ヴァーリニア

黄色の卵

文字の大きさ
上 下
1 / 2
第1章 七剣編《ズィーベン・サーベルス》

平和の終焉

しおりを挟む



『うぉりゃぁぁあああ!!』

『グガルガァガァガァァァ』


剣で斬られた獣がのたうち回り力尽きた。


『よし!初めての獲物だ!
   こんなのちょろいちょろい!!』


少年は嬉しそうに高らかと声をあげる。


『よし、帰るかー!
   村のみんなも驚くだろなー』


そう言うと少年は獣を切った剣を腰に収める。
そして獣を持参した縄でしばり、背中に
担ぎ上げる。
その時後ろから馴染みのある声が聴こえた。


『グレンー!どこいったのー』


透き通った可愛らしい声が、森の中に響き渡っている。
そしてその少女の声は段々近づいてくる。


『ここにいたの?ずっと探したんだから』

『ごめん。つい獲物に夢中で……』

『もう!心配かけて!このバカグレン!』


少女は少し頬を照らし、涙目になりながらグレンを怒りつける。


『ごめんって!俺が悪かった!
   アルシア!  な??このとおーり!!』


グレンは背中に背負っていた獣を下ろし、
アルシアの前に跪く。


『もう… そこまでされたら怒ろうにも
   怒れないじゃん。
   わかったから、もうかえろうよ?ね?』


そう言うとアルシアは白く艶のある長い髪を風にたなびかせながら、
グレンの頭を子犬のように撫でた。


するとグレンは恥ずかしくなったのか、
顔を赤くして、すぐさま立ち上がり、
倒した獲物を背負いなおした。


『んじゃまあ、か、、かえるか!!』

『うんっ!!』


アルシアはニッコリと笑った。

すっかり機嫌を治したアルシアとグレンは
村への道へと真っ直ぐ、真っ直ぐ歩いた。
ふと彼らは空を見上げ、
そして周りを見渡した。


『すっかり暗くなっちゃったね。』

『そうだなー』


辺りはすっかり暗くなり、日も
もうすぐ落ちそうだ。


『早く帰るか。あんまり遅くなると
   母さんに怒られっしなー』

『そうだねー、グレンまた木のハンマーで
   殴られちゃうねー』
 

アルシアはグレンの方を見て、
ニコニコしながら言った。

『バカッ!アルシア怖いこというなよ!
   てかそこまでは さすがにないだろ……』

『あれぇー?どうだろぉ~』


グレンは青ざめた表情でため息をつく。
それを見たアルシアはとぼけ、
そしてどこか少し楽しそうである。
2人が村への帰り道を歩いて、少しばかり
進んだ時、アルシアが前方の異変に気づいた。


『グレン、あの煙なに? 
   それにあの明かり』

『あれって………   まさか、火ッ!?
   しかもあっちは村の方じゃ……
   何か起きてるのかもしれない!!
   急ごう!アルシア!!』


煙と明かりを見た2人は、
村の方へ全速力で走っていく。
暗い森の中、
グレンはアルシアの手を握りながら、
無我夢中で夜道を進んでいく。

そうしている内に2人は村へ辿り着いた。
そこで見た光景に2人は目を疑った。

松明をもった見た事もない輩が2,3人、
歩いていて、家は数軒焼け落ちていた。
しかし、探しても探しても
そこには村人達の姿は無かった。


『ひどい……わたしたちの、村が、、』

『アルシア!大丈夫だ!村の人達はいない
   し、きっと港の方へ逃げたんだ!
   だから今すぐそこに向かおう!!』


そう言うとグレンはアルシアの手を引き、
また暗い暗い森の道を進み、
港の方へと向かっていく。
背中に背負っている獣のせいで
グレンの体力をじわじわと削っていく。
グレンあと少し、あと少しと
自分の心にに言い聞かせながら走っていく

少し走っているとグレン達は港へと
辿り着いた。
ヘトヘトのグレンに一人の男が話しかける


『グレン!それにアルシアじゃないか!
   2人とも無事だったのか!!』

『トムさん!!』


2人は声を揃えて名前を口に出し、
そして安心した顔でトムの顔を見つめる。


『トムさん、これはいったい…』


グレンはまた不安そうな顔に戻る。


『お前達が森に出かけている間に厄介な
   奴らが村を襲ってきたんだ。』

『村を!?だって世界にはしばらく争い
   なんてなくって、現にスズリカの村にも
   争いなんて無かったじゃないか!!』


グレンは信じられない様子で
トムに向かって異論を唱える。


『グレン…俺だって信じられないよ。
   争いなんて無くなったこの世界で
   再び争いが…………
  しかもスズリカで起こるなんて。
   だけどもこれは本当なんだよ。
   本当なんだよ、グレン。』


