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信じたくないプロローグと決意

上限値クソだけど

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とっても美味しい夕飯を頂き、優雅なバスタイムを楽しみ、ふかふかのベッドで体を休めた。
私の気力体力は全回復したと思う。上限値クソだけど。

椿さん特製クロワッサンを頂きつつ、今日の予定を思い出した。


ここ、聖櫻学院高等学校は、学力は当然のこと、部活動にもかなり力を入れている。どの部も全国大会常連校だ。
ここがこんなクソ不便な山奥にあるのも勉強も部活動も集中しやすいようにという配慮からだ。
だから私(というか姫愛ちゃん)以外女子生徒来ないんだよ。むしろ姫愛ちゃんは何故ここに入ろうと思ったの。逆ハーか、逆ハー狙いか。

文武両道を掲げているからか、部活動には必ず入らなければいけないという決まりがある。
……どうすっかなぁ。
正直、ハル様に会えるなら軽音楽部に入るのが1番だと思う。しかし私はそういう楽器は出来ない。それに役割も既に埋まってて入る隙がなかったりするし…。
団体競技に女子1人はさすがに気まずいというか、入る意味もなくなるだろう。あとこういう強豪ってマネージャーいらないとか言うし。

入るなら……個人競技か文化部だな。
部活動紹介までの間、私は学校案内を手に目星を付けていた。





「おはよー!」


「まっ真宮さん!////」


「おはようございます!!/////」


挨拶だけなのにみーんな顔真っ赤にして。わかる、こんな美少女に声掛けられたらそうなるよね、私も同じだ。
しかしそのスラッシュはなんだ。いや知ってるけどね。


「真宮さん、部活どうするの?////」


「あー、団体競技は難しいだろうから、個人競技か文化部系にしようかなと……」


そう零すと、みんながあの部はこの部はと教えてくれた。特に運動部は入試前に見学やら体験やら来てた人が多いらしく、詳細な話が聞けた。
姫愛ちゃんの身体能力が不明だし、射撃部かアーチェリー部だったらなんとかなる、かな?前にもかじってたことあるし。
あとは────荷物の中になかったからどうしようか悩んでるけど、せっかくだからヴァイオリンやりたいなぁ。周りにやってる人がおらずソロばかりだったので、アンサンブルやオーケストラ等、複数人で合奏してみたいというのはある。
貸してくれるかなぁ副会長。よし、ちょっと聞いてみよう。






「皆様、ご入学おめでとうございます。管弦楽部です。まずは1曲、お聴き下さい」


そう言って演奏したのは、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」から「春」の第1番だ。
知ってる人も多いだろう。
春らしく、華やかで暖かみがあって、軽やかなメロディ。弦楽四重奏で演奏している。
その後は管のメンバーで組曲惑星から「木星」、副会長のソロでちょうど私が練習している「序奏とロンドカプリチオーソ」を短くアレンジしていて、とても聴きごたえがあった。
あーーー弾きたいなぁ!やっぱり1番に管弦楽部行こう!



そう言えば軽音楽部は──と思っていると、どうやら次みたいだった。既に組み上がったドラムセットに南雲蒼空なぐもそらが座り、上手寄りにギターを構えた生徒会長·北御門悟きたみかどさとるが、下手にベースを携えた南雲蒼海なぐもうみがついた。
…蒼海、めちゃくちゃ足震えている。大丈夫なのか…。
あれ?副部長でキーボードの東妻遥斗あずまはるとは───そう言えば風邪拗らせて欠席なんだっけ。


「わ、本当に会長がこんなチャラついた部にいるのかよ」


「特に大会も実績もないんだろう?なんのためにやっているんだか…」


おおう、新入生にすらこの認識ですよ…。
しかもこの後の展開を知ってるからちょっと辛い。


「みんな、先輩たちが私たちのために練習してきてくださったんだよ。ちゃんと聴こうよ」


「あっ、ごめんなさい、真宮さん///」


「そっ、そうだよね!ごめんなさい////」


いや、私に謝られても困るんだけど…。
ザワついていた講堂は静かになった。その時、悟と目が合った気がした。











(そ、そうっぞう以上に酷かった…!!!)


あの4人で1番音楽をやっていたのは今日欠席だった遥斗である。
それ以外は高校から初めた素人たちだ。
そのため、このバンドの音を支えているのは他でもない遥斗である。
彼が欠けていたら────言いたいことはわかるな?

まずはドラムの南雲蒼空。
音程がわからない、調弦が出来ないからとドラムを担当している2年クラスS医大コースの秀才。
あ、コースについては後程ね。
彼自身はものすごく軟派な性格で、来る者拒まずの所謂びっち?言い方合ってるのかな…。って感じである。
ヤっては捨てヤっては捨てだったため、父親がその性格を矯正出来ればとこの男子校同然の聖櫻にぶち込んだとの事。地頭はいいからなんの説明もせずテスト入試受けさせたらうっかり上から1桁だったとか。
そんな彼の演奏は、自分が目立ちたいだけの自分勝手な演奏だった。
ドラムはリズム隊──いわば縁の下の力持ちというか、裏方的存在だ。なのに表に出てきたら演奏が崩れるに決まっている。てか聞いててちょっと気持ち悪かったから、リズムも狂ってるんだと思う。


続いて、蒼空の双子の弟の南雲蒼海。
蒼空がいるから、女がいないから、という理由でこの聖櫻にやって来た女性恐怖症の2年クラスS医大コースの次席。
双子なのに性格は正反対で、来る者拒む人。…まぁ、それもちょっと理由があってのことだけどね。
ドラムと同じくリズム隊であるベースなのだが、彼はむしろ表に出なさすぎなのだ。音が消えてると言っても過言ではない。目立つの嫌なの?なんなの?
あと調弦も甘いのか、私の耳には違和感が残っている。しばらく呪縛されそうだ…。


そして、部長でもある北御門悟生徒会長。
3年クラスS特進コースだ。たしか専攻は現国だったか?軽音楽部を設立した兄の背を追いかけてこの部にいる。
中で1番ましと言われている歌声が、夢に出てくるのではないかと思うくらい酷かった。本当にこれで1番ましなのか、そうなのか。問い詰めたい。
遥斗はしょうがないにしても、南雲兄弟はこれより酷いの?ヤバくない??
ちなみにギターはよかった。普通に。普通すぎてそれ以上の感想がありません。



これじゃ演奏中嘲笑されても罵倒されても仕方ない……アニメより酷かった……。いや、アニメはプロが当ててるからどうしてもうまみがあるんだけどさ。
あー、暫く夢に出そう。酷い意味で耳に残っている。
なんでこの後普通に授業あるんですかわかる気配がしないんですけど!!




そういえば、周りが男子ばかりだから、友達らしい友達いないなぁ。
もし姫愛ちゃんに意識が戻ってこれだったらあまりにも辛すぎる。せめてお昼一緒に食べられる友達を作ろう…!



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