木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第6章 待ち望んだ再会と星降る夜の語らい

第342話 逃れた先で

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 ノルベルトの刺客によって、屋敷が燃えるのを荷台から見ていたフリージアは、1人で大泣きし、それをエドガスとステインは黙って聞いていた。
 その後、エドガスに連れられたフリージアは、リアスタ村近くの森の中にあるウッドハウスに身を寄せることとなる。


「エドガスが住んでいた家に逃れた後、私は用意された部屋で大切なものを奪われた悲しみで暮れて泣いて、泣いて……涙が枯れた後は数日間塞ぎ込んでいたわ」


 その部屋はでは自室として使っている部屋だった。
 そこでフリージアは、はしたないと思いつつも、屋敷から出た服のまま1人用の簡素なベッドにダイブし、涙が枯れるまで泣きはらした。
 そして、涙が出なくなった頃、今度は誰とも会いたくないと思ったフリージアは、部屋から出ることもなく、魂の抜けた抜け殻のようにただ窓から見える空を見つめた。


「そんな中、エドガスはずっと私のことを気にかけてくれたわ。何もかも失って絶望している私に温かい食事を用意してくれて、色々と世話をしてくれたわ」


『お嬢様、お食事が出来ましたのでこちらに置いておきますね』
『お嬢様、お湯を置いておきますので体を拭かれてください』
『お嬢様、洗濯をしますのでお召し物を外に出してください』
『お嬢様、僭越ながら私がお嬢様お1人でも着替えられるお召し物を見繕わせていただき、クローゼットと棚に仕舞わせていただきました。平民が着る簡素な服ですのでご不快になるかと思いますが、我慢していただき、袖を通していただきたいです』


 返事が無いと分かりつつも、エドガスは元主から預かった大切な人の世話を淡々とこなした。


「エドガスには本当に申し訳ないことをしたと心の底から思っている。でも、帰る場所を失って家族と離れ離れになったばかりの私には、彼の優しさを煩わしく思ってしまったの」
「それでも、エドガス様はフリージアの世話を止めなかった。そうよね?」
「えぇ、そのお陰で今があるのだけど」


 照れくさそうに笑ったフリージアは、この家に来たばかりの自分の変化を思い返す。


『どうして、どうしてエドガスは私のことを気に掛けるの?』


 何もかも失い、生きる希望を失いかけていた当時のフリージアには、決まった時間に必ず来るエドガスの優しさがうっとうしく思ってしまった。
 だが、エドガスが献身的に世話をした甲斐あってか、茫然自失だったフリージアは少しずつ元気を取り戻していく。
 そして……


「ウッドハウスに来て5日後。少しだけ元気を取り戻した私は、ようやく部屋を出たの」
「その時のエドガス様、さぞかし驚いたでしょ?」
「それはもちろん、泣いて喜んでいたわ」


『エドガス、おはよう』
『お、お嬢様! おはようございます!』


 荷台から連れ出した時を最後に、フリージアの顔を見なかったエドガスは、やつれながらも部屋から出たフリージアを見て、喜びのあまりその場で崩れ落ちて泣いた。


「エドガスが一頻り泣いた後、彼が用意してくれた食事をいただいたわ」


『元気になったお嬢様とこうして一緒に食事をとる日が来るなんて思いもよりませんでした』
『それは私もよ、エドガス。心配をかけてしまいごめんなさい』
『良いのです。少しでもお嬢様が立ち直ってくださるのなら、それで構わないのです』


 優しく微笑みかけるエドガスに、枯れてしまったと思っていた涙がフリージアの頬を静かに伝った。


「そして、食事を終えた後、彼から正体を隠すように懇願されたの」


『良いですか、お嬢様。旦那様から既に聞いているかと思いますが、ノルベルトに改竄されたこの国にあなた様のお知り合いはいません。ですので、あなた様には今日から、正体を偽って生活をしていただきます。もちろん、自ら正体を明かすことをしてはなりません』
『……分かっているわ』


 苦悶の表情をしたエドガスから優しく手を取られたフリージアは、静かに俯くと整った眉を顰めた。


『それでも、どうして……どうしてこうなってしまったの?』


 (私たちが一体何をしたっていうの? どうして私は家族と離れないといけないの?)

 家族と離れる時にも口にした言葉に、彼女の手を優しく包み込んだエドガスがより苦しそうな表情で口を開く


『それは、お嬢様が一番分かっているのではありませんか?』
『エド、ガス……』


 大好きな家族や使用人達に、頼れる友人に、愛しい婚約者。
 貴族令嬢としてはいささかお転婆でありながらも、宰相家令嬢として他の貴族令嬢達のお手本となるような完璧な振る舞いをし、貴族や領民から親しまれていた彼女は、温かい人達に囲まれ、何不自由ない生活を過ごしていたフリージア。

 そんな貴族令嬢としての未来が明るかった彼女にとって、家族と離れ離れになり、大切な場所も無くなり、正体を隠し、平民として過ごすことになる今をすぐに受け入れられなかった。

 エドガスの言葉を聞いて、大粒の涙を流した当時12歳のフリージア。
 それを真正面から見ていたエドガスは、彼女の震えた体を強く抱きしめ、ただただ慰めることしか出来なかった。

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