木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第5章 止まっていた運命が動き出す

第320話 メストとラピス(前編)

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「うっ、ううっ……」


 カミルに気絶させられたメストが、ゆっくりと目を開ける。
 そこには、見慣れない天井が目に入った。

 (ここは、一体……)


「気がつきましたか?」
「ラピス?」


 ゆっくりと頭を横に向けると、そこには凛々しい表情でメストを見つめるラピスがいた。


「ラピス、ここは……?」
「俺の実家の客間です。あの場所から近かったので、運んできてついでに治療もしました」
「そう、か。面倒をかけたな。すまなかった」
「いえ。それよりも、起き上がれますか? 起き上がれるのでしたら、何か食べ物を持って来させます」
「あっ、あぁ……」


 ラピスが使用人に指示している間、ゆっくりと起き上がったメストは、倒れる前の記憶を思い出す。

 (確か、俺は王家直属の近衛騎士達を無力化した後、ラピスと合流して、それから……)


「隊長、とりあえず果物で良かったで……」
「なぁ、ラピス」
「何ですか?」
「どうして、俺が倒れた?」
「っ!」


 (もしかして隊長、覚えていないのか?)

 メストの問いに小さく肩を震わせたラピスが深く息を吐くと、人払いをしてベッドサイドにある椅子に腰かけた。


「隊長、どこまで覚えていますか?」
「えっと、騎士を無力化した後、お前が来たところまでは」
「やはり、そうでしたか」
「えっ?」


 顔を顰めたメストに、膝の上で拳を握ったラピスはメストがダリアの魅了魔法にかかり、操られたメストをラピスが無力化したことを淡々と説明した。


「……そうか、足を引っ張るような真似をして本当にすまなかった」
「いえ、自分も隊長に対して八つ当たりのようなことをしてしまいましたので」


 潔く頭を下げたメストを見て、対峙した時のことを思い出したラピスは気まずそうに視線を逸らせる。
 そんな彼を不思議に思っていると、カミルの顔が頭を過った。


「なぁ、ラピス。カミルには何も無かったか?」


 すると、ラピスの表情が一瞬強張った。


「ラピス、もしかして俺、カミルに……」


 (カミルを助けに行ったはずの俺が、カミルを傷つけてしまったのでは!?)

 みるみると表情が青ざめるメストを見て、ラピスが慌てて首を横に振った。


「い、いえ! フリ……あの平民には一切危害は加えられる前に私の方でその……隊長にかかっていた魅了魔法を解除しましたので」
「そ、そうか」


 ラピスの言葉に安堵したメストは、ラピスがカミルの本当の名前を言おうとしたのに気づかない。
 そんな彼は、カミルの見慣れた無表情を思い出し、小さく拳を握った。


「次に会った時、カミルにも謝らないと」


 (魅了魔法で操られていた間の記憶は無く、ラピスが止めてくれたとはいえ、カミルにも剣を向けてしまったからな)

 胸を巣食う罪悪感に小さく下唇を噛むと、不意に助太刀に来た時のことを思い出し、下がっていた視線を上げた。

「そう言えばお前、いつの間にカミルと親しくなったんだな?」
「えっ、えぇ、まぁ……そうですね」
「ん?」


 (本当のことは言えないし、かといってあからさまな嘘をついたら後でバレるのは分かっているから……どうしたものか)


「どうしたラピス? 急に黙って」
「い、いえ、その……あっ、そうだ。隊長、1つ報告をし忘れていたことがありました」
「何だ?」


 (なぜか話をはぐらかされた気がするが……まぁ、それは後で話をしよう)

 ラピスの挙動不審さに違和感を覚えつつ、メストは上司としてラピスの話に耳を傾ける。


「実は隊長を無力化した後、団長が来たのです」
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