魔族とエルフの異世界旅行記

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試験3

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 執務室でリュクスとカンタベリーは対峙していた。
 室内には4人、カンタベリーとその直属護衛、リュクスとアウラである。

「もう1人の命知らずも貴様の仲間か。」
「こいつは見習いだ。大目に見てやってくれ。」

 カンタベリーのプレッシャーをものともせずリュクスは受け応えする。

「どこに雇われた。」
「ただの起業家兼冒険者見習いだ。この件は個人的なものでね。」
「何が目的だ。」

 カンタベリーの問いに、リュクスは奴隷契約書を取り出し、一連の不当契約を問い詰めた。

「我社は持ち込まれた商品を購入しただけだ。」
「俺達の所有権を持っている事に変わりはないだろう? 「みそぎ」はキッチリしてもらわないとなぁ。」

 リュクスは現在の権利関係を明確にし、契約の解除と今後の不介入、賠償を一方的に請求する。

「奴隷風情が図に乗るな! 」

 カンタベリーが無言で小さな合図を出すと、黄金の重鎧を纏った警備が凄い剣幕で割って入ってきた。

「リュクスさん気を付けてください! あの鎧は「魔族殺し」です。」

 王国の装備品に疎いリュクスへ、アウラは注意を促した。
 黄金に輝く鎧は、あらゆる魔法をほぼ無効化する特殊な鉱石で製造されており、その魔法耐性は魔族の魔法すらも無効化する程である。王国では対魔族決戦武具の1つと位置付けられているが、その性能から「魔法使い殺し」とも「エルフ殺し」とも呼ばれる別名を持っていた。

「魔法を封じられたエルフなど森のモヤシ! あの世で己を呪い続けるがいい! 」

 剣を抜いた護衛は重鎧を着ているにも関わらず、物凄い勢いでリュクスに切りかかる。その動きはアウラが戦ってきた警備兵の中で断トツに早く、冒険者であればAクラスにいても遜色はない。
 危険と判断したアウラはリュクスの援護をするため神聖魔法の準備を始めるが、間に合わない。彼ほどの実力があれば致命傷となる攻撃は避けるだろうが、相手はエルフ殺し。ここは魔法を使用せず重装甲の内部にダメージを与えられる私の出番だ。

 そう思った瞬間、リュクスはアウラの視界から消え、代わりに鈍い音が部屋に響き渡った。

「 ガッ! 」

 黄金の鎧が粉砕され、その場に崩れ落ちる護衛の後ろにリュクスは立っていた。

「「 なっ! 」」

 これほど呆気なく最強の護衛が倒されるとは思っていなかったカンタベリー。僧兵に伝わる戦闘技術をエルフが身に付けている事に驚愕するアウラ。両者の声が重なる。

「こんな玩具じゃ魔族どころかエルフも倒せないぜ。そろそろ腹は決まったか? 」

 リュクスはカンタベリーを挑発するように言葉を発する。
 リュクスとしては、装甲歩兵(地球基準のパワーアーマー)が出てくることを想定していたが、この世界は本当に原始的な装備しかないようだ。これが装甲歩兵だったら少し苦労した。

「我社の後ろに誰がいるか分からんようだな。このままで済むと・・・」

 カンタベリーは異なる方向の実力で脅しにかかるが、最後まで喋る前に爆発音が聞こえ、外が明るくなる。

「これでそいつらも買収できなくなっただろう? 」

 外では、商会の誇る大型倉庫が燃え上がっていた。

「なっ、なんてことをしてくれた! あの倉庫はナルファナの物資庫でもあるのだぞ! この町を敵に回す・・・」

 カンタベリーは狼狽しながら喋るが、リュクスが更に簡単な魔法を発動させると、隣の倉庫も燃え上がった。
 突然の火災に、多くの社員が隣接する倉庫から荷物を運び出していたため、作業中の社員が火達磨になって命からがら飛び出してきており、周辺は地獄絵図となっている。
 わなわなと震えるカンタベリーの前で、リュクスはもう一度魔法を発動させようとした。

「やめてくれ! お願いだ。」

 クラッシャーと呼ばれた男の心が折れた瞬間だった。

 リュクスは火災の規模を押さえる魔法を施し、カンタベリーに様々な契約を結ばせた。

「リュクスさん! ここには多くの奴隷が捕らえられています。他の奴隷達の解放がありません。」

 アウラは自分達の奴隷契約を解消したにもかかわらず、他の奴隷に触れないで契約を終わらせようとするリュクスに、つい声が出てしまう。

「おいおい、お前は神に使える身だろう? これ以上痛めつける必要はない。」
「えっ? えっ! 」

 アウラはリュクスの言葉を一瞬理解できなかったが、小声で説明を受けることで自身の浅はかさと、住んでいる世界の違いを認識する。
 これ以上カンタベリーを痛めつけると立ち直れなくなり、商会は致命的な損失を被ってしまう。やっている事はどうあれ、カンタベリー商会は国から承認されてナルファナで1番しっかり奴隷を管理している優良企業なのだ。この商会で奴隷達は商品として最低限の保証は受けられていた。また、奴隷達の多くが東方の少数民族であり、他は犯罪者などとなっている。アウラ達は例外だが、冒険者が奴隷となったところで、売られた先で己のスキルを十二分に活かして活躍し、独立するか、「お抱え」として雇われることで奴隷の身分を脱していた。しかし、奴隷の多くを占める少数民族は習字率が皆無に等しく専門技術を持っているわけでもない。奴隷身分から解放されたとしても、生きていくのは難しいのだ。

 自由=救い、ではない。私は、今まで教会が奴隷達の開放に消極的だった理由を今更理解した。


「お前用の賠償品だ。紋章はこの場で捨てていけ。」

 リュクスさんは倉庫を一通り物色してから薬草の束を私に渡してきた。カンタベリー商会の紋章が入った高品質な薬草100個の束は、高級傷薬の原料となり、高値で取引されている。ギルドが最初に行うクエストで納品するような薬草ではない。

「では、リュクスさんの分と分けておきますね。」
「自分の物は確保している。それはお前の報酬込みだ。それと、必要な物を1つ選んで持って行け。」

 そう言って、リュクスさんは倉庫から金目の物を次々バックパックに詰め込んでいた。

「・・・神よ。」

 火災を消すために大騒ぎの外を片目に倉庫を漁る自分達。私はただただ神に祈るだけだった。
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