木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第268話 歪んだ魔法陣

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「それじゃあ、使も済んだことだし、僕たちもを果たしに行こうか」
「はい、ジル様」
「リュシアン、ここには誰もいないのだから元の呼び名で良いし、兜も取っていいよ」
「かしこまりました、殿下」


 王都に戻ったメスト達を見届けた後、兜を取った護衛騎士は銀色の短髪をかき上げて大きく息を吐くと、執事と共に日光が程よく差し込む森林の中を歩き始めた。


「リュシアン、さっきは止められなくてすまなかったね」
「いえ、あれは私も予想外でしたから。むしろ、殿下がルベル団長を止めていただいたお陰であの程度で済んだのです」
「そう、それなら口を挟んだ甲斐があったってものだけど」


 後ろを歩く執事ジル……ジルベールを一瞥した騎士ザール……リュシアンは小さく拳を握る。

 (まさか、最後でメストが食い下がってくるとは思わなかった)


『ザール、カミルという平民を知っているか?』


 メストの言葉を思い出し、リュシアンが僅かに顔を歪めると、後ろを歩いていたジルベールが辺り一帯を見回した。


「それにしても、あの頭の足りないリアンが『歪んだ魔法陣』のことを知っていたなんて」


『「ギャハハハッ! ここは、がある森だからな! 魔力が集まる夜でなくても簡単に魔物の大群を呼ぶことが出来るというものだ!」


 ジルベールの辛辣な言葉で下卑た笑みを浮かべていたリアンを思い出したリュシアンは、思い切り眉を顰めると握っていた拳に力を入れる。


「あれは、恐らくあのクズ親の改竄魔法の影響でしょう」
「ほう? あの卑怯者がバカ息子の頭に『歪んだ魔法陣』についての知識を入れ込んだと?」
「……殿下、誰もいないとはいえ、この国では一応宰相閣下とその息子なのですから、それ以上侮辱するような言い方はお控えください」
「でも、この国で幽霊扱いされている僕は何を言っても良いでしょ?」


 楽しそうに笑うジルベールに、呆れたように溜息をついたリュシアンが話を続ける。


「知識といっても『召喚魔法で召喚した魔物に咆哮させれば、【歪んだ魔法陣】と呼ばれるものが更なる力を与えてくれる』程度のものでしょう」
「つまり、リアンは『歪んだ魔法陣』というものが一体何なのか知らないということ?」
「口ぶりとあの性格からしてそうではないかと」
「なるほど」


 (けど、まさかその単語を口にするとは、さすがのノルベルトも予想出来ていなかっただろうね)

 息子の頭の出来の悪さが把握出来なかったノルベルトに、ジルベールが少しだけ苦笑を漏らすと、淡い緑色の瞳で目視しながら辺りを警戒して進んでいたリュシアンの足が止まった。


「殿下、目的の場所に到着しました」
「っ!」


 リュシアンの隣に立ったジルベールは、森を抜けた先にあった崖の下にある、禍々しい黒い魔力を放っている巨大な魔法陣に目を見開いた。



「まさか、ここまでひどくなっていたとはね」
「えぇ、リアンが呼び出した魔物4体の咆哮だけで大群が出てきたのも頷けますよ」


 召喚魔法で呼び出された魔物が咆哮で仲間を呼んだ場合、最も活動が活発になる夜だったとしても最大で10体程度である。
 だが、リアンが呼び出した魔物4体が咆哮で呼んだ魔物の数は、実に100体を超えていた。

 (夜行性であるはずの魔物が、昼間の森に大群で押し寄せてきた時はおかしいを思っていたが……)


「これは、いち早く我が父に知らせるべきですね」
「あぁ、奴が計画を実行する建国祭までは何とか持ってくれると思うけど」


 (贖罪とはいえ、この国のためを想って設置された魔法陣が、こんな形で悪用されるとは思いも寄らなかっただろう)

 国のことを考えて設置を提案したインベック前伯爵のことを思い、紺碧の瞳を鋭くしたジルベールは、悔しそうに拳を握ると魔法陣に向かって手を伸ばす。

 紺碧の瞳を鋭くしたジルベールは、悔しそうに拳を握ると魔法陣に向かって手を伸ばす。


「殿下、一体何を?」
「なに、父上の光属性の魔力をほんの少しだけ増やすだけさ」


 金色の魔法陣を展開したジルベールは、黒い魔法陣に向かって魔力を送る。
 すると、黒い魔法陣が僅かに金色に光った。


「殿下……」


 悲しそうな目を向けるリュシアンに、小さく息を吐いたジルベールが手を下ろす。


「今は幽霊扱いされているけど、いずれ僕は父上の後を継いでこの国を引っ張る立場になる。だからこそ、僕はこの国の民を見捨てるようなことはしたくない」


 (まずは、この国で好き勝手しているノルベルトを止めないといけない。けどその前に、ノルベルトのせいで魔法陣が暴走し、暴走した魔法陣から出てきた魔物達がこの国の民を傷つけるようなことがあってはならない)


『ジルベール、我々王族が果たすべき使命は、この国に住む者全てが自分らしく生きていけるようにすることだ。そのことを努々忘れてはならないぞ』


 (分かっています、父上。私は、この国の王太子殿下として、王族としての使命を全うします)


 幼い頃から言われて続けていた言葉を思い出し、拳を強く握ったジルベールはもう一度だけ光属性の魔力を注ぐと深く息を吐いた。
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