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閑話
北御門悟の初恋
しおりを挟む『ごめん、悟…げほっごほっ(>o<;))((;>o<) ゴホゴホ』
「いや、気にするな。長引かないよう養生しろ」
今日は春休みが終わる2日前。
軽音楽部も入学式翌日に行われる部活紹介に備え、今日から合わせようと計画していた。────いたのだが。
「あらー、ハル先輩大丈夫っすか?」
「心配、です…」
既に準備を終えた双子が俺を見る。
正直に言うと、まずいと思った。
音楽経験値は遥斗が飛び抜けている。当然だ、小学生の頃は神童と呼ばれる程の腕前を持つ天才ピアニストだったんだから。
しかし、それは事故によって失われた。
左手の自由と、免疫力。日常生活には差程影響ないが、こうした季節の変わり目に風邪は引きやすいし、適切にケアしないと長引く。
左手も、複雑な動きが出来なくなっていた。ピアニストにとっては致命傷だった。
それでも音楽を諦めきれてなさそうな遥斗を、俺は軽音楽部に誘った。
尊敬してやまない自慢の兄が立ち上げた、誇り高き軽音楽部。
────今は、色々言われているが、兄の功績を俺が潰す訳にはいかなかった。
なのに、だ。
このバンドの支えであり柱である遥斗がいない。
高校からの初心者な俺たち3人は、遥斗の作る曲と、彼自身の技術に頼りきっていた。もちろん練習はしているが、なかなか上達できないのだ。
その柱を無くしてみろ。崩壊一直線だ。
「来れないなら仕方ないっすよね。とりあえず始めましょ」
────そうだな。声は掠れていた。
合わせてみるも、やはり柱がない俺たちはバラバラだった。
ふたりも噛み合わないことはわかってるのに、どうすればいいかわからない状態だ。
俺に、もっと音楽的知識があれば───。
でも、なにも解決できない。
どうする、最低1人でも入部しなければ仮入部期間でこの部は終わる。
なんとか引き伸ばしてきたリミットは、規約の関係でここが限界だった。
本番、火事場の馬鹿力的なやつで、うまくいくように。
意味もない願掛けを、満月にした。
「わ、本当に会長がこんなチャラついた部にいるのかよ」
「特に大会も実績もないんだろう?なんのためにやっているんだか…」
そんな声が聞こえる。
みんな知らないんだ。バンドサウンドの凄さを。
初めて聴いた時の衝撃を。
でも、俺たちの今の実力じゃ、その衝撃を与えられない。
わかってる。
こんなこと、将来のためになるのか、と。
でも、この部を無くしたら
遥斗は?蒼空は?蒼海は?どうなる?
なにか、なにか言わないと────
そう焦れば焦る程言葉が出ない。口の中が乾いていく。
どうすれば、どうすれば────
「みんな、先輩たちが私たちのために練習してきてくださったんだよ。ちゃんと聴こうよ」
りん、と鈴のような声が響き渡った。
「あっ、ごめんなさい、真宮さん///」
「そっ、そうだよね!ごめんなさい////」
真宮──真宮姫愛。あの少女が。
金色に輝く髪に、ティアラのようなパールのカチューシャ。宝石の様に煌めく瞳の持ち主。
その瞳が、向けられる。
どくんっ
なんだ、なんだこれは。
先程の焦りと違い、どくどくと激しく打ち鳴らす。
熱が集まる。
こんな経験は初めてだ。一体どうしたんだ。
酷いほど跳ねる鼓動をなんとか押さえ付け、俺は声を出した。
あの瞬間、真宮姫愛に恋に落ちた。
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