木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第270話 騎士の帰還(前編)

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 森であの日の真実を目の当たりした翌日。
 執務室で書類と格闘していたフェビルのもとに来訪者が現れる。


 コンコンコン



「入れ」
「失礼致します」
「っ!」


 (この声、もしかしてラピスか!)

 聞き覚えのある部下の声に、フェビルが勢い良く顔を上げると、帝国に護衛として派遣していた部下が入ってきた。


「ラピス、戻ったのか」
「はい。ラピス・フォルダン、ただいま帝国から帰還いたしました」


 騎士らしい凛々しい表情で敬礼をする部下に、持っていたペンを下ろしたフェビルは安堵の笑みを浮かべる。


「それでは他の者達も?」
「はい、護衛対象である研究者達や……下級文官はもちろんのこと、私と同じく護衛の任についていた先輩達や宮廷魔法師達も全員無事に帰還しております」
「ということは、お前個人に与えた任務も無事に完遂出来たということだな?」
「はい、団長」
「そうか、それなら良かった」


 (一方的に国交を断絶して3年。正直、どうなるかと思ったが……全員無事に帰還したのだな)

 ラピスからの報告を聞き、フェビルは安堵の溜息をつく。


「では、出発前に行った通り、今日は報告書を提出だけでいい。明日は休みとするのでゆっくり休んで……」
「団長」
「何だ?」


 上司の言葉を遮ったラピスは、鎧から手首を出すとそのままフェビルに見せた。


「少し、お時間いただいてもよろしいでしょうか?」
「っ!?」


 ラピスが見せた手首に視線を向けた瞬間、安堵の笑みを浮かべていた一瞬にしてフェビルの表情が強張る。

 (お前、それって……)

 言葉を失ったフェビルの視線の先には、自分と同じ銀色に魔法文字のようなものが刻まれた腕輪があった。




「団長、少しお時間いただけますね?」
「あっ、あぁ……だがその前に」
「?」


 ラピスの言葉で正気に戻ったフェビルは、小さく溜息をつくと引き出しから四角い箱の魔道具を取り出して魔力を流す。
 すると、部屋全体が一瞬で薄い膜に覆われた。


「団長、その魔道具って……」
「あぁ、認識阻害の魔法が付与された魔道具だ」
「ある人……」


 フェビルの言葉にラピスは目を細める。

 (カトレアがマーザス殿に託された魔道具と同じ魔道具だ。ということは、やはりフェビル団長は本当に……)


『王国には君たちと同じく、銀色の腕輪を持っている者が2人いる。その2人は、私の協力者だ』
『それは一体、誰なのですか?』
『1人はヴィルマン侯爵。そして、もう1人は……フェビル団長だ』
『っ!』


 帝国から王国に帰還する道中、レクシャからこれまでの話を聞いていたカトレアとラピスは、メストの父とフェビルがレクシャに協力者していることを知った。

 そのことを思い出し、見覚えのある魔道具を目の当たりにしたラピスは思わず目を見開く。
 すると、ラピスの驚いた表情を見たフェビルが小さく溜息をつくと両手を組んで顎を乗せた。


「さて、準備は整ったことだし聞こうじゃないか」
「っ!」


 (こんな怖い顔をしたフェビル団長、初めて見たかもしれない)

 射貫くような目でラピスを見たフェビルが、地を這うような低い声で問い質す。


「お前、それはどこで手に入れた?」
「…………」


 (こうなることはレクシャ様から話を聞いていたから分かっていた。だから、俺も毅然とした態度で答えないと)


『あの国は奴の改竄魔法に落ちた後、私はフェビル君のもとを秘密裏に訪ねた。その時に彼は私の作戦に協力すると申し出てくれた』
『団長が?』
『そうだ。だから、君が腕輪を持っていることを知れば彼は必ず警戒するだろう。何せ、彼は家族と部下達を守りたくて私に協力してくれたのだから』


 険しい顔をするフェビルを前に、腕輪をしていない手で拳を作ったラピスは、毅然とした態度で答える。


「切れ者宰相であるレクシャ・サザランス殿からいただきました」
「おまっ、どうしてその名前を知っているんだ!?」


 (帝国に行く前、あいつはあの方のことを『マクシェル殿』と言っていたはずだ)

 思わず立ち上がったフェビルに、ラピスは銀色の腕輪を鎧の中に隠すと帝国でのことを話した。
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