30 / 65
【第四章】王子様は記憶を辿る
(6)王子様は悪役令息を想う
それは全て遠い記憶だった。
夢を見るという事は、過去の記憶を整頓する作業だ…なんて話をどこかで聞いたことがある。
僕は窓から差し込む朝日を眩しく思いながらベッドから起床した。
上半身を起こし、光に対して忌々しく顔を顰めると頭を垂らした。
「…。」
何年も前の記憶が今起こったかのように蘇ると、夢の中に霞む。
だが、記憶の感覚はどこまでも鮮明に残っている。
学園の寮で起床した僕は朝から複雑な心境に陥った。
「俺は…まったく」
俺は…僕は…寝癖が混ざる前髪をくしゃりと掻きながら深いため息を吐いた。
…そうだった。
その後、ベリルに負けないように「俺」だの「お前」だの、強い口調で接していたのも思い出した。
おかげで今では板についたが、初対面の人間に傲慢な王族と思われたらどうしようか…なんて、入学前に気にしていたこともある。
ベリル・フォン・フェリストは僕の幼少期を無茶苦茶にした幼馴染であった。
学園に入学して文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、とんだ肩透かしを食らってしまった。
なぜなら、ベリルはまるで別人のように変わってしまったのだから。
久しぶりに会うのだから少しは変わることもある、とは思っていたが…
あれはそれとも違うようだった。
精神クラッシュや即死魔法を連発することにより、本人に負荷がかかり記憶喪失になったと聞かされたほうがまだ現実感がある。
(ベリル…お前はいったい…)
保健室で会った時、ベリルは僕に対して微弱な魔法しか使わなかった。
本来の彼ならありえない事だ。
そしてその後、剣の打ち合いにより僕は確信を得た。
(あれは、ベリルではない)
だが…
なぜ、あれがベリルのふりをして生活しているのか僕にはわからなかった。
保健室の時、彼に触れて魔法は全て無力化した。
今、あの体の中にいる何者かは、魔法による影響ではないはずだ。
そしてこれは僕の失点だが、ベリルの中にいる何者かに僕は嫌われているらしい。
(無理もないか)
入学式後の一件と保健室の一件により疑いを持ち、剣の打ち合いで僕もそれに気がつく事に至ったとはいえ、事情を聞き出すのは難しい状況に陥ってしまった。
僕の最大の失敗は、彼がどういう状態なのか知らずに不用意に近づいてしまったこと。
そして、そこから僕としてはあるまじき行動を起こしてしまったことだ。
(過ぎてしまったことは仕方ない…仕方ないのだが)
入学式後の一度ならず保健室で二度も。
昔のベリルは確かに美少年だったが、今まで性的な対象として見ることはなかった。
それなのに。
(あんな反応をされるとは)
子供の頃は追いつこうと必死に戦い続けた。
そして、当時負け続けた相手を今になって組み敷いた時、あろうことか欲が滲んだ。
入学式後の教室で目撃した瞬間から全てがはじまっていた。
(あのベリルがあんな表情をするわけがなかったんだ)
小動物のごとく動揺し、垂れたハの字の眉と不安そうに揺れる瞳。
目線には落ち着きがなく、こちらが強く出ればあのベリルは震えながら怯えていた。
軽く手で押せば倒れてしまうのではないのかと思えるほどか弱い少年。
小動物のようにこちらの様子を窺う姿。
いくら子供の頃に比べて僕の体格が成長したからといっても、彼の気迫は全然違った。
相手を必死に見下そうと努力するようなやつではなかった。
道端の石には興味を示さず、ただ己に正直であり続けた昔の幼馴染ではなかった。
自分の身を守ることに必死で僕の言動にかき乱される姿。
君のそんな姿、表情、仕草、そんなの僕は知らない。
知らなかった。
作られた人形のような彼が、今になって人間の感情を手に入れたかのようだった。
現在のベリルはとても人間らしい。
僕を睨みつける君は心を手に入れたのかな。
『フランツ、お前は真面目ぶってはいるが所詮ただの獣だ。お前は俺と同族にすぎない』
昔のベリルからそんなことを言われた事がある。
だからこそ、昔のベリルと僕は交わることがなかったのかもしれないと思った。
今の僕はこんな衝動を知らない。
弱者を組み敷いて思うままに掻き乱したいなど。
相手を力で支配したいなど。
精神が肉欲に負けて思うがままに犯したいなど。
ぐちゃぐちゃにしてやりたいなんて。
(僕は…どうかしている)
ベリルに対するこれは愛なのだろうか?
