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もう一つの真実
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10節「もう一つの真実」
為心が雷炎を放ったすぐ後、続けて鬼に向かって飛んで行き、ノーネームが口を開いた。
「俺ももう行く。ナリムを頼んだぞ。」
ノーネームは凄まじい速さでその場から消え、鬼に向かって走っていった。
残った会長、リタ、ナリムはノーネームを見送り、会長は左の鬼へ、リタとナリムは右の鬼へと足を向けた。
「ナリム、バフを頼む。」
リタがナリムに指示を出した。
「水浄化。」
リタの足元に魔法陣が浮き上がり、リタのステータスが一時的に上がった。
「このタイミングで神氣開放とかならないかなぁ。」
リタが言葉を漏らす。
ナリムがそれに答えた。
「そんな都合の良いものでは無いので、無いかと…。」
苦笑いを浮かべつつ、ナリムはリタの後ろを付いていく。
「だよね。あの2人が来るまでは鷹の目でもなんとかなるか。」
「私も全力でサポートします。」
「よろしく。…さぁ…始めるかな。」
2人は会話をしつつ、戦闘範囲まで着き、構えに入った。
それを見た鬼が咆哮をリタに向けて放つ。
「グヴァアァァァァアアアア!!!!」
そして鬼も戦闘態勢に入った。
「心魂…鷹の目。」
リタがスキルを発動し、沈黙が流れた。
「……。」
先に動いたのはリタ側だった。
「ナリムっ!!」
「はいっ!…水光弾っ!!」
ナリムは鬼に向けて光の水の玉を放った。
そして、未来(さき)を見ていたリタが動く。
「この場所だよな!!」
ナリムが放った水光弾を鬼はその場から跳躍して避け、リタが待つ場所へと飛んでいた。
「くらいなっ!…刻爆炎っ!!」
鬼の着地と同時にリタは連撃系スキルの使用を避け、付与スキルを使用した。
「うらっ!!」
防御態勢を取れない鬼に横から一太刀を入れた。
刻爆炎スキルの爆発が鳴り響き、続けて二撃目は上段から斬り、三撃目は脚力を使い、後方回転(バクテン)をしながら下から上に斬り上げつつ、後ろへ下がった。
鬼は着地と同時に4足歩行の態勢になり、リタに向けて口を開いて雷炎を生成していた。
「ナリムっ!」
「水円晶!」
ナリムはリタに水の防壁を作った。
「絶っ!!」
更にリタは絶のシールドを加えた。
そして、鬼の雷炎が放たれ、リタのシールドに着弾した。
「今のうちに霧を頼むっ!」
「水幻っ!」
ナリムは鬼の周りに霧を発生させ、索敵出来ないようにし、その間にリタは雷炎を後方へと受け流し、そして腰を限界まで落として大技を繰り出した。
「心魂…光剣っ!!」
リタの持つ太刀が燃え盛る炎に包まれ、あまりの温度に眩く光り、鬼に向け跳躍した。
リタは上段から力一杯に太刀を振るった。
「くらえっ!!」
鬼は光剣でのスキルで燃え上がり、悲鳴を上げた。
「まだまだいくぜぇっ!…十火炎斬(じゅうかえんざん)っ!!」
リタは陽刀スキル十連撃を凄まじい勢いで繰り出した。
その間に鬼の後方に移動していたナリムも同時に動いた。
「私も加勢しますっ!!水刃槍連斬(すいばそうれんざん)っ!!」
ナリムは魔氣スキルの水を媒介にした刃での槍術スキルを繰り出した。
「おい!バカっ!!やめろっ!!」
その時リタから激声が飛んだ。
「え…?」
しかし、時はすでに遅く、鬼は標的をリタからナリムに変え、リタの攻撃を無視して右手の爪を鋭利に伸ばし、振り向いてナリムの胴体を突き刺した。
「クッソっ!!」
リタは十連撃中だった為にナリムを助けることが出来ず、スキルが終わってから瞬時に動いた。
鬼の伸ばされた右腕の関節に目掛けて下から太刀を力一杯に振り上げた。
しかし、鬼はもう一方の左腕に雷炎を生成しながら攻撃態勢に入っていた。
「忙しすぎるだろっ!!」
リタは鬼の右腕を斬り飛ばしたと同時にナリムを右脚で蹴りながら防御スキルを使用した。
その時、鬼の雷炎も同時に放たれた。
「絶っ!!」
間一髪でリタのシールドは間に合い、鬼の雷炎の攻撃を防御できた。
しかし、中途半端な態勢での「絶」だった為にリタは受け流すことが出来ずに火花を散らし耐え続けていた。
「勝手なことするんじゃねぇ!!」
リタがナリムに罵声を浴びせた。
「す、すいません。……っ!?…リ、リタさんっ!」
ナリムが鬼を見てリタに訴えた。
気づけば鬼は4足歩行の態勢になり、こちらに向けて口を開いて雷炎の咆哮を生成していた。
「まじかよ…。」
リタは苦笑いを浮かべた。
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ノーネームは鬼に向けて凄まじい勢いで走っていた。
その場から少し先で自分が放った雷炎が鬼に着弾し、防御態勢を取ったまま鬼は雷炎と共に後方に押し戻されていた。
しかし、鬼は軸足をうまく使いノーネームの雷炎を滑らせ後方へと流した。
「グヴァァァアアアっ!!!!!」
鬼はノーネームを標的に捉え、威嚇した。
「一瞬で終わらせてもらおう。」
