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場所はバミア平原。
聖王国から数十日ほど遠征して到着した。
ここは魔王ベルグラが五百年前に人間へ向けて宣戦布告した場所と同じ戦場…らしい。
魔族と人間が定めた国境付近である。
(私にとってはベルと何度もピクニックに来た覚えがある場所だが…)
昔は見渡す限りの草原が広がる高野だったはずだが、今は見る影もない。
むき出しの岩肌に草木は生えず、平原だったはずの地平線は大きく地面が抉れて深い溝を作っており、平原というよりは谷を形成している。
谷の上の亀裂をなぞるように部隊が進行していた。
この崖から落ちたらひとたまりもない。
崖の底には陽の光さえ当たらず、その先には闇しか無い。
私はバミア平原に到達した際、谷の上からあたりを見渡してぽかんと呆気にとられていた。
(本当に見る影もない…)
昔は草木を求めて野生の羊や馬がやってくるのどかな風景があったというのに、今は緑が枯れ果てており動物はどこにもいない。
「おい!お前、ボサッとするな!!」
野太い兵士の声に一喝されて私はハッとした。
アルケミス聖王国の王城で暮らしていた私にとって久しぶりの外の風景…だったのだが、ずっと眺めているわけにも行かない。
すぐ持ち場に向かわなければ魔王ベルグラがやって来るぞと脅された。
私はフードを深く被り直しながら歩く兵の列に戻った。
上から下まで全身を覆うローブ、このおかげで黒髪は目立たない。
ローブの下は白い簡素なシャツを着て、腰には剣を吊り下げるベルト。
胸当てと黒のズボンと、軍用のブーツは動きやすいものを選んだ。
剣は目立ちすぎるため簡素な鞘を用意してもらい、それに収めている。
パッと見て私は王族には見えない。
周りの人間の中にも馴染んでいた。
第十三部隊は罪人をかき集めた小隊だが、他の部隊は正規兵だ。
こっちの部隊と並行して谷を進んでいる。
…罪人を見張っている、なんて思いたくはないが…そのとおりだろう。
「それにしても、こんな崖を挟んだ場所で戦うつもりか?」
「いや、この先に地面が合流している場所があるから、そっちから迂回して魔族の土地に向かうらしいぜ」
「まだ歩かされるのかよ…」
兵士がぼそぼそと話し合っていた。
その会話を盗み聞きしながら私は空を見上げる。
雲ひとつ無い晴天だ。
岩場の影ならまだしも、崖の上を歩く列は目立つはず。
(目的地に到着する前に見つからなければいいけれど)
詳しい作戦指揮は下々の人間には聞かされていないので文句は言えない。
しかも今回この作戦を指揮するのは、第二王子のガレットだ。
伝令が告げた瞬間、同じ隊の人間たちが絶望に打ちひしがれた表情を浮かべたのを覚えている。
戦場の手柄を急ぐ性格の事もあり、ガレット王子は兵士に対する扱いが悪くて有名らしい。
リシャから聞き及んでいたが第二王子の悪評は貴族どころか兵士や平民たちにも良い印象はないのだろう。
一度も顔を合わせたことのない第二王子の事を考えながら、私は複雑な心境になった。
聖王国から数十日ほど遠征して到着した。
ここは魔王ベルグラが五百年前に人間へ向けて宣戦布告した場所と同じ戦場…らしい。
魔族と人間が定めた国境付近である。
(私にとってはベルと何度もピクニックに来た覚えがある場所だが…)
昔は見渡す限りの草原が広がる高野だったはずだが、今は見る影もない。
むき出しの岩肌に草木は生えず、平原だったはずの地平線は大きく地面が抉れて深い溝を作っており、平原というよりは谷を形成している。
谷の上の亀裂をなぞるように部隊が進行していた。
この崖から落ちたらひとたまりもない。
崖の底には陽の光さえ当たらず、その先には闇しか無い。
私はバミア平原に到達した際、谷の上からあたりを見渡してぽかんと呆気にとられていた。
(本当に見る影もない…)
昔は草木を求めて野生の羊や馬がやってくるのどかな風景があったというのに、今は緑が枯れ果てており動物はどこにもいない。
「おい!お前、ボサッとするな!!」
野太い兵士の声に一喝されて私はハッとした。
アルケミス聖王国の王城で暮らしていた私にとって久しぶりの外の風景…だったのだが、ずっと眺めているわけにも行かない。
すぐ持ち場に向かわなければ魔王ベルグラがやって来るぞと脅された。
私はフードを深く被り直しながら歩く兵の列に戻った。
上から下まで全身を覆うローブ、このおかげで黒髪は目立たない。
ローブの下は白い簡素なシャツを着て、腰には剣を吊り下げるベルト。
胸当てと黒のズボンと、軍用のブーツは動きやすいものを選んだ。
剣は目立ちすぎるため簡素な鞘を用意してもらい、それに収めている。
パッと見て私は王族には見えない。
周りの人間の中にも馴染んでいた。
第十三部隊は罪人をかき集めた小隊だが、他の部隊は正規兵だ。
こっちの部隊と並行して谷を進んでいる。
…罪人を見張っている、なんて思いたくはないが…そのとおりだろう。
「それにしても、こんな崖を挟んだ場所で戦うつもりか?」
「いや、この先に地面が合流している場所があるから、そっちから迂回して魔族の土地に向かうらしいぜ」
「まだ歩かされるのかよ…」
兵士がぼそぼそと話し合っていた。
その会話を盗み聞きしながら私は空を見上げる。
雲ひとつ無い晴天だ。
岩場の影ならまだしも、崖の上を歩く列は目立つはず。
(目的地に到着する前に見つからなければいいけれど)
詳しい作戦指揮は下々の人間には聞かされていないので文句は言えない。
しかも今回この作戦を指揮するのは、第二王子のガレットだ。
伝令が告げた瞬間、同じ隊の人間たちが絶望に打ちひしがれた表情を浮かべたのを覚えている。
戦場の手柄を急ぐ性格の事もあり、ガレット王子は兵士に対する扱いが悪くて有名らしい。
リシャから聞き及んでいたが第二王子の悪評は貴族どころか兵士や平民たちにも良い印象はないのだろう。
一度も顔を合わせたことのない第二王子の事を考えながら、私は複雑な心境になった。
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