トムはうつむき、動揺を隠しきれない声でグレンに語りかける。
トムの手には力が入っていて、その様子はグレンにもその信じられない状況が
本当に起こっているんだと
認識させるほどのものであった。



『トムさん、ところでお母さんは
   どこにいるの…?』


重かった口をようやく開いたアルシアが
言った。


『エレインなら港の小さな酒場に避難して
   いる。村のみんなもそこにいるから
   大丈夫だよ。』


アルシアは安心した顔でトムを見つめる。


『ところでトムさん、襲ってきたのは
   一体誰なの?』

『あ、あぁ。襲ってきたのはザムという
   名の通った盗賊だ。
   巷じゃ少しばかり有名らしい。
  争いは最近起こったばかりだったという  
  もうすでに奴は3の村を襲撃していたらし
  い。』


トムは一度深呼吸すると、また話し始めた




『奴が村に来た時、俺はやつと戦った。
   でも奴が扱う包丁捌きに、俺は引かざる
   をえなかった。』

『そんな…トムさんのモリでも倒せない
   なんて…』


トムはスズリカで漁師をしており、
そのモリを使った闘魚との戦いは見事な物
であったため、スズリカでも屈指の実力者
として有名であった。
そのためトムがザムという包丁使いに退いたと聞き、グレンは驚きが隠せなかった。


『いいか、グレン。もしここにその男と
   その仲間達が来たらすぐに逃げ……』

『バゴォォオオーン!!!!』


『なんだ!!』


大きな爆音が港中に響き渡った。
辺りを見渡すと港の入口の門が破壊され、
数人の人影が見えた。

次の瞬間!!人影の方から剣が飛んできた

『危ないッ!!!!』

『キーン!』


飛んできた剣をトムはモリで弾いた。


『もうここまで来たのか……ザム…』


すると人影から大きな包丁の様な武器を
持った男とその手下と思われる男達が
5.6人出てきた。

大きな包丁を持った男が言った。


『ほぉー、俺の名前を知っているのか
    これはこれは、自己紹介が省けて
   便利なものだな』


『うるさい!お前達、一体何の用だ!!』
 

『相手が盗賊であると知っておきながら
   その質問をするのか。
   田舎には滑稽な奴もいたものだ。
   まあなんだ、バカでもわかるように
   手短にいってやろう。
   
   さっさと金品を出せ。
   出なきゃ今すぐに、ここで死ね』


『お前らみたいなゴミなんぞに渡す金な
   ど持ち合わせていないな 
   さっきとは違う!
   もう引いたりはしないぞ!ザム!!』


そう言うとトムはモリをザムの方へと向け
臨戦態勢に入った。


『おぉ!これは面白い。
   なら腕試しといこうかな』


ザムは左手を挙げた。
すると周りにいた子分達が剣を抜いた。


『お前ら、軽く相手をしてやれ』


そう言うと子分達は一斉にトムに
襲いかかった。


『お前らごときに負けられるかッ!
   スズリカを守るために!!』


トムはモリを振り回し、
剣を弾きながら隙を見計らっていく。
そして、剣を弾かれてバランスを崩した
輩が一人、また一人と地に伏せていく。
相手の攻撃を上手くモリで捌きながら、
相手を削っていく。
そして、
最後はモリを大きく前へと突き出し、
相手の胸部を貫いた。
トムは切り傷一つ受けることなく、ザムの
子分達を蹴散らしたのだ。


『なかなかやるな。では次が本番だ。』


するとザムは持っていた包丁を回転させながら臨戦態勢へと移る。
そして地面を強く蹴りだし、トムへと斬り掛かる。


『うぇぇぁぁあああ!!』


『キーン!!』

ザムの攻撃をトムはモリで受け止める。
そしてザムの包丁を押し返し、
そのまま足で蹴り飛ばす。


『ふっ…』


ザムは小さく嘲笑いトムの蹴りを腹筋だけで受け止める。
そして逆にトムの膝部分に蹴りを入れた。
するとトムは左足を中心にバランスを
崩した。


『しまったッ!!』

そしてザムはその隙を見逃さず
包丁をトムの左肩から右の腰にかけて
大きく振り下ろした。


『ザシュッッ!』

『ぐはぁぁぁあッッ』


たまらずトムは後ろへと飛び、
そして地面に片膝をつく。
傷口から次第に血が滲んでくる。
トムの視界は、疲れと最後の攻撃により
ふらついていた。


『この程度なのか?これで終わりか?
   じゃあ遠慮なく俺に楯突いた落とし前
   しっかりと払ってもらうぞ!!』


するとザムはまたトムに斬りかかった。
トムは気力を振り絞って瞬時に立ち上がり、ザムの剣を捌こうとするが、
さっきの一撃によってふらついてしまい、
今まではギリギリで耐えていたが、
次第に一撃、二撃と
ザムの包丁の斬撃を受けていく。
そして何撃か食らったあとトムは
ザムの突進で岩壁に打ち付けられる。