ノーネームは走りながら鬼に向けて双月と融合した手を伸ばし、スキルを使用した。
「神氣(じんぎ)…漸減(ぜんげん)っ!!」
鬼の足元から黒い紫色の魔法陣が浮き上がり、ライトエフェクトで出来た鎖が鬼を地面へと捉(とら)え、張り付けた。
「心魂…鳴上(なるかみ)…」
双月に稲妻が纏った。
ノーネームは脚を止めずに更にスキルを使った。
「…閃光…」
自分自身に稲妻が纏った。
「……夢幻刹那(むげんせつな)。」
ノーネームは夢幻刹那のスキルで光の速さと成り、その場から更に加速し、消えた。
そして、鬼に向けて宙を跳(と)び、横回転しながら数回に渡って上段から連続で斬りつけ、鳴神の稲妻が瞬く間に落ちた。
地面に着地したと同時に反転し、更にまた数回に渡って下段から斬り上げ、磁場で足場を作り、周りの空中を這う様にして凄まじいスピードで斬り続ける。
鬼は、物理スキル攻撃と漸減での行動不能状態に、更にHP吸収、弱体化、毒、有りと有らゆるデバフをつけられHPが凄まじい速度で減っていた。
「ギャァァァァァアアアアアアアァァァァア!」
鬼は攻撃される度に悲鳴を上げていた。
「悪いな。娘を待たせてるんだ。終わってくれ。」
ノーネームはそう口遊み、最後のスキルを使った。
「…乱舞。」
乱舞のスキルによりノーネームは鬼を激しく斬り刻み、早々に鬼はポリゴンに成り、弾けて消えた。
「ナリム…」
ノーネームはリタとナリムの方へ体を向け走り出した。
その時、遠くに居たナリムが鬼の一撃を貰った瞬間を目(ま)の当(あ)たりにした。
「っ!?…くそ……閃光っ!!」
ノーネームはスキルを使い、加速した。
「頼む……間に合ってくれ…。」
焦りを噛みしめ、唯(ただ)、只管(ひたすら)に走った。
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「さて、少しワシと遊んでもらおうかの。」
会長は鬼の前で構え、そう言葉を口にした。
鬼もそれを見て掌を会長に向け、雷炎を生成し始めた。
「絶っ!!」
雷炎が放たれたと同時に会長はシールドを張った。
そして、着弾。
火花を散らしながら会長は角度を調整して、雷炎を後方へと受け流した。
「うらっ!!」
そして、気づけば目の前に鬼の姿は無く、振り向いた時には鬼は既に真後ろに移動していた。
「しまっ……」
『くそっ!絶も挽回も間に合わないっ!』
鬼は伸ばした右の爪を突き刺そうとしていた。
会長は回避も防御も間に合わないと判断し、振り向き様にスキルを使用した。
「十火炎斬っ!!」
鬼の爪は会長の左肩を突き刺し、貫通した。
「ぅぐっ!…ぅぅぉぉおおおおっ!!!」
会長は鬼の攻撃を受けつつも構わず攻撃をした。
鬼の攻撃している右肩に目掛けて一太刀いれ、鬼の腕を吹き飛ばす。
無理矢理攻撃した事により、突き刺さっていた爪が傷口を激しく掻(か)き回し、会長の肩は剔(えぐ)れ、肉片は飛び、左腕が動かなくなった。
「腕ぐらいくれてやるっ!」
会長はそれでも止まらなかった。
一太刀目からの遠心力を利用して前方回転し、二撃目、着地と同時にまた跳ね上がり、横回転をしながら三撃目、四撃目、五撃目、地面に足が着いたと同時に横に払い斬りし、六撃目、鬼の胴体に対し、下から斜めに上に斬り上げ七撃目、上段から斬り伏せ八撃目、そこから跳躍し、前方に後方回転しながら鬼の後頭部に9撃目、着地し振り向き様に遠心力を利用した横斬りに更にスキルを上乗せした。
「心魂……光剣っ!!」
燃え盛る太刀の刀身に、更に眩い光が激しく輝き、10撃目の最後の攻撃が鬼に振り抜かれた。
「くぅらぁえぇぇえええっ!!!!」
見事最後の一太刀は鬼の背中に大きく傷痕を残した。
しかし、鬼も攻撃に転じ、そのまま後ろ蹴りが飛んできた。
会長はその攻撃(けり)を防御する為に左手を使おうとした。
「うぐっ?!」
左手に痛みが走り、防御が出来ない事に今気づいた。
「しまっ…」
鬼の蹴りをまともに受け、激しく吹き飛び、転がった。
「…クソ…全部裏目に出るのう。」
会長は起き上がろうと、鬼を見た時には4足歩行でこちらに向け大きく口を開き雷炎を生成していた。
「これは…ワシにとって…」
会長は口遊(くちずさみ)つつ、動かない左手を庇(かば)いながら力なく起き上がり、雷炎を前に立った。
「…チャンスでしか無いのう。」
そして、会長は笑った。
「さぁ…来てみろ…。」
その言葉に合わせるかのように鬼の雷炎は凄まじい音を奏でて放たれた。
「神氣…起死回生。」
雷炎が着弾し、激しい爆発と眩いライトエフェクトが入り乱れた。
「雷炎っ!!」
鬼に向け青緑の稲妻を纏った雷炎が鬼に向かって放たれていた。
鬼は防御を取れず雷炎と共に後方へ吹き飛んだ。
「会長っ!…会長!」
為心が遅れて到着し、煙幕の中に呼びかけた。
「クソ…間に合わなかった…。」
為心が顔を下に向け、力一杯に拳を噛み締めた。
「…お決まりの展開じゃろう?」
煙幕の中から声が聞こえ、オレンジ色のライトエフェクトが激しく舞った。
風圧で煙幕が拡散し、中から笑った会長が現れた。
「か、会長…よかった。」
