木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第4章 記憶と思惑のフィアンツ帝国

第206話 マーザス・アラウェイ

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「ここね」
「あぁ、立て札にも『副室長 マーザス・アラウェイ』と書かれているから」


 部屋にかかっていた立て札と地図を見比べたカトレアは、一際立派な木製の扉の前に立っていた。

 (帝国の天才魔法師。一体、どんな人物か楽しみにね)

 小さく笑みを浮かべたカトレアは、隣にいたラピスとアイコンタクトを交わすと、扉をノックしようとした。
 その時、部屋の中から男の声が聞えてきた。


「あぁ、入って良いよ。君たちの来訪は、君たちがに分かったから」
「「っ!?」」


 男に言葉に、一瞬動きを止めたカトレアは、小さく息を吐くとドアノブに手をかけた。


「……失礼いたします」


 ゆっくりと扉を開けると、そこには茶色を基調として整理整頓がきちんとされた、落ち着いた雰囲気の空間が広がっていた。


 (部屋の広さは、私や団長が使っている執務室とあまり変わらないわね。でも、部屋の両端を占領している本棚のお陰で、何故だか狭く感じさせる)

 入ってすぐ目に入った、様々な書物が収納された本棚に、カトレアが思わず目を奪われていると、部屋の奥から男性の声が聞えてきた。


「やぁ、よく来たね」


 男性から声をかけられたカトレアとラピスは、声が聞えた方にゆっくりと振り向いた。
 その視線の先には、ここに来るまでにすれ違った研究者達と同じ白衣を着た男が、部屋の奥にある自席からカトレアとラピスに微笑みかけていた。

 (あの方が、帝国の天才魔法師『マーザス・アラウェイ』)

 細身の長身で、鮮やかなオレンジ色の長い髪を一纏めにし、女性を虜にしそうな整った顔立ちをしたマーザスに対し、カトレアとラピスは静かに頭を下げた。


「初めまして、私はペトロート王国宮廷魔法師カトレア・ティブリーと申します」
「自分は、ペトロート王国近衛騎士団ラピス・フォルダンです。今回は、カトレア嬢の護衛として同行させていただいております」
「これはこれは、どうもご丁寧に」


 礼儀正しい挨拶をしたカトレアとラピスに、マーザスは革張りの椅子から立ち上がると2人がいる入口まで歩いてきた。
 そして、2人の前で立ち止まったマーザスは、右手を左胸に軽く押し当てると、軽く頭を下げた。


「私が、フィアンツ帝国宮廷魔法師のマーザス・アラウェイです。一応、帝国立魔法研究所本部の副所長と筆頭宮廷魔法師を兼任しているよ」
「筆頭宮廷魔法師?」


 (筆頭宮廷魔法師って何? 王国で言うところの宮廷魔法師団長のことなのかしら?)

 聞きなれない肩書にカトレアが思わず小首を傾げると、それを見たマーザスが楽しそうな笑みを浮かべた。


「そう。まぁ、簡単に言えば皇族専属の宮廷魔法師のことだよ」
「あっ、そうなのですね。初めて知りました」


 (皇族専属の宮廷魔法師。帝国には、そのような役職があるのね)

 マーザスの説明に納得したカトレアを見て、マーザスは何かを納得したように深く頷いた。


「あぁ、そう言えば、君たちの国では、僕やフィアンツ帝国のことは何も知らないことになっているんだね?」
「あっ、はい……大変申し訳ないことなのですが」
「良いんだよ。別に、君たちが悪いわけじゃないみたいだし。そもそも……」


 カトレアに微笑みかけたマーザスは、そっとカトレアに顔を近づけると囁くように呟いた。


「君と僕、よ」
「えっ?」


 (私とこの方が初対面じゃない? 一体、どこで会ったというの?)

 思わず眉を顰めたカトレアに、マーザスは笑みを浮かべたままカトレアから離れた。


「でも、今の君に言っても無駄か。ごめん、今の言ったこと忘れて。そうじゃないと、僕がそこにいる怖い騎士に切り殺されそうになるから」
「えっ!?」


 後ろにいたラピスの険しい表情を見たカトレアは、内心で冷や汗を掻きながら嫉妬心剝き出しの婚約者を宥めた。

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