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第2章 木こりと騎士は鍛錬する
閑話 ぼくのあるじ(後編)
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『すまんな、ステイン。突然連れてきて驚いただろ?』
泣き疲れて寝てしまった青年を住処に戻した主は、いつものように僕に荷台を引かせながら人間達がたくさんいる場所に行った。
まぁ、驚いたけど。それにあの子、どうしたの?
主の問いに答えるように首を傾げると、僕のことを一瞥した主が小さく微笑むと、そのまま前に視線を戻した。
『あの方は、色々あって全てを奪われてしまったのだよ。地位も家族も友人も婚約者も……挙句の果てには、名前や性別さえも』
性別までも!? それはまた……
主が連れて来た人間の思わぬ境遇に、いつもの速さで荷馬車を引いていた僕は思わず足を止めそうになった。
そんな僕をよそに、主は話を続けた。
『それで、旦那様からの手紙で『あの子を預かって欲しい』と切実に頼まれたから、あの方を預かったのだよ。まぁ、村に連れて来るまでに大勢の邪魔者が襲ってきたが……幸い、全員たいした強さは無かったから、無事にお連れすることが出来たが』
さすが我が主。悪意に満ちた強そうな人間5人に囲まれても、一瞬で全員を倒してしまうことはある。
でも、あの子はいつまで預かるつもりなの?
そんな僕の声が聞えたのか、主は一瞬酷く辛そうな顔をするといつもの朗らかな笑みを浮かべながら僕にお願いをした。
『正直、いつまで預かるか分からない。このまま何もなければ、あの方はこの先一生平民として生きていかないといけないのだから。だからこそ……』
そう言葉を区切った主は、いつになく真剣な眼差しで僕を見た。
『ステイン、今日からあの方は、君の主であり君が守るべき方なんだよ』
守る? 僕が?
『そうだ、ステイン。実はな、君や私がまだあの屋敷にいた頃、幼かった君をあの方がお世話してくれていたんだよ』
『屋敷』って、僕が育った場所か。確かに、あの屋敷には幼かった僕をお世話してくれた女の子がいたけど……って、まさか!?
『おや、ステインも覚えていたようだね。そう、幼い君をお世話したのがあの方なんだよ』
まさか、そんな偶然が……でも、さっき主が口にしていた『僕の守るべき人間』って言葉の意味が分かった。
納得した僕を見て、主はいつものように微笑むと自分が連れて来た青年……今の主を僕に託した。
それから1年後、前の主は僕と今の主を残してこの世を去った。
今の主が泣きながらそのことを言ってきた時は、僕も今の主と一緒に泣いた。
「え~っと……とりあえず、1階にあるベッドやクローゼットとかを全て2階に引き上げないと! 確か、空き部屋があと2部屋あるから、あの部屋の隣の部屋を私の部屋にして、エドガスがいた部屋の隣をメスト様が泊まる部屋に……って、その前に空き部屋の掃除と、あの部屋とエドガスの部屋の鍵を厳重にしないと!!」
馬小屋の中を忙しなくうろうろしながら顔を赤くしたり青くしたりする主に、僕は呆れたように小さく嘶いた。
「ん? ステイン?」
僕の声に気づいた主が急に立ち止まると、不思議そうな顔で首を傾げながら僕の方を見た。
そんな今の主を見て、僕は前の主がかけてくれた最期の言葉を思い出した。
『ステイン、お嬢様のことを頼んだよ』
分かっているよ、前の主……いや、エドガス。君は、森の中に捨てられて息絶えだった幼い僕を拾ってくれた恩人だからね。君との約束は必ず果たすから。
「どうしたのよ、ステイン? あなたが真っ先に食事にありつかないなんて珍しいじゃない」
失敬な! 僕だってそんな時はあるよ!
かなり失礼なことを言う主に僕が思いっきりそっぽ向いた瞬間、何かに気づいた主が再び大声を上げた。
「ああっ!! あれこれ考えているうちに、もうこんなに日が高くなっている!! そろそろ木を切り出さないと、王都に行く時間に間に合わない!!」
入口から覗く太陽の高さに、慌てて馬小屋から飛び出した主がいつものように斧と魔石を持つと、そのまま森の方に向かって全速力で走っていった。
そんな主の珍しく元気な後ろ姿を見送った僕は、不意に懐かしい記憶が蘇った。
『はい! これ食べて元気になってね!』
そう言って、毎日馬小屋に来ては、綺麗な服が汚れることも気にせず人参をあげてくれた女の子が今の主だったなんて……再会にした時は全く気付かなかったけど、元気になった今の主を見ると確かにあの子だね。
満足げに小さく嘶いた僕は、そのまま天井の窓から覗く青空を見上げた。
エドガス、見ているかな?
君が僕たちの前からいなくなった後、主は君の遺志を引き継いで、君のやっていた仕事をしつつ、君と同じように悪意ある人間達や魔物達から弱い人間達を守っているよ。だから……
空に昇ってしまった恩人のことを思いながら、僕は主が用意してくれたご馳走にありついた。
僕は、周りの人間達に対して冷酷な態度をとっているけど、本当はお人好しでお転婆な心優しい主のことを今日も見守ろうと思う。
泣き疲れて寝てしまった青年を住処に戻した主は、いつものように僕に荷台を引かせながら人間達がたくさんいる場所に行った。
まぁ、驚いたけど。それにあの子、どうしたの?