為心は安堵(あんど)を表情に浮かべた。
「心配かけたのう。まぁ、見ておれ、すぐに終わらせてやる。」
傷は全て回復し、全身から陽気の様なライトエフェクトが揺らぎ、会長は鬼に向け歩き出した。
「会長!あたしもてつだ……」
為心の言葉が言い終える前に会長は凄まじいスピードでその場から消え、気づけば起き上がろうとする鬼に斬りかかっていた。
「仕返しじゃ。……刻爆炎…十火炎斬っ!!」
鬼に向け、宙を飛びながら前方回転で一太刀入れ、刻爆炎スキルの爆発音が激しく鳴り響き、鬼は一太刀で更に後方へと吹き飛んだ。
「弱っておるのう。…いや、ワシのステータスが上がり過ぎてるのかのう。」
地面に着地し、力一杯に踏み込み、鬼に向けまた更に前方回転して二撃目を入れた。
「あと、八撃……付き合ってもらうぞ。」
会長のあまりの強さに鬼は為(な)す術なく、HPは凄まじい速度で減っていた。
その後、残りの七撃の攻撃が終わり。
「付き合わせてしまい悪かったのう…ラストじゃ。」
会長は力一杯に踏み込み、両手を真上に上げた。
「心魂…光剣。」
刀身が激しく燃え盛り、そして眩い輝きを放ち、上段から斬り伏せた。
「散れ。」
その言葉に合わせて鬼はポリゴンなり、弾けて消えた。
「待たせたの為心よ。リタの所へ向うとするかの。」
「その前に何今の?」
戻ってきた会長に為心は聞いた。
「何がじゃ?」
会長は惚(とぼ)けた表情を浮かべる。
「もしかして…神氣?」
「お!主にはまだ見せてなかったかっ!…そじゃ!神氣じゃ!しかし主のと違って、ちと扱(あつか)い難(にく)いじゃがのう。」
「めっちゃ強いじゃん。心配して損した。」
そう言いながら為心はスキル律加(りっか)での亜鬼人(アギト)を解除した。
「しかし、為心のは羨ましいのう!ステータスを割り振れるんじゃろう?ヴァイラスなんか簡単に倒せるのではないかの?」
「……。」
その言葉に為心は返すことが出来なかった。
「なんじゃ?」
「いや…足りないかも…。」
「どういうことじゃ?」
「律加(りっか)だけじゃ…まだ足りない。これじゃまだ奴(ヴァイラス)に届かない。」
「為心よ…。」
「ん?」
「主は一人か?」
「…。」
「そのままでは届かないじゃろうな。」
「どういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。」
会長は笑顔を見せ、言葉を続けた。
「そんなことより。リタの所へ向かうかの。」
会長達がリタの方へ足を向けたその時だった。
遠くの方で光の柱が天から降るのを2人は目視した。
「あれは!!」
為心が見覚えのある光景に驚いた。
「あれはなんじゃ?」
会長は為心に聞いた。
「あれはノーネームの漸減(ぜんげん)だ…もうリタの所に着いたってことか。」
「ならワシらも向かうとするかの。」
2人はリタの方へと向かった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ナリムの訴えでリタは受け止める雷炎の更に奥の雷炎の咆哮に気づいた。
「まじかよ…。」
リタは苦笑いを浮かべた。
「クッソっ!どれも積(つ)んでんじゃねぇかっ!!…こういう時に神氣があれば……チっ…無いもんはしょうがねぇ…。」
リタは数ある未来(さき)を見ていたがどれも致命傷だった。
その中で最善を選択する。
「ちっ…これが、いくらかましか……ナリムっ!!」
「は、はい!」
「バフが切れる!今すぐにバフをかけろっ!早くっ!!」
「はい!水浄化っ!!」
リタの足元に魔法陣が浮き上がりリタの体を光が淡く包んだ。
一時的にステータスが上がり、リタは絶のシールドの角度を変え、手咆(しゅほう)の雷炎を滑らせて受け流した。
「……からの…」
リタは態勢を限界まで低くし、力一杯踏み込みこんで鬼に向かって一直線に飛んだ。
真正面から鬼目掛けてただ突っ込むその光景にナリムが驚いた。
「…リ、リタさん!」
ナリムの声も届かずリタは咆哮を構える鬼の目の間にまで迫(せま)った。
「どうせ致命傷なら…てめぇも一緒だ。」
リタは0(ぜろ)距離でスキルを展開した。
「くらいな…絶っ!!」
発動と同時に雷炎が放たれ、辺り一帯は凄まじいライトエフェクトと爆発、更に目を背(そむ)けてしまうほどの爆風と土埃が舞い、ナリムはリタがどうなったのか分からなくなった。
しかし直ぐに、土煙からリタが吹き飛んできた。
「っ!?リタさんっ!!」
リタをナリムは受け止め、2人とも後方へと激しく転がった。
「リタさん!大丈夫ですか!?リタさん!!」
リタは相当なダメージを負い、弱っていた。
そして、リタはナリムに言葉を押し出すように発した。
「バカっ……次が来る……逃げろ……。」
その言葉を聞き、ナリムが鬼を見た時はもう既に、鬼はこちらに長い爪を伸ばし、一直線に飛んできていた。
「間に合わないっ!」
咄嗟(とっさ)にナリムはリタに覆(おお)い被(かぶ)さり目を瞑った。
「届くか…?…いや……やるしかない。」
ノーネームは鬼に向け融合した双月を伸ばし、スキルを使った。
「神氣…漸減っ!!」
