142 / 606
第3章 木こりは距離を縮め、宮廷魔法師は陥れられる
第136話 墓参りをさせてくれないか?
しおりを挟む
「彼なら、6年前に亡くなりました」
「そう、なのか?」
「はい」
「そう、か……」
(この家へ泊まりに来てから随分と経つけれど、カミル以外の住人を見たことが無い。だから、どこか別のところに住処を変えたのだと思ったのだが……)
淡々と恩人が亡くなったことを口にしたカミルは、貴族令嬢のような綺麗な所作でぬるくなったホットミルクを飲む。
それに対し、メストは静かに口を閉じるとそのまま目を伏せ、マグカップに入った黒い液体の中に映る悲しい顔をした自分を見つめる。
(いつもの無表情でカミルは淡々と話しているが……本当は、今の俺みたいに悲しかったに違いない)
小さく下唇を噛んだメストは、ふと何かを思いついてカミルに視線を戻す。
「なぁ、カミル」
「何でしょう?」
「その……彼が、眠っている墓はあるのか?」
「ありますよ、この森の奥に。とても簡素なものですが」
(それも、私の作ったお墓が誰も立ち入らないような場所に)
「そうか。それなら、彼の墓参りをさせてもらってもいいだろうか?」
「えっ?」
(突然、どうしたのかしら?)
メストからの突然のお願いに、音を立てずにマグカップを置いたカミルが僅かに眉を顰める。
そんなカミルに対し、メストは優しく微笑みかける。
「カミルの話を聞いて、『カミルをここまで育ててくれてありがとうございます』その人にお礼がしたくなった。ダメ、だろうか?」
「っ!?」
メストが墓参りに行きたい理由を聞いて、一瞬目を見開いたカミルは、ゆっくりと顔を俯かせると考えを巡らせる。
(どうしよう。いくらお礼が言いたいからって、彼の眠るお墓にメスト様を連れて行っていいの? 今のメスト様にとって、エドガスは赤の他人でしかないのだから行く必要なんてどこにもないのに。でも……)
普段無表情のカミルが、珍しく小さく唸りながら顎に片手を添えて熟考している。
それを見たメストは、申し訳なさそうな顔をしてカミルに話しかける。
「カミル、無理なら無理で構わない。よく考えたら、眠っている彼にとって、俺はただの赤の他人でしかない。そんな奴が、いきなり墓参りに来たら迷惑しかならない。それなのに俺は……俺の配慮が足りず、君を困らせてしまい本当にすまなかった」
「いえ、そういうことでは……」
深く頭を下げたメストに、少しだけ目を伏せたカミルは、一瞬口を噤むと視線を戻し、この短時間で導き出した答えをメストに伝える。
「一先ず、この件は一旦保留させていただいてもよろしいでしょうか? 私もここ最近はお墓参りに行けず、お墓の状態を把握出来ていませんので」
「分かった。ただ、何度も言うが無理はしなくていいからな」
「はい、分かっています」
(とりあえず、エドガスの墓参りの件はメスト様が帰った後に考えよう。ここ最近、エドガスのお墓に行けていないのは本当のことだし)
カミルの返事を聞いて、やっと笑みを浮かべたメストはホットコーヒーを口にする。
それを見て、小さく安堵したカミルはマグカップの中に残っているホットミルクを飲む。
すると、カミルの淡い緑色の瞳に、カミルが懐に入れている銀色の懐中時計が偶然映った。
(そう言えば彼、ほぼ毎週のように泊りに来ているけど……婚約者とは上手くいっているのかしら? まぁ、今の私には関係ないけど。でもまぁ、あの婚約者、自分に対しての束縛は嫌いなくせに、相手に対してはとにかく束縛したがるのよね)
そんなことを思いつつ、カミルは胸の奥からこみ上げてきたどす黒い感情を必死に抑える。
そして、美味しそうにホットコーヒーを飲んでいるメストに視線を移した。
「そう、なのか?」
「はい」
「そう、か……」
(この家へ泊まりに来てから随分と経つけれど、カミル以外の住人を見たことが無い。だから、どこか別のところに住処を変えたのだと思ったのだが……)
淡々と恩人が亡くなったことを口にしたカミルは、貴族令嬢のような綺麗な所作でぬるくなったホットミルクを飲む。
それに対し、メストは静かに口を閉じるとそのまま目を伏せ、マグカップに入った黒い液体の中に映る悲しい顔をした自分を見つめる。
(いつもの無表情でカミルは淡々と話しているが……本当は、今の俺みたいに悲しかったに違いない)
小さく下唇を噛んだメストは、ふと何かを思いついてカミルに視線を戻す。
「なぁ、カミル」
「何でしょう?」
「その……彼が、眠っている墓はあるのか?」
「ありますよ、この森の奥に。とても簡素なものですが」
(それも、私の作ったお墓が誰も立ち入らないような場所に)
「そうか。それなら、彼の墓参りをさせてもらってもいいだろうか?」
「えっ?」
(突然、どうしたのかしら?)
