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しおりを挟む二十数年前。アラダージュ王国、王城にて。
「国王陛下! 神託が下りました。これより二十年後、“竜の年”にモードア火山に生贄を捧げよとのお告げでございます」
「…なんと! モードア火山ということは、この国の火竜サラマンダー様への供物か…」
この世界は四匹の竜がそれぞれの地を守護している。
活火山が多いアラダージュには火竜サラマンダーが存在していて、その姿を見たものは大昔の書物に残っているくらいだ。
神とも妖精とも呼ばれる竜は絶大な力を持って、その国を守ってくれている。そんなおとぎ話のような存在が此度、神託を告げてきた。
火竜の逆鱗に触れてはならない。国は火竜への供物を用意しなければならない。
しかも竜の年…二十年後ときた。その間に尊い犠牲を定めないといけないようだ。
十数年前。アラダージュ王国、グラヴァンディア公爵邸にて。
「お父様。僕の世界が真っ黒なのです。ずっと、真っ暗な世界で、僕は将来どうなってしまうのでしょうか」
そう小さな身体を震わせて、ヒバリが父であるグラヴァンディア公爵に縋る。
グラファンディア公爵には二人の子息がいて、その一人が希少な魔力を所持して生まれてきた。
ダークブロンドの艶やかな髪と、魔力を有する証である紫水晶と見まごうばかりの美しい大きな瞳。陶磁器のような白い肌に、小さなベビーピンクの唇は大層可愛らしく、花の妖精だと噂される程だ。三歳だと思わせぬ程に頭もよく、同じ年のイーグル第二王子殿下の婚約者候補として名が挙がっている。
そんな花の妖精と呼ばれるヒバリの特殊能力の一つである“予知夢”が発動したようだった。
「ああ…ヒバリ…なんということだ…」
小さな手を一生懸命に伸ばして、ヒバリが訴えかけてくる。自身の将来が真っ暗なのだと。
それは、数年前に下りた神託のことではないか?
国王陛下が上層部の人間にしか伝えていない、火竜サラマンダー様への尊い供物。もしかしたら、それがヒバリなのかもしれない。
あまりの出来事にグラヴァンディア公爵は小さな身体を抱きしめ、膝をついた。
「お父様? 苦しいの? どこか痛みますか? 僕がなおします。元気だしてください」
「まさか、こんなことが起きるなんて…ああ、ヒバリ大丈夫だ。私はどこも痛くない。心配してくれて有難う」
震える足をなんとか立たせ、グラヴァンディア公爵は早馬を王城に向かわせた。
もしかしたら思い違いかもしれない。
しかし、公爵としてこの国の貴族を務めているグラヴァンディアには愛息を庇い隠すことは許されていない。それが親として間違った選択であっても、貴族としてこの国を守る為には選ばなくてはならないのだ。
蒼褪める夫からヒバリを預かったグラヴァンディア公爵夫人はそっとその袖を摩り、屋敷を出る夫を送り出した。
夫人と一緒に居たスズメは双子であるが年齢通りの幼い子で、この異常な雰囲気にケロリとした表情で王城に向かう父に手を振って「いってらっしゃい」と明るい声で迎えだした。
火竜への生贄が公に知らされていない事実であるため、ヒバリは王家の庇護を得るために第二王子殿下の婚約者に決まった。
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