愛にしては歪んでいるという自覚がある。
君のことが知りたい。
記憶の中にある昔ではなく。
「…ベリル」
今の僕は、今の君が恋しいよ。
第四章、おわり。
夢を見るという事は、過去の記憶を整頓する作業だ…なんて話をどこかで聞いたことがある。
僕は窓から差し込む朝日を眩しく思いながらベッドから起床した。
上半身を起こし、光に対して忌々しく顔を顰めると頭を垂らした。
「…。」
何年も前の記憶が今起こったかのように蘇ると、夢の中に霞む。
だが、記憶の感覚はどこまでも鮮明に残っている。
学園の寮で起床した僕は朝から複雑な心境に陥った。
「俺は…まったく」
俺は…僕は…寝癖が混ざる前髪をくしゃりと掻きながら深いため息を吐いた。
…そうだった。
その後、ベリルに負けないように「俺」だの「お前」だの、強い口調で接していたのも思い出した。
おかげで今では板についたが、初対面の人間に傲慢な王族と思われたらどうしようか…なんて、入学前に気にしていたこともある。
ベリル・フォン・フェリストは僕の幼少期を無茶苦茶にした幼馴染であった。
学園に入学して文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが、とんだ肩透かしを食らってしまった。
なぜなら、ベリルはまるで別人のように変わってしまったのだから。
久しぶりに会うのだから少しは変わることもある、とは思っていたが…
あれはそれとも違うようだった。
精神クラッシュや即死魔法を連発することにより、本人に負荷がかかり記憶喪失になったと聞かされたほうがまだ現実感がある。
(ベリル…お前はいったい…)
保健室で会った時、ベリルは僕に対して微弱な魔法しか使わなかった。
本来の彼ならありえない事だ。
そしてその後、剣の打ち合いにより僕は確信を得た。
(あれは、ベリルではない)
だが…
なぜ、あれがベリルのふりをして生活しているのか僕にはわからなかった。
保健室の時、彼に触れて魔法は全て無力化した。
今、あの体の中にいる何者かは、魔法による影響ではないはずだ。
そしてこれは僕の失点だが、ベリルの中にいる何者かに僕は嫌われているらしい。
(無理もないか)
入学式後の一件と保健室の一件により疑いを持ち、剣の打ち合いで僕もそれに気がつく事に至ったとはいえ、事情を聞き出すのは難しい状況に陥ってしまった。
僕の最大の失敗は、彼がどういう状態なのか知らずに不用意に近づいてしまったこと。
そして、そこから僕としてはあるまじき行動を起こしてしまったことだ。
(過ぎてしまったことは仕方ない…仕方ないのだが)
入学式後の一度ならず保健室で二度も。
昔のベリルは確かに美少年だったが、今まで性的な対象として見ることはなかった。
それなのに。
(あんな反応をされるとは)
子供の頃は追いつこうと必死に戦い続けた。
そして、当時負け続けた相手を今になって組み敷いた時、あろうことか欲が滲んだ。
入学式後の教室で目撃した瞬間から全てがはじまっていた。
(あのベリルがあんな表情をするわけがなかったんだ)
小動物のごとく動揺し、垂れたハの字の眉と不安そうに揺れる瞳。
目線には落ち着きがなく、こちらが強く出ればあのベリルは震えながら怯えていた。
軽く手で押せば倒れてしまうのではないのかと思えるほどか弱い少年。
小動物のようにこちらの様子を窺う姿。
いくら子供の頃に比べて僕の体格が成長したからといっても、彼の気迫は全然違った。
相手を必死に見下そうと努力するようなやつではなかった。
道端の石には興味を示さず、ただ己に正直であり続けた昔の幼馴染ではなかった。
自分の身を守ることに必死で僕の言動にかき乱される姿。
君のそんな姿、表情、仕草、そんなの僕は知らない。
知らなかった。
作られた人形のような彼が、今になって人間の感情を手に入れたかのようだった。
現在のベリルはとても人間らしい。
僕を睨みつける君は心を手に入れたのかな。
『フランツ、お前は真面目ぶってはいるが所詮ただの獣だ。お前は俺と同族にすぎない』
昔のベリルからそんなことを言われた事がある。
だからこそ、昔のベリルと僕は交わることがなかったのかもしれないと思った。
今の僕はこんな衝動を知らない。
弱者を組み敷いて思うままに掻き乱したいなど。
相手を力で支配したいなど。
精神が肉欲に負けて思うがままに犯したいなど。
ぐちゃぐちゃにしてやりたいなんて。
(僕は…どうかしている)
ベリルに対するこれは愛なのだろうか?
愛にしては歪んでいるという自覚がある。
君のことが知りたい。
記憶の中にある昔ではなく。
「…ベリル」
今の僕は、今の君が恋しいよ。
第四章、おわり。
あなたにおすすめの小説
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)