木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第417話 連れて行きなさい!(後編)

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 フリージアの気迫に村人達が怖気づく中、騎士達を率いていた隊長格の男が声を荒げる。


「う、うるさい! 下民如きが! 我ら騎士に命令するんじゃない!」
「『下民下民』って……そうやって、いつまで平民を虐げているつもりよ!」
「「「「っ!!」」」」


 (彼らが平民を下に見ているのは、ノルベルトの改竄魔法のせいだと分かっている。だから、この人達を怒鳴っても無駄。でも……!)


 300年前、帝国に戦を吹っ掛ける前のペトロート王国は、王族や貴族は皆、ノルベルトのような選民思想を持っていて、当たり前のように平民を虐げていた。
 だが、帝国に敗れた後、その考えが間違いであったと気づいた当時の王族や貴族達は、猛省して平民達に対して謝罪をした。

 そして、長い月日をかけて考えを改めて行動した結果、レクシャが宰相をして時には、平民も貴族も互いの立場を理解し、尊重し、手を取り合って国を盛り立てていた。

 しかし、ノルベルトの改竄魔法によって、かつての選民思想が貴族に植え付けられ、再び貴族が平民を虐げる国になってしまった。


「あなた達は忘れているでしょうけど、あなた達のような選民思想を持った貴族のせいで、この国は一度滅びかけた! だから、王族や貴族は平民のことを『自分達と役割の異なる国民』として考えを改めて虐げることを止めたのよ!」
「黙れ!! 下民風情が知ったような口を聞くんじゃない!!」


 声を荒げた隊長格の男は、威勢よく掲げていた剣をフリージアに向ける。


「我ら、創造神ノルベルト・インベック様と、女神ダリア・インベック様の敬虔な信徒として、志を同じくするリアスタ村の村人達と共に、国の害悪である貴様をこの手で処刑する!!」
「っ!」


 (やっぱり、言っても無駄みたいね。というかノルベルト、『自分のことを創造神と呼べ』って皆の記憶を改竄したのね。烏滸がましいにも程があるわ)

 ノルベルトの暴走ぶりに内心呆れつつ、全てを奪われた時以来の胸を巣食うような絶望感に、小さく下唇を噛んだフリージアはレイピアの柄を握って静かに構える。


「皆の者、下民を殺せ――――!!!!」
「「「「「「「お――――――――!!!!!!」」」」」」


 隊長格の男の高らかな声と、得物を持った騎士達や村人達の雄叫びが夜も明けない森に響き渡った瞬間、1人のワケアリ平民に殺意を持った多くの人間達が襲い掛かった。


「全く、迎えを寄こすなら、きちんと主人のいうことを聞く犬を連れてきてほしかったわね!」


 殺意を持った騎士達や村人達の瞳は、僅かにハイライトを失っている、自分の行いが間違っていないと信じている狂信者のものだった。

 (彼らの殺意は植え付けられた殺意。だから……!)

 彼らの瞳を見て、胸を痛めたフリージアは、襲い掛かる騎士達や村人達の攻撃を鞘からレイピアを抜かずに全て躱す。


「貴様! 我らの攻撃を躱すなど卑怯だぞ!」
「卑怯? 無抵抗の人間に切りかかる方が卑怯ではなくて?」
「貴様――!!」


 いつものワケアリ平民ならば、目に怒りの炎を灯らせ、感情のまま刃を振るった騎士に対して、無表情で冷たい言葉を淡々とした口調で浴びせていただろう。

 けれど今、感情が振り切れたフリージアは、ワケアリ平民として取り繕うことを止めてからの攻撃を躱しながら嘲笑う。

 すると、遠くから風属性の魔法が付与された矢が無数に飛んできた。

 (これはさすがに、レイピアで対処しないといけないわね)

 矢に魔法が付与されていると見抜いたフリージアは、切りかかってきた村人の攻撃を躱すとなるべく距離を取る。
 そして、レイピアを引き抜くと同時に透明な魔力を纏わせ、飛んできた矢に向かって魔力を放つ。

 すると、矢に付与されていた風魔法は打ち消され、勢いを失った無数の矢はフリージアに届くことも無いまま、重力に従って地面に落ちた。


「貴様! 何をした!!」
「何って、飛んできた矢の勢いを落としただけど?」
「おのれ……騎士殺しのくせに我らに歯向かうなどなんと生意気な! さっさと死ねばいいのに!」
「お生憎様、私はあなた達に殺されるつもりはないわよ」
「なにっ!」


 (私には家族との……そして、友人との約束がある。だから、簡単に死ぬわけにはいかない)


「それに、あなた達を殺すつもりもないわ」


 (私はこの国の宰相家令嬢。だから、無暗に国民を殺めたくない。あの男に操られているのなら尚更)

 小さく呟いたフリージアは、隊長格の男に向かってゆっくりとレイピアの切っ先を向ける。


「これ以上やっても時間の無駄なのは、さすがのあなた様でも分かるでしょ?」
「ぐっ!」
「だったら、さっさと私をコロッセオに連れて行きなさい。さもないと、あなた達の女神様もご立腹になるんじゃない?」
「うぐっ!」


 『女神』を引き合いに出して挑戦的な笑みを浮かべるフリージアに、苦々しい顔をした隊長格の男は部下に指示を出す。

 その後、隊長格の男から罪人が付ける重い手枷を付けさせられたフリージアは、騎士達に引っ張られるまま森から出ると、すぐ近くに停めてあったおんぼろ馬車に乗せらせた。

 そして、フリージアを乗せた馬車は、騎士達や村人達が先導されながらコロッセオに向かって走り始めた。
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