BLゲームの悪役令息に異世界転生したら攻略対象の王子に目をつけられました

ほしふり

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【第四章】王子様は記憶を辿る

(6)王子様は悪役令息を想う

それは全て遠い記憶だった。
夢を見るという事は、過去の記憶を整頓する作業だ…なんて話をどこかで聞いたことがある。
僕は窓から差し込む朝日を眩しく思いながらベッドから起床した。
上半身を起こし、光に対して忌々しく顔を顰めると頭を垂らした。

「…。」

何年も前の記憶が今起こったかのように蘇ると、夢の中に霞む。
だが、記憶の感覚はどこまでも鮮明に残っている。
学園の寮で起床した僕は朝から複雑な心境に陥った。

「俺は…まったく」

俺は…僕は…寝癖が混ざる前髪をくしゃりと掻きながら深いため息を吐いた。
…そうだった。
その後、ベリルに負けないように「俺」だの「お前」だの、強い口調で接していたのも思い出した。
おかげで今では板についたが、初対面の人間に傲慢な王族と思われたらどうしようか…なんて、入学前に気にしていたこともある。

ベリル・フォン・フェリストは僕の幼少期を無茶苦茶にした幼馴染であった。
学園に入学して文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、とんだ肩透かしを食らってしまった。
なぜなら、ベリルはまるで別人のように変わってしまったのだから。
久しぶりに会うのだから少しは変わることもある、とは思っていたが…
あれはそれとも違うようだった。
精神クラッシュや即死魔法を連発することにより、本人に負荷がかかり記憶喪失になったと聞かされたほうがまだ現実感がある。

(ベリル…お前はいったい…)

保健室で会った時、ベリルは僕に対して微弱な魔法しか使わなかった。
本来の彼ならありえない事だ。
そしてその後、剣の打ち合いにより僕は確信を得た。

(あれは、ベリルではない・・・・・・・

だが…

なぜ、あれがベリルのふりをして生活しているのか僕にはわからなかった。
保健室の時、彼に触れて魔法は全て無力化した。
今、あの体の中にいる何者かは、魔法による影響ではないはずだ。
そしてこれは僕の失点だが、ベリルの中にいる何者かに僕は嫌われているらしい。

(無理もないか)

入学式後の一件と保健室の一件により疑いを持ち、剣の打ち合いで僕もそれに気がつく事に至ったとはいえ、事情を聞き出すのは難しい状況に陥ってしまった。
僕の最大の失敗は、彼がどういう状態なのか知らずに不用意に近づいてしまったこと。
そして、そこから僕としてはあるまじき行動を起こしてしまったことだ。

(過ぎてしまったことは仕方ない…仕方ないのだが)

入学式後の一度ならず保健室で二度も。
昔のベリルは確かに美少年だったが、今まで性的な対象として見ることはなかった。
それなのに。

(あんな反応をされるとは)

子供の頃は追いつこうと必死に戦い続けた。
そして、当時負け続けた相手を今になって組み敷いた時、あろうことか欲が滲んだ。
入学式後の教室で目撃した瞬間から全てがはじまっていた。

(あのベリルがあんな表情をするわけがなかったんだ)

小動物のごとく動揺し、垂れたハの字の眉と不安そうに揺れる瞳。
目線には落ち着きがなく、こちらが強く出ればあのベリルは震えながら怯えていた。
軽く手で押せば倒れてしまうのではないのかと思えるほどか弱い少年。
小動物のようにこちらの様子を窺う姿。

いくら子供の頃に比べて僕の体格が成長したからといっても、彼の気迫は全然違った。
相手を必死に見下そうと努力するようなやつではなかった。
道端の石には興味を示さず、ただ己に正直であり続けた昔の幼馴染ではなかった。
自分の身を守ることに必死で僕の言動にかき乱される姿。
君のそんな姿、表情、仕草、そんなの僕は知らない。

知らなかった。

作られた人形のような彼が、今になって人間の感情を手に入れたかのようだった。
現在のベリルはとても人間らしい。
僕を睨みつける君は心を手に入れたのかな。

『フランツ、お前は真面目ぶってはいるが所詮ただの獣だ。お前は俺と同族にすぎない』

昔のベリルからそんなことを言われた事がある。
だからこそ、昔のベリルと僕は交わることがなかったのかもしれないと思った。
今の僕はこんな衝動を知らない。
弱者を組み敷いて思うままに掻き乱したいなど。
相手を力で支配したいなど。
精神が肉欲に負けて思うがままに犯したいなど。
ぐちゃぐちゃにしてやりたいなんて。

(僕は…どうかしている)

ベリルに対するこれは愛なのだろうか?
愛にしては歪んでいるという自覚がある。
君のことが知りたい。
記憶の中にある昔ではなく。

「…ベリル」

今の僕は、今の君が恋しいよ。



第四章、おわり。

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