木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
61 / 606
第1章 木こりと騎士は再会する

第61話 気がつくメスト

しおりを挟む
「えっ、ちょっ!?」


 糸が切れたように倒れ込んできたメストを慌てて受け止めた木こりは、穏やかに寝息を立てているメストのがっしりとした体格を仰向けの体勢に寝かせると彼の大きな頭を太ももの上に乗せた。
 
 (どうやら、気を失ったみたいね。良かった。でも、この体勢ってもしかしなくても……)

 メストの顔を覗き込んだ木こりは、普段の生真面目な表情とはかけ離れた幼さを残す寝顔に思わず頬を染める。
 すると、審判役として2人から離れていたシトリンが慌てて駆け寄ってきた。


「メスト! だいじょ……ぶ?」


 木こりに膝枕されて寝ているメストを見て、安堵の溜息をついたシトリンは木こりの隣に腰を下ろす。


「気を失っているようだね」
「そうですね」


 無表情で淡々と答える木こりを見て、小さく笑みを零したシトリンはメストに視線を戻すと不思議そうに小首を傾げる。


「でも、どうしてメストが倒れたの?」
「さぁ、あまりにも突然でしたので私にも分かりません」
「そう、だよね……」


 (彼がメストに何かをしたってことは……)

 
「言っておきますが、私はですので、この方に対しては使っていませんし使えませんから」
「うん、分かっているよ」


 (まぁ、平民にしては色々と規格外で騎士に対しては冷酷な彼でも、魔法を一切使わず正々堂々と剣一本で勝ったメストに何かをするなんて思えないよね)

 木こりから冷たい目を向けられても笑みを崩さなかったシトリンは、小さく溜息つくとゆっくりと立ち上がって辺りを見回す。


「とりあえず、どこか安全なところに移動しよう。昼間とはいえ、魔物が出ないとは限らないから」
「そうですね。それでしたら……」
「うっ、ううっ……」
「メスト!!」


 呻き声を上げたメストに、木こりとシトリンが慌てて目を向ける。
 すると、気を失って寝ていたメストの目がゆっくりと開いた。


「あれっ? 俺、フェイントをかけて、それで……」


 ゆっくりと起き上がったメストに、シトリンは呆れたように溜息をつく。

 
「おはようメスト。全く、勝負がついた途端、いきなり倒れて本当に心配したんだから」
「そう、だったのか……すまん、心配をかけた。君にも迷惑をかけてしまった。本当にすまなかった」
「いえ、意識が戻っただけでも良かったです」



 申し訳なさそうに2人に謝罪をしたメストは、額を抑えると意識が途切れる前のことを思い出そうした。

 (勝負があった時、確か俺は何かを思い出そうとして……)


「あれっ? 
「どうしたの、メスト?」


 (俺は一体、あの時に何を思い出そうした?)

 気絶する直前の記憶が思い出せず、眉間に皺を寄せたメスト。
 そんな彼は、隣に腰を下ろしたシトリンが心配そうな顔でこちらを見ていることに気づくと、慌てて首を横に振った。


「いや、何でもない。それよりも、少し寝たお陰で大分回復した」
「そう、それなら良かった」


 安堵の笑みを浮かべるシトリンに、改めて『心配をかけた』と痛感したメストは『すまない』と小さく頭を下げると、後ろで黙っている木こりに体を向けた。


「改めて、心配をかけてしまいすみませんでした」
「いえ、大した怪我もなくて良かったです」


 無表情で返事をする木こりに、メストはふと目が覚めた時のことを思い出す。

 (そういえば俺、彼に膝枕されていたんだよな。でも、どうしてだろう? 俺と同じ男のはずなのに彼の膝枕はとても心地よかったし、何だか懐かしい感じが……)

 まじまじと見てくるメストに、一瞬眉を顰めた木こりが小首を傾げているとシトリンが思い切り手を叩く。


「さて、決闘の勝敗はメストに軍配が上がったんだけど……確か、木こり君は『メストを弟子にするかは決闘をしてから判断する』って言っていたよね?」
「そうですね」


 (そうだった。あの時に彼は『俺を弟子にするかどうかは決闘をした後に判断する』って言っていた)

 手合わせ前の会話を思い出し、思わず生唾を飲み込んだメストは期待と不安が入り混じった表情で木こりを見つめる。
 そんな彼を見た木こりは小さく手をあげる。


「そのこと1つ、伺いたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「な、何でしょうか?」


 (全く、そんなに緊張しなくてもいいのに)

 緊張で顔が強張るメストに一瞬笑みを浮かべた木こりは、無表情に戻すと淡々と問いかける。


「私の知りうる回避技を身につけたとして、あなた様はそれを何に使われるのでしょうか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...