メストからの突然のお願いに、音を立てずにマグカップを置いたカミルが僅かに眉を顰める。
そんなカミルに対し、メストは優しく微笑みかける。
「カミルの話を聞いて、『カミルをここまで育ててくれてありがとうございます』その人にお礼がしたくなった。ダメ、だろうか?」
「っ!?」
メストが墓参りに行きたい理由を聞いて、一瞬目を見開いたカミルは、ゆっくりと顔を俯かせると考えを巡らせる。
(どうしよう。いくらお礼が言いたいからって、彼の眠るお墓にメスト様を連れて行っていいの? 今のメスト様にとって、エドガスは赤の他人でしかないのだから行く必要なんてどこにもないのに。でも……)
普段無表情のカミルが、珍しく小さく唸りながら顎に片手を添えて熟考している。
それを見たメストは、申し訳なさそうな顔をしてカミルに話しかける。
「カミル、無理なら無理で構わない。よく考えたら、眠っている彼にとって、俺はただの赤の他人でしかない。そんな奴が、いきなり墓参りに来たら迷惑しかならない。それなのに俺は……俺の配慮が足りず、君を困らせてしまい本当にすまなかった」
「いえ、そういうことでは……」
深く頭を下げたメストに、少しだけ目を伏せたカミルは、一瞬口を噤むと視線を戻し、この短時間で導き出した答えをメストに伝える。
「一先ず、この件は一旦保留させていただいてもよろしいでしょうか? 私もここ最近はお墓参りに行けず、お墓の状態を把握出来ていませんので」
「分かった。ただ、何度も言うが無理はしなくていいからな」
「はい、分かっています」
(とりあえず、エドガスの墓参りの件はメスト様が帰った後に考えよう。ここ最近、エドガスのお墓に行けていないのは本当のことだし)
カミルの返事を聞いて、やっと笑みを浮かべたメストはホットコーヒーを口にする。
それを見て、小さく安堵したカミルはマグカップの中に残っているホットミルクを飲む。
すると、カミルの淡い緑色の瞳に、カミルが懐に入れている銀色の懐中時計が偶然映った。
(そう言えば彼、ほぼ毎週のように泊りに来ているけど……婚約者とは上手くいっているのかしら? まぁ、今の私には関係ないけど。でもまぁ、あの婚約者、自分に対しての束縛は嫌いなくせに、相手に対してはとにかく束縛したがるのよね)
そんなことを思いつつ、カミルは胸の奥からこみ上げてきたどす黒い感情を必死に抑える。
そして、美味しそうにホットコーヒーを飲んでいるメストに視線を移した。
6
あなたにおすすめの小説
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~
咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】
あらすじ
「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」
聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。
彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。
しかし、エリーナはめげなかった。
実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ!
北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。
すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。
「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」
とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。
以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。
最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる