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魔獣と料理のオジサン
しおりを挟む広い中庭を抜けて塔みたいな建物をいくつか通り過ぎたあたりですれ違う人のガタイがよくなりだした。騎士団員生息地に近づいたのかな。
持ち運ばれて気付いたことは、クロウもしかして偉い人? みんなクロウを見てハッとして頭を下げていく。で、オレに気付いて小さく「まさか…隠し子?」みたいなことを呟く。誰がクロウの子か! オレ一歳年上なんだからな! 面白そうにクックッて笑ってたクロウには頭突きをかまして憂さを晴らしておいた。
「ガルディさんに次会ったらお前を引き剥がす魔法教えてもうらうかんな!」
「じゃあ、二度と会わないようにしないといけないですね」
「こっわ! 目開けんな! 真顔になるな!!」
「ひどいです、コガネ様~~~」
「グリグリすんな!!」
少し高めに持ち上げられて腹の辺りに顔を埋められる。くすぐったくて暴れてクロウの髪を引っ張ってたところで後ろから声をかけられた。クロウにしてみれば前か。
「随分と騒がしいと思ったらクロシュじゃないか。お前が騒ぐなんて珍しい。…と、なに持って…子供? お前の子か?」
誰が子供だ!
ギロリと後ろを振り返って、オレは固まった。
デ、デカイ。
オレを抱え上げるクロウも大きいが、こいつは群を抜いてでかい。縦にも大きいけど、横にも大きい。筋肉ムキムキでいかつい。栗色の髪が短く刈り上げられてて太い眉毛が印象的。海外俳優みたいな顔してる。無精髭も似合っててハンサムって言うやつなのかな。ねーちゃん好きそう。
思わずビビッてクロウの頭を胸に抱いた。
人があんなに大きく進化するはずがない。ということは、結論は一つ。
「あれが魔獣?」
「誰が魔獣だ!」
「コガネ様、安心してください。あれは一応人間です」
「一応ってなんだ!」
目の前の一応、人であるらしいクマが吼える。身体がでかいから声もでかい。しかも結構な重低音でビリビリするからオレはまたビビッてしまう。
このままでは話が進まないと思ったのか、クロウがオレを降ろして後ろに隠すように盾になってくれた。
クロウの服の裾をギュッと掴んで、ちょっとだけ顔をスライドさせればクマとバチリと目があって慌ててクロウの背中に隠れる。威圧感が半端ない。なんだあのクマ!
「コガネって、そのちびっ子がもしかして例の聖女様か?」
「はい。朝、伝えたように騎士団の食堂で一緒に食事をとる予定で連れてきました」
「随分と小さいな。俺相手に怯えてるんじゃ食堂になんて連れて行けないだろう」
「ははっ。ドゥラン隊長の顔は特別ごついから怖がってるだけですよ」
「クマ! クマ!」
「クマってなんですか、コガネ様」
「オレの世界の魔獣?」
「ああ、それは恐ろしい」
「お前達…お似合いの主従だな…失礼が過ぎる…」
「ドゥラン隊長見る目ありますね~!」
クロウがニコニコしてる。よく判らないけど、あのクマは顔が怖いだけみたいだ。
「ちびっ子~ほら~怖くないぞ~でてこい~!」
クマが猫なで声でオレの方向に手を向ける。ぬっと差し伸べられた手のひらはオレの頭なんて一掴み余裕だろう。腕もオレの太ももより太い。
「ひっ!」
あまり大きすぎるってのも考え物だ。太陽に背を向ける格好のクマをオレの位置からみると影ができてとっても不気味だ。
あっ判った。降ろされたから怖いんだ。
クロウの後ろでぴょんぴょん飛び跳ねて「おんぶ、おんぶ」って言えばクロウは地面に膝をついた。四つん這いにならなくても乗れるんだけど。小首を傾げればクロウが「んんっ!」って変な声をだしたけど、とりあえず背中には乗れた。
「お前、変わったな…」
「そうですか?」
クマの顔がちょっと引きつってる。この角度だとそこまで怖くない。クロウっていう盾があるから安心感もある。
オレの顔を確認したのかクマが驚いた顔をした。表情が豊かなクマだ。
「こりゃ随分な別嬪さんじゃないか。将来が有望だなぁ」
顎に手をやって、見定めるみたいにオレをしげしげ眺めてくる。
「オレはクロウより年上だぞ!」
「ははははは~こんなこと言ってるぞ、クロシュ」
「事実みたいなんですよね」
「はははっ…、は?! はぁぁぁ?!」
クマの顎が外れるんじゃないかってくらい大きく開いて、これまた大きな声が轟いた。
その声にちょっと離れたところから傍観してた他の騎士っぽいマッチョが集まってきた。
「そのちびっ子が、クロウより年上って…本当か?!」
「しかもコガネ様は男性でもあります」
「オレみたいな奴、あっちの世界じゃゴロゴロいるよ」
そもそもがここの世界がちょっとおかしいんだよ。なんでそんなに身長が高いのか。集まってきたマッチョも大きい。
オレの年齢と男っていうのでざわついてる。
ざわついているのはいいとして、オレお腹空いちゃった。朝、途中で部屋に戻ったから余計かな。あんまり動いていないはずなのに。
「クロウ、お腹空いた」
「おや、それは大変です! 食堂に行きましょう」
クマにお辞儀をしてクロウは小走りでその場を去る。オレもクマにバイバイしたらクマも返してくれた。
少し行ったところにレンガで建てられた四角い建物があって、そこが食堂だとクロウに教えてもらった。近づくにつれ、すごくいいにおいが鼻先をくすぐる。
入り口付近でクロウに降ろされた。昨日から思ってたんだけど、入り口とかがすごく大きくて高いのはこの世界の人が大きいからそれに合わせて大きく作ってあるんだろうな。それで、ここは更に大きい騎士団員の使う食堂だから椅子も大きい。
椅子に座ろうとしたらクロウがどこからかクッションを持ってきてくれた。それに座ってようやく座高がテーブルにあって物悲しくなった。
オレが魔法の練習をしていたのが長引いて昼のピークを過ぎた後なのか、点々と置いてあるテーブルにはポツリポツリと人が数人いるだけだった。カウンターには誰も座ってない。
「コガネ様はどんなものを食べますか?」
「昨日の今日でよくわかんないから、クロウと一緒のがいい」
「…っそうですか」
クロウが食べるものだったら大丈夫だと思う。
そう伝えれば、クロウが噛み締めるみたいに笑顔になった。なんだろ、なにかうれしかったのかな。オレもうれしくなってニコニコ笑えばはらはらと花びらが落ちてきたから慌てて食べてる人の皿に入ってないか見渡した。
「大丈夫ですよ、コガネ様。聖女様のお力の具現である花びらが入ってもここには喜ぶ奴しかいません」
そうなの? 食堂で花を撒き散らして怒られない?
テーブルとか床に落ちた花びらを拾って、騎士の人たちやお店の人がうれしそうにニコニコしているから大丈夫みたいだ。
ホッとした。
クロウが店員さんにオーダーを注文している間、キョロキョロと店内を見回して物珍しげにしてたら食事をしていた人とか奥で料理をしている人がオレを見て手を振ってきたからなんだろな、って思いながら小首を傾げて手を振り返したら両手で顔を覆って撃沈した。
「?!」
たまにクロウもああなるけど、あれはなんだろう。やっぱり手をあげると魔法が作動しちゃうのか。自分の手のひらを凝視してたらクロウが「俺もああなってるのか…」って意味深に呟いて神妙な顔をしてた。
この世界の人って行動が愉快だよね。和むって言うか、四つん這いが大好きだよね。
少し待ってたら「お待ちどうさま」って声がして、食堂のおばちゃんがプレートを二つ持ってた。
オレとクロウの目の前に置かれたプレートはとても大きかった。テレビとかでよく見るメガ盛りってやつかな。オムライスみたいな山盛りに、厚切りの肉がこれまたででーんと乗っかっている。
ビックリしてプレートとクロウを何度も見返す。オレ、この量食べきれるかな…。不安に思ってたらクロウが「食べ切れなかったら俺がもらうから安心してください」ってニコリと笑った。クロウが食べてくれるなら安心だけど、クロウも同じ量のプレートがあるけど大丈夫なのかな。
「次からは調整してもらうので、食べれる量を食べてください。ちなみに俺はこのプレート二つはいけるんで遠慮しないでくださいね」
この量をふたつも?!
フードファイターみたいだけど、大きくなるには食べる量も必要か。
ムリに食べても身体には悪いからオレはクロウの厚意に甘えて食べれる量を食べることにした。
置かれたスプーンはクロウの持ってるやつとは違って小ぶりでオレに合わせたものだというのが判った。優しい人ばかりだ。
オムライスにスプーンを入れてひと匙すくって口に入れる。デミグラスソースだ! ちょっとだけ濃い目の味付けが美味しくて思わず顔がほころぶ。ステーキにされた肉もあつあつで美味しい。牛肉に近い味。
お腹が空いてたのもあって半分は食べられた。でもそれ以上はお腹がぱんぱんになってしまって、既に完食してたクロウに食べてもらった。
どこに入るんだろうあの量。
クロウの食べ方はとてもきれいでガツガツもしていないのに、とても早い。一口が大きいのかな。
「あとですね、朝食を作っていたのは今、厨房でちょっと顔を覗かせて安堵している調理人がそうです。食事に関しては問題なかったと伝えておきますね」
「オレが失礼なことしちゃった人?」
ご飯が合わないとダダをこねて困らせてしまった人が、あの人みたい。
きっとオレが朝、不満をもらしたからここでオレに合うようにご飯を作ってくれたんだろう。お城でご飯を作っている人が、わざわざ場所を移動してここまで来てくれたって…迷惑をかけちゃったんだ。
椅子から降りて、厨房へと繋がった扉に向かう。邪魔にならないように注意して、扉から顔を覗かせていたその人の目の前に立って、頭を下げた。
「折角、ご飯を作ってくれたのに、ワガママ言ってごめんなさい」
清潔な白いコックの衣装に身を包んだオジサンに謝れば、オジサンはあたふたとした後で、「お味はどうでしたか」と控えめに聞いてきた。
「とっても、とっても美味しかったです!!」
ワガママを言ったオレに怒るわけでもなく、一皿ずつじゃなくてワンプレートで、熱々で、味も好みにしてくれて、どうお礼を言ったらいいかわからなくて、でも感情だけは素直にうれしい! ってことを伝えるためにオレの意識より先に感情の花が暖かい色を持って食堂を舞った。
オジサンは頬を緩めて「量の方はいかがでした?」って聞いてきたから「あれの半分くらいがいいです」ってはにかんで答えた。
「お夕飯もこちらでお待ちしておりますね、コガネ様。次は適切な量で、フルーツもつけます」
って優しく言ってくれた。
頭をぽんぽんと撫でられて、ああ、オレはこの世界でもしあわせなんだって思った瞬間、後ろからクロウに抱きしめられた。
そこで更に花びらが舞ったから今度こそ、食べてる人の皿に花びらが入っただろうな。
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