鬼の上空から、一筋の光が凄まじい勢いで衝撃音と共に落ち、光の範囲に入った鬼の動きが遅くなった。
「届いたか。しかし、間に合わなさそうだな。」
ノーネームはそのまま鬼に向かって一直線に飛んだ。
「夢幻刹那。」
ノーネームが空中で更に加速し、鬼に目掛けて一太刀入れた時。
「…チっ…切れたか…。」
ノーネームの亜鬼人化(あぎとか)が解け、元の状態へと戻った。
しかし、ノーネームは止まらずに二撃目、三撃目と鬼を斬り刻んだ。
「さすがにこの100レベルエリアだと累減(るいげん)無しでこんなものか。」
ノーマル状態での攻撃に鬼のHPの減りは微量だった。
『ちっ…今のナリム達を庇(かば)いながらだときついか…。』
ノーネームはスキル漸減を解除した。
「解(かい)。」
そして、鬼に一太刀入れ、ナリムとリタとは反対側へ移動し、標的を自分へと向けた。
「よし……ついて来い。」
ノーネームは鬼を連れその場から離れた。
それを見ていたナリムは口遊(くちずさ)んだ。
「ノネムさん…すいません。」
状況把握出来てないリタがナリムに聞く。
「鬼は…どうなった…?」
「ノネムさんが来てくれて、鬼を連れ、離れてくれました。…今、回復させます。」
ナリムは回復スキル「水浄化」と回復アイテム「赤生水」を使ってリタを回復させた。
「サンキュー。助かった。」
「いえ。私も勝手なことをしてしまったので申し訳ないです。」
「いや…俺が弱かっただけだ。」
リタの劣等感は増すばかりだった。
続けてリタは言葉を口にした。
「鬼を追うぞ。」
「はい。」
ノーネームは会長が居る方向へと走っていた。
『恐らく会長の方へ行けば為心もいるだろう。3人ならいける。』
その時、後ろで重低音から高音へとなり引き始めた。
「まさかっ?!」
振り向いた時には、鬼は走りながら左手の雷炎を放っていた。
「くっ!」
ノーネームは防御態勢だけとり雷炎と共に飛ばされ地面に転がった。
鬼は跳躍し、転がるノーネーム目掛けて宙から伸ばした爪を突き刺そうとしていた。
「名無しが危ないっ!」
会長がその光景を見つけたと同時だった。
「神氣っ!律加っ!!脚力調律っ!!」
為心はスキルを使い、その場から凄まじいスピードで消えていた。
「うぉ…らぁっ!!」
気づいた時には突き刺そうとする鬼に向かって為心は斬りかかっていた。
一太刀入れた瞬間、為心はそのまま空中でスキルを発動した。
「閃光っ!夢幻刹那っ!」
空中に磁場で作った足場を利用し、有りと有らゆる方向から斬り刻む。
しかし、鬼のHPの減り具合を見て為心は気づいた。
『1発目で雷炎を飛ばして無い分、決め手が足りないか…。』
その時、斬り続けながら会長が視界に入った。
「止(とど)めは譲ってやるよっ!…会長っ!」
為心はそう口にし、最後の一撃で鬼を地面へと落とし、離脱した。
それと同時に会長が攻撃のモーションへと入っていた。
「有り難く頂戴させて貰うぞっ!…十火炎斬っ!!」
地面に叩きつけられて跳ね上がった鬼に会長は十連撃を浴びせた。
「止めじゃっ!!心魂っ光剣っ!!」
最後の一撃に心魂を合わせて斬り抜いた。
剣を鞘に収めて、ノーネームに振り向き聞いた。
「リタは無事かのう?」
その後ろでは鬼がポリゴンになって弾けて消えた。
「すまない…助かった。」
ノーネームは先に礼を言い言葉を続けた。
「あぁ。リタもナリムも無事だ。」
「そうか。」
そこで、為心が口を開いた。
「早く合流して先へ進もう。もたもたしてられない。」
会長が同意を口にする。
「為心の言う通りじゃ。少し時間をここで食わされた。」
ノーネームが答える。
「そうだな。少し急ぐとしよう。」
3人はリタとナリムに合流し先を急いだ。
5人は幾(いく)つかの鬼に邪魔をされつつもついにたどり着いた。
そこには赤い山と一体になった歪な城。
プレイヤーの体には似合わない大き過ぎる門があり、その扉の前でノーネームは仲間に確認する。
「ここまでの道のりで俺は少なからず、お前たちを知った。だから俺から頼みたいことがある。」
ノーネームは全員の目をそれぞれ見て言葉を続けた。
「国が危ないことも伝えた。しかし、お前たちにとっては大き過ぎて危機感を感じられてないのはわかる。…だから俺は個人的にお前達に頼みたい。」
ノーネームは沈黙の後に口を開く。
「…俺の…娘を救って欲しい…。」
その言葉に全員が驚いた。
その中で会長がノーネームに聞いた。
「ちょっと待て…どういうことじゃっ!?」
会長は繋がらない話に驚きを見せた。
ノーネームが答える。
「俺が脳のデータ化に成功した実験体がいる話はしたな…。」
それを聞いて全員が理解した。
「お主の娘か!?」
「そうだ。…その記憶データは重要機密だった。日本政府のサーバーに保存されていた為に、ヴァイラスに奪われ、今…奴の手元にある…。」
ノーネームはその場で頭を下げた。
「お願いだ…もう時間がない。俺の娘を助けて欲しい。」
その状況にリタが冷たく答えた。
「そんなもん…自分で救え…。」
リタはそう言い、ノーネームの後ろに構える城の大き過ぎる扉に手をかけ、さらに言葉を続けた。
「俺は姉を救ってくれと誰にも頼んではいない。」
リタはその言葉を残し、両手で扉を押し開け、中に1人で入っていった。
為心が雷炎を放ったすぐ後、続けて鬼に向かって飛んで行き、ノーネームが口を開いた。
「俺ももう行く。ナリムを頼んだぞ。」
ノーネームは凄まじい速さでその場から消え、鬼に向かって走っていった。
残った会長、リタ、ナリムはノーネームを見送り、会長は左の鬼へ、リタとナリムは右の鬼へと足を向けた。
「ナリム、バフを頼む。」
リタがナリムに指示を出した。
「水浄化。」
リタの足元に魔法陣が浮き上がり、リタのステータスが一時的に上がった。
「このタイミングで神氣開放とかならないかなぁ。」
リタが言葉を漏らす。
ナリムがそれに答えた。
「そんな都合の良いものでは無いので、無いかと…。」
苦笑いを浮かべつつ、ナリムはリタの後ろを付いていく。
「だよね。あの2人が来るまでは鷹の目でもなんとかなるか。」
「私も全力でサポートします。」
「よろしく。…さぁ…始めるかな。」
2人は会話をしつつ、戦闘範囲まで着き、構えに入った。
それを見た鬼が咆哮をリタに向けて放つ。
「グヴァアァァァァアアアア!!!!」
そして鬼も戦闘態勢に入った。
「心魂…鷹の目。」
リタがスキルを発動し、沈黙が流れた。
「……。」
先に動いたのはリタ側だった。
「ナリムっ!!」
「はいっ!…水光弾っ!!」
ナリムは鬼に向けて光の水の玉を放った。
そして、未来(さき)を見ていたリタが動く。
「この場所だよな!!」
ナリムが放った水光弾を鬼はその場から跳躍して避け、リタが待つ場所へと飛んでいた。
「くらいなっ!…刻爆炎っ!!」
鬼の着地と同時にリタは連撃系スキルの使用を避け、付与スキルを使用した。
「うらっ!!」
防御態勢を取れない鬼に横から一太刀を入れた。
刻爆炎スキルの爆発が鳴り響き、続けて二撃目は上段から斬り、三撃目は脚力を使い、後方回転(バクテン)をしながら下から上に斬り上げつつ、後ろへ下がった。
鬼は着地と同時に4足歩行の態勢になり、リタに向けて口を開いて雷炎を生成していた。
「ナリムっ!」
「水円晶!」
ナリムはリタに水の防壁を作った。
「絶っ!!」
更にリタは絶のシールドを加えた。
そして、鬼の雷炎が放たれ、リタのシールドに着弾した。
「今のうちに霧を頼むっ!」
「水幻っ!」
ナリムは鬼の周りに霧を発生させ、索敵出来ないようにし、その間にリタは雷炎を後方へと受け流し、そして腰を限界まで落として大技を繰り出した。
「心魂…光剣っ!!」
リタの持つ太刀が燃え盛る炎に包まれ、あまりの温度に眩く光り、鬼に向け跳躍した。
リタは上段から力一杯に太刀を振るった。
「くらえっ!!」
鬼は光剣でのスキルで燃え上がり、悲鳴を上げた。
「まだまだいくぜぇっ!…十火炎斬(じゅうかえんざん)っ!!」
リタは陽刀スキル十連撃を凄まじい勢いで繰り出した。
その間に鬼の後方に移動していたナリムも同時に動いた。
「私も加勢しますっ!!水刃槍連斬(すいばそうれんざん)っ!!」
ナリムは魔氣スキルの水を媒介にした刃での槍術スキルを繰り出した。
「おい!バカっ!!やめろっ!!」
その時リタから激声が飛んだ。
「え…?」
しかし、時はすでに遅く、鬼は標的をリタからナリムに変え、リタの攻撃を無視して右手の爪を鋭利に伸ばし、振り向いてナリムの胴体を突き刺した。
「クッソっ!!」
リタは十連撃中だった為にナリムを助けることが出来ず、スキルが終わってから瞬時に動いた。
鬼の伸ばされた右腕の関節に目掛けて下から太刀を力一杯に振り上げた。
しかし、鬼はもう一方の左腕に雷炎を生成しながら攻撃態勢に入っていた。
「忙しすぎるだろっ!!」
リタは鬼の右腕を斬り飛ばしたと同時にナリムを右脚で蹴りながら防御スキルを使用した。
その時、鬼の雷炎も同時に放たれた。
「絶っ!!」
間一髪でリタのシールドは間に合い、鬼の雷炎の攻撃を防御できた。
しかし、中途半端な態勢での「絶」だった為にリタは受け流すことが出来ずに火花を散らし耐え続けていた。
「勝手なことするんじゃねぇ!!」
リタがナリムに罵声を浴びせた。
「す、すいません。……っ!?…リ、リタさんっ!」
ナリムが鬼を見てリタに訴えた。
気づけば鬼は4足歩行の態勢になり、こちらに向けて口を開いて雷炎の咆哮を生成していた。
「まじかよ…。」
リタは苦笑いを浮かべた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ノーネームは鬼に向けて凄まじい勢いで走っていた。
その場から少し先で自分が放った雷炎が鬼に着弾し、防御態勢を取ったまま鬼は雷炎と共に後方に押し戻されていた。
しかし、鬼は軸足をうまく使いノーネームの雷炎を滑らせ後方へと流した。
「グヴァァァアアアっ!!!!!」
鬼はノーネームを標的に捉え、威嚇した。
「一瞬で終わらせてもらおう。」
ノーネームは走りながら鬼に向けて双月と融合した手を伸ばし、スキルを使用した。
「神氣(じんぎ)…漸減(ぜんげん)っ!!」
鬼の足元から黒い紫色の魔法陣が浮き上がり、ライトエフェクトで出来た鎖が鬼を地面へと捉(とら)え、張り付けた。
「心魂…鳴上(なるかみ)…」
双月に稲妻が纏った。
ノーネームは脚を止めずに更にスキルを使った。
「…閃光…」
自分自身に稲妻が纏った。
「……夢幻刹那(むげんせつな)。」
ノーネームは夢幻刹那のスキルで光の速さと成り、その場から更に加速し、消えた。
そして、鬼に向けて宙を跳(と)び、横回転しながら数回に渡って上段から連続で斬りつけ、鳴神の稲妻が瞬く間に落ちた。
地面に着地したと同時に反転し、更にまた数回に渡って下段から斬り上げ、磁場で足場を作り、周りの空中を這う様にして凄まじいスピードで斬り続ける。
鬼は、物理スキル攻撃と漸減での行動不能状態に、更にHP吸収、弱体化、毒、有りと有らゆるデバフをつけられHPが凄まじい速度で減っていた。
「ギャァァァァァアアアアアアアァァァァア!」
鬼は攻撃される度に悲鳴を上げていた。
「悪いな。娘を待たせてるんだ。終わってくれ。」
ノーネームはそう口遊み、最後のスキルを使った。
「…乱舞。」
乱舞のスキルによりノーネームは鬼を激しく斬り刻み、早々に鬼はポリゴンに成り、弾けて消えた。
「ナリム…」
ノーネームはリタとナリムの方へ体を向け走り出した。
その時、遠くに居たナリムが鬼の一撃を貰った瞬間を目(ま)の当(あ)たりにした。
「っ!?…くそ……閃光っ!!」
ノーネームはスキルを使い、加速した。
「頼む……間に合ってくれ…。」
焦りを噛みしめ、唯(ただ)、只管(ひたすら)に走った。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「さて、少しワシと遊んでもらおうかの。」
会長は鬼の前で構え、そう言葉を口にした。
鬼もそれを見て掌を会長に向け、雷炎を生成し始めた。
「絶っ!!」
雷炎が放たれたと同時に会長はシールドを張った。
そして、着弾。
火花を散らしながら会長は角度を調整して、雷炎を後方へと受け流した。
「うらっ!!」
そして、気づけば目の前に鬼の姿は無く、振り向いた時には鬼は既に真後ろに移動していた。
「しまっ……」
『くそっ!絶も挽回も間に合わないっ!』
鬼は伸ばした右の爪を突き刺そうとしていた。
会長は回避も防御も間に合わないと判断し、振り向き様にスキルを使用した。
「十火炎斬っ!!」
鬼の爪は会長の左肩を突き刺し、貫通した。
「ぅぐっ!…ぅぅぉぉおおおおっ!!!」
会長は鬼の攻撃を受けつつも構わず攻撃をした。
鬼の攻撃している右肩に目掛けて一太刀いれ、鬼の腕を吹き飛ばす。
無理矢理攻撃した事により、突き刺さっていた爪が傷口を激しく掻(か)き回し、会長の肩は剔(えぐ)れ、肉片は飛び、左腕が動かなくなった。
「腕ぐらいくれてやるっ!」
会長はそれでも止まらなかった。
一太刀目からの遠心力を利用して前方回転し、二撃目、着地と同時にまた跳ね上がり、横回転をしながら三撃目、四撃目、五撃目、地面に足が着いたと同時に横に払い斬りし、六撃目、鬼の胴体に対し、下から斜めに上に斬り上げ七撃目、上段から斬り伏せ八撃目、そこから跳躍し、前方に後方回転しながら鬼の後頭部に9撃目、着地し振り向き様に遠心力を利用した横斬りに更にスキルを上乗せした。
「心魂……光剣っ!!」
燃え盛る太刀の刀身に、更に眩い光が激しく輝き、10撃目の最後の攻撃が鬼に振り抜かれた。
「くぅらぁえぇぇえええっ!!!!」
見事最後の一太刀は鬼の背中に大きく傷痕を残した。
しかし、鬼も攻撃に転じ、そのまま後ろ蹴りが飛んできた。
会長はその攻撃(けり)を防御する為に左手を使おうとした。
「うぐっ?!」
左手に痛みが走り、防御が出来ない事に今気づいた。
「しまっ…」
鬼の蹴りをまともに受け、激しく吹き飛び、転がった。
「…クソ…全部裏目に出るのう。」
会長は起き上がろうと、鬼を見た時には4足歩行でこちらに向け大きく口を開き雷炎を生成していた。
「これは…ワシにとって…」
会長は口遊(くちずさみ)つつ、動かない左手を庇(かば)いながら力なく起き上がり、雷炎を前に立った。
「…チャンスでしか無いのう。」
そして、会長は笑った。
「さぁ…来てみろ…。」
その言葉に合わせるかのように鬼の雷炎は凄まじい音を奏でて放たれた。
「神氣…起死回生。」
雷炎が着弾し、激しい爆発と眩いライトエフェクトが入り乱れた。
「雷炎っ!!」
鬼に向け青緑の稲妻を纏った雷炎が鬼に向かって放たれていた。
鬼は防御を取れず雷炎と共に後方へ吹き飛んだ。
「会長っ!…会長!」
為心が遅れて到着し、煙幕の中に呼びかけた。
「クソ…間に合わなかった…。」
為心が顔を下に向け、力一杯に拳を噛み締めた。
「…お決まりの展開じゃろう?」
煙幕の中から声が聞こえ、オレンジ色のライトエフェクトが激しく舞った。
風圧で煙幕が拡散し、中から笑った会長が現れた。
「か、会長…よかった。」
為心は安堵(あんど)を表情に浮かべた。
「心配かけたのう。まぁ、見ておれ、すぐに終わらせてやる。」
傷は全て回復し、全身から陽気の様なライトエフェクトが揺らぎ、会長は鬼に向け歩き出した。
「会長!あたしもてつだ……」
為心の言葉が言い終える前に会長は凄まじいスピードでその場から消え、気づけば起き上がろうとする鬼に斬りかかっていた。
「仕返しじゃ。……刻爆炎…十火炎斬っ!!」
鬼に向け、宙を飛びながら前方回転で一太刀入れ、刻爆炎スキルの爆発音が激しく鳴り響き、鬼は一太刀で更に後方へと吹き飛んだ。
「弱っておるのう。…いや、ワシのステータスが上がり過ぎてるのかのう。」
地面に着地し、力一杯に踏み込み、鬼に向けまた更に前方回転して二撃目を入れた。
「あと、八撃……付き合ってもらうぞ。」
会長のあまりの強さに鬼は為(な)す術なく、HPは凄まじい速度で減っていた。
その後、残りの七撃の攻撃が終わり。
「付き合わせてしまい悪かったのう…ラストじゃ。」
会長は力一杯に踏み込み、両手を真上に上げた。
「心魂…光剣。」
刀身が激しく燃え盛り、そして眩い輝きを放ち、上段から斬り伏せた。
「散れ。」
その言葉に合わせて鬼はポリゴンなり、弾けて消えた。
「待たせたの為心よ。リタの所へ向うとするかの。」
「その前に何今の?」
戻ってきた会長に為心は聞いた。
「何がじゃ?」
会長は惚(とぼ)けた表情を浮かべる。
「もしかして…神氣?」
「お!主にはまだ見せてなかったかっ!…そじゃ!神氣じゃ!しかし主のと違って、ちと扱(あつか)い難(にく)いじゃがのう。」
「めっちゃ強いじゃん。心配して損した。」
そう言いながら為心はスキル律加(りっか)での亜鬼人(アギト)を解除した。
「しかし、為心のは羨ましいのう!ステータスを割り振れるんじゃろう?ヴァイラスなんか簡単に倒せるのではないかの?」
「……。」
その言葉に為心は返すことが出来なかった。
「なんじゃ?」
「いや…足りないかも…。」
「どういうことじゃ?」
「律加(りっか)だけじゃ…まだ足りない。これじゃまだ奴(ヴァイラス)に届かない。」
「為心よ…。」
「ん?」
「主は一人か?」
「…。」
「そのままでは届かないじゃろうな。」
「どういうことだ?」
「そのままの意味じゃ。」
会長は笑顔を見せ、言葉を続けた。
「そんなことより。リタの所へ向かうかの。」
会長達がリタの方へ足を向けたその時だった。
遠くの方で光の柱が天から降るのを2人は目視した。
「あれは!!」
為心が見覚えのある光景に驚いた。
「あれはなんじゃ?」
会長は為心に聞いた。
「あれはノーネームの漸減(ぜんげん)だ…もうリタの所に着いたってことか。」
「ならワシらも向かうとするかの。」
2人はリタの方へと向かった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ナリムの訴えでリタは受け止める雷炎の更に奥の雷炎の咆哮に気づいた。
「まじかよ…。」
リタは苦笑いを浮かべた。
「クッソっ!どれも積(つ)んでんじゃねぇかっ!!…こういう時に神氣があれば……チっ…無いもんはしょうがねぇ…。」
リタは数ある未来(さき)を見ていたがどれも致命傷だった。
その中で最善を選択する。
「ちっ…これが、いくらかましか……ナリムっ!!」
「は、はい!」
「バフが切れる!今すぐにバフをかけろっ!早くっ!!」
「はい!水浄化っ!!」
リタの足元に魔法陣が浮き上がりリタの体を光が淡く包んだ。
一時的にステータスが上がり、リタは絶のシールドの角度を変え、手咆(しゅほう)の雷炎を滑らせて受け流した。
「……からの…」
リタは態勢を限界まで低くし、力一杯踏み込みこんで鬼に向かって一直線に飛んだ。
真正面から鬼目掛けてただ突っ込むその光景にナリムが驚いた。
「…リ、リタさん!」
ナリムの声も届かずリタは咆哮を構える鬼の目の間にまで迫(せま)った。
「どうせ致命傷なら…てめぇも一緒だ。」
リタは0(ぜろ)距離でスキルを展開した。
「くらいな…絶っ!!」
発動と同時に雷炎が放たれ、辺り一帯は凄まじいライトエフェクトと爆発、更に目を背(そむ)けてしまうほどの爆風と土埃が舞い、ナリムはリタがどうなったのか分からなくなった。
しかし直ぐに、土煙からリタが吹き飛んできた。
「っ!?リタさんっ!!」
リタをナリムは受け止め、2人とも後方へと激しく転がった。
「リタさん!大丈夫ですか!?リタさん!!」
リタは相当なダメージを負い、弱っていた。
そして、リタはナリムに言葉を押し出すように発した。
「バカっ……次が来る……逃げろ……。」
その言葉を聞き、ナリムが鬼を見た時はもう既に、鬼はこちらに長い爪を伸ばし、一直線に飛んできていた。
「間に合わないっ!」
咄嗟(とっさ)にナリムはリタに覆(おお)い被(かぶ)さり目を瞑った。
「届くか…?…いや……やるしかない。」
ノーネームは鬼に向け融合した双月を伸ばし、スキルを使った。
「神氣…漸減っ!!」
鬼の上空から、一筋の光が凄まじい勢いで衝撃音と共に落ち、光の範囲に入った鬼の動きが遅くなった。
「届いたか。しかし、間に合わなさそうだな。」
ノーネームはそのまま鬼に向かって一直線に飛んだ。
「夢幻刹那。」
