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【第四章】王子様は記憶を辿る
(5)王子様の挑戦
結論から言おう。
僕は剣の試合でベリルに負けた。
ベリルは試合で卑怯な手を一切使っていなかったのに、僕は負けた。
それが一番悔しかった。
ベリルは剣の技術だけで僕を追い詰めて倒した。
打っても打っても手応えのない打ち合い。
ベリルは僕の剣を読み切り、打ち込まれる攻撃を全て捌いた。
剣の打ち合いを行っているというのに、ベリルの剣に当てれば当てるだけ僕の剣は空振りしているようだった。
手応えがなかった。
実際のところ、僕が打つ剣を受けながら力の軌道を内側から外側に逃していたという事は後から知ることになる。
全てはベリルの手腕によるものだ。
兄上の審判によりそれは明白だった。
芝生の上でボロボロになったまま、寝転んだ僕の視界には大空が広がっていた。
澄み渡る空には雲ひとつ無い。
ボロボロに打ちのめされた僕は肩で息を繰り返し、大粒の汗を流しながら動けなくなっていた。
すでにベリルは兄上を連れて中庭から姿を消している。
勝者の褒美だ。
(…あぁ、僕は)
こんなにも弱かったのだ。
元々、相手の行動の意味がわからなかった。
即死魔法を何度もぶつけられたり、精神クラッシュもこの身に受けたことがある。
それにベリルは卑怯な手を使って使用人を玩具にしていたこともある。
許せないと思った。
次はフランベルク兄上を手に掛けようとしていると思って、警戒していた。
…今まで、ベリルが卑怯な手さえ使わなければ僕でも防げると思い込んでいた。
だが、それは違った。
「…ぅっ…」
僕は顔を歪めると呻いた。
唇が震えると、うまく力が入らない。
「……っ」
きゅっと眉根を寄せて、口から息を吐き出した。
悔しかった。
涙が出た。
嗚咽混じりに僕は泣いた。
涙に滲む空はどこまでも青かった。
それから、僕とベリルは毎日剣の試合を繰り返した。
審判はフランベルク兄上のため、兄上が忙しい日は保留になったが、それ以外は毎日試合が行われた。
ベリルの願いは相変わらず兄上との時間を所望していた。
対する僕はがむしゃらに体を鍛え、剣技を覚え、戦闘を学習していた。
それでも負けた。
そして、僕が勝った時の願いは一向に決まらなかった。
勝てる見通しがなかったともいえる。
だがそれでも、目の前にある強大な相手に挑み続けた。
僕は挑んでは負けていた。
負けた。
負けた。
負けた。
次の日も負けた。
負け続けていたが、また挑んだ。
負けた。
考えて、反省して、また挑んだ。
負けた。
また負けた。
兄上が忙しい日は自主練をした。
次の日には負けた。
打ちのめされた。
一体なぜ、僕はこのようなことをしているのだろうか?
わからない。
わからないのだ。
最初はベリルを止めるためだった。
だが、現在進行系でベリルを僕の手で止めることは出来なかった。
芝生の上で寝転び、体力が尽きた僕は肩で息を繰り返していた。
視界の隅では、勝者のベリルが兄上を誘ってこの場を去るところだ。
何度もその光景を目撃している。
僕はそれを見送りながら心の中でひとりつぶやく。
(…負けた)
なぜか、絶望は湧き上がらなかった。
無力感はあったが、この試合を放棄するには時間が流れすぎている。
悔しさ?
惨めさ?
愚かしさ?
そんなものは過ぎ去った。
僕は上半身をゆるりと起こし、気怠げにため息を吐く。
よし。
次にいこう。
そして。
(次こそ勝つ)
明日また挑むために、今から鍛えよう。
レブラス王国の空は今日も青かった。
僕は剣の試合でベリルに負けた。
ベリルは試合で卑怯な手を一切使っていなかったのに、僕は負けた。
それが一番悔しかった。
ベリルは剣の技術だけで僕を追い詰めて倒した。
打っても打っても手応えのない打ち合い。
ベリルは僕の剣を読み切り、打ち込まれる攻撃を全て捌いた。
剣の打ち合いを行っているというのに、ベリルの剣に当てれば当てるだけ僕の剣は空振りしているようだった。
手応えがなかった。
実際のところ、僕が打つ剣を受けながら力の軌道を内側から外側に逃していたという事は後から知ることになる。
全てはベリルの手腕によるものだ。
兄上の審判によりそれは明白だった。
芝生の上でボロボロになったまま、寝転んだ僕の視界には大空が広がっていた。
澄み渡る空には雲ひとつ無い。
ボロボロに打ちのめされた僕は肩で息を繰り返し、大粒の汗を流しながら動けなくなっていた。
すでにベリルは兄上を連れて中庭から姿を消している。
勝者の褒美だ。
(…あぁ、僕は)
こんなにも弱かったのだ。
元々、相手の行動の意味がわからなかった。
即死魔法を何度もぶつけられたり、精神クラッシュもこの身に受けたことがある。
それにベリルは卑怯な手を使って使用人を玩具にしていたこともある。
許せないと思った。
次はフランベルク兄上を手に掛けようとしていると思って、警戒していた。
…今まで、ベリルが卑怯な手さえ使わなければ僕でも防げると思い込んでいた。
だが、それは違った。
「…ぅっ…」
僕は顔を歪めると呻いた。
唇が震えると、うまく力が入らない。
「……っ」
きゅっと眉根を寄せて、口から息を吐き出した。
悔しかった。
涙が出た。
嗚咽混じりに僕は泣いた。
涙に滲む空はどこまでも青かった。
それから、僕とベリルは毎日剣の試合を繰り返した。
審判はフランベルク兄上のため、兄上が忙しい日は保留になったが、それ以外は毎日試合が行われた。
ベリルの願いは相変わらず兄上との時間を所望していた。
対する僕はがむしゃらに体を鍛え、剣技を覚え、戦闘を学習していた。
それでも負けた。
そして、僕が勝った時の願いは一向に決まらなかった。
勝てる見通しがなかったともいえる。
だがそれでも、目の前にある強大な相手に挑み続けた。
僕は挑んでは負けていた。
負けた。
負けた。
負けた。
次の日も負けた。
負け続けていたが、また挑んだ。
負けた。
考えて、反省して、また挑んだ。
負けた。
また負けた。
兄上が忙しい日は自主練をした。
次の日には負けた。
打ちのめされた。
一体なぜ、僕はこのようなことをしているのだろうか?
わからない。
わからないのだ。
最初はベリルを止めるためだった。
だが、現在進行系でベリルを僕の手で止めることは出来なかった。
芝生の上で寝転び、体力が尽きた僕は肩で息を繰り返していた。
視界の隅では、勝者のベリルが兄上を誘ってこの場を去るところだ。
何度もその光景を目撃している。
僕はそれを見送りながら心の中でひとりつぶやく。
(…負けた)
なぜか、絶望は湧き上がらなかった。
無力感はあったが、この試合を放棄するには時間が流れすぎている。
悔しさ?
惨めさ?
愚かしさ?
そんなものは過ぎ去った。
僕は上半身をゆるりと起こし、気怠げにため息を吐く。
よし。
次にいこう。
そして。
(次こそ勝つ)
明日また挑むために、今から鍛えよう。
レブラス王国の空は今日も青かった。
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