞きましたが…元から男色の気があるのですか?それともこういった行為自体が初めてとか…。まあ、私が触れば分かることですね。」
男は空いている方の手で、明空のものをこすりはじめた。
「はああぁっ…!」
そんな場所を他人に触れられるのは初めてで、何とも言えないむずがゆさが全身に広がる。自分でも聞いたことのないような甘い声が漏れ、明空は恥ずかしさのあまり自分の腕に噛みついた。
「そうそう、そういう声ですよ。もっと出しなさい。」
男は裏側をついとなぞると、親指で雁首をぐりぐりと押しながら撫でた。
「あぁっ!んぅっ…んっ…」
下腹部にどくどくと血が流れこんでくるのが分かる。味わったことのない喜悦に、明空は身をよじった。彼の息は次第に荒くなり、紅潮した頬には堪えられなくなった涙がぽろぽろと流れ落ちる。男は手を止めることなく上下させながら、その細い指でこじ開けるように先端の穴を広げ、にやりと笑うとからかうかのように一度ぺろりと舐めた。
「やればできるじゃないですか。もうこんなに硬くとろとろにして…堪え性のない子ですね。まだだめですよ。」
男は、はじけそうになっていた明空のそれをぎゅっと握りめた。
「んあぁぁっ!」
もう少しで飛び出しそうだった熱い吹き溜まりをぎりぎりでせき止められ、明空はもどかしさに声を上げた。
「ほら、私のもやるんです。あなたはお客様にご奉仕する立場なのですから。」
男はいきり立った自分のそれを着物の間から出すと、明空の顎をつかみ上げそれを近づけた。
「…」
明空は、血管が浮き出、赤みのさした暴力的なそれを潤んだ目でじっと見た。
「何をしているのですか。早く。さぁ、あなたのお手並み拝見といきましょう。最初は上手くできなくてもよいですよ。この私がしっかり指導しますから。」
明空は恐る恐る口を開くと、ゆっくりと近づき、ついにその先端を咥えた。
「もっと奥まで行けないのですか。ほら、もっと。全部入ったら舌を使って。」
男は明空の頭を抑えると、ぐいと引き寄せた。
「はぅっ…!」
喉の奥まで熱い肉棒が侵入してきて、うまく息ができない。明空は咳き込みそうになるのを必死で我慢すると、口の中のそれに舌を絡めはじめた。
「そうそう、そんな感じです。歯は立てたらだめですよ。」
吸い込むように口をすぼめながら、舌で根本から先までなぞる。溢れてきた透明の液が、明空の顎から滴り落ちた。彼は自分からついと進み出ると、鼻先を根元に擦り付けた。
「ふっ…案外、上手…です…ね。」
男の息がだんだんと上がり、頬に赤みがさしてきている。明空の舌が男のものを這う度、男は彼の髪をぎゅっと握りしめ、押し寄せてくる快感の波に耐えた。
「もう…だし、ま、すよっ…」
男は明空の髪を引っ張ると、上がってくるその熱に身を任せた。とその瞬間、何かをかみ切るようなガリッという鈍い音と、全身を貫かれるような鋭い痛みが男の全身を貫いた。
「うおおおおあぁぁぁっ!!!」
ぼとぼとぼとっ、と男の股座から真っ赤な血が滝のように流れ落ち、畳にどろりとした血溜まりを作っている。男は呻き声をあげながら、局部を抑えてばったりと崩れ落ちた。明空はその様子に目もくれず、血まみれの口元からどくどくと鮮血を溢れさせている肉棒をぺっと吐き出すと、男の脇にある蝋燭に手首を近づけ、火で縄を焼き切った。彼はそのまま蝋燭を蹴倒すと、部屋に火をつけた。
「にっ…逃げたぞ…!追え…!小太!」
男は必死に助けを呼んだが、その蚊の鳴くような声は呻き声と化している。明空は部屋を飛び出すと、記憶を頼りに廊下を一目散に駆け出した。
(右、左、次は右…よし、階段だ!)
見覚えのある階段が出てきて、明空はそれを目指して一層足を速めた。と、階下から、小太と呼ばれていたあの男が上ってくるのが見えた。
「ん?あ!おい!お前!」
(しまった!)
あの大男が相手では、すぐに捕まってしまうに違いない。再び捕まってしまえば、もう逃げる機会はないに等しいだろう。明空は咄嗟に、左の座敷へ飛び込んだ。
「なっ、なんだ君は!」
中には、布団の上に仰向けで寝ている白い長髪の男と、その男に覆いかぶさっている黒髪の若い男が、目を丸くして明空を見ていた。
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