木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第264話 昼間の魔物討伐(後編)

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 3人の騎士と1人の宮廷魔法師が前衛と後衛に分かれて魔物達を魔石に変えていた頃、少し離れた場所で魔物達と対峙していたジルとザールも前衛と後衛に分かれて魔物達を屠っていた。


「おりゃあ!」


 襲い掛かってくる魔物達の攻撃を難なく躱し、使い込まれた銀色の大剣で倒していくザール。
 そんな彼の背中を見て、後衛のジルが大きく溜息をつく。


「全く、少しはロスペルやフリージア嬢を見習って品のある戦い方をしたらどうだい?」


 (あの2人なら、もう少しスマートな戦い方をするよ)


「でしたら無理です。何せ俺は、あの2人と違ってこういう野蛮な戦い方しか出来ないんですから!」


 大柄な魔物を一刀両断した直後、周辺にいた魔物達がザールに向かって赤い魔法陣をと展開する。


「ハァ、また魔法かよ」


 大きく溜息をついたザールは、大剣に透明な魔力を纏わせると地面に向かって思い切り突き立てた。


「《範囲干渉》!」


 声を上げて透明な魔力を地面に流した直後、魔物達が展開していた魔法陣が一斉に消えた。


「チッ! やっぱりこういう魔力操作はフリージアの方が上手いな。俺だと、どうしても大雑把に魔力を使ってしまう」
「そうだよ。そのせいで僕のほうに飛びしているんだからね」
「分かっていますよ、殿下」


 (全く、本当に分かっているのかな? 僕の親友は)

 小さく溜息をついたジルをよそに、足元に纏わせていた魔力を弾け飛ばしたザールは、怯んでいる魔物達との距離を詰めると一気に仕留めた。
 そんなザールに僅かに笑みを浮かべたジルは、近づいてくる魔物を火属性の中級魔法で倒すと、そのままザールのもとに近づいた。


「それにしても、君の動きは大胆にしては一切無駄がないね。回避技もそうだけど、剣裁きも洗練されていて見ていて清々しいよ」
「お褒めいただき光栄です」
「それ、本気で言っている?」
「至って本気ですが?」
「そう」


 再び火属性の中級魔法を放ったジルからの誉め言葉に、兜の下で苦笑いを浮かべたザールは大剣に視線を向けた。


「まぁ、不器用な俺が唯一誇れるものだからな」


『リュシアン。確かにお前は、ロスペルやフリージアに比べて魔力操作が苦手だ。だが、日々の鍛錬のお陰で、剣裁きや回避技は力強いながらも動きに無駄がなく洗練されている!』
『っ! 本当か! 親父!』
『あぁ、本当だ!』


 (そう言うと、鍛錬に付き合ってくれた親父が嬉しそうな顔で俺の頭を優しく撫でた)


『リュシアン、俺は愚直に努力するお前が俺の息子であることが誇らしいぞ!』


 (親父と同じ魔法が使えると知ったあの日から、俺は毎日のように剣を振ったり、回避技を身につけたりして己を鍛えた。それが、跡取り息子の俺に出来る数少ないことの1つだと思ったから)

 かつて父親に褒められたことを思い出したザールは、大きく息を吐くと眼前にいる敵を睨みつける。


「俺は親父のような繊細かつ的確な剣裁きも魔力操作も出来ない。だが……!」


 剣を強く握ったザールは、足元に透明な魔力を纏わせる。

 (親父に褒められたこの大胆かつ洗練された剣裁きや回避技があれば、俺は人間だろうが魔物だろうが負けない!)


「はあああああっ!!」


 足元の魔力を弾け飛ばしたザールは、再び魔物達との距離を詰めると大剣を片手剣のように操り一気に屠る。
 そして、眼前まで迫った魔物が魔法を放つと、すぐさま大剣に透明な魔力を纏わせ、飛んできた魔法を打ち消した。

 (足や剣に魔力を纏わせ、その魔力を弾け飛ばして距離を詰めたり、飛んできた魔法を打ち消したりする。このシンプルな戦い方こそ、魔力操作が苦手な俺に合う戦い方だ!)


「おりゃあぁ!」


 流れるような回避技と隙を与えない剣裁きで魔物達を倒していくザールを見て、ジルは呆れたように笑うとザールに魔法を撃った魔物に火属性の中級魔法を撃った。


「でもまぁ、僕としては、不器用だけど底抜けに明るく、領民や家族や仲間のことを誰よりも大切にする君だから友達になろうと思ったんだけどね」


 (だからこそ、君も僕は今の状況を許せないでいるんだけど)

 最後の魔物を仕留めたザールに、ジルは笑みを潜めると彼の本当の名前を呼ぶ。


「リュシアン・サザランス」
「何ですか?……っ!?」


 大剣を鞘に収めたザールが、気だるげにジルの方を見ると思わず息を呑む。
 なぜなら、侯爵領の屋敷にいる執事ではなく、今のペトロート王国で王太子殿下がいたからだ。


「チャンスはもうすぐで来る。その時は……」


 ザールの方に近づいてきた王太子が、そっと手を差し出す。


「必ず取り戻そう。君の大切なものも、僕の大切なものの」
「っ!」


 兜の下で一瞬目を見開いた男は、静かに背を正して差し出された手を強く握ると深く頷く。


「えぇ、もちろんです」


『『リュシアン』』
『リュシアン兄さん』
『リュシアン兄様!』


 家族のことが脳裏を過り、短い返事をしたザールの……いや、リュシアンの声には、筆舌に尽くしがたい怒りが籠っていた。
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