木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
601 / 606
最終章 木こりと騎士は……

第566話 その後の話(side王国) 後編

「レクシャ、私は間違っていただろうか?」


 王太子ジルベールに国王の座を渡す前日、謁見の間には国王と宰相レクシャしかいなかった。

 国王の呟きに、跪いていたレクシャが首を傾げる。


「何がでしょうか?」
「本当は、国を乱した罪で毒杯を飲むべきだった。だが私は、惨めにも国民に懇願し、衰えてしまった国力を取り戻すために奔走した」


 何度、諸外国の要人達に頭を下げたのだろう。
 
 毎日、徹夜で働いた。

 全て、国民との約束を果たすため。

 国に、国民に迷惑をかけた罪を償うため。

 玉座に座る今の国王は、国の主に相応しい威厳さは無く、ただただ、己の行いが間違いであったか悔やんでいた。

 そんな臣下に見せられない弱々しい姿を見たレクシャは、誰もいないことを良いことに彼の名前を呼ぶ。


「陛下……いや、コンラーク」


 宰相から久方ぶり名前を呼ばれ、驚いて顔を上げた国王にレクシャは淡々と話し始める。


「私たちは間違っていた。ノルベルトの愚行を知っておきながら、ノルベルトの暴走を予測しておきながら止めることが出来なかった。その罪は、この命を以って償うべきだった」
「そうだ、本来なら毒を以ってこの命を絶つべきだった」


 (そうすれば、そうすれば……)

 顔を歪める国王に、そっと立ち上がったレクシャが問い質す。


「だが、あなたは罪滅ぼしとして落ちてしまった国力を回復させる時間が欲しいと懇願した。それはなぜか?」
「国王として、せめて国民のために……この国の未来のために礎を作ろうと」
「そうだ。あなたはあの時、そう考えて国民に懇願した。それを国民が理解したから、私たちはこうして奔走する時間を与えてくれた」


 そう言うと、レクシャは玉座に座る国王の隣に立った。

 そこは謁見時、レクシャの定位置だった。


「レクシャ……」
「コンラーク、私は思うのだ。毒杯を飲んで死ぬことが贖罪ではない。この命尽きるまで己の過ちを償い、未来に我々の過ちを伝えるのもまた贖罪なのではないかと」


 穏やかな笑みを浮かべながら話した友人の持論に、目を見開いた国王はそっと笑みを零す。


「だとしたら、我が国の民は慧眼だ。我々に死ぬこと以上の苦しい罰を与えたのだから」
「ハハッ、確かにそうだな」


 楽しそうに笑ったレクシャは、静かに笑みを潜めると誰もいない謁見の間を見つめながら旧友に報告をする。


「この前、リュシアンに《魔力干渉》を教えた」
「っ!? それって……!!」


 ノルベルトの無力化する時に、レクシャが使った無効化魔法の中で『禁忌』とされている《魔力干渉》。

 サザランス公爵家の当主にしか扱えないそれを、レクシャは長子であり次期公爵であるリュシアンに教えた。

 それはつまり、リュシアンに当主を譲るということだった。

 何の気無しに言ったレクシャの決断に、国王の言葉を。

 だが、レクシャの決断はこれだけではなかった。


「それだけでない。次期宰相もこの前決めた。私の右腕で次代の国王を支えるのに相応しい男だ」
「レクシャ、その次期宰相というのは……」
「あぁ、サザランス公爵家とは何の縁もない、侯爵家の次男だ」
「っ!」


 リュシアンが宰相の座に興味が無いことを知っていたレクシャは、自分の右腕として働き、次期国王であるジルベールからの信頼が厚い人物を次期宰相に指名したのだ。

 玉座の間を離れたレクシャは、唖然としている国王の前に立つと深々と頭を下げる。


「サザランス公爵家は私の代で『宰相家』という2つ名を返上する。これが、この国に出来る最後の償いだ」


 約300年前の国を巻き込んだ戦争終結から今日まで、宰相家として代々、ペトロート王国を支えてきたサザランス公爵家。

 その家がレクシャの代で役目を終える。

 宰相という立場でありながら、たった1人の男の暴走を止めらず、国を好き勝手にされてしまった罪として。


「レクシャ、良いのか?」
「あぁ、家族も了承している。それに、私の右腕が有能なのは陛下だってご存知でしょ」
「そう、だな」


 (それでも、サザランス公爵家が『宰相家』としての立場を離れることは寂しいな)

 長きに渡って国を支え続けた公爵家の大きすぎる決断に、胸を痛めた国王は再び顔を歪める。

 そんな国王にレクシャは微笑みかける。


「コンラーク、もし良かったら、私たち夫婦とどこかへ行かないか?」
「レクシャ……」
「私たちはこの国のために奔走した。ならば、その褒美としてどこかへ行ってもいいのではないか?」
「『褒美』って……我々は己の罪を償うために奔走したのでないか」
「そうだが……我々少々、働き過ぎたと思ってな」
「お前なぁ、そもそも国民が我々の死を願っていたらどうするんだ」
「その時は毒杯を一緒に飲もう」


 (『一緒に』って……そう言えば、こやつは本来こういうやつだったな。普段冷静沈着に物事を進めるからすっかり忘れていた)

 潔く毒杯を飲むことを決意したレクシャに、呆れたように溜息をついた国王は小さく笑みを浮かべる。


「そうだな、もし国民が我々に生きる権利を与えてくれたら、私たち夫妻と一緒にどこかへ行こう。生き恥を晒す旅へ」


 その翌日、戴冠式の後に前国王ジルベールが毒杯を飲むことはなかった。





 ※最終回まで、あと5話!
感想 1

あなたにおすすめの小説

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。