主の問いに答えるように首を傾げると、僕のことを一瞥した主が小さく微笑むと、そのまま前に視線を戻した。
『あの方は、色々あって全てを奪われてしまったのだよ。地位も家族も友人も婚約者も……挙句の果てには、名前や性別さえも』
性別までも!? それはまた……
主が連れて来た人間の思わぬ境遇に、いつもの速さで荷馬車を引いていた僕は思わず足を止めそうになった。
そんな僕をよそに、主は話を続けた。
『それで、旦那様からの手紙で『あの子を預かって欲しい』と切実に頼まれたから、あの方を預かったのだよ。まぁ、村に連れて来るまでに大勢の邪魔者が襲ってきたが……幸い、全員たいした強さは無かったから、無事にお連れすることが出来たが』
さすが我が主。悪意に満ちた強そうな人間5人に囲まれても、一瞬で全員を倒してしまうことはある。
でも、あの子はいつまで預かるつもりなの?
そんな僕の声が聞えたのか、主は一瞬酷く辛そうな顔をするといつもの朗らかな笑みを浮かべながら僕にお願いをした。
『正直、いつまで預かるか分からない。このまま何もなければ、あの方はこの先一生平民として生きていかないといけないのだから。だからこそ……』
そう言葉を区切った主は、いつになく真剣な眼差しで僕を見た。
『ステイン、今日からあの方は、君の主であり君が守るべき方なんだよ』
守る? 僕が?
『そうだ、ステイン。実はな、君や私がまだあの屋敷にいた頃、幼かった君をあの方がお世話してくれていたんだよ』
『屋敷』って、僕が育った場所か。確かに、あの屋敷には幼かった僕をお世話してくれた女の子がいたけど……って、まさか!?
『おや、ステインも覚えていたようだね。そう、幼い君をお世話したのがあの方なんだよ』
まさか、そんな偶然が……でも、さっき主が口にしていた『僕の守るべき人間』って言葉の意味が分かった。
納得した僕を見て、主はいつものように微笑むと自分が連れて来た青年……今の主を僕に託した。
それから1年後、前の主は僕と今の主を残してこの世を去った。
今の主が泣きながらそのことを言ってきた時は、僕も今の主と一緒に泣いた。
「え~っと……とりあえず、1階にあるベッドやクローゼットとかを全て2階に引き上げないと! 確か、空き部屋があと2部屋あるから、あの部屋の隣の部屋を私の部屋にして、エドガスがいた部屋の隣をメスト様が泊まる部屋に……って、その前に空き部屋の掃除と、あの部屋とエドガスの部屋の鍵を厳重にしないと!!」
馬小屋の中を忙しなくうろうろしながら顔を赤くしたり青くしたりする主に、僕は呆れたように小さく嘶いた。
「ん? ステイン?」
僕の声に気づいた主が急に立ち止まると、不思議そうな顔で首を傾げながら僕の方を見た。
そんな今の主を見て、僕は前の主がかけてくれた最期の言葉を思い出した。
『ステイン、お嬢様のことを頼んだよ』
分かっているよ、前の主……いや、エドガス。君は、森の中に捨てられて息絶えだった幼い僕を拾ってくれた恩人だからね。君との約束は必ず果たすから。
「どうしたのよ、ステイン? あなたが真っ先に食事にありつかないなんて珍しいじゃない」
失敬な! 僕だってそんな時はあるよ!
かなり失礼なことを言う主に僕が思いっきりそっぽ向いた瞬間、何かに気づいた主が再び大声を上げた。
「ああっ!! あれこれ考えているうちに、もうこんなに日が高くなっている!! そろそろ木を切り出さないと、王都に行く時間に間に合わない!!」
入口から覗く太陽の高さに、慌てて馬小屋から飛び出した主がいつものように斧と魔石を持つと、そのまま森の方に向かって全速力で走っていった。
そんな主の珍しく元気な後ろ姿を見送った僕は、不意に懐かしい記憶が蘇った。
『はい! これ食べて元気になってね!』
そう言って、毎日馬小屋に来ては、綺麗な服が汚れることも気にせず人参をあげてくれた女の子が今の主だったなんて……再会にした時は全く気付かなかったけど、元気になった今の主を見ると確かにあの子だね。
満足げに小さく嘶いた僕は、そのまま天井の窓から覗く青空を見上げた。
エドガス、見ているかな?
君が僕たちの前からいなくなった後、主は君の遺志を引き継いで、君のやっていた仕事をしつつ、君と同じように悪意ある人間達や魔物達から弱い人間達を守っているよ。だから……
空に昇ってしまった恩人のことを思いながら、僕は主が用意してくれたご馳走にありついた。
僕は、周りの人間達に対して冷酷な態度をとっているけど、本当はお人好しでお転婆な心優しい主のことを今日も見守ろうと思う。
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