『ぐふぁッッ…』


岩壁に背中を強打し、その反動で
左肩から右腰にかけての傷が更に開く。
辺りに血が飛び散る。
もうトムに立ち上がる気力は残っていない


岩壁に打ち付けられたトムの元に
グレンとアルシアが駆け寄っていく。


『トムさん!!!しっかりしろって!!』

『トムさん!!死んじゃ嫌だよ~。』


グレンは必死にトムに声をかける。
アルシアは泣きじゃくりながらトムに
抱きついている。
そこへ一歩、また一歩と
ザムが近づいてくる。


『こんなガキがまだいたのか。
   逃げ遅れてしまったのかな~??』


ザムはゲスい顔を浮かべながらグレン達に
近寄ってくる。


『お??なんだか可愛らしい女も
   いるじぁねぇか~!!
   ほらお嬢ちゃぁんー!こっちへおいでぇ
   おじさんと楽しいことをぉぉぉお
   いっっぱぁぁい!しよぉ~!!』


ザムは包丁を掲げながら、
更にゲスい顔になっていく。
そして下劣で非道な足音が容赦なく
どんどん、どんどんと近づいてくる。


『やめ…ろ……。その子に手を出すな……』


トムは声を振り絞っていった。


『はぁぁ??負けたお前にどうこう
   いわれる筋合いはねぇんだよッ!!
   せいぜい負け犬らしく黙ってみとけよ』
『ハァッハッハッハッハ!!!』


ザムはトムを罵倒し高らかに笑った。
そしてザムがまた一歩アルシアに近寄ろうとした
その時!!
グレンがザムの前に立ち塞がった


『おいおい、何のつもりだ?ガキが』


『この子には、
   アルシアには手を出させない!!
   早く離れろ!!!ザム!! 』


グレンは睨みつけるようしてザムに言った


『ガキごときが……調子に乗りやがって…
   俺に指図してんじゃねぇよッ!!!』


ザムは拳を振り上げ、殴り、
そしてグレンを吹っ飛ばした。
その後もグレンの方へと近づいていき、
何発も何発もグレンを殴り続けた。
まるで理性を失った野獣のように……



『もうやめてッッ!!!!』


アルシアは泣きながら声を荒らげた。


『わたしッ!!
   なんでも言う通りにするから…… 
   おじさんの望み通りなんでもするッ!
   だからッ!
   その子を、グレンを離してッ!!!』


アルシアは身体の震えを止め、
精一杯の勇気と彼女なりの決意を
振り絞って言った。


『そっか~~
   おじさんの言う通りにするのかぁ~
   ならこいつはもういらねぇなぁぁあ!』


するとザムはグレンのクビを掴み、
森の方へと投げ飛ばした。


『さぁお嬢ちゃん、おじさんといこうか』


ザムはまたもやゲスい顔で
アルシアへと近づき、
首元を掴んで持ち上げた。


『これから楽しい時間の始まりだァァァ』
『ギャッハッハッハッハッ!!!』


涙を流し続けるアルシアの首元を掴み、
持ち上げるザムの下劣な笑い声が辺りへと
そしてグレンの頭の中に響いていく。


更にザムはアルシアの涙を舐め、
そして顔全体を舐めまわした。
もはやザムは理性を失った獣へと
豹変していた、アルシアの涙を引き金に。

それをみたグレンの目はもはや、
生気を失い、死んだ魚の様であった。
身体も脱力していて
まるで魂を抜かれたかのように……


グレンは心の中で自問自答を繰り返す。


(なんで僕はこんなに弱いんだ……
    
   僕じゃ何も守れない…村の人たちも、
    母さんも、トムさんも、、
 
   そしてなによりアルシアをッ!!
    
    俺にもし力があったなら…
   
    この状況を変えるだけの力があるなら
    
    俺はアルシアを…
    大好きなアルシアを
                               守りたいッ!!!!  )



グレンは心の叫びを、自分の心に直接
語りかけるかのようにして思い続けた。
必死に…なんども……なんども……
ザムの下劣な笑い声と、
アルシアの悲しい涙をすする音が
響き続ける中で……


(そんな上手くはいかないか………)




そう思ったそのとき。

ザムの下劣な笑い声が消え、
アルシアの涙が地面に落ちる音が…

まるで水面上を広がっていく波紋の様に
グレンの頭の中を響き渡った。

そして……






『チカラガ………ホシイカ…? セカイヲ…カエウルチカラヲ……』

そう、僕の中の何かが語りかけてきた。



                                       
             
                                  To be continue……
しおりを挟む

処理中です...