ノーネームが空中で更に加速し、鬼に目掛けて一太刀入れた時。
「…チっ…切れたか…。」
ノーネームの亜鬼人化(あぎとか)が解け、元の状態へと戻った。
しかし、ノーネームは止まらずに二撃目、三撃目と鬼を斬り刻んだ。
「さすがにこの100レベルエリアだと累減(るいげん)無しでこんなものか。」
ノーマル状態での攻撃に鬼のHPの減りは微量だった。
『ちっ…今のナリム達を庇(かば)いながらだときついか…。』
ノーネームはスキル漸減を解除した。
「解(かい)。」
そして、鬼に一太刀入れ、ナリムとリタとは反対側へ移動し、標的を自分へと向けた。
「よし……ついて来い。」
ノーネームは鬼を連れその場から離れた。
それを見ていたナリムは口遊(くちずさ)んだ。
「ノネムさん…すいません。」
状況把握出来てないリタがナリムに聞く。
「鬼は…どうなった…?」
「ノネムさんが来てくれて、鬼を連れ、離れてくれました。…今、回復させます。」
ナリムは回復スキル「水浄化」と回復アイテム「赤生水」を使ってリタを回復させた。
「サンキュー。助かった。」
「いえ。私も勝手なことをしてしまったので申し訳ないです。」
「いや…俺が弱かっただけだ。」
リタの劣等感は増すばかりだった。
続けてリタは言葉を口にした。
「鬼を追うぞ。」
「はい。」
ノーネームは会長が居る方向へと走っていた。
『恐らく会長の方へ行けば為心もいるだろう。3人ならいける。』
その時、後ろで重低音から高音へとなり引き始めた。
「まさかっ?!」
振り向いた時には、鬼は走りながら左手の雷炎を放っていた。
「くっ!」
ノーネームは防御態勢だけとり雷炎と共に飛ばされ地面に転がった。
鬼は跳躍し、転がるノーネーム目掛けて宙から伸ばした爪を突き刺そうとしていた。
「名無しが危ないっ!」
会長がその光景を見つけたと同時だった。
「神氣っ!律加っ!!脚力調律っ!!」
為心はスキルを使い、その場から凄まじいスピードで消えていた。
「うぉ…らぁっ!!」
気づいた時には突き刺そうとする鬼に向かって為心は斬りかかっていた。
一太刀入れた瞬間、為心はそのまま空中でスキルを発動した。
「閃光っ!夢幻刹那っ!」
空中に磁場で作った足場を利用し、有りと有らゆる方向から斬り刻む。
しかし、鬼のHPの減り具合を見て為心は気づいた。
『1発目で雷炎を飛ばして無い分、決め手が足りないか…。』
その時、斬り続けながら会長が視界に入った。
「止(とど)めは譲ってやるよっ!…会長っ!」
為心はそう口にし、最後の一撃で鬼を地面へと落とし、離脱した。
それと同時に会長が攻撃のモーションへと入っていた。
「有り難く頂戴させて貰うぞっ!…十火炎斬っ!!」
地面に叩きつけられて跳ね上がった鬼に会長は十連撃を浴びせた。
「止めじゃっ!!心魂っ光剣っ!!」
最後の一撃に心魂を合わせて斬り抜いた。
剣を鞘に収めて、ノーネームに振り向き聞いた。
「リタは無事かのう?」
その後ろでは鬼がポリゴンになって弾けて消えた。
「すまない…助かった。」
ノーネームは先に礼を言い言葉を続けた。
「あぁ。リタもナリムも無事だ。」
「そうか。」
そこで、為心が口を開いた。
「早く合流して先へ進もう。もたもたしてられない。」
会長が同意を口にする。
「為心の言う通りじゃ。少し時間をここで食わされた。」
ノーネームが答える。
「そうだな。少し急ぐとしよう。」
3人はリタとナリムに合流し先を急いだ。
5人は幾(いく)つかの鬼に邪魔をされつつもついにたどり着いた。
そこには赤い山と一体になった歪な城。
プレイヤーの体には似合わない大き過ぎる門があり、その扉の前でノーネームは仲間に確認する。
「ここまでの道のりで俺は少なからず、お前たちを知った。だから俺から頼みたいことがある。」
ノーネームは全員の目をそれぞれ見て言葉を続けた。
「国が危ないことも伝えた。しかし、お前たちにとっては大き過ぎて危機感を感じられてないのはわかる。…だから俺は個人的にお前達に頼みたい。」
ノーネームは沈黙の後に口を開く。
「…俺の…娘を救って欲しい…。」
その言葉に全員が驚いた。
その中で会長がノーネームに聞いた。
「ちょっと待て…どういうことじゃっ!?」
会長は繋がらない話に驚きを見せた。
ノーネームが答える。
「俺が脳のデータ化に成功した実験体がいる話はしたな…。」
それを聞いて全員が理解した。
「お主の娘か!?」
「そうだ。…その記憶データは重要機密だった。日本政府のサーバーに保存されていた為に、ヴァイラスに奪われ、今…奴の手元にある…。」
ノーネームはその場で頭を下げた。
「お願いだ…もう時間がない。俺の娘を助けて欲しい。」
その状況にリタが冷たく答えた。
「そんなもん…自分で救え…。」
リタはそう言い、ノーネームの後ろに構える城の大き過ぎる扉に手をかけ、さらに言葉を続けた。
「俺は姉を救ってくれと誰にも頼んではいない。」
リタはその言葉を残し、両手で扉を押し開け、中に1人で入っていった。
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