木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第437話 行ってきなさい

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「あれは!」


 (まさか、本当に実行するなんて!)

 レクシャから『もしかすると、フリージアの家が狙われるかもしれない』と言われていたラピスは、カトレアが指差した先の木々の隙間から見えてきた灰色の煙を見て、みるみる顔を青ざめさせる。

 すると、眉を顰めたライドが騎士達に指示を出すとカトレアとラピスに駆け寄る。


「カトレア嬢、どうかされたか?」
「実は……」


 そう言って、おずおずと煙の見えた方を差すと目を見開いた。


「山火事か! すまない、魔物討伐に集中しすぎて見落としてしまった! ありがとう、カトレア嬢。今からそちら方に向かって……」
「いや、ここはカトレア君とラピス君に任せても良いんじゃないかな」
「マーザス殿」


 のんびりとした口調で会話に入ってきたマーザスは、懐から望遠鏡を取り出すと遠くに見える灰色の煙に目をやる。


「うん、見た限り魔法でつけられたものではないし、煙の立ち方からしてまだ燃えてばかりだから今行けば間に合うかも」
「マーザス殿、ここからでも見えるのですか?」
「見えるよ。なにせ、この魔道具は遠望魔法を付与したものだから、ここからでも十分状況が把握出来るよ」
「状況までも見えるのですか?!」


 顔を青ざめさせながら鬼気迫る雰囲気で詰め寄るカトレアに、僅かに眉を顰めたマーザスは笑みを潜めると視線を遠くに見える煙に戻す。


「ログハウスと小さな小屋が2つある場所に人がたくさんいるね。服装からして村人かな?」
「……恐らく、その場所に集まっている村人はリアスタ村の村人達かと」
「カトレア嬢、場所が分かるのか?」


 驚いた顔をするライドに、険しい顔をしたカトレアが小さく頷く。


「あの場所は、私にとってかけがえのない友人が住んでいる場所なのです」
「それって、団長がおっしゃっていたあれか!」


 カトレアの言葉を聞いて驚くライドとは反対に、静かに目を伏せたマーザスは望遠鏡型魔道具を懐に戻す。


「ならば、事情を知っている君たちが行った方が良いね」
「ですが、まだ魔法陣が……」


 (いくら公爵様から『フリージアの家に何かあったら、その場から抜けていい』と言われているからとはいえ、魔法がまだ1つしか解放されただけの状況で抜けるわけが……)


「それなら問題ない」
「ライド隊長?」


 不思議そうに小首を傾げるカトレアに、小さく息を吐いたライドは真剣な表情でカトレアとラピスを見やる。


「実は、こういうこともあろうかと、団長から君たちを行かせるように指示を受けている」
「団長というのは……第二騎士団の団長ですか?」
「そうだ。正確には、近衛騎士団長からなのかもしれないけど」
「それって……!?」


 (公爵様がフェビルこの時のことを考えて根回しをされていたということ?)


「ここに来る前に、団長から『もしも、カトレア嬢とラピス君が抜け出したいと言った時は、遠慮なく送り出して欲しい』と」
「そんなことを……」


 今聞かされたレクシャの親切心にカトレアとラピスが言葉を失っていると、マーザスが2人の肩を叩く。


「2人なら必ず友人のために動くだろうと思っていたんだろうね。まぁ、僕も友人のために来たようなものだし」
「マーザス様……」


 ゆっくりと振り返った2人に、マーザスはお茶目な笑みを浮かべてウインクをする。


「安心して、ここには帝国の筆頭宮廷魔法師も、洗練された有能な騎士達も、魔力を無効化出来る精鋭もいる。だから、魔法陣のことは僕たちに任せて、君たちは君たちが助けたいものを助けてきなさい」
「そうだ。君たちには取り戻したいものがあるのだろうから」


 マーザスとライドの言葉を聞き、カトレアとラピスは互いに目を合わせると静かに頷いて2人に向かって静かに頭を下げる。


「ありがとうございます! 行こう、カトレア!」
「えぇ! お2人とも後はよろしくお願いいたします!」
「あぁ、任せておけ!」
「それじゃあ、僕からの餞別として君たちをあの場所に送るよ」
「「えっ!?」」


 驚いた顔をするカトレアとラピスを見て、楽しそうな笑みを浮かべたマーザスは、右手小指に嵌っている指輪に魔力を流す。


「それじゃあ、行くよ。《テレポート》」


 若き宮廷魔法師と騎士を送り出したマーザスとライドは、互いに顔を見合わせると笑みを浮かべる。


「若いねぇ~。まぁ、そういうところは嫌いじゃない」
「私も同じくです」
「あ、分かっちゃいます?」
「えぇ、まぁ……さて、我々は我々の仕事をしましょう」
「そうですね」


 小さく頷いた筆頭宮廷魔法師は、第二騎士団の隊長率いる騎士達や黒いフードの集団と共に次の魔法陣へと向かった。
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