木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第8章 波乱と因縁の建国祭

第461話 嘘と魔法

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「『なぜ?』と申しますと?」


 ノルベルトからの問いに、思わず眉を顰めたフリージアはレイピアをきつく握り締めたまま問い返す。
 それを聞いたノルベルトは、大観衆の前でフリージアを指差しながら声を荒げる。


「とぼけるな! 7年前のあの日、貴様たち『帝国の死神』は俺の完璧な策によって滅んだはずだ! それなのに、どうして生きている! それも貴様だけ!」
「…………」


 (『貴様だけ』ということは、ノルベルトはサザランス公爵家の生き残りは私だけって思っているみたいね)

 ダリアに対峙したフリージアがワケアリ平民として派手に動き回っていたお陰か、ノルベルトの中でサザランス公爵家の人間はフリージアたった1人であると結論付けられている。

 だから彼の中で、フリージア以外のサザランス公爵家の人間が生きているなんて思いもしていなかった。

 それも、当主が下級文官に扮して水面下で動いていたり、夫人が辺境伯夫人の侍女として保護してもらったり、次期当主がヴィルマン侯爵家にいる見習い騎士として第一王子ジルベールの護衛をしていたり、『稀代の天才魔法師』が見習い魔法師として情報収集をしているなんて尚の事。

 憎しみの目を向けているノルベルトの口から出た言葉を聞いて、一瞬笑みを零したフリージアはいつもの無表情に戻すと淡々と答える。


「それに対して私が答えると本気で思っています?」


 (あんたのせいで全て奪われた私が、あんたの質問にバカ正直に答えるとでも?)

 内から湧き上がる憎しみを堪えるフリージアに、ノルベルトは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「フン、今の貴様はただの平民だ。この国の宰相である我の命令に逆らえるわけがない!」
「命令? あなたはただ、私に『なぜ生きている?』と聞いただけでは?」
「うるさい! さっさと答えろ!」


 (全く、一応この国の宰相なのだから少しは貴族の手本になるような振る舞いをして欲しいわね)

 すると、あちらこちらから罵詈雑言がフリージアの耳に届いた。


「そうだぞ、この平民が!」
「偉そうにしている暇があるならさっさと答えろ!」
「愚図な平民が! あんたにお父様の命令に逆らう権利はどこにもないのよ!」
「……そう言えば、ここにはノルベルトの駒しかいなかったわね」


 聞くに堪えない貴族達とダリアからの罵詈雑言に、心底呆れたような溜息をついたフリージアは、飛び交う罵詈雑言に口元を緩めているノルベルトに目を向ける。


「それは」


 そう言って、フリージアが口を開いた瞬間、罵声が響き渡ったコロッセオが一気に静まり返る。

 (フッ、さすがノルベルトの改竄魔法で調教された駒ね。主の意図をちゃんと汲んで動いているのだから。でも、あなたの主が望むような答えは絶対言わないけどね)

 水を打ったかのような静けさに、再び笑みを零したフリージアは空を見上げる。

 (お父様、私の友人達と共にここに来てくれますよね?)
 魔法陣奪還に動いているレクシャ達が、この場所に来ることを信じ、大きく息を吸ったフリージアは、視線をノルベルトに戻すと息を吸うように嘘をつく。


「奇跡が起きた。それだけです」
「奇跡?」
「はい、この身に宿った無効化魔法が奇跡を起こした。ただ、それだけです」


 本来、無効化魔法が奇跡なんて起こせるはずがない。

 だから、無効化魔法が起こした奇跡でフリージアは生き延びたのではない。

 だが、確かに奇跡は起きた。

 尊敬する父が前々から家族にノルベルトやインベック家の動向を探るよう家族やインホルトに指示したことで、ノルベルトの企みが『脅し』という形で明るみになった瞬間、誰一人命を落とすことなくあの場所を離れられたという奇跡が。

 そんな奇跡など一切口にせず、宰相家令嬢としてお茶会に参加していた頃の気品溢れる堂々とした態度で、フリージアは目の前の仇を欺いた。
 そんな彼女に、一瞬苦い顔をしたノルベルトが再び鼻で笑う。


「フン、死神に愛された呪われた力が奇跡なんて神にしか起こせない御業を起こせるわけが無いだろうが」
「そうですか。まぁ、信じるか信じないかはお任せ致しますが……そもそも、平民に成り下がった私の言葉なんて最初から信じるわけがありませんよね」
「まぁ、そうだな。聞いたところで、貴様の運命は変わらない」


 (そうよね。私の正体や生きている理由を知ったところで、平民に成り下がったあなたが私の言葉なんて信じないし、あなたが私を殺すという決定は覆さない)

 再びこみ上げた憎悪の感情に、再び眉を顰めるフリージア。
 そんな彼女を見て、愉快そうに笑ったノルベルトが大きく手を上げると、黒い魔力で魔法陣を宙に描く。


「しまっ……!」
「この私、ノルベルト・インベックに殺されるという運命にな!」


 コロッセオに轟くような高らか声で宣言をしたノルベルトは極大の改竄魔法を放つ。


「神と等しい力を持つ我が命じる! 我に仇名す者をせん滅よ!! 《フォルシフィケーション》!」


 その瞬間、コロッセオにいるフリージアを除いた全員にノルベルトの魔法にかかった。
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