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青い花びら
しおりを挟む「わたくし達の兄はとても優秀なお方で、次期宰相として期待されておりますの。父は公爵家として、宰相として活躍をされてます。けれど、お父様のように全てを一人で背負うことなどしなくてもいいと、わたくし恥ずかしながら今悟りましたわ」
「姉上…」
「お兄様には宰相としてこの国を担っていただいて、わたくしが公爵家として舵をとる。素敵なことよねぇ、クロウ」
「父上は兄上一人に全てを委ねているわけではありません」
「ええ、存じているわ。けれども、このわたくしの覚悟、貴方には“良き事”ではなくて?」
金ねーちゃんは意志の強い瞳を輝かせてオレとクロウを交互にみつめて、何度も頷いている。
クロウは心配そうに腰を少し浮かせたけど、片手で金ねーちゃんが制した。
「お兄様には宰相職を、わたくしは公爵家ならびに公爵領を。そして貴方は聖女様であられるコガネ様のお傍で生涯の安寧をもたらす仕事を。とても理想的ね。ふふっ、わたくしお勉強することが増えましたわ」
「しかし、今からとなると姉上の負担になります」
「あらっ! わたくし、コガネ様とこれからも仲良くしていきたいの。ずっとずっと続く縁がほしいの。クロウならそれができるわ。そうしたら、わたくしは本当のコガネ様の“ねーちゃん”になれますもの。クロウもそう願っているのよね? 判るわ、だってわたくしたち、同じ血をもっているのですから」
難しい話をして、金ねーちゃんは「こうしちゃいられませんわ!」と立ち上がり、キレイな礼をして帰っていった。また来てくれるらしいから、楽しみだ。
清々しい笑顔だった金ねーちゃんとは対照的に、クロウは悩んでいるようだ。家のことって悩みが尽きないよね。オレは基本的によく判らないからねーちゃんによく手を出すなって怒られていた。考えるより、本能でなにかをした方がオレの場合いいらしい。
クロウの考え事が終わるまで絵本を読んで文字を少しでも覚えておこうかな。
絵本は歌の聖女って呼ばれていた鳥のお話。
鳥って言っても小さいのじゃなくて、大きいの。不死鳥とかああいう感じの神々しい鳥。
さえずりがまるで歌声のように聞こえたから歌の聖女、と。なるほど。
聖なる泉への浄化も、召喚されてすぐにあちこち飛び回りさえずって黒い霧を一掃したって書いてある。
鳥だもんな、飛べば浄化もそこまで難しいことじゃなくなるよね。
でも、オレは人間だし、もしかしたら飛べるかもしれないけど、クロウと馬で行きたい。それで、一緒にキャンプしたい。遊びじゃないってわかってるけど、ひとつくらいそういう思い出があってもバチはあたらないよね。そのためにオレ、がんばるし。
浄化が終わって、オレがあっちの世界に戻ったらもうクロウに会えなくなる。クロウだけじゃない、この世界の人、みんなに会えなくなる。少しでも思い出がほしくなるのは仕方がないことだ。
ああ、悲しい気持ちになってしまった。
あんにゅい、だよ。
絵本をパラパラめくり、歌の聖女が返還の儀というものをして元の世界に戻っていく最後のページをみていたら突然頭をなでられた。
「コガネ様は、その…元の世界に戻りたいですか?」
静かな声だった。
最初のクロウはこんな感じだった。今ではあのうるさい感じだけど。
日本に帰りたい…か。
「帰りたい。オレのねーちゃんにも、じーちゃん、ばーちゃんとも会いたい。だってオレ、突然ここに来たんだよ? オレ、家族が大好きなんだ」
友だちに常日頃からかわれる内容が、これだもん。家族が大好きすぎるコガネはお子様でちゅね~なんて言われるけど、大好きだもの。そうやってからかうお前たちだって大好きだからなってキレ気味に言えばハイハイって頭を撫でくられる。
でも、ね。
少しだけ、心が揺らいでいる。
「この世界の人たちも大好きなんだ。クロウが、一番好き」
「…っ!」
この世界も、あっちの世界も一緒になってしまえばいいのに。
だって、オレどちらも好きなんだ。選べるわけがない。
「クロウが、みんながよくしてくれる度に、オレ、この世界がどんどん好きになるんだ」
困っちゃうよね。
オレ、元の世界に戻りたいのに。
悲しくないのに、表情が歪んでしまう。この世界で好きなものが増えるたびに、オレはその後に待ち構える別れについて考えたくないのに、考えてしまう。
知らなければよかったのに。
歌の聖女みたいに、誰とも知り合わずただ飛んで、帰れればよかったのに。
視界をよぎるのは青い花びら。
悲しくて、涙がひとつこぼれた。
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