木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第2章 木こりと騎士は鍛錬する

第78話 鍛錬の成果?

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 グレアがフェビルに訓練の報告をしていた頃、カトレアの後を追いかけたラピスを見どけたメストとシトリンは、揃って騎士団本部に入ると、そのまま第四部隊専用の執務室へ向かう。
 そして、訓練に参加した騎士達が休暇を取る中、2人は駐屯地での訓練で王都を離れている間に溜まった書類仕事を自席で片付けていた。
 執務室に2人がペンを走らせる音が響く中、シトリンがふと向かい側の席のメストに質問を投げる。


「そういえば、メスト」
「ん? 何だ?」
「彼との鍛錬はどうだったの?」


 突然の質問に、別の書類に手を伸ばそうとしたメストの手が止まる。


「『彼』って誰のことだ?」
「とぼけないでよ~、『彼』って言ったら彼だよ。メストが弟子入りした『彼』のこと」


 (駐屯地で特別訓練を受けている間、他の騎士の目があるから堂々と聞けなかったし、訓練が終わったらメストはすぐに自己鍛錬に行っちゃうから、結局、聞けなかったんだよね)

 2人しかいない執務室で、チャンスとばかりに目を輝かせながら聞くシトリン。
 それに対し、眉を顰めたメストは誰のことが分からず首を傾げたが、シトリンの表情を見て誰のことを指しているのか分かった。


「あぁ、カミルのことか」
「カミル? 誰それ?」


 誰か分からず少しだけ眉を顰めるシトリンに、メストは小さく笑みを零した。


「そう言えば、言ってなかったな、実は俺、彼のことを『カミル』って呼んでいるんだ」
「へぇ~、彼の名前『カミル』って言うんだね。初めて聞いた」


 (彼に出会って半年近く経つのに、初めて彼の名前を聞いた。けど、思い返したら彼、初めて会った時に名乗っていなかったね。それに、巡回中に見かけて話しかけてもすぐに帰っちゃうし、僕たちと一緒にアルジムやリースタのような横暴騎士から平民を守っているから聞ける余裕が無かったんだよね)

 ようやく木こりの名前を知ることが出来てシトリンが満足げな笑みを浮かべていると、メストがなぜか得意げな顔で頷いた。


「だろうな。なにせ、俺が付けた名前だから」
「はっ?」


 (『名前を付けた』ってどういうこと?)

 再び顔を顰めたシトリンが小首を傾げると、メストは鍛錬初日でのことを話し始めた。


 ◇◇◇◇◇

 
「なるほど。『自分が孤児で名前が無い』ってことをわざわざ教えてくれた木こり君に、メストが強引に彼の名前を付けたってことね」
「まぁ……そう、だな」


 (『強引』って……まぁ、結果的に俺が押し切る形で彼に名前をつけたが)

 生温かい目でニヤニヤしているシトリンに対し、不貞腐れたようにそっぽ向いたメスト。
 そんな彼を見て、笑みを深めたシトリンは背もたれに体を預けると腕を伸ばしながら大きくのけ反らせた。


「まぁでも、彼……カミル君との鍛錬で少しは回避技が身についたんじゃない?」


 シトリンから鍛錬の成果について聞かれ、『待っていました!』とばかりに目を輝かせたメストが笑みを浮かべながらシトリンに視線を戻す。
 
 
「そうだな。カミルほどではないが、『相手の動きに合わせて体を動かす』という基本的な部分は教わる前より少しだけ洗練されたと思う」
「へぇ~、そんな基礎からやっていたんだ」


 (騎士学校で最初に教わることを、騎士なってしばらく経った今、鍛錬の一環としてもう一度やっているんだね)

 ゆっくりと姿勢を戻しながらシトリンが意外そうな表情をすると、得意げな笑みを浮かべていたメストの顔が急に真剣なものに変わった。


「だが、彼との鍛錬で俺は『自分が今まで身につけていたものにどれだけ無駄なものがあったのか』と思い知らされた」
「そうだったんだ」
「それに、今の俺は彼のように得物を使って攻撃を受け流したり跳ね返したりすることは出来ない」
「そんなに難しいの?」


 (傍目から見れば、そう難しい動きはしていないと思うけど)


「あぁ、あれは俺たちが騎士学校で学んだ『敵の攻撃を躱して、すぐに攻撃をする』という基礎的な動きとはまるで違う。彼の動きは敵の攻撃を予測し、即座に攻撃を受け流すか跳ね返すか判断する必要がある。時と場合によって、相手の動きを自分の躱しやすい方向に誘導したりしないといけない」
「そんなことを考えて、彼は魔物や騎士達と渡り合っていたの?」


 (彼、本当に何者?)

 単純な動きに思えた回避技が、実は高度なものだったと知り、シトリンは驚きのあまり言葉を失った。
 そんな彼を見て深く頷いたメストは、視線を書類に落として、駐屯地での訓練期間中に密かに行われていた木こりとの鍛錬の日々を思い返した。

 (彼との鍛錬は実に充実したものである。だからこそ、今出来ないことはで少しずつ身につけていけばいいんだ)

 今までの鍛錬とは明らかに違う、実に有意義な鍛錬にメストはとても満足そうな笑顔を浮かべる。
 そんな彼の満たされた表情を見て、『珍しいものを見た』と微笑ましい気持ちになったシトリンは、優しく微笑むと机にある書類の1つを手に取る。


「そうだったんだ。でも、彼からある程度、回避技を教わることが出来て良かったね。なにせ、こうして無事に訓練を終えて王都に帰ってきた今、カミル君に会うこともそんなに無いだろうし」


 (そもそも彼に会うこと自体、そんなに無かったんだけど。でもまぁ、ここからリアスタ村まで馬を走らせても1時間近くはかかるし、休日は婚約者であるダリアとの逢瀬があるから、駐屯地での訓練みたいなことが無い限り彼との鍛錬はほぼ出来ないよね)

 そんなことを思いながら、シトリンが書類に目を通していると、メストは心底呆れたような顔でシトリンに話しかけた。


「はぁ? なに言っているんだ? こっちに戻っても、俺はカミルとの鍛錬は続けるぞ」
「えっ?」


 (今、なんて?)

 メストの言葉に、シトリンは目を通していた書類を落としてしまう程に驚く。
 そしてそれは、特別訓練最終日の朝に鍛錬をしていた木こりも同じだった。
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