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218 冷たい視線

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「ああ、ミロンド砦か。なんとも懐かしい。まだ知っている者がいるとは思わんかったよ」

「なぜ使われなくなったんです?」

 重要だから造ったんでしょうに。

「予算が打ち切られたんだよ。あの頃は領主様が変わった時期でな、無駄な予算はなくすと言い出したのさ」

「その後、魔物が溢れて酷い目にあった、ってオチですか」

 この世界にオチって概念があるかは知らんけど。

「ああ。マーグの群れに襲われて町の大半が破壊されて、たくさん殺されたよ」

 代々コラウスの領主は無能だったんだな。よく滅びないもんだよ。

「そのミロンド砦までの道は覚えてますか? 使えるかどうか確認してきて欲しいんですよ」

「わかった。おそらく、冒険者の避難場所になっているはずだ。ミズホに訊けばなにか知っているだろう」

 暗き水底の支部長か。カインゼルさんとは年代的に同じだからその当時のことも知っているか。

「ラダリオンを連れていってください」

 ホームに入れる者を一人連れていくべきだろう。修繕するならいろいろ運び出せるからな。

「アルズライズも連れていくか。昔過ぎて道もうろ覚えだしな。あいつならミロンド砦を知っているはずだろう」

 横に視線を向けたので、釣られてオレも見たらアルズライズがいた!? いや、ミシニーもいたよ!! まったく気がつかんかったわ!

「音を立てて近づいてこいよ。心臓止まるわ」

 オレはまだ気配でわかるほど変態の域に入ってねーんだからよ!

「すまんすまん。もうクセなんでな」

 音を消さないと生きていけないとか、冒険者とは荒んだ商売だよ。

「はぁー。アルズライズ、悪いがカインゼルさんについてってもらえるか?」

「了解した」

「おやつをたくさん用意しておくよ」

 アルズライズの背後に花が咲いたように見えたのは気のせいだろうか? 顔は無表情なのに喜んでいるのがよくわかった。

「それで、マルスの町の先にある砦は知ってますか?」

「それならわたしが知っている。何度かいったことがあるぞ」

 とはミシニー。マルスの町まで出張るんだ。

「そこは使えるのか?」

「ミロイド砦は結構朽ちてはいるが、寝泊まりする分には問題ないはずだ」

 そちらも冒険者が利用してるならルスルさんに話を通していたほうがいいかもしれんな。

「じゃあ、ミロイド砦にはオレとビシャ、メビ──」

「──わたしもいく」

「……ミシニーと四人でいきます」

 まあ、道案内は必要なんだし、仕方がないか。

「ミリエルは残すのか?」

「はい。ミリエルは連絡役として残します」

 山の中を歩くのだからまだ脚力の弱いミリエルには辛かろう。連絡役として残ってもらったほうがいい。不平は言われそうだがな……。

「なにもなければ明日にでもいこうと思いますが、どうです?」

「なんなら今日からでも構わんぞ。リハルの町ならウルヴァリンですぐだしな」

「さすがにウルヴァリンだとアルズライズとラダリオンを乗せられないでしょう」

 アルズライズは二メートル半はあり、体重も百キロは確実に超えている。ラダリオンもあの体格ながら体重はエゲつない。積載量は……いくらだっけ? まあ、アルズライズが助手席に乗るのは大変だろうよ。

「そうだな。では、パイオニア一号を使うよ」

 ってことでオレらは二号を使うことにした。

「オレらもマルス町までいくか。ミシニー、どうだ?」

 ここからだと二十五キロ以上はあるが、暗くなる前には到着できる。今日中にルスルさんに話を通しておけば明日の朝から動けるだろうよ。

「わたしは問題ないぞ」

 ってことでビシャとメビを呼んでマルス町にいくことを伝え、ミリエルに説明。やはり自分もいきたいと言ってきたが、誰かが残らなくちゃならないってことを説明してやっと納得してくれた。ふー。

 なんだかんだと十五時を過ぎてしまったが、飛ばせば充分暗くなるまでいけるだろうよ。

「ラダリオン。二十時にホームで集合だ。ミリエルもな」

「わかった」

「はい」

 軽くミーティングしたら出発した。

「風が冷たくなったな」

 十一月くらいの気温だろうか? 暖房がないパイオニアはキツいぜ。

「ビシャ、メビ、寒くないか?」

「大丈夫。あたしたち寒いのは強いから」

 それは羨ましい。現代っ子のオレはこの気温でも暖房が欲しいと思うのにな。

「わたしには訊いてくれないのか?」

「酒なんて飲んでるヤツに訊いてやらない」

 ワインをらっぱ飲みするヤツは振動に酔ってゲロ地獄に堕ちてしまえ。

 リハル町側の道を使って走り、十六時半前にはマルスの町が見えてきた。

 町に入る前にパイオニアをホームに戻し、荷物を抱えて町に入った。

 何ヶ月振りだろうか、マルスの町は? 春くらいだから半年以上か? 近くは通ったが、町に入ることはなかった。同じ領内でも用がないとこないもんだ。

 冒険者が帰ってくる時間のようで、何人もの冒険者がギルド支部に向かっていた。

 ……結構な数の冒険者がいたんだな……。

 前は……どうだったっけ? ロンダリオさんたちのことくらいしか覚えてないや。

「──おじさん!」

 と、小箱を抱えた八歳くらいの女の子が現れた。誰?

「お帰りなさい! 無事でよかったです!」

 お帰り? なんのことだ? 

「教会の子じゃないか?」

 ミシニーの言葉に記憶が甦った。

「──あ、徴税人か!?」

 小綺麗になって町娘風になってたからわからなかったよ。

「ちょうぜいにん?」

「あ、いや、なんでもない。小綺麗になってたからわからなかったよ」

 どんな顔だったか思い出せないけど、マルスの町で徴税された記憶は甦ったよ。

「おじさんの言うとおりにしたらお恵みをもらえるようになったんです」

 オレ、なんか言ったっけ? まったく記憶が甦ってきませんわ~。
 
「お、おう、そうかそうか。よかったな。今は急ぐからまたな」

 銀貨を一枚出して箱に入れ、そそくさとその場を立ち去った。ミシニー、ビシャ、メビの冷たい